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第 4 章 肝細胞単一モデルにおける一酸化窒素と肝細胞アンモニア代謝機能の関連性

4.4 考察

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4.4.2 細胞に負荷される一酸化窒素流束

4.4.1より本研究で作製した NO負荷装置は特定の NO濃度を負荷できること

が明らかとなった.そこで,細胞にどれほどの NO が負荷されたのか流束とし て計算した.計算式には 2 重境界膜理論を用いた.理論の詳細は付録に記載す る.

2重境界膜理論からPDMS膜を透過してくるNO流速(N)は以下の(4-5)式で 表される.

𝑁 =𝐸3𝐷Q 𝛿Q

𝑝

𝐸&𝐸3− 𝐶 (4-5)

Table 7-2の係数値と定常状態のNO濃度を代入すると,各 NO条件における流

束(N)は以下の通りになった.

𝑁S.U VVW = 1.7×10@&3 mol ∙ m@3∙ s@&

𝑁U VVW= 61×10@&3 mol ∙ m@3∙ s@&

𝑁3U VVW = 0.90×10@` mol ∙ m@3∙ s@&

(4-6)

Wang氏らの実験系で25 ppm NOガスを用いた場合,流束は0.73×10@` mol ∙ m@3

s@&となった.したがって,(4-6)の各NO負荷流束は妥当であると考えられる.

細胞に負荷するガス濃度を流束で表現することで,細胞に単位時間当たりの ガス負荷量を考察することが出来る.酸素ガスの場合,細胞による酸素消費を 補うために必要な酸素負荷量を計算し,その負荷量を満たすデバイス設計や初 期酸素供給量を計算することが出来る[73].しかし,NOに関して細胞と負荷す るNO流束について考察している従来研究は存在していない.NOガスは細胞膜 を素通りすることが報告されているが[74],細胞内でどのような挙動を示すか分 かっておらず,NOガスが消費されるも判明していない.また,NOは素早く酸 化されてしまうため,細胞に負荷されている NO 量を正確に知ることが出来な かった.この様に NO の挙動について解明されていない原因は,従来において 細胞に負荷する NO を流束で表現できる実験系がなかったからだと考えられる

[75].したがって,本研究で作製したNO負荷装置は,細胞に負荷するNO量を

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濃度ではなく流束で表すことが可能であり,NOと細胞機能の関連性について調 査していくために役立つ装置であると考える.しかし,従来研究において NO 流束と肝細胞機能向上を関連させた研究がないため,本論文においては NO 濃 度と肝細胞機能向上の関連性で考察を行った.

4.4.3 実験による細胞への影響

Fig. 4-4aと4-4bより,0.6 Paせん断応力と5 ppm NO負荷実験において細胞の 剥離は見受けられず,また細胞の状態においても変化は見受けられなかった.

Fig. 4-4b にて細胞の存在しない箇所がいくつか見受けられるが,この画像は実

験前と実験後で同じ箇所を撮影したものではなかった.また,PDMS は疎水性 のため細胞が接着しにくく[76],実験前から細胞の存在しない箇所が見受けられ た.これらの理由から,Fig. 4-4b における細胞の存在箇所は実験による剥離で はないと考えられる.

細胞画像からでは細胞状態の変化を正確に調査できないため,各条件におけ る細胞生存率を測定した.その結果,すべての条件で細胞生存率は同じであっ た.しかし従来研究において,NO産生促進剤であるブラジキニンを0.1 mMで 2 時間投与した際,肝細胞の生存率が大きく低下したと報告されている[8].ま た同じ研究で,0.1 mMのブラジキニンとNO阻害剤であるL-NAMEを一緒に投 与すると,生存率はコントロールと同じであった.これらの結果からSesti氏ら は,NOが細胞に与える毒性は細胞に負荷されるNO濃度に依存していると述べ ている.したがってSesti氏らの実験では細胞に害のあるNO濃度を負荷してい たが,本研究では全てのNO負荷条件で害のないNO濃度を細胞に負荷できたと 考えられる.

