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自己修正とその特性

ドキュメント内 序章 (ページ 46-57)

第2章  パブリック・リレーションズにおける自己修正モデル

第3節  自己修正とその特性

 

自己修正は「自己修正モデル」の中で重要な意味と要素をもっている。自己修正行為そ のものに、本章第1節、第2節で述べた倫理観、双方向性コミュニケーションの2つの要 素を抱合しているからである。修正行為を正しく行うためには、これら2つのどの要素が 欠落しても完成し得ない。倫理観が欠落したところでは、健全な修正が行われず、対称性 の双方向性コミュニケーションを欠いた修正も独りよがりになりスムーズな修正が実現で きるとは言いがたい。

一般に自己修正はこれまで他の経済学 4、生物学 5、教育学 6、コンピューター・サイ エンスなどで言及されてきた。

Weinerはその著書『人間機械論』の中で、われわれ個人や組織体が効果的に生きていく

ためには、環境変化の中で自己を調節していかなければならないと述べている(Wiener, 1950/1979, p.11)。このことはパブリックとの良好な関係構築維持を通して目的を達成させ るパブリック・リレーションズにおいてもあてはまる。

また我々は一個の独立した個体である。まず個としての人がいて、次いで人と人(他 者)との間に人間関係が二次的に形成されると考えられる。したがって、我々一人ひとり は、他者、外界との関係性による様々な人間関係の中で、不安を覚えたり、やすらぎを感 じたり、癒されもする。つまり、人間は常に一つの個であって変化しないものと捉えるの ではなく、他者との関係性において変化するものとして存在するものといえる。人間は個 として存在していても関係性の中で変化、成長していく(西川他, 1998, pp.24-25)。この考 え方は組織体にも当てはまる。

しからば本節のキーワードである「自己」とは何なのであろうか。自己とは、他人を意 識すると同時に他人との関係性における自己を意識することで認識されるものである(和 田渡, 2005, p.11)。

「自己」という言葉は極めて私的な領域の事象に思えるが、自己意識が成立、発達する ことについては社会や集団、または人間との関係が重要な役割を果たしている(西川他, 1998, pp.24-25)。

一方、修正とは『広辞苑』によると、「よくないところを直して正しくすること」とあ る。つまり、いままであった状態を別の状態に直し変えていくことを意味する。

先述したように、これまでパブリック・リレーションズには自己修正(self-correction)

の概念は筆者が提唱しているもののほかには明確に提示されているものはない。

本節では、自論について詳しく触れる前に、米国では個人や組織体あるいは様々なパブ リックとの間に相違が生じた場合、どのように対処してきたのであろうか、また自己修正 的な概念がこれまでどのような変遷を遂げてきたのか、まず米国での先行研究を論じ、そ の後に自論との比較を行ない考察してみたい。

 

1 自己修正的な概念の変遷 

序章第 3 節でも述べたが、米国でのパブリック・リレーションズの専門家は、双方向 性コミュニケーションを通したフィードバックの結果、必要と思われるときには多くの場 合、「変化(change)」させたり、「調整(adjust)」、「適応(adapt)」するとしている。

米国における自己修正的な概念は、1930 年代の米国で、X線を初めて医学分野に導入 したハーバート大学の生理学者で第1章第2節1で示したCannonのホメオスタシス(恒 常性維持機能)に見ることができる。

Cannon は、生体のホメオスタシス(恒常性維持)7 という概念を確立し、自ら生命体

の恒常性維持をホメオスタシスと名づけた(Cannon, 1932/1981, p.3)。

Cannon (1932/1981) の『からだの知恵』は、I.M.Lerner の著書『遺伝子的恒常性』

(I.M.Lerner, 1954)の中の言葉を引用し、Cannonが成し遂げた最も重要な生理学上の貢献 は、生理学的恒常性の概念を体系化したことにあるとしている。また同じ Cannon は恒常 性維持とは、変動する内部環境や外部環境に合わせて自らの身体を調整する生物の資質

(自己調整機能:self-adjustment)や身体内の安定状態を維持する機能であるとしている

(p.351)。例えば、体外の寒さに対する体内の温度調整、或いは高地での血液中の赤血球 数の増加による酸素供給の恒常性維持。また糖尿病における、血液中の糖の恒常性の維持

