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対称性双方向性コミュニケーションの重要性(Two‑Way Communication)

ドキュメント内 序章 (ページ 37-46)

第2章  パブリック・リレーションズにおける自己修正モデル

第2節  対称性双方向性コミュニケーションの重要性(Two‑Way Communication)

 

情報はそれが人の介在によってはじめて生かされる。人により情報が入手・加工・伝達 される事で、社会やそこで生活する人間に影響を与えてきた。つまり、情報はそのオペレ ーターやレシーバーである人間なしでは単なる静的な存在でしかない。情報を伝達(コミ

ュニケート)することにより、送る側の人間や組織は、受け取る側の社会(人間や組織)に 影響を与えることになる。コミュニケーションは静的な情報を伝えるが、情報発信者が目 的や対象を明確化し、計画性を伴った情報伝達を、対象となる受容者に行うコミュニケー ションを伴う関係構築活動がパブリック・リレーションズ(PR)であり、その活動を執行 する人間(専門家=実務家)は情報発信側と受容者側に、インター・メディエ―タ(仲介 者)として立つ。(井之上, 2002c, pp.61-62)

ラテン語のcommunis (common、共通の、共有の)が語源であるコミュニケーション(西 川 & 小牧, 2002, p3)は何かといえば、複数の当事者が情報を共有することである。

コミュニケーションの歴史をたどると、紀元前 5 万年前に栄えたオーリャック文明期 の人々による話し言葉でのコミュニケーション(Hoghen, 1949 / 1958, pp.9-10))や紀元前2 万 2000 年頃の洞窟の壁面に書かれた象形文字にみられるように人類の歴史の初期にまで さかのぼることができる(Rogers, 1986/1992, p.3)。情報発信者が多数の情報受信者に到達 する手段としてのコミュニケーションに関して見てみれば、紀元前 4000 年ごろに繁栄し たスメリア人やエジプト人などの古代文明にみられる粘土板告知文にマスメディアの由来 を求めることも可能である(p.3)。

本論、J. Grunigのパブリック・リレーションズにおける4つの特性(1章1節1)でも 明示されているように、コミュニケーションには、情報の流れを軸に分類すると、一方向 性と双方向性がある。一方向性のコミュニケーションは文字通り、情報発信者が情報受信 者に一方的に情報を与えることを意味し、双方向性のコミュニケーションは情報発信者と 情報受信者の情報のやり取りが双方向の形をとる。その中でも、情報発信者がフィードバ ックをパブリック操作のために使う、左右対称性を欠いたコミュニケーション形態が非対 称性双方向性コミュニケーションである一方、対称性をもつ双方向性コミュニケーション は情報発信者が単なる情報発信元で、パブリックが単なる受容者といった関係ではなく、

発信者が影響を与えるパブリックとの間の相互理解を発展させるために双方が取引(やり 取り)にかかわるとするコミュニケーション形態である。つまり、情報流通は双方向であ るが、前者が情報発信者が有利となるように情報受容者に影響を与え相手を変容させてい くのに対し、後者は、互いに影響を与えあい、双方が変容していく点に大きな違いがある

近年、双方向性という概念は、コンピュータや電気通信の分野などでも盛んに使われ ているが、前述のように対称性双方向性コミュニケーションは一方向性のコミュニケーシ ョンに比べ相互作用の度合いが大きい。情報発信者が情報を発信し、情報受容者がその情 報に関する反応を示し、情報発信者がそのフィードバックを取得し、自らをも変化させ次 に情報発信に有用するという、絶え間ない動的なループが形成されるからである。

本節では、本論の自己修正モデルにおいて自己修正を容易にする環境を醸成するイン フラストラクチャー(基盤)としての双方向性コミュニケーションの変遷とその重要性を 考察する。

1 コミュニケーション論の先行研究にみる双方向性コミュニケーション   

ここで、社会の中で双方向性コミュニケーションの概念がどのように誕生し発展して きたか、その経緯をヒューマン・コミュニケーションを科学的に研究する学問であるコミ ュニケーション論 3 に求めて概観してみる。

E. Rogers(1931- )はその自著『コミュニケーションの科学』において、筆記を介するコ ミュニケーションの登場以降のコミュニケーションの進化過程を①「筆記コミュニケーシ ョンの時代」とし、ヨーロッパにおいて1456年にグーテンベルグによる金属活字による活 字活版印刷が考案された後の時代を②「印刷コミュニケーションの時代」、1800年代に発 明された新しいテレコミュニケーション(電気通信)技術の発明により始まった時代を③

「電気通信コミュニケーションの時代」、そして1946年にペンシルバニア大学で真空管1 万8000本による実用的大型計算機コンピュータENIACが初公開されたのを受けて到来し た時代を④「インタラクティブ・コミュニケーションの時代」とする4つの過程に分類し た(Rogers, 1986/1992, p.28)。彼の分類にしたがうと、社会の中で本格的に双方向のコミュ ニケーションの時代が幕を開けたのは40年代後半と見ることができる。

しかしながら双方向のコミュニケーションという概念の理論的な萌芽は1920 年代に見 ることができる(田村, 1999, p.20)。その理論的な展開をしたのは、J. Dewy, Kooley,G.

