高知県農業技術センター 四国総合研究所
図−1 ヒートポンプ空調機の設置状況
新技術解説
ヒートポンプ空調機を用いた湿度制御によるナスすすかび病の防除 325
ス内に送風するようにした(図―2)。
II 試 験 結 果
ヒートポンプ空調機の除湿装置としての利用が認めら れた期間の温湿度の推移を図―3に示した。温度は両ハ ウス間でほとんど差は認められなかった。ヒートポンプ 空調機が暖房運転中は,室内機側は凝縮器となり熱を放 出して空気を加温し,室外機側は蒸発器となり熱を吸収 して空気を冷却する。このため,室外機から排気される 空気の温度は,吸気される空気より低くなる。したがっ て,ハウスの中では暖房が行われるが,換気扇により小 型ハウスからハウス内に冷風が送られたことから,両ハ ウス間で温度差はほとんどなかったものと考えられた。
ヒートポンプ設置ハウスにおける相対湿度は,暖房機 のみのハウスと比較して,最大12%程度の相対湿度の 低下が認められた。室外機で冷媒が吸熱する際に,室外 機の熱交換器を通過するハウスから吸入された空気が露 点温度以下になり結露が発生し,絶対湿度が低下する。
この空気が小型ハウスからハウスに送り込まれる一方 で,ハウス内では温度変化がほとんどない,すなわち飽 和水蒸気量の変化がほとんどないことから,相対湿度が 顕著に低下する結果になったと考えられた。
すすかび病の発病推移を図―4に示した。2〜3月にか けて,暖房機のみのハウスでは発病が急増したが,ヒー トポンプ空調機設置ハウスでの発病程度の増加は緩慢で あった。
山口(2002)は,ナスすすかび病の病原菌接種から発 換気扇停止
フィルム開
シャッター閉
フィルム閉 シャッター開
換気扇稼働
図−2 ヒートポンプ空調機設置ハウスの状況 上段:暖房時.下段:除湿時.
100 80 60 40 20
012:00 18:00 0:00 6:00 12:00
ヒートポンプ設置ハウス温度 ヒートポンプ設置ハウス相対湿度
対照ハウス温度 対照ハウス相対湿度
温度︵℃︶・相対湿度︵%︶
時刻
図−3 温湿度の推移
注)2014年11月11日12時から12日12時までの間,1時間間隔で測定した.
病までの期間は,高湿度条件で栽培するほど短くなると 報告している。今回の試験において,ハウス内相対湿度 がほぼ100%となる時間帯において,ヒートポンプ空調 機の湿度制御が稼働することによって相対湿度を最大 12%程度低下させることができ,このことが本病の急激 な発病増加の抑制につながったものと考えられた。
暖房機のみのハウスでは暖房のために99,400円の灯 油を消費した。ヒートポンプ空調機設置ハウスでは,ヒ
ートポンプ空調機と暖房機のハイブリッド方式暖房によ り灯油料金は54,800円に減少した。一方で,暖房およ び除湿のためにヒートポンプ空調機を稼働させた電気料
金は44,240円となった。したがってヒートポンプ空調
機設置ハウスで暖房および除湿のために要した経費は
99,040円となり,両ハウス間で大きな差は認められなか
った(表―1)。
お わ り に
今回,試験を実施したヒートポンプ空調機の利用によ る湿度制御技術は,無制御の場合とほぼ同じ温度推移を 示しながら相対湿度を低下させることが可能である点 で,冷房による湿度制御技術より優れている。また,本 法は理論上,ヒートポンプ空調機1台の稼働で,山本・
工藤(2010)の方法の暖房1台,冷房1台の計2台のヒ ートポンプ空調機の稼働とほぼ同等の除湿能力があり,
非常に効率的である。現在,高知県安芸市のナス栽培施 設で本技術の実証試験を実施中(山本・工藤,2016)で,
有効性を確認後,普及を図っていきたい。
引 用 文 献
1)馬場 勝(2009): 施設園芸におけるヒートポンプの有効利用
(林 真紀夫 編),農業電化協会,東京,p.105〜109.
2)林 真紀夫(2015): 施設園芸・植物工場ハンドブック(後藤 英司ら 編),日本施設園芸協会,東京,p.149〜162.
3)松尾 定(2014): 施設と園芸 165 : 17〜21.
