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第 8 章 大域的性質とカオス 158

8.1.3 構造安定性と大域的な分岐

構造安定性

アンドロノフ(Andronov)とポントリャーギン(Pontriagin)は,サドル・コネクションやセパラトリ クス・ループがパラメータの変動やベクトル場の摂動に対して壊れやすい性質を持っていることに着目 し,逆にベクトル場を適当に摂動しても相平面図の位相的性質が変化しない力学系を定式化した.ベク トル場の摂動を数学的に説明するのは難しいが,概略を説明しよう.いま式 (8.1)の摂動系として

˙

x = f(x, y) +ξ(x, y)

˙

y = g(x, y) +η(x, y) (8.9)

(a) (b)

(c)

1

O

1

O

1

1

O

2

α

α ω

ω

1

O ω

α

8.5 サドル・コネクション(b)とセパラトリクス・ループ (c)

を考える.ここでパラメータ λ は問題としないので固定して考えるものとし,式(8.9) では書かない でおいた.そこで式 (8.1) と式 (8.9) M 内での相平面図を比較し位相的に同じ構造であれば,式

(8.1)の相平面図はこの摂動に対して壊れなかった,すなわち安定であると考える.アンドロノフとポ

ントリャーギンは,ξ, η とこれらの 1 階微分が十分に小さい摂動に対して安定な相平面図を持つ系 を粗い系(coarsed system) と定義した.この概念はレフシェッツ(Lefschetz)によって後に構造安定

(structual stability) として数学的により厳密化され,その後の力学系の発展に大きく寄与した.式

(8.1)が,粗いあるいは構造安定な系となるためには,相平面図が次の3つの条件を満たす必要がある.

(1) 平衡点は双曲型である.

(2) リミット・サイクルも双曲型である.

(3) サドル・コネクションやセパラトリクス・ループは存在しない.

また,この3 つの条件で十分であることが,古くはドゥバギー(De Baggis)によって示された.

【例 8.4】勾配系の相平面図

勾配系では,上に挙げた (2) の軌道やセパラトリクス・ループはは存在しない.したがってサドル・

コネクションがなく,平衡点が双曲的であると構造安定といえる. ■

(a) (b) (c) 8.6 セパラトリクス・ループによるリミット・サイクルの消滅.

【例 8.5】図8.1 の相平面図

図 8.1の相平面図は上の 3つの条件を満たすので構造安定である. ■

セパラトリクス・ループ

上の結果は逆に考えると,構造安定性の崩れる系において大域的な相平面図の変化がみられることを 示唆している.特に条件(3) のセパラトリクス・ループの生じる前後の分岐は興味がある.これを取り あげよう.一般にセパラトリクス・ループが生じる場合,軌道漸近安定または不安定なリミット・サイ クルがこのループに接近して癒着する.その後,リミット・サイクルは消滅する.図8.6 参照.どちら のリミット・サイクルが癒着するかはサドルの性質から簡単に判定できる.

いま,式(8.1)がサドル1O(x0)を持ち,この点のヤコビ行列を

Df(x0) =



∂f(x0)

∂x

∂f(x0)

∂y

∂g(x0)

∂x

∂g(x0)

∂y



, a2=

¯¯

¯¯

¯¯

¯¯

∂f(x0)

∂x

∂f(x0)

∂y

∂g(x0)

∂x

∂g(x0)

∂y

¯¯

¯¯

¯¯

¯¯

<0 (8.10)

とする.また,

a1=−trace(Df(x0)) =

µ∂f(x0)

∂x +∂g(x0)

∂y

(8.11) とおこう.サドル1O(x0) が図 8.6 (b)のようにセパラトリクス・ループを持つとしよう.このセパラ トリクス・ループは a1>0 のとき安定,a1<0のとき不安定と呼ぶ.直感的にはループ内側近傍の解 軌道がループに巻き付いてゆくかあるいは巻き出すかでループの安定性を定義し,サドル近傍の縮小・

拡大の様子を決める量に関係した式 (8.11)からこの安定性が決まると考えるとよい.そこで軌道安定 なリミット・サイクルが癒着すれば安定なループが,また不安定なリミット・サイクルが付くと不安定 なループができる.a1 = 0 の場合は更に詳しく調べる必要がある.通常は安定なリミット・サイクル と不安定なリミット・サイクルが同時に癒着する.次にこれらの分岐の一例を示すことにしよう.