以上より,本研究で用いた NO 負荷条件とせん断応力は細胞に害を与えるこ とがないと分かり,細胞状態の悪化と機能変化は無関係であると考えられる.

また,肝細胞機能とNOの関係性を調べる際,負荷するNO濃度を調節すること が重要であることが明らかとなった.

4.4.4 静置培養における一酸化窒素とアンモニア代謝量の関 連性

Fig. 4-5よりすべてのNO負荷においてNO負荷なしに比べアンモニア代謝量

が向上した.この結果より,本研究で負荷した NO 濃度は肝細胞機能を向上さ せる効果があることが分かった.特に0.5 ppm NO濃度負荷では,コントロール に比べ約2倍のアンモニア代謝量を示した.この時の培養液中NO濃度(CNO(t))

は4.3.1で述べた計算式より求めると,2 × 10-9 mol/Lとなり,この値は通常時の

生体内血中NO濃度である3 × 10-9 mol/L[77]に近い数値であった.したがって,

生体外において肝細胞によるアンモニア代謝を最も向上させる NO 濃度は生体 内のNO濃度付近であると推測される.一方で,NO負荷によってアンモニア代 謝量は向上したが,0.5 ppmより高いNO濃度では徐々にアンモニア代謝量が減 少していき,25 ppmではコントロールの1.4倍であった.この結果から,NO濃 度が高すぎると肝細胞機能向上効果が減少すると考えられる.

以上の結果から本研究で負荷したNO濃度範囲では,NOは肝細胞機能を向上 させる効果を有し,向上効果は NO 濃度に依存することが明らかとなった.基 礎事項にて述べた通り,NOによる肝細胞への影響はポジティブとネガティブの 2面性と言われている.Nagao氏らは細胞が産生したNOによって肝細胞のアル ブミン産生機能が向上したと報告している[7]が,Sesti氏らの研究ではNOを負 荷することで尿素合成機能が低下すると報告している[8].これら従来研究によ ると本研究においてもアンモニア代謝量がコントロールより低い結果が出るは ずだが,全ての NO 濃度においてアンモニア代謝量が向上していた.この原因 は細胞生存率にあると考えられる.Sesti 氏らの研究において肝機能が低下した NO 濃度を 24 時間細胞に負荷した際,細胞生存率が著しく低下した[8].また

Chimenti 氏らの研究では,特定の低濃度 NO 濃度より高い負荷条件では肝細胞

機能が低下し,同時に細胞生存率も減少した[60].一方,本研究では全てのNO 濃度負荷条件で細胞生存率に違いは見られなかった(Fig. 4-4c).したがって本 研究と従来研究から NO とアンモニア代謝機能向上の関係は,細胞に害を与え ないNO濃度を負荷した場合,NOはアンモニア代謝機能を向上させる.さらに,

低NO濃度ほどNOの代謝機能向上効果は大きくなる.

静置培養におけるアンモニア代謝機能とNOの結果から,NOは濃度に依存し てアンモニア代謝機能を向上させ,代謝機能向上に最適な NO 濃度が存在する

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可能性が明らかとなった.したがって,実験者が負荷する NO 濃度を把握し,

異なる NO 濃度を肝細胞に負荷する研究は,生体外におけるアンモニア代謝機 能向上の研究において非常に重要だと考えられる.さらに,NO濃度とアンモニ ア代謝機能の関係を調べるために,本研究で作製した NO 負荷装置は有意義で あることが分かった.次の実験では,生体外でアンモニア代謝機能をより高め るために,本装置を用いて別の代謝機能向上要因であるせん断応力を負荷し,

その際におけるNOのアンモニア代謝機能向上効果について詳しく調べた.

