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自国史カリキュラム開発の類型化

第1章  地球時代における自国史カリキュラム開発の

第4節  自国史カリキュラム開発の類型化

1 類型化の指標

(1)自国史カリキュラム開発の課題

前節までに考察したように,自国史カリキュラム開発においても,国民国家時代から, 地球時代‑と,思考の方法を転換させることが必要であろう。国民国家時代の自国史教育

は,偏狭なナショナリズム育成に関与しがちであることに課題を見いだせるが,その国民 国家時代の発想に基づく自国史カリキュラム開発は,現在でも主流であるといえる。

しかし、国民国家時代の、つまり伝統的自国史カリキュラム開発の課題を乗り越え,地 球時代の自国史カリキュラム開発‑と論理を転換するにあたり,その方法は,必ずしも1 つではない。さらには、先に言及したように,現在の私たちは,地球時代の入口にいると 考えることができ、そうであるならば,地球時代における自国史カリキュラム開発への過 渡期にある自国史カリキュラム開発もありうる。むしろ,具体的なカリキュラム開発のレ

ベルで考えれば,長きにわたり,世界的に支配的であった伝統的自国史カリキュラム開発 の論理から,直接的に、地球時代の自国史カリキュラム開発の論理へと変更することは, 困難である場合が多いであろう。

地球時代の教育を考える場合,そこでのアプローチの方法も多様であろうし、また,カ リキュラム開発の方法も‑様ではない。地球時代における自国史教育に関しての課題解決 の優先順位,さらには,カリキュラム開発の方法によって,自国史カリキュラム開発も, 当然、多様化することが考えられる。

さて,それでは,自国史カリキュラム開発の文脈で考えるならば,何がそこでの優先的 課題となるのであろうか。それは,自国史カリキュラム開発の論理を親定する最大の要素

となろう,つぎの2つの問題のとらえ方にあると考えることができる。

その第1は,カリキュラム開発にあたり,ナショナルなもーのの創造の観点とも密接に関 わる問題として、どのような社会を前提とし,そこでの問題をどのような文脈においてと らえるのかという点である。それを本研究では, 「カリキュラム開発の社会的基底」とよ ぶことにしよう。これは,カリキュラムが開発される背景とも密接に関わる問題であり, 開発の際に,どの観点を優先するかによって,自国史教育の目的,選択される内容,さら には,その論理的帰結は,大きく異なるであろう。

また,その第2は,規定される知識は価値の多様性を保障することで,学習者の開かれ た歴史認識の育成を保障するものであるのかという, 「カリキュラム開発における知識提 示の方法」である。これは自国史カリキュラム開発のみの問題ではなく,どの教科のカリ キュラム開発にとっても重要な問題であろう。先にも述べたが,自国史教育は,たとえ無 意識ではあっても,ある見方や価値観を,学習者に注入することにつながり易い教科日で

ある。そして、それによって形成される自国像が,学習者の認識,意識を大きく左右し, ことによっては、内なる多文化について,他民族,他国民についての誤解や偏見を助長す ることにつながるのである。そのため,自国史カリキュラム開発にとっては,とくに,こ の「知識捷示の方法」を吟味し,それをより開かれたものにすることが重要となるであろ

う。

このように,社会的基底や知識提示の方法のとらえ方によって,自国史カリキュラム開 発は多様化すると考えることができる。先に検討したように,伝統的自国史カリキュラム 開発が,自国の優位感情を促し、統一的な意識の育成に深く関わってきたのは,この2つ のとらえ方の問題でもあり,それぞれをいかにとらえていくのかが,自国史カリキュラム 開発にとっての重要課題であると言えよう。

そこで,本研究主題の解明にあたり,まず、この2つの観点によって類型化を行い,そ れを基本的視点としながら,適切な分析対象とその枠組みを設定することにしたい。

(2)本研究における類型化の指標

本研究では,カリキュラム開発における社会的基底と知識提示の方法の2つの視点から 類型を行い、地球時代の自国史カリキュラム開発として見た場合の各類型の特質と課題を 考察したい。

まず,類型化の観点の第1は,カリキュラム開発の社会的基底である。自国史カリキュ ラム開発は,社会,文化,さらには,政治的な諸要因と無関係であることはできず,そこ での課題を克服するために開発されている。それを何に求めるのかによる違いはあるが,

