愛媛県農林水産研究所
図−1 イシダアワフキ成虫
Damage to Strawberry in the Greenhouse by Aphrophora ishidae
(Hemiptera: Aphrophoridae) and its Susceptibility to Some Insecti-cides in Ehime Prefecture. By Kazu HAGIWARA, Kazushi MORIGUCHI
and Seiichi KUBOTA
(キーワード:イシダアワフキ,いちご防除対策)
研究報告
表−1 いちごハウスにおけるイシダアワフキの寄生状況 調査年 調査位置 調査株数(株) 寄生株数(株) 寄生株率(%)
2013
北 200 35 17.5
南 100 20 20.0
合計 300 55 18.3
2014
北 1,103 146 13.2
南 1,036 190 18.3
合計 2,139 336 15.7
*調査日・場所 2013年3月4日:宇和島市,2014年6月23日:
鬼北町.
*
*
図−2 イシダアワフキ幼虫が作った泡が付着しているイチゴ株
3
2
1
0 4/5 4/10 4/17 4/25 5/8 5/20**
*
平均個体数︵頭
/株︶
図−3 アメリカフウロにおけるイシダアワフキ幼虫の寄生推移(2013年)
*垂直線は標準誤差.
**調査期間:2013年4月5日〜5月20日.
4齢・終齢を経て成虫となる 施設内へ侵入
イチゴに寄生 11/上旬〜
幼虫 泡の中で生活
終齢幼虫 羽化 脱皮 ふ化
雑草などに 寄生
施設外へ飛来
成虫 4/上旬〜5/中旬
幼虫 2/下旬〜4/下旬
幼虫 期間 ハウス 約60日
産卵
12 1 11
9 10
8 4
2 3
6 5
7
図−4 イシダアワフキの年間発生経過
愛媛県で発生したイシダアワフキによる施設栽培イチゴの被害とその防除対策 321 フキとも低い位置に泡が最も多く分布していたという大
秦(2001)の報告と一致する。
イチゴハウスに隣接する畑に自生しているアメリカフ ウ ロ22〜90株 に つ い て,株 当 た り の 寄 生 個 体 数 を 2013年に調査したところ,幼虫寄生ピークは4月17日 で,株当たり平均個体数は2.3頭であった(図―3)。また,
愛媛県におけるイシダアワフキ幼虫はイチゴハウス内で 2月下旬〜4月下旬に出現し,成虫は4月上旬〜5月中 旬(ピークは5月上旬),露地では幼虫は3月下旬〜6 月上旬,成虫5月中旬〜8月上旬であった。林(1991) の報告では大部分のアワフキムシは,約2か月間の幼虫 時代をおくるとしており,マツアワフキの幼虫期間が 60日余りという秋山・松本(1986)の報告もあること から,イシダアワフキの幼虫期間についておおよそ一致 すると考えられる。露地に比べて施設での出現時期は約 1か月早かった理由として,冬季の施設イチゴの温度管 理目安を昼温28℃,夜温8℃以上としており,施設内の 1〜2月最高気温は露地に比べて16℃高く,最低気温で は5℃高いことが影響していると考えられる。
イシダアワフキ成虫の生存期間について,KOMATSU
(1997)によると札幌でイシダアワフキ成虫が8月下旬