4.4.5 せん断応力負荷における一酸化窒素とアンモニア代謝

量の関連性

NOを負荷していない場合,せん断応力負荷の方が静置培養よりアンモニア分 解量が約2倍向上した.この結果は従来研究[55, 57, 59]と一致している.このせ ん断応力負荷による代謝機能向上は,物質透過向上と肝細胞内のアクチンフィ ラメントと関係があると報告されている.せん断速度によって肝細胞にアンモ ニアが到達しやすくなり,アンモニア代謝が向上する.またせん断応力によっ てアクチンフィラメントが重合し,肝細胞の凝集が引き起こされ,これにより 肝細胞機能が向上する[57, 69].したがって,本研究においてもアンモニア到着 量増加と肝細胞の形態変化がせん断応力によって引き起こされ,アンモニア代 謝量が向上したと思われる.

このせん断応力の効果と4.3.3の NOによる機能向上効果より,2つの代謝機 能向上因子を掛け合わせれば,生体外でより高いアンモニア代謝機能発現が可 能であると考え実験を行った.

せん断応力とNOの同時負荷実験の結果はFig. 4-6のグレーバーで示されてい る.0.5 ppmでは0 ppmに比べ2倍の代謝機能向上効果が見られ,5 ppmでは0.5 ppmの代謝量より減少していた.これらの傾向はせん断応力なしのFig. 4-5で見 られた結果と同じであり,せん断応力負荷時においても NO による機能向上効 果は発現していると考えられる.しかし,25 ppmでは0 ppmと同じアンモニア 代謝量を示した.この結果から,せん断応力負荷時に NO の効果が発揮されな い負荷濃度の存在が明らかとなった.せん断応力負荷における25 ppmでNOに よる機能向上が起きなかったのは,肝細胞による過剰な NO 産生が原因だと推 測される.肝細胞にはNOを産生するNO合成機構(NO synthase; NOS)が存在

しており[67],せん断応力により NOSが活性化し肝細胞は NO を産生する.し たがって,本研究のせん断応力負荷時における25 ppm NO負荷では,肝細胞機 能を向上させる NO 負荷濃度の上限を超えてしまったため,アンモニア代謝量 が増加しなかったと考えられる.

Fig. 4-6で表される結果より,せん断応力負荷時でもNOは肝細胞機能を向上

させる効果が発揮されていることが分かった.この効果は静置培養と同じく特 定の NO 濃度で最も効果が高く,濃度が濃くなると効果が減少するという傾向 が見られた.しかし負荷するNO濃度が高すぎる場合,NOによる機能向上効果 はなくなるという可能性が明らかとなった.したがって,せん断応力と NO と いう2つの機能向上要因を同時に負荷する場合,NO濃度に留意することが重要 であると思われる.

4.4.6 一酸化窒素負荷による肝細胞アンモニア代謝機能向上

のメカニズム

低濃度 NO 負荷による肝細胞機能向上のメカニズムは明らかになっていない が,いくつかの論文で推測がなされている.本項にて推測されたメカニズムに ついて述べる.

Chimenti氏らの研究によると,NO負荷によって尿素合成回路内におけるNOS

活性に変化が生じるからだと述べられている[60].尿素合成回路はFig. 4-7で表 されるアンモニアから尿素に変換する合成機構である.細胞内でNOSが活性化 されると,アルギニンが分解されシトルリンになりNOが産生される.しかし,

アルギニンは NO 産生の前駆物質であるのと同時に,尿素の前駆物質でもある [78].つまり,NOS活性が尿素回路におけるバイパスの働きをしており,NO合 成が活発化するとアルギニンが消費されてしまい尿素合成量が減少すると考え られる.したがって,低NO 濃度負荷では,4.4.3で述べたように NOが細胞に 害を与えず,また NO 合成経路へのバイパスを妨害することによって,肝細胞 機能が向上したと推測される.一方,高濃度NO負荷は細胞に害を与え,NO合 成経路のバイパスを助長すると考えられる.

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