4)山口純一郎(2002): 佐賀県農業試験研究センター研究報告 32 : 1〜103.
5)山本敬司・工藤りか(2010): 農業電化2010別冊特集号 : 42〜 6) 46. ・ (2016): 農業電化2016別冊特集号 : 37〜
41.
30
20 10
0 11/20 12/19
月日
2/2 3/18
ヒートポンプ設置ハウス 対照ハウス
発病度
図−4 ナスすすかび病の発病推移
表−1 ハウス当たりの燃油および電力消費量並びに金額 灯油
消費量
(l)
灯油 料金
(円)
電力 消費量
(kwh)
電気 料金
(円)
消費 金額
(円)
ヒートポンプ設置ハウス 548 54,800 3,160 44,240 99,040 対照ハウス 994 99,400 ― ― 99,400 注)消費金額は,灯油100円/l,電力14円/kwhで算出した.
(16)ナ シ 炭 疽 病 327
I ナシ病害の発生状況
ナシ炭疽病(病原菌:Colletotrichum gloeosporioides)
はʻ豊水ʼやʻ新高ʼ等の葉に発生し,多発時には早期落葉 により樹勢や果実糖度の低下を引き起こす病害である。
初報告は1912年(黒澤,1912)と古いものの,その後,
目立った報告はなかった。しかし,2000年代に入り,
秋田県,北部九州地域,高知県,千葉県(深谷・高橋,
2000;田代ら,2000;矢野ら,2002;金子ら,2010)等 で多発生が報告され,再び問題となっている。大分県で は2006年に多発し,特に導入を推進していた新品種ʻ豊 里ʼで激しい早期落葉が発生した。
大分県でのQoI剤耐性菌は2012年に県内の一部地域 で確認され,発生の拡大防止のため防除体系の改善や QoI剤の使用制限等の措置が行われた。
II 検定材料の採取・分離・培養
耐性菌は園地内に偏在していることがあるので,検定 を行う罹病葉は圃場全体からまんべんなく採取し,1罹 病葉から1菌株を分離する。病斑は,常法により表面殺 菌後,PDA平板培地で25℃・暗黒条件下で培養し,生 育した菌そう先端部分を素寒天平板培地に移植する。さ らに数日培養を行った後,実体顕微鏡下で単菌糸分離を 行いPDA斜面培地で室温(25℃)保存する。なお,菌 そうは外観が多様なうえに,雑菌としてよく分離される アルタナリア属菌などと区別がつきにくいので,斜面培 地上で培養後,鮭肉色の分生子塊(図―1,口絵①)を確 認できた菌株を保存する。
III 培 地 検 定
1 検定培地
稲田(2009)の方法により,PDA培地を基本培地と
し溶解・滅菌後50〜60℃に冷まし,サリチルヒドロキ サム酸(SHAM)1,000 ppmと,アゾキシストロビンを 3,200 ppmから9段階に1/2段階希釈した溶液を添加し た培地を使用する。なおSHAMは培地に溶けにくいた め,事前に少量のアセトンや滅菌水で溶解した後,培地 に添加する。
2 検定方法
供試菌株をPDA平板培地で25℃・暗黒条件下で5日 程度培養し,伸長した菌叢先端部を直径6 mmのコルク ボーラーで打ち抜き,菌叢面を下にして検定培地に移植 する。25℃で4日間培養した後に菌叢伸長の有無を調査 し,各菌株の最小生育阻止濃度(MIC)を求める(図―2)。
本病原菌に対する最小生育阻止濃度(MIC)を調査し た結果,MICは0.39 ppm以下と3,200 ppm以上に分か れた(図―3)。これらの菌株を用いた接種試験および PCR―RFLP解析の結果,MICが0.39 ppm以下の菌株に 対しては,QoI剤は高い防除効果を示し遺伝子変異は認 められなかったが,3,200 ppm以上の菌株に対しては,
QoI剤の防除効果は低く遺伝子に変異(G143)が認め られた(データ省略)。このことから,ナシ炭疽病菌の QoI剤耐性菌の検定は,SHAM 1,000 ppmに加えアゾキ Methods for Detecting QoI Fungicide Resistance in
Colletotri-chum gloeosporioides (Japanese pear Anthracnose). By Hisayoshi WATANABE
(キーワード:QoI剤耐性菌,ナシ炭疽病菌,感受性検定法,生 物検定法)