どのような社会的背景を前提とするかによって,目標や親定される知識内容も異なる。こ れは,先にも述べたように,ナショナルなものの創造の仕方とも密接に関わる問題である。

国民国家時代から地球時代‑の大きな時代認識の変化に鑑みても,まず, <ナショナルな 関係>を前提としてとらえるのか, <インターナショナルな関係>を前提としてとらえる のかという2つの違いを見出すことができよう65。これらの用語は,概念を明確に定義す ることは困難であるが,本研究の段階では,自国史カリキュラム開発において、 <ナショ ナルな関係>とは,自国の歴史事象を、あくまでも自国内の問題であるととらえ,自国内 での意味や重要性を強調することを重視して, <インターナショナルな関係>とは,自国 の歴史事象を,自国外の事柄と関係づけて,さらには,自国外でも起こりうる問題である ととらえ,国際的,世界的な文脈での意味や重要性を強調することを重視して教育内容を 選択する,という意味で用いている。ただし、この両者は,明確に区分できるものではな く、アプローチや認識の方法の差異による違いでもある。たとえば,ある社会におけるマ イノリティをめぐる様々な問題は,主流文化との対立や政府‑の権利主張など,ナショナ ルな関係として,つまり,国内やある社会内部の問題としてとらえられることが多い。し かし,それらも視点を転じれば,そもそも,移民などは,国家間の移動によってもたらさ

れているし,在日韓国人・朝鮮人問題などは,インターナショナルな文脈でもとらえるこ とができる。このように考えると,ある事象が,ナショナルか,インターナショナルかを 厳密に区分することは困難である場合もある。いずにしろ、その事象をどのような文脈で とらえようとしているのかによって,同じ事象のもつ意味や措かれ方が異なるため,どち らの立場を強調するのかは、自国史カリキュラム開発を規定する重要な要素となる。

つぎに,類型化の観点の第2は,カリキュラム開発における知識提示の方法である。カ リキュラム開発において,知識提示の方法は,そのカリキュラムの性格を規定する重要な 要因ともなる。そこでは、 *1)キュラムに規定された知識のあり方に関して,それが,多 様な見方や価値を保障しているのか,さらに,学習者に自由な認識形成、思想形成を促す

ものであるのかが重要な問題となる。そして,そこには,知識捷示の方法が, <閉じられ たもの>であるのか, <開かれたもの>であるのか、という2つ違いを見出すことができ る。前者であれば,最終的には,学習者の認識を1つに収赦させるために、一定の見方に 限定された知識伝達が目指されることになり,時には,カリキュラム開発者の価値や意図 を注入することにつながろう。むろん、その場合,偏った思想やイデオロギーを注入する ものから、歴史学の成果に基づきながらも,結果的には1つの見方を注入するようなもの まで含まれよう。後者であれば,学習者の歴史認識を開くことが目指されることになり, 規定される知識も多様な観点から提示されることになるであろう66。また,カリキュラム

開発の問題というよりは,授業方法の問題でもあるが,ある知識の一方的な理解ではなく, 理解や認識の方法(技能)の育成が重視されることにもなろう。

2 自国史カリキュラム開発の4類型

この2つの観点に基づき,自国史カリキュラム開発を類型化すれば,次頁に示した表1‑2 のように整理することができる67。

表1‑2に見るように,地球時代における自国史カリキュラム開発に関わり、 4類型が可 能となろう。しかし,上記の4つのパターンの自国史カリキュラム開発は,国際教育協力 という幅広い視野で見るとき,世界各国の社会,経済の発展段階や文化的背景に差異があ ることに鑑みれば,その優先順位の違いにより,どれもが存在しうるものであろう。

そして,この類型は,つぎの3つの前提にたって作成した。

第1に,本類型は,自国史カリキュラム開発を稔体としてとらえた際の強調点の差異に よってなし得る類型であるということである。当然のことながら,自国史カリキュラムの 内容には,様々な観点を見出すことができる。そのため,ある類型に属するカリキュラム であっても,個別の内容を詳細に検討すれば,他の類型に当てはまる事象もあるであろう。

また,個別の事象によっては,ある類型では有効に扱うことができるとしても,他の類型