(血糖値:ブドウ糖とインシュリンのバランス調整)などは恒常性維持が機能しているこ とを意味する(pp.232-260)。

またCannon、はその著『人体の叡智』”Wisdom of the Bodyのなかで、生命体におけるホ

メオスタシスと社会におけるホメオスタシスの関係についても注目し、生命体の恒常性維 持について研究することは、社会組織を構成するものの安定化のための研究に適用できる のではないかと考えた(1932/1959, pp.213-228)。Cannonが定式化したホメオスタシスの概 念は、後世の様々な社会科学における研究に道を残し、生物学、社会学、経済学、政治学

8 など多くの異なった学問領域で研究されるに至ったのである。

1940 年代後半には、生物学、社会学、通信工学など様々な分野の学者による重要な研 究成果の発表が相次いだ。この時期、生物学においては、V. Bertalanffy (1901-1972) が一 般システム理論を提唱し(1968/1973, p11)、社会学においてはT. Personsが構造機能分析 の原理に応用した。また通信工学においては前節でも紹介したが、Wiener がフィードバ ック原理を利用した自己制御(self-control)機能としてのサイバネティクスを発表した(今 田, 2005, pp.49-52)。

Cannon のホメオスタシスの概念を通信工学に取り入れたのは、Wiener であった。

Cannonの生体における恒常性維持の概念はWienerのサイバネティクスを経て自動制御の

理論の体系化と応用に多大な影響を与えることになる(Cannon, 1932/1981, p.4)。第1章第 1節1でも触れられているが、マサチューセッツ工科大学で工学部所属の数学者であった

Wiener は、ホメオスタシスの概念を援用してフィードバック原理による外界の変化に対

応する自己制御(self-control)概念を理論化した。Wiener は計算機械も生物における神経

系も同じ構造をもつことを認め、その数学的理論としてのサイバネティクス 9 を創始し たのである(Wiener, 1950/1979, pp.47-49)。サイバネティクスは、通信と制御におけるフィ ードバック機構を体系的に解明する科学で(今田, 2005, p.49)、その原理を体系的に理論 化したものである。

第 2 次世界大戦中に開発されたこのサイバネティクス理論は 1948 年、一般向け理論

Cybernetics(サイバネティクス)として発表された(1章1節1参照)。

この理論の生みの親であるWienerは、このモデルが社会にも当てはまるとして1950年、

The Human Use of Human Beings−人間の人間的な利用(人間機械論)10 を発表し多くの社

会学者の目にとまった。Wiener は、アウトプットの一部を情報として再びインプットす ることで自動的に制御される、フィードバック原理を用いて自己制御をモデル化した。こ れにより対象物の方角やスピードなどの動きに対して補正が行なえるようになる。そうし た意味において修正的といえる。この概念は、サーモスタットやミサイルの自己制御機械 を例に取り上げられることが多いが、社会学の分野では 60 年代から研究対象として注目 されている。

W. Buckley(1967/1980)はフィードバック原理による自己制御機能を持つサイバネティ

クスの概念を社会学における一般社会システム論に導入しようと試みた。そして組織が環 境との間で「矯正行為(原書ではcorrective action)」を行いながら目標を追求するプロセス をサイバネティクス・モデルとして、1967年、その著書『一般社会システム論』に記して いる(pp.218-219)。

第1章第1節でも論じているように、Cutlip and Center(1952)は変化を続ける環境へ対 処することを PR の本質として捉え、生態学の概念をパブリック・リレーションズに持ち 込んだ(p.19)。Cutlip and CenterはEffective Public Relationsの初版で、パブリック・リレー ションズの本質的な機能として、「組織体は、変化によってすべての当事者に利益がある ような調整を行わなければならない。」と規定した。また変化を続ける環境に対処してい くことがPRの本質と捉えていたCutlipは初版から生態学に焦点をあて、Cannonの自己調 整機能を用いて変化する外界に適応するホメオスタシス(恒常性維持)の概念をパブリッ ク・リレーションズに適用した。

Cutlip らはまた、Buckley の社会システム論におけるオープン・システムの概念をパブ

リック・リレーションズに取り入れようとした。(Cutlip, Center & Bloom, 2006, p.182)そ して、Cutlip, Center and BloomはEffective public relations第6版(1985)から、システム論 におけるシステムと外部環境の関係をパブリック・リレーションズにおける組織体とパブ リックの関係性として次のように捉えている。すなわち、クローズド・システム(閉鎖的 システム)とオープン・システム(開放的システム)(1章1節1参照)に分類して論ずる ことで、誤りの「調整」やフィードバックによる、望まれた方向と現実との方向との間に 差異が生じた場合における修正行為や計画変更を促す作用の必要性を述べている。そして、

この提示は同第 9 版(2006)にまで及んでいる。興味深いことに、Cutlip らはこれまで

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