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本研究では,生体内における高いアンモニア代謝機能発現が肝臓構造にある と考え,まず生体外で血流と肝臓構造に似せた培養モデルを作製し,アンモニ ア代謝機能向上要因についての特定を行った.また,アンモニア代謝機能向上 要因の 1 つが一酸化窒素(NO)であると推測し,NO 濃度とアンモニア代謝機 能向上の関係性について調査した.これらの研究結果より,生体内の肝臓構造 がアンモニア代謝機能向上に影響を与える仕組みを解明し,NOがアンモニア代 謝機能向上に及ぼす影響について考察した.本章では,第 3 章から第 5 章まで の結果をまとめ,本研究から明らかになった生体内肝臓構造によるアンモニア 代謝機能向上メカニズムを説明し,最後に肝臓再生や人工肝臓への応用につい て述べる.

血流を模したせん断応力と肝細胞,星細胞,内皮細胞の 3 種細胞を用いて,

生体内の肝臓構造を生体外で模擬したところ,肝細胞のみモデルより高いアン モニア代謝機能を発現した.これはせん断応力によって刺激された内皮細胞が NOを産生し,そのNOが肝細胞に影響を与えたからである.また,せん断応力 と同時に発生したせん断速度が細胞への物質移動を向上させ,この物質移動向 上が高いアンモニア代謝機能を発現させた.一方で星細胞は NO とは別の物質 によってアンモニア代謝機能を向上させた.これらの結果から,肝臓構造がア ンモニア代謝機能向上に与える影響とは,せん断応力によって刺激された内皮 細胞が機能向上を引き起こし,星細胞は構造に関係なく存在するだけで機能向 上に関与し,せん断速度によって物質移動が向上するということである.しか し,肝細胞・星細胞のモデルと肝細胞・星細胞・内皮細胞のモデルが同じ代謝 機能発現を示したことから,NOが星細胞の代謝機能向上を抑制している可能性 があると考えた.このことから,生体外で肝臓構造を模擬することが必ずしも 高い代謝機能発現に繋がるわけではないことが明らかとなった.この肝臓構造 を模擬した研究より,NOとアンモニア代謝機能の関係性をより深く調査するこ とが重要だと考えられた.そこで細胞が産生するNOではなく,外部からNOを 定量的に負荷しNO濃度がアンモニア代謝機能に与える影響について調査した.

肝細胞だけの培養モデルにおいて4種類のNO濃度(0, 0.5, 5, 25 ppm)を負荷 したところ,NO濃度に依存してアンモニア代謝機能が変化した.全てのNO負 荷において0 ppm より高いアンモニア代謝機能を示し,0.5 ppm NO負荷でアン

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モニア代謝機能が最も高く,濃度が上昇するにつれアンモニア代謝機能は低下 していった.この結果からアンモニア代謝機能向上に最適な NO 濃度が存在す ることがわかり,NO濃度が高すぎるとアンモニア代謝機能が低くなることが明 らかとなった.また,最も高いアンモニア代謝機能を示した0.5 ppm NO負荷で は培養液内のNO濃度が2 nMとなり,これは生体内における血管内NO濃度(3 nM)に近い値であった.これより,生体外でアンモニア代謝機能を最も高める NO濃度は生体内のNO濃度付近であると推測された.また,人工肝臓への応用 を考え,装置内を流れる血液によって発生したせん断応力下における NO 濃度 とアンモニア代謝機能向上の関係を調べたところ,せん断応力なしと同じ NO 濃度依存性を示したが,25 ppm NO負荷において0 ppmとは同じアンモニア代 謝機能であった.この結果から,せん断応力と NO という 2 つの代謝機能向上 要因を同時に肝細胞に負荷した場合,低 NO 濃度では 2 つの代謝機能向上効果 は発揮されるが,高NO濃度では代謝機能向上効果が減少することが分かった.

したがって,人工肝臓における高い代謝機能発現を実現するために複数の代謝 機能向上要因を用いる場合は,各代謝機能向上要因が与える影響について十分 に調査した上で複合させる必要があると考えられる.

次に肝臓構造模擬モデルにおいて NO が星細胞の代謝機能向上効果を抑制し た可能性が考えられた.そこで内皮細胞によるNO負荷を装置によるNO負荷に 切り替え肝細胞・星細胞の構造模擬モデルに異なるNO濃度を負荷して,NOが 与える影響について調査した.

0 ppm NO負荷において肝細胞・星細胞の培養モデルは肝細胞のみモデルより

高いアンモニア代謝機能を示した.しかし,全ての NO 負荷において 2 つのア ンモニア代謝機能は同じ値を示し有意な差が見られなかった.この結果より,

全てのNO負荷で星細胞の代謝機能向上要因が抑制されていることが分かった.