〜10月下旬に確認され,愛媛県ではイチゴ施設内で11 月上旬〜12月上旬に確認されている。温度管理のため サイド換気を行う際にイシダアワフキ成虫がハウス周辺 雑草からハウス内へ侵入することは十分考えられる。
以上のことより,本種のイチゴ施設での年間発生経過 については,11月上旬ころから成虫がイチゴハウスへ 侵入した後産卵し,2月上旬ころにふ化が始まり,4月 上旬〜5月中・下旬に羽化を完了した成虫が寄主植物を 求めてハウス外へ移動し,イチゴ定植(9月下旬)以降 にハウスへ侵入するものと推察される(図―4)。
II 本種の特徴とイチゴでの被害 1 イシダアワフキの特徴
イシダアワフキ成虫の体長は雄が9〜10.5 mmで,
雌は雄より1 mm程度大きい。体色は頭部,胸部から前 翅にかけてほぼ一様に灰褐色〜赤褐色であり,中間部分 に曖昧な黒い斜めの帯状模様がある。また,頭部は幅広 く,両端に複眼があり,触角は短い。頭部から前胸背に かけて真ん中に黄白色がかった正中線があり,やや隆起 している。幼虫および成虫の口器は針状である。
2 イチゴでの被害
2013年4月17日,施設内のイチゴおよび露地のアメ リカフウロ葉柄基部に寄生している終齢幼虫を取り除 き,寄生していた部分を観察した。その結果,最終的に イチゴ株に終齢幼虫が寄生していた部分が黒褐色に変色 しているのが確認された(図―5)。しかし褐色部分の茎 の断面は,吸汁された部分が水浸状となるものの,導管 の変色は見られず,葉の萎縮など目立った症状も認めら れなかった。
本種の寄生が寄生部位の褐変症状以外に,生育への影
表−2 イシダアワフキの寄生の有無がいちご株の生育に及ぼす影響(圃場調査)
調査株数(株) 葉幅(cm) 葉身長(cm) 草丈(cm) クラウン径(cm)
寄生株 20 12.2±1.3 20.1±1.6 41.3±2.7 1.5±0.2 無寄生株 20 12.5±2.8 20.8±2.9 44.5±2.4 1.7±0.2
有意性 n.s. n.s. * n.s.
表中の数字は,平均±標準偏差を示す.
有意性の*は分散分析で5%水準で有意差あり.n.s.は有意差なし.
調査日 葉幅・葉身長:2014年5月29日.
草丈・クラウン径:2014年6月24日.
寄生密度 8.5頭/株.
図−5 イシダアワフキに寄生を受けたイチゴ葉柄基部の 変色状況(2013年4月17日)
響があるか調査した結果,葉幅や葉身長は無寄生株に比 べて寄生株のほうが短く,草丈は有意に短くなっていた
(表―2)。
また,本種の寄生を受けたイチゴ株は寄生を受けてい ない株に比べて総重量,クラウン重量は軽くなった。さ らに,寄生株の腋芽数,葉数,ランナー本数は少なく,
腋芽重量,果梗重量も軽く,生育が劣る傾向にあること が明らかとなった(表―3)。
MEYER(1993)は,寄主であるセイタカアワダチソウ の成長に関して葉を食害する甲虫と,導管液を吸うアワ フキムシ,そして篩管液を吸うアブラムシがどのように 影響を及ぼしているか比較している。それによると,ア ワフキムシと甲虫は摂食の3週間後に,全葉重量,全体 の葉面積,根重量を減少させたが,アワフキムシの影響 は甲虫の5〜6倍あり,さらにアワフキムシは花芽の重 量,茎の重量,側枝の数も減少させたと報告している。