【例 8.6】余次元2の分岐とセパラトリクス・ループ

前章の例 7.8で検討を保留した平衡点の余次元 2の分岐点P の近傍の概略を調べてみよう.現象を 見やすくするため次の方程式を考える.

dx

dt = y dy

dt = −x+² h

(1−γy2)y−cx3+Bcosνt

i (8.12)

この方程式は式 (7.85) と比較すると,非線形復元項が付け加わっている.このためダフィング・レー リィー方程式と呼ばれている.回路モデルについては,練習問題 1.4(b)参照.さて,基本調波同期化 現象をみるため式 (7.86)を仮定し平均化方程式を求めると次式を得る.

˙

u = ²

2

"µ 13

4γr2

u−

µ σ− 3

4cr2

v

#

˙

v = ²

2

σ− 3

4cr2

u+

µ 13

4γr2

v+B

# (8.13)

ここに

r2=u2+v2, σ= 2(ν1)

² (8.14)

とおいた.式(8.13) の平衡点は次式を満足する.

·µ 1 3

4γr2

2 +

µ σ− 3

4cr2

2¸

r2=B2 (8.15)

また,平衡点の特性方程式は次式で与えられる.

χ(µ) =µ2+a1µ+a2= 0 (8.16)

ここに

a1= 3γr22, a2=σ2+ 13(γ+cσ)r2+27

16(γ2+c2)r4 さて,例 7.8と同様にして分岐曲線を追跡しよう.簡単のため

γ =c= 4 3

の場合を考える.計算結果を図 8.7 に示す. これらを図 7.5, 7.6 と比較すると,平衡点の接線分岐の

状曲線が右上がりとなっている.このため点P の近傍が見やすくなる.勿論,点 P では

a1=a2= 0 (8.17)

となっていて,余次元 2 の分岐点である.すなわち線形化した平衡点の特性根は 2 つとも零となって いる.点P 近傍での式(8.13) の位相的性質は次の方程式と等価であることが知られている.

˙

x = y

˙

y = λ1+λ2x+x2−xy (8.18)

-1 0 1 2 3 4 1

2 3

0

σ

B

P Q

P R

8.7 (8.13)の分岐図.

P

ホップ分岐 接線分岐

セパラトリクス

・ループの分岐

(

0

O; ∅)

(2 ×

0

O+

1

O ; ∅ )

(

0

O+

1

O+

2

O ;

0

D )

(

0

O+

1

O+

2

O ; ∅)

8.8 分岐点P 近傍での平衡点とリミット・サイクルの個数とタイプ.

ここで,式 (8.13) の平衡点は式(8.18) の原点に,またパラメータは点 P 1, λ2) の原点にそれ ぞれ対応している.式(8.18) は,特性根が2 つとも零となる平衡点の分岐の 1 つの最も簡単な式を与 えており標準形と呼ばれている.またこの分岐はボグダーノフ(Bogdanov)とターケンス(Takens)に よって独立に研究されたことからボグダーノフ・ターケンスの分岐という.同期化現象と関連して現象 はファン・デア・ポールのころから知られていた.

図8.7に示した曲線P Rは,この上で丁度図 8.6のようなセパラトリクス・ループが生じるパラメー タの値を結んだものである.点 P の近傍での分岐図の 4 つの領域を図 8.8 に拡大して示しておいた.

また各領域に存在する平衡点とリミット・サイクルの個数とタイプを(平衡点;リミット・サイクル)

として書き込んである.なお,図8.7 の点 Qにおいても余次元 2の同様な分岐がみられる.この例で は接線分岐のカスプ点が接近しているため現象を数値的にみることが難しい.これらの解析について興 味があるときは文献 [P1, P6]を参照してほしい.