そこで,星細胞が産生し機能向上を引き起こす物質である肝細胞増殖因子(HGF) の産生量を,各NO濃度負荷で測定した.0 ppm NO負荷では1 ng/mL HGF濃度 産生だったが,NO 負荷においては 0.3 ng/mL HGF 濃度まで減少した.これら HGF濃度を個別に肝細胞に負荷したところ,1.0 ng/mL HGFはアンモニア代謝機 能を向上させたが0.3 ng/mL HGFでは代謝機能向上を引き起こさなかった.した がって,NO は星細胞のHGF 産生を代謝機能向上の効果が発揮されない濃度ま で減少させたため,NO存在下では星細胞がアンモニア代謝機能を向上させられ なかったと判明した.またこの時の星細胞の状態を確認したところ,0 ppmでは 星細胞は活性化状態であったのに対し,NO負荷では静止化状態に近い形態に移

行していた.これらの結果から,NOは星細胞の状態を活性化から静止化に移行 させ,HGFの産生量を低下させていることが明らかとなった.この星細胞とNO の研究により,生体外で星細胞と NO を同時に負荷することはアンモニア代謝 機能向上において逆効果であると考えられる.

本研究で明らかになった,生体内の肝臓構造がアンモニア代謝機能に及ぼす

影響をFig. 6-1に示す.血管に流れる血液はせん断応力を発生し,せん断応力は

内皮細胞を刺激する.刺激された内皮細胞はNOを産生し,NOは直接星細胞に もしくは小孔を通り星細胞が存在する空間に移動する.移動した NO は星細胞 と肝細胞に影響を及ぼす.肝細胞は NO が負荷されたことでアンモニア代謝量 を向上させる.一方で星細胞はHGFを産生し肝細胞のアンモニア代謝量を向上 させるが,NO によってHGF 産生は抑制される.これによりアンモニア代謝量 は低下するが,星細胞の活性化は抑制される.星細胞が活性化するとコラーゲ ンなどの細胞外基質を大量に産生し,肝細胞の線維化を引き起こし肝硬変へと 繋がってしまう.したがって,NOはアンモニア代謝機能向上と引き換えに,星 細胞による肝硬変を抑制していると考えられる.以上より,生体内の肝臓構造 は高いアンモニア代謝機能を引き起こすと同時に肝硬変の抑制にも影響を与え ていることと考えられる.

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Fig. 6-1 肝臓構造が肝細胞機能に及ぼす影響

最後に,本研究の結果を用いた肝臓再生や人工肝臓への応用について述べる.

肝臓再生においては肝臓構造を模擬することが大切であると考えられる.血管 を構成する内皮細胞は血液を運ぶために必須である.星細胞は内皮細胞によっ て産生された NO を授受できる位置に存在することが重要である.それは生体 外で活性化した星細胞を静止化状態に戻し,再生した肝臓の肝硬変を抑制する ためである.ただし,再生した肝臓の機能が生体内と同じでない場合は,本研 究で示した以外の機能向上要因を用いて,肝細胞機能を向上させる必要がある.

一方,人工肝臓への応用はFig. 6-2のようなモデルが考えられる.Fig. 6-2aは 肝細胞が含まれるユニットである.Fig. 6-2b はユニットを複数つなげた人工肝 臓の一例である.Fig. 6-2aのようにNOは肝細胞のみに負荷されるよう調節し,

NOが星細胞の HGF産生を阻害しない形状にする.負荷される NOは生体内の NO濃度と同じである3 nMを模擬する.患者から回収した血液はユニット内を 流れるが,この時の血流はせん断応力が 0.6 Paになるようポンプ出力を調節す る.このユニットをFig. 6-2bのように複数設置し,解毒やアルブミン産生の効 率を高め,各ユニットを通過した血液を患者の体内に戻す仕組みとなっている.

本研究で得たデータを元に,6-2a のユニットによるアンモニア代謝を求め,

従来の人工臓器とアンモニア代謝度合いを比較してみる.ユニットの底面積が

直径60 mmの円,高さがNO流路を含め3.3 mmとすると,ユニットの体積は

37 × 103 mm3となる.体積内に本実験に使用した肝細胞数の2倍数が存在する.

0.6 Paせん断応力と0.5 ppm NO負荷でアンモニア代謝は340 µmol/L/day(Fig.

4-6),1.0 ng/mL HGFによってアンモニア代謝は100 µmol/L/day(Fig. 5-7a)増加 するので,全て合わせると1日で 440 µmol/L/dayのアンモニア代謝となる.よ って1ユニットのアンモニア代謝は 880 µmol/L/dayであると予想される.ユニ ットの単位体積を100 × 103 mm3とした場合,単位体積当たり2.38 mmol/L/day のアンモニア代謝となる.ここでポリエーテル系硬質ポリウレタンフォーム

(PUF)/スフェロイド充填培養の人工肝臓における単位体積当たりのアンモニ ア代謝は0.83 mmol/L/dayと報告されている[89].したがって,Fig. 6-2aのユニ ットはPUF/スフェロイド人工肝臓より約3倍高いアンモニア代謝機能を発揮す ることが出来ると推測される.PUF/スフェロイド人工肝臓は初代培養肝細胞を 使用しているため,Fig. 6-2aのユニットに初代培養肝細胞を使用した場合アンモ ニア代謝がどのようになるかは不明である.しかし,本実験で使用した細胞を 用いる限りでは,従来の人工肝臓より高いアンモニア代謝機能を実現すること が出来ると考えられる.

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