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事例にみる危機管理における自己修正行為

ドキュメント内 序章 (ページ 86-117)

第3章  報道分析における自己修正モデルの事例研究

第6節  事例にみる危機管理における自己修正行為

れる。②についてのマスメディアの取り上げられ方を記事数でとらえると9件〜66件の幅 を持つ。また、対象期間については自己修正行為が始まって一応の収束を迎えるまで、短 いもので40日間程度、長いものは21ヵ月間で、これについても偏りの無い事例を選択し た。③については、クライシス時における対応がB to Bと B to Cの企業では自己修正行為 に差異が認められるのかどうか、差異のある場合は、どのような理由に基づくものかを検 証することができる。④については、得られた知見を一般化していくため、できるだけ業 界の重複を避け、幅広い分野から事例を設定している。⑤については、危機管理やクライ シス時において自己修正行為がどのように株価に影響を与えるか観察することができる。

⑥については、「薬害エイズ事件」が1996年3月からであり、一番最近の事例は「介護派 遣会社の虚偽申請事件」で2007年6月からのものである。なお、⑤でも示したように、8 事例中で大型輸送機(トラックバス)製造・販売会社を除いた7事例の上場会社について、

自己修正行為と株価の関連性も参照としたい 。 2 事例研究 

2.1 事例 1:薬害エイズ事件  

先ずは、薬害エイズ事件を例にとって考察を進める。米国でエイズが初めて見つかった のは1981年のことである。当初は男性同性愛者に多くみられる病気とされていたが血友病 患者にも多発していることが判明した(毎日新聞大阪本社編集局遊軍,1983,p.220)。薬 害エイズ事件は、70年代後半から80年代にかけて日本で非加熱血液製剤を投与された患 者がHIV感染し、500名を超える死者を出した事件である。89年5月には大阪で、ついで 10月に東京でA社などの製薬会社5社と非加熱製剤を承認した厚生省に対して損害賠償を 求める民事訴訟が提訴された。

その後1994年には血友病以外の治療によるHIV感染者が現れるに至った。厚生省はこ の第4の感染ルート解明のため、96年2月5日、製薬会社6社に対して販売先の医療機関 名などを報告するよう命じた。また同月 16 日には、当時の厚生大臣が国の責任を認めエ イズ薬害の被害者やその家族に対して謝罪した。こうした背景の中で2月23日、A社から の報告が不十分であるとして本社と物流センターへ厚生省の立ち入り調査が行われた。

1996年3月1日、東京と大阪の地裁で争われているHIV訴訟について原告・弁護団は、

被告企業に対し「恒久対策に関する統一要求書」を渡したという記事(日経3/1 朝刊)か らこの事例は始まる。その後、12ヵ月間にわたり和解案受入れ、52億円の赤字で初の無配、

特別損失の計上、L社長の辞任、A社への強制調査、A社歴代3社長の逮捕、AB新社長の 就任などのトピックスが相次ぐ。そして97年2月、B製薬により救済合併されることにな りこの薬害エイズ事件は一応の収束を見ることになる。

この間における全国紙の朝・夕刊に掲載された「薬害エイズ事件」の日本経済新聞の記 事44件の中から特に本件にフォーカスされ、かつ今回の検証に適う記事26件(但し、記

事点数は30)を抽出し、自己修正モデルの機能につき実証分析する。

1996年3月1日、東京と大阪の地裁で争われているHIV訴訟について原告・弁護団は、

被告企業に対し「恒久対策に関する統一要求書」を渡したという最初の記事はX軸の外部 からのインパクトで<受動・表層>から始まる(96年3/1朝刊・X[-1]:Y[-1] )。この記事 は、「A社は一貫して原告と会うことを拒否、面会を求めると玄関のシャッターを下ろして きた。この日の面会は89年の提訴以来初めて会社幹部と原告が直接会う機会となった」と 報道されているように双方向性コミュニケーションのスタートとしても位置づけられる。

次いで「A社、HIV第2次和解案出れば即時に全面受諾」(96年3/4朝刊)、「A社が陳謝、

役員会見早期に態度表明」といった経営トップの信頼回復を目指す修正行為が見られ、い ずれも自己修正位置(S-CP:Self-Correction Position)はX[0]:Y[0]にプロットされた。

