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新しい国際理解学習の視座による自国史カリキュラム開発と 教育内容の特徴

第4章  新しい国際理解学習の視座による 自国史カリキュラム開発

第2節  新しい国際理解学習の視座による自国史カリキュラム開発と 教育内容の特徴

IT20世紀のアメリカ』の分析を手がかりとして‑

l 『20世兄のアメl)力』の全体計画と構成方法

それでは、国際理解学習の視点に立った自国史かノキュラムとは,どのように構成され、

どのような内容を規定すればよいのであろうか。その間いに答えるための示唆を得ること ができるであろう教科書『20世紀のアメリカ』 6をとりあげ、その構成や自国史の取り 扱いを検討することで,自国史カリキュラム開発をインターナショナルな基底において開 いたものにするための視点を見いだしたい。なお, 『20世紀のアメリカ』は,米国におい

て, P.Boyerらによって開発された後期中等学校用の自国史教科書である。

まず,教科書の単元の全体構成は,表411に示した通り, 6つの単元とそれを構成する 27の小単元で組織されている。また,表4‑2には,教科書の構成方法を筆者なりに整理

した。

表4‑1 『20世紀のアメリカ』の全体構成

単元 1 アメ リカの起源 : 19 00 年 まで 学習対象年 間 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ 1 創設か ら 17 3 6 年 まで ‑176 3 ㊨

2 国家の建設 17 63 ー183 0 ㊨

3 成長 と変化 181 5‑186 0 ㊨ ㊨

4 戦争 と再統一 186 0‑190 0 ㊨

5 西部 の交差 点 186 0‑19 10 ㊨

6 国家 の変容 186 5‑19 10 ㊨ ㊨

単元 2 世界の力 : 18 97 ‑192 0

7 改革 の時代 1 897 一19 20

㊨ ㊨

8 進歩 的大統領 190 0ー19 20 ㊨ ◎

9 アメリカと世界 189 8‑19 17 ㊨ ◎

10 第 1 次世界大 戦 19 14 ‑19 20 ◎ ㊨ ◎

単元 3 繁栄 と危機 ‥19 20 一19 4 5

㊨ l l 荒 れる 10 年 19 19 ‑192 9

◎ 1 2 ジ ャズ の時代 19 20 ‑1 9 30 ◎ ㊨

1 3 世界大恐慌 19 29 ‑19 33 ㊨

14 ニ ューデ ィール 193 3ー19 40 ◎

15 戟間期 192 1一19 4 1 ◎

16 第 2 次世界大戦 におけ るアメリカ 194 1‑1 94 5 ㊨ 単元 4 戦後 のアメ リカ : 19 45⊥19 7 5

17 戦後直後 19 45 ‑195 2 ㊨

㊨ ◎

㊨ ㊨

18 対立 の時代 19 50 一196 0 ㊨

19 196 0 年代 19 60 ‑19 70 ㊨ ㊨

20 ベ トナム戦争 1 954 ‑19 75 ㊨ ◎

単元 5 現代 : 19 70 ‑現代

2 1 ニ クソ ンか らカー ター 197 0‑19 80 ㊨ ◎

22 レーガ ン、 ブ ッシ ュ、 クリン トン 198 0‑現在 ㊨

単 6 地球的文脈で のアメ リカの経験

23 帝 国主義 と新世界秩 序 ㊨ ◎

24 工業化 か ら地球経済へ ㊨ ㊨

2 5 人々 と粗相 の動 き ◎ ㊨ ㊨

2 6 人権 をめ ぐる争 い

◎ ㊨

2 7 新 しい環境意識 ㊨ 由

註:表中の右端の番号は、小単元を示し,左上の番号は、各小単元において重点的に扱わ れる下記のテーマを示す。

○地球的関係, ○憲法の遺産, ◎民主的価値, ○技術と社会, ○文化的多様性,

○地理的多様性, ○経済開発

(Boyer, P.& Stuckey, S. (1996), The American Nation in 20th century, Holt, Rinehart and

winston.より作成)

表4‑2 『20世紀のアメリカ』の構成方法

単元 構成方法 内容 の構成 方法

単元 1 通史 的構成 通史的 内容 を 「米 国史理解 のた めの 7 テーマ」 を中心

‑‑ に構成 されて い る0 「多文 化的 見方」 「多元 的見方」 を 単元 5 重視 しなが らの米 国史全 般 にわたる内容構成

単元 6 間遺 史的構 成 現在 の国際社 会 を理解 す るた め に重 要 な 「政 治」 「経 済」 「人や思想 の動 き」 「人権 と平和」 「環境」 とい う 5 つ のテ ーマ につい て、 問題 史 的 な視 点 か ら考 察 し、 そ の中で の米 国 の動 きや それ ら との関係 を位 置づ け る内 容構成