Mead などのシカゴ大学の社会学者たちである。Rogers(1986/1992)によれば、シカゴ大 学の社会学者たちは「人間行動の説明原理に本能でなく、逸脱した行動への自己規制が個 人間ネットワークのコミュニケーション手段によって集団的に影響されていくことを研究 した」(p.85)と論じている。彼らはコミュニケーションの研究を基礎的な人間の行為のプ ロセスとして捉えていたのである。

1940 年代にはコミュニケーション研究における重大な概念や理論が相次いで提唱され た。特に双方向性を担保する「フィードバック」原理が公式に紹介されたのは第1章第1 節1でも明らかにしたが、48年、Wienerのサイバネティクス概念の発表によるものであっ た。Rogers(1986/1992)によると、Wienerがサイバネティクス理論を開発したのは第二次 世界大戦中、防空用高射砲の射撃制御に関連する研究プロジェクトにおいてであった

(p.100)。その理論が一般に向けて発表されたのは、彼のベストセラー、Cybernetics

(1948)においてである。Wiener(1948)は同書で、通信・制御・統計力学を中心とする 一連の問題を、機械についても生体についても一括できるとしてサイバネティクス・モデ ルを提唱し、アウトプットの一部を情報として再びインプットすることで自動的に制御さ れる、フィードバック原理の概念をはじめて理論化したのである。サイバネティクスは、

サーモスタットやミサイルの自己制御機械を例に取り上げられることが多く、後に人工知 能やロボット工学などに発展していく概念で、その後の社会学、経済学、政治学などに大 きな影響を与えた。情報発信側が、フィードバックによる情報受信側との双方向の情報流 通でできるだけ少ない誤差で目標値に到達させる Wiener のフィードバック原理は、双方 向性コミュニケーションの相互作用的なプロセスを内包していた。

また1940年、「4W1Hの定立」を定義したH. Rasswell (1902-1980) は、コミュニケー ション過程を「誰が、何について、いかなる経路によって、誰に対して、いかなる効果を ねらって」(Schramm, 1949/1954, p.66)という5つの視点で説明しようとした。この5つの 視点はコミュニケーションの研究領域をまさに示しており、その意味においてRasswellは コミュニケーション研究の範囲を規定し、コミュニケーション研究分野の確立に道を開い たといえる(田村, 1999, p.35)。Rasswellは第一次世界大戦後、自身の論文「世界大戦にお ける宣伝技術」を発表し(Schramm, 1997, p.31)、戦争への賛同を得る世論形成のために使 用された情報発信の戦略とその効果に関しての分析を試みている(小西, 1930, p.3)。彼の ようなコミュニケーションをひとつの学問領域に仕立て学術的レベルに引き上げたコミュ ニケーション学の功績者が、コミュニケーション効果の研究を行なったことは以後のコミ ュニケーション研究のトレンドに大きな影響を与えることになる(Rogers, 1986/1992,

pp.103-104)。一方、Schrammは「S-Rモデル」を考案し、情報発信者(source)と情報受容者

(receiver)の間に交わされるコミュニケーションをモデル化した。そして49年、AT&Tのベ

ル研究所において電話回路や無線チャンネル効率化の研究を行なっていた C. Shannon と

W. Weaber は、「コミュニケーションの数学的理論」を発表する(Rogers, 1971, p.72)。

ShannonとWeaberは、情報経路の違いを超えてコミュニケーション過程は同じであると主

張した(p.94)。したがってその論文で紹介された「一般コミュニケーション・モデル」は 人間やその他の生命体や機械にも適用できるモデルであり、人間系、生物系、機械系を統 合したモデルであるといえる。しかしフィードバック原理と螺旋的な相互作用性の概念を 含む Wiener のサイバネティクスの概念に対して、このモデルは、フィードバック原理が 含まれるものの、基本的に情報伝達や情報共有における正確性と効率性を主眼とした

(Shannon & Weaver, 1949, p.37)線形モデルつまり、入力と出力の関係が一次的であるモデ ルといえる(Beck, 1967/1972, p.218)。言い換えると線型モデルは前述のJ. Grunigの言葉を 借りれば、双方向性という意味においてはフィードバック原理は含まれてはいるものの一 次的な情報伝達を示すモデルで、主体となる情報発信者が客体である情報受容者へ効果的 に影響を与え、客体の中に変化を起こさせる非対称性の双方向性コミュニケーションの要 素が強い。加えて、彼等の理論にはコミュニケーションの情報流通は一方向でなく双方向 であることを確認するフィードバックの過程分析の概念が欠如していた。しかしながら彼 らの情報理論は、それまでのコミュニケーション研究が単なる研究分野で行われていたも のから学術的な研究へと飛躍させる契機を提供したといえる。

1954年、Schrammは、上述のShannonとWeaberの「一般コミュニケーション・モデル」

を元に、情報発信者と情報受容者の2要素の他に、情報共有、メッセージのフィードバッ クといった考え方をモデルに導入した。60年、Berloは ShannonとWeaberのモデルを単純 化させたモデル、S-M-C-Rモデルを発表。 Shannonと Weaberのモデルを土台としている このモデルでは「一般コミュニケーション・モデル」と同様に、情報の伝達経路の多様性 が考慮されている。Berlo は、S-M-C-R モデルにおいてフィードバックと相互作用性を重

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