図 3.2.1: 

事例 1「薬害エイズ事件」における自己修正の経時的変容(96 年 3 月〜97 年 2 月)

 

前半(96年3月-8月の6ヵ月)で注目されるのは訴訟の和解金支払いのため「特別損 失を今期50 億円計上」(96年3/16 朝刊)すると発表した記事である。和解案受け入れに 伴うものであり、この特損計上で同社は大幅な赤字となり無配に転落する公算も大きく、

企業経営にとって修正行為内容は極めて本質的であり、自己修正位置(S-CP)はX[0]:Y[+2]

にプロットされ、Y軸はY[-1]→Y[+2]と真上に一挙に3ステップ上昇した。ここでいうス テップとはX軸、Y 軸で構成される16の枡の一辺を指す。しかし、その 1週間後の「A 社元社長を告訴」(96年 3/23朝刊)では、「投与すれば感染し、エイズで死亡することを予 見しながら出荷を続けたのは殺人行為」として遺族に訴えられ謝罪するのみ、つまり外部か らのインパクトによりX軸は[0]から[-1]へ、そして、自己修正の行動内容であるY軸は[+2]

から[-1]と自己修正位置は左下へ4ステップ下降する。企業利益を優先させたこうした行為 からは倫理のかけらも見い出せない。その後、「人員削減など柱に再建」X[0]:Y[+2]や「次 期社長にAB氏」(X[+1:Y[+2])といった内部からのインパクトによる事象が現われ始め、

能動的な自己修正行為が認められ、多くは<能動・本質>エリアにプロットされた。また、

裁判所の調停による和解協議(96年3/4朝刊、3/8朝刊、7/3朝刊)により、X軸、Y軸と もに上昇しており、和解協議では、相手も変化するがこちらも変化するとする、対称性双 方向性コミュニケーションが機能していることが窺える。前半の最後では、事態は一変し 元社長に対する「事情聴取」(96年8/22夕刊)が行なわれ官憲の介入による事象により自己 修正位置が最も悪い状態である左下のマイナス方向へ5ステップ下降X[-2]:Y[-2]した。前 日には「今期特損を計上」(96年8/21)で、和解金支払いのための特別損金計上が行われ、

プロットは X[0]:Y[1] と良好な位置であったが、倫理を欠いた行為に対する官憲介入と いう新しい局面を迎えたための結果といえる。

後半(96年9月-97年2月の6ヵ月)に入り、局面が「大坂地検、歴代3社長を逮捕」

(96年9/20朝刊)、「歴代3社長を起訴」(96年10/10朝刊)といった、官憲の介入というネ ガティブな外的要因の強く作用する事象(逮捕、起訴)が続き、(社長は)謝罪するのみと いう自己修正位置が最悪な左下のマイナス位置(X[-2]:Y[-2])に戻された。しかしその後、

「特別損失計上」(96年9/11朝刊)や「和解金負担のため特別損失増加」(96年11/29朝刊)

といった、いずれもX[0]:Y[+1]にプロットされる報道により、最悪な状況(X[-2]:Y[-2])

からX 軸、Y軸ともに5ステップ分が右上のプラス方向へ引き上げられている。そして、

最終段階では「他の製薬会社による救済合併(発表レベル)」(97年2/25朝刊・X[+1]:Y[+2])

が行なわれ、ようやく収束の時を迎えることになる。国の介入も見られるが、企業存続に より、遺族への補償を全うする姿勢が表れており(97年2/25朝刊)、ここでは、倫理、対 称性双方向性コミュニケーションと自己修正が統合された結果の事象と見ることができる。

なお、事例 1「薬害エイズ事件」における経時的な自己修正のパターンを概要すると、

<能動・表層>→<能動・本質>→<受動・表層>から最終的に世論の位置する方向であ る<能動・本質>へと帰結している(X軸、Y軸の中心点は次項を参照:他の7事例も同 様)。