これは,イシダアワフキの吸汁によりイチゴの総重量,
クラウン重量が減少した今回の調査結果と一致し,イシ ダアワフキがイチゴの導管液を吸汁することで慢性的な 生育遅延を引き起こすものと考えられた。
III 薬剤感受性と防除法 1 幼虫の薬剤感受性
2014年,本種の終齢幼虫を供試虫とし,供試薬剤は イチゴに作物登録のある薬剤について,食餌浸漬法およ び虫体浸漬法により薬剤感受性検定を行った。トルフェ ンピラド水和剤,アセタミプリド水溶剤,クロルフェナ ピル水和剤,エマメクチン安息香酸塩乳剤,フロニカミ ド水和剤,ピリフルキナゾン水和剤については食餌浸漬 法と虫体浸漬法の両法を,レピメクチン乳剤については 虫体浸漬法のみを行った。その結果,両法ともトルフェ ンピラド水和剤とアセタミプリド水溶剤の処理24時間 後の補正死虫率が100%であり,特に優れた防除効果が 認められた(表―4)。また,クロルフェナピル水和剤と エマメクチン安息香酸塩乳剤の食餌浸漬法による検定で は,5日後の補正死虫率が100%であり,遅効性ではあ るが高い効果が認められた。トルフェンピラド水和剤と アセタミプリド水溶剤は,いずれもアブラムシ類,コナ ジラミ類,カイガラムシ類,カメムシ類等のカメムシ目 害虫全般に高い効果を有しており,アワフキムシにも高 い効果が認められた。また,クロルフェナピル水和剤も,
表−3 イシダアワフキの寄生の有無がいちご株の生育に及ぼす影響(乾物調査)
調査株数
(株)
総重量
(g)
クラウン 重量(g)
腋芽数
(本)
腋芽重量
(g)
複葉数
(枚)
果梗重量
(g)
ランナー 本数(本) 重量(g)
寄生株 10 68.9±12.0 3.4±1.1 6.4±1.5 27.1±11.7 24.1±9.7 6.1±3.4 3.9±3.5 5.2±5.7 無寄生株 10 102.5±22.6 5.3±1.2 6.6±1.5 29.8±8.7 25.9±7.6 8.9±3.0 4.8±2.3 3.4±3.0 有意性 ** ** n.s. n.s. n.s. n.s. n.s. n.s.
表中の数字は,平均±標準偏差を示す.
有意性の**は分散分析で1%水準で有意差あり.n.s.は有意差なし.
調査日 2014年7月4日.寄生密度 8.5頭/株.
表−4 イシダアワフキ終齢幼虫の各種殺虫剤に対する薬剤感受性(2014年)
薬剤名 希釈倍率
(倍)
補正死虫率(%)
食餌浸漬 虫体浸漬
24時間後 3日後 5日後 24時間後 3日後 5日後
トルフェンピラド水和剤 1,000 100 ― ― 100 ― ―
アセタミプリド水溶剤 2,000 100 ― ― 100 ― ―
クロルフェナピル水和剤 2,000 13.3 86.7 100 0 50.0 76.9 エマメクチン安息香酸塩乳剤 2,000 0 60.0 100 0 0 15.4
フロニカミド水和剤 2,000 0 0 13.3 0 0 0
ピリフルキナゾン水和剤 3,000 0 0 6.7 6.7 0 7.7
レピメクチン乳剤 2,000 ― ― ― 0 7.1 7.7
薬剤処理日.食餌浸漬2014年4月23日.虫体浸漬2014年5月1日(レピメクチン乳剤は5月2日処理). 1区幼虫5頭3反復.