表4‑2のように,本教科書は, 「通史的構成」をとる単元1から単元5と「問題史的構 成」をとる単元6というように, 2つの構成方法によって組織されている。また,各小単

元の内容は、表4‑3に示したように、 「米国史を理解するための7つのテーマ」を中心と した構成され、同時に,歴史の主体的な認識を促すための歴史的思考を育成することも目 指されている。

表4̲3 『20世紀のアメリカ』に設定された米国史理解の7テーマ テ ー マ テ 「 マ 理 解 の 内容

地 球 的 関係 米 国 を地 球 的文 脈 の 中 で と らえ 、 米 国 が そ の 有 史 以 来 、●政 治、 経 済 、 社 会 の 発 展 に 、 世 界 の 他 の 地 域 の 人 々 の 影 響 を受 け て い る こ と を理 解 す る ○ 同 時 に、 相 互依 存 関係 にあ る世界 コ ミ ュ ニ テ ィで の生 活 問題 や可 舵 性 を探 る 0

憲 法 の遺 産 米 国 史 で は、 我 々 の民 主 政 治 を構 成 す る憲 法 や法 体 系 の学 習 を抜 き には 語 る こ とが で きず 、 そ の歴 史 的展 開 を理 解 す る こ とで 、 目的 達 成 の た め の 個 人 の役 割 を理解 す る○

民 主 的価 値 個 人 の 自 由や 政 治 参 加 の よ うな民 主 的価 値 の 定 義 や そ の保 護 につ い ての 継 続 す る争 い を理 解 す る 0 そ して 、 そ れ らが社 会 的 、 経 済 的、 文 化 的 状 況 にい か に影 響 され た のか を探 る 0

技術 と社会 技 術 の進 歩 が 、 経 済 や 我 々 の生 活 に い か に 影 響 を与 え て きた の か を探 る 0

文 化 の多 様 性 米 国 は 、 世界 の 多 様 な地 域 か らの移 民 に よつ て、 独 特 な文 化 を生 み 出 し て きた の で 、 米 国が そ の多 様 な人 々 をい か に扱 つて きた のか を歴 史 的 に 探 る0

地 理 的多 様 性 米 国 が もつ 自然 環境 も多様 で あ り、 そ の多 様 な天 然 資 源 の開発 が 、 経 済 、 政 治 、 そ して社 会 をい か に構 成 した の か を探 る○ また 、 環 境 に対 す る天 然 資 源 開発 の、 政 府 の、 また 、 大 衆 の意 識 の変 化 を探 る0

経 済 開発 米 国 は、 経 済 大 国 の 1 つ で あ り、 そ の経 済 発 展 が 経 済 、 民 主政 治 、 そ し て、 国際 関係 に与 え た影 響 を探 る0

(Boyer, P.& Stuckey, S. (1996), The American Nation in 20th century, Holt, Rinehart and winston.より作成)

「地球的関係」, 「憲法の遺産」, 「民主的価値」, 「技術と社会」, 「文化的多様性」, 「地理 的多様性」, 「経済開発」の7テーマは内容構成,内容選択e2基準として設定され,過去の 出来事の間に関連をもたせると同時に,今日の社会的,政治的、経済的出来事などに関連 づける役割を果たす。さらに、この7テーマは、米国史理解のみにとどまらず,現代世界

を理解するためにも有効なテーマがであるといえる。

2 通史的構成とその特徴

「通史的構成」をとる単元1から単元5は,米国の20世紀の歴史を概観するとともに、

上述の7テーマ(各小単元では,表4‑2に示したように, 7テーマのうち, 3つほどに焦 点を当て構成されている)を中核に内容を選択する構成になっている。小単元の構成は, 従来の「米国史」と同じように見受けられるが,マイノリティや女性に関する内容を多く

扱うとともに、政治的や経済的な重要事項を記述しつつも、その中に,人々の生活や社会, 文化の様子を多彩に扱い、社会史の成果を十分に反映した内容になっている。また、本文

として記述がない場合でも,対立する見解‑一支配者と被支配者、マジョリティとマイノ 1)テイ,国家と兵士、雇用者と労働者というように‑‑が示され,歴史を多角的にとらえ ることが目指されている。また,経済の進展と生活の変化,技術の進歩と文化の変容、生 活の改善と道徳的価値の変化,移民の増加と家族構成の変化の関係など,各事象を個別の

ものとして扱うのではなく、常にその原因や結果としての影響(事象のつながり)に着目 し,歴史が措かれている。

本教科書では,全体にわたり,常に「多文化的視点」や「多元的見方」が重視され, 7 テーマから選択された内容やそれに関わる事象が複雑に絡まり、影響しあいながら過去,

または現代の社会が構成されることをとらえさせている。そこでは,自国史を肯定的に, 唯一の存在として,一元的に事実を認識させるのではなく, 「批判的思考」が重視されて