2.1.1 X 軸・Y 軸別の自己修正推移 

この「薬害エイズ事件」の5段階評価(1〜5)の中心点(全体平均)はXが2.6でY軸 は3.6であった。したがって、X軸[0] はプラスで、Y軸[0]はマイナスとなる。

第2章第3節の自己修正プロットの概要で記しているように、X軸は倫理観ベースの修 正行為で、取り組み姿勢の度合いを示すものであり、Y軸は修正行為内容の度合いを表わ す尺度となる。こうした視点から事例1「薬害エイズ事件」についてX軸・Y軸別の推移 を示す。

事例1「薬害エイズ事件」の対象期間(96年3月-97年2月の12ヵ月)におけるX軸

の5段階評価は「1.2」〜「4.2」のレンジ(振幅)で推移し、同様にY軸は「1.4」〜「5.0」

のレンジで推移している。この事例のX軸およびY軸におけるレンジの乖離は、それぞれ 3.0と3.6で8事例の中で最大となっている。これは、これまで企業不祥事史上例の無い歴 代3社長の逮捕・起訴といった受動的な事象と和解案受入れやこれにともなう特別損失の 計上、トップ交代、そして同業他社による救済合併といった能動的な事象の落差がレンジ の乖離を大きくした要因として挙げられる。

折れ線グラフ(図3.2.2)は、X軸・Y軸別に自己修正行為の推移を追ったものであり、

2本の直線は、この時系列データの動きを最小二乗法により一次直線に当てはめたもので ある(以下の7つの事例も同様)。X軸のベクトルは緩やかな下降線(ベクトルの角度:−

0.00758)をたどり、Y軸は緩やかな上昇(ベクトルの角度:0.03186)を示している。

図 3.2.2 X 軸・Y 軸別の自己修正推移   

           

折れ線グラフの最後のX軸の値(記事番号26:5段階評価で X[4.2]:Y[4.5])は、大きく上 がっている。これに対して全体の傾向を示す直線は、わずかな角度(−0.00758)で下降し

ている。最後の段階で自己修正の評価ポイントが大きく上がったとしても、それまでのマ イナス分が大きいため、全体としては右下がりの傾向ラインとなる。また、この傾向ライ ンは、いままでと同じようなレベルの自己修正行為を繰り返していてはマイナス傾向が続 くであろうことを示唆している。

クライシス状況においてマスメディアの報道は、ネガティブな事象の報道には注力する が、ポジティブな事象については紙面を割かないといった傾向があり、最終段階ではX軸、

Y軸ともにポジティブな自己修正位置に瞬間的にプロットされ、収束を見る。したがって、

最後のX軸の値(X[4.2])に相当するようなポジティブで能動的な自己修正が連続すれば、

傾向ラインは上向く可能性も出てくることになる。

また、切片(一次直線のスタート位置)はX軸が2.686で、Y軸は3.139といずれも8 事例の中で最も高いスタート位置となった。一般的に切片の高さは、初期における自己修 正行為の影響を反映している可能性が高いといわれている。

薬害エイズ事件は、前述したように70年代後半から80年代にかけて日本で非加熱血液 製剤を投与された患者がHIV感染し、500名を超える死者を出した未曾有の薬害事件であ る。3 人の現職を含めた社長が逮捕されるという企業不祥事のなかでも特異なケースであ り、X軸の一次直線のベクトル下降(-0.00758)にもこうした背景や後半に続いた官憲介 入によるネガティブな事象が影響を与えている。

下表(表 3.2)は、2 本の一次直線の傾き(ベクトルの角度)と切片(を一覧にしたも

のである。事例2以降について、この表の数値を基にそれぞれの推移を述べる。

表 3.2  8つの事例にみるX 軸・Y軸2本の一次直線の傾きと切片

 

また、それぞれの事例において「X軸・Y軸別の自己修正推移」を検証する際のデータ は、「資料2. XとY軸別の5段階評価における中心点とレンジ、乖離一覧」として別添し た。  

2.2 事例 2:「百貨店の商法違反事件」 

この大手百貨店は、1831年(天保2年)に京都で古着・木綿商を開き、1919年(大正

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