愛媛県で発生したイシダアワフキによる施設栽培イチゴの被害とその防除対策 323 コナジラミ類,ヨコバイ類,グンバイムシ類等のカメム
シ目害虫に活性を有しており,アワフキムシに効果が認 められた。エマメクチン安息香酸塩乳剤は,適用害虫に カメムシ目害虫が含まれていないが,コナジラミ類に対 しては殺虫効果を有することから,カメムシ目害虫の一 部のグループに活性があると考えられる。ピリフルキナ ゾン水和剤とフロニカミド水和剤については,アブラム シ類,コナジラミ類,カメムシ類等のカメムシ目に登録 があるものの,アワフキムシに対して処理5日後では活 性が認められなかった。本種幼虫に対する感受性の高い 薬剤としては,トルフェンピラド水和剤とアセタミプリ ド水溶剤の2剤が特定されたので,これらの薬剤につい ては,早期の適用拡大が望まれる。
2 防除法
本種の防除対策として,イチゴ施設内のイシダアワフ キを低密度にするため,側窓などハウス開口部へ防虫ネ ットを張り,外部からの成虫侵入を防ぐことが望まし い。また,2月下旬から施設内では株元中心に泡巣発生 に留意するとともに,泡を確認した場合は中に潜む幼虫 を捕獲するなど耕種的防除が有効である。
秋山・松本(1986)は,アカマツ・クロマツの枝1本 当たりのマツアワフキの平均幼虫個体数を調べたとこ ろ,アカマツ・クロマツとも5月21,22日に枝1本当 たり7.8頭および6.7頭のピークに達したという。これ に対し,イシダアワフキでは1株当たりのピーク時の寄 生虫数はイチゴで8.5頭,アメリカフウロで7.0頭であっ た。このことから,アワフキムシ類に共通した特徴の一 つとして集合性のあることが示唆された。また,今回の 調査で株当たり8.5頭のアワフキムシの寄生によりイチ ゴの生育が抑制されることが確認され,これを超えるよ うな密度にならないよう,できるだけ低密度で管理する ことの必要性が示唆された。要防除水準については,筆
者らは調査しておらず,さらに検討が必要と考えられる。
また,2013年は泡が付着していたイチゴ葉柄基部の 茎の表面が黒褐色に変色しているのが確認されたもの の,2014年は確認しておらず,さらにイチゴへの寄生 と収量性との関連性の調査は行っていないため,本種の 吸汁による褐変化の実態解明やイチゴの収量への影響に ついては今後さらに調査が必要である。
お わ り に
以上,イシダアワフキについて述べたものの,愛媛県 における本種による施設イチゴの被害は発生地域が限定 されており,発生生態,防除技術等に関する研究成果は ほとんどなく不明な点が多い。
愛媛県では,本種の防除対策として2013年5月に発表 した技術情報第1号の通り,低密度の寄生であれば幼虫 捕獲という耕種的防除で対応できると考える。しかしな がら,本種の寄生はイチゴの生育遅延を起こし,間接的 な減収につながること,さらに本種の寄生による白い泡 の付着でイチゴの外観が損なわれ,生産者に不快感を与 えることにつながる。今後,イシダアワフキによる施設 栽培イチゴへの寄生が見られた場合,今回紹介した防除 技術に関する新知見が少しでもお役に立てば幸いである。
引 用 文 献
1)秋山正行・松本和馬(1986): 応用昆 30 : 136〜141.
2)愛媛県病害虫防除所(2013): 病害虫防除技術情報第1号.
3)林 正美(1991): インセクタリゥム 28 : 4〜12.
4) KARBAN, R. and S. Y. STRAUSS(1993): Ecology 74 : 39〜46. 5) KOMATSU, T.(1997): Jpn. J. Entomol. 65 : 502〜514.
6) MALONE, M. et al.(1999): New Phytol. 143 : 261〜271.
7) MEYER, G. A.(1993): Ecology 74 : 1101〜1116.
8)日本応用動物昆虫学会(2006): 農林有害動物・昆虫名鑑 増補 改訂版,国際文献印刷社,東京,387 pp.
9)大秦正揚(2001): 日本応用動物昆虫学会第45回大会講演要 旨 : 6.
発生予察情報・特殊報
(29.3.1〜3.31)各都道府県から発表された病害虫発生予察情報のうち,特殊報のみ紹介。発生作物:発生病害虫(発表都道府県)発表月 日。都道府県名の後の「初」は当該都道府県で初発生の病害虫。
※詳しくは各県病害虫防除所のホームページまたはJPP―NET(http://web1.jppn.ne.jp/)でご確認下さい。
トマト:葉かび病(レース2.9,4.9)(宮城県:初)3/9 トマト:退緑斑紋病(宮城県:初)3/9
トマト:黄化病(佐賀県:初)3/23
エンドウ:萎ちょう病(北海道:初)3/24
ネギ:クロバネキノコバエ科の一種(群馬県:初)3/27 わさび:ワサビクダアザミウマ(静岡県:初)3/30