いるように,自国を反省的に検討し、主体的な歴史意識の成長を促す内容となっている。

たとえば、小単元26 「第二次世界大戦でのアメリカ」では、第二次世界大戦について の概略を解説したうえで,当時の国内の政治的な動向だけでなく,経済や社会の状態,ま た,「アメリカ先住民、アフリカ系アメリカ人やメキシコ系アメリカ人,女性の立場から「戦 争」を多角的にとらえる試みがなされている。そして,ドイツでの虐殺や日本の中国大陸 侵略という事実をおさえつつも,端的に米国を中心とする連合国を「善」、ドイツや日本 を「悪」と見なすのではなく, 「戦争」そのものが人類に払った代償についての考察もさ れている。さらに、 「(核兵器を使用した)米国(の行為)は,正当化できるのか。」とい

う問いや「核兵器を使用せずとも,当時の日本は,戦争終結‑の道を探っていた。」とい う最近の歴史家の見解を提示し,多様な観点から「戦争」をとらえさせようとする試みが 多く見いだせる。加えて,長期にわたり人種差別を受け続けた日系アメリカ人のみが,彼

らへの偏見によって、戦争開始後,自国(米国)の政府に強制移住させられた事実の不条 理について,日系人の証言などとともに,言及している。この内容からも分かるように,

米国史を肯定的に見るのでなく,異なる見解を併記し,多様な人々の視点を加えることで, 米国史を批判的吟味することが促されているのである。

また、小単元21 「ニクソンからカーター‑」で扱われる「公民権運動」については, アフリカ系アメリカ人,アメリカ先住民,女性,白人のバックラッシュというように,多 様な人々のそれぞれの立場の見解や要求をとらえさせ、それら‑の政府の対応や現在‑の 影響,また,移民の変化やマイノリティとマジョリティの関係の変化,それに伴う二言語 教育の開始などについての内容が示されている。

このように,通史的構成をとる単元1から5では,内容は通史的に構成されながらも,

「多文化的視点」や「多元的見方」から歴史を措き,先に表4‑2に示したように,各小単 元で選択された3つのテーマを中心に,米国史を多角的に,また批判的にとらえることが

できるよう構成されている。

3 問題史的構成とその特徴

っぎに, 「問題史的構成」をとる単元6は,本教科書の最大の特徴ともいえ, 5つの小 単元ごとのテーマに関して,世界的変遷の中に位置づけた米国をとらえさせている。

表4‑4は,単元6の5つの小単元で扱う具体的な内容である。

表4‑4 『20世紀のアメリカ』単元6の学習内容

2 3 帝国主義か ら新世界秩序 24 工業化か ら地球経済へ 2 5 人々 と思想の動 き 1 移民のパ ターン

移動する人々 1 帝国主義から第一次世界大戦 1 工業化 と技術革新

帝国の護生 工業大企業

ロシア 市場 をもとめ海外へ 世界の潮流の中の合衆 国

帝国主義 の新展開 小 さくなる惑星 田舎か ら都市へ

植民地の行政 新商品

新 しい ビジネス形態

2 戦闘期の帝国主義 2 グローバル経済か ら弟二次世

界大戦人

2 戦争の子 ども

戦争 と帝国主義 金の基準 第一次世界大戦 とその後f.

中東 自由貿易 新 しいタイプの移民

勝利 した側の領土 保護主義 1 96 5 年か らの米国への移民

日本、 イタリア、 ドイツの拡大 第一次世界大戦 と平和 新世界秩序における移民

世界大恐慌 開発途上国

3 情報の移動 3 脱植民地化 と冷戦

戦争 とアジアのナショナリズム

3 アメリカ支配の時代

新 しい経済の仕組み 思想 の拡が り

独 立するアフリカ 新 しい経済の展望 ビジネス と産業の変容

中立の動 き アメリカの経済成長 技術 と開発途上国′

ヨーロッパの再建 と経済成長 日本

情報技術 とプライバシー 4 帝国主義の遺産

独立の問蓮

4 貿易の新時代 4 グロ′ーパル文化

オイ ルシ ョック 世界のスポーツ

アフリカ : 事例研究 ドル支配の終鳶 世界のテレビと映画

ソビエ ト帝国の崩壊 環太平洋

多 国籍企業

冷戦の終結 .l

グローバルな自由経済へむけて

世界の若者

2 6 人権 をめ ぐる争 い 2 7 新 しい環境意識 1 第一次世界大戦以前 の人権 1 新旧の態度

人権概念の起源 野生の征服

反奴隷運動 反対意見の起■こり

女性 の権利へ の闘争 進歩主義 と人権

エ コロジーの麓生

2 戦争の冷酷 2 環境の拡大

究極の暴力 進歩主義 と保護

平和維持 と人権 保存 保護

人権 に対する新たな恐怖 より多 くの戦争、 より多 くの残 虐行為

人権努力の新展開

砂嵐の時代

3 平等へ の努力 3 グローバル化する環境主義