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第 3 章 固定点とその安定性 49

3.3 固定点の位相的分類

【例 3.3】例3.2 の差分方程式

3.2の差分方程式を定義する線形写像A は det(A) = det

−2a 1

−b 0

=b (3.41)

より,b > 0 の場合向きを保つ写像,b < 0 の場合向きを反転する写像となる.b = 0 の場合は,式

(3.22) から分かるように,与えた初期状態は 1 回の写像でy = 0 すなわち x 軸に落ち,その後x

上を

x(k+ 1) =−2ax(k) (3.42)

に従って運動する.また,|b|<1のときは,面積縮小型写像となる. ■

Es Ws Eu

Wu x

0

3.1 双曲型固定点近傍の幾何学的構造.

と書くことにしよう.ここに,x(0) =ϕ(0, u) =u である.そこで集合 Wu(x0) = {u∈Rn| lim

k→−∞ϕ(k, u) =x0} Ws(x0) = {u∈Rn| lim

k→∞ϕ(k, u) =x0}

(3.47)

を考えよう.これらは,それぞれ双曲型固定点 x0 の不安定および安定多様体と呼ばれている.この2 つの集合は状態空間内にあり,時間が経過するにしたがって固定点から遠ざかる,あるいは近づく初期 値の集合である.また,点 x0 での線形化を行えば,上で定義した不安定部分空間 Eu と安定部分空間 Es が得られる.これらの部分空間は点x0 の接空間を張っていることに注意しよう.図 3.1参照.実 際次の性質がある.

双曲型固定点の安定・不安定多様体の性質

¶ ³

(a) dimEu= #{µi∈C | |µi|>1}

(b) dimEs= #{µi∈C| |µi|<1}

(c) Eu⊕Es =Rn, Wu(x0)∩Ws(x0) =x0

(3.48)

ここに #{ } は集合の要素の数を表す.

µ ´

したがって,双曲型固定点となる場合は,線形近似 A により,固定点の近傍の性質を調べることがで きる.これをハートマン(Hartman)とグローブマン(Grobman)の定理という.

さて,2 つの双曲型固定点が位相幾何学的に同じ性質を持つための条件を考えよう.これには次の3 つの性質を合わせて考えなければならない.

(1) まず,写像 Aが向きを保つかあるいは反転するかということ.すなわち,

detA

の符号がどうなるかということ.

(2) 次に,不安定と安定部分空間に制限した場合の写像 A の向きがそれぞれどうなるかということ.

すなわち,

Lu=A¯

¯Eu=Df(x0

¯Eu, Ls=A¯

¯Es=Df(x0

¯Es (3.49)

とおいたとき,

detLu, detLs の符号がどうなるかということ.

(3) そして最後に,不安定および安定部分空間の次元がどうなるかということ.すなわち,

dimWu(x0) = dimLu の値がどうなるかということ.

上の条件のうち,不安定部分空間と安定部分空間に関係した (2) (3) の性質は,式 (3.48) から各 部分空間の直和が全体の状態空間の接空間となっているので,不安定あるいは安定部分空間のどちらか を考えると他方は自動的に決まってしまう.したがって以下,不安定部分空間をとりあげて条件を考え ることにしよう.

そこでまず,部分空間の向きが保たれるか否かで名前をつけておこう.

D型部分空間と I 型部分空間

(1) detLu>0 のとき D型不安定部分空間(directly unstable subspace) を持つという.

(2) detLu<0 のとき I 型不安定部分空間(inversely unstable subspace)を持つという.

(3) detLs >0のとき D 型安定部分空間(directly stable subspace)を持つという.

(4) detLu<0 のとき I 型安定部分空間(inversely stable subspace) を持つという.

さて,写像 が向きを保つ場合考えよう.

向きを保つ双曲型固定点の位相的分類

双曲型固定点はその不安定多様体(または同じことであるが安定多様体)の次元が異なる毎に,その 位相幾何学的性質が異なる.いま,

dimWu(x0) =m (3.50)

としよう.向きを保つことから

detA= detLudetLs>0 (3.51)

となっている.したがって,detLu>0となる固定点を m 次元不安定な D型固定点,detLu<0 なる固定点を m 次元不安定なI 型固定点と呼ぶことにして,それぞれ mD および mI と記すことに しよう.ここでは固定点の記号の左下付き添字に不安定次元を記すこととした.式(3.51) の性質から,

m= 0とm=n場合にはD 型固定点しか存在しない.その他の場合にはD 型と I 型が考えられる.

したがって位相的に性質の異なる固定点は,全部で次の 2n個となる.

mD, m= 0,1,2, . . . , n; mI, m= 1,2, . . . , n1 (3.52)

3.1 2次元写像の双曲型固定点のタイプ.

固定点のタイプ 記法 特性根の条件 完全安定(completely stable) 0D 1|<1, 2|<1

正不安定(directly unstable) 1D 0< µ1<1< µ2

逆不全安定(inversely unstable) 1I µ1<−1< µ2<0 完全不安定(completely unstable) 2D 1|>1, 2|>1

3.2 3次元写像の双曲型固定点のタイプ.

固定点のタイプ 記法 特性根の条件

完全安定(completely stable) 0D 1|<1, 2|<1, 3|<1 1次元正不安定(directly unstable) 1D 1|<1, 2|<1, 1< µ3

1次元逆不全安定(inversely unstable) 1I µ1<−1, −1< µ2<0, 0< µ3<1 2次元正不安定(directly unstable) 2D 0< µ1<1, 1<2|, 1<3| 2次元逆不全安定(inversely unstable) 2I µ1<−1, −1< µ2<0, 1< µ3

完全不安定(completely unstable) 3D 1|>1, 2|>1, 3|>1

0

D

1

D

1

I

P

A(Q) A(R) A(P)

Q

R

P Q

R A(Q)

A(P) A(R)

2

D

C C A(C)

A(C)

(a) (b) (c) (d)

3.2 2次元双曲型固定点の4つのタイプ.

【例 3.42 次元および3 次元写像の双曲型固定点のタイプ

それぞれの場合の固定点のタイプを表 3.1 および表 3.2 に示した.なお,完全安定固定点を沈点

(sink),完全不安定固定点を源点(source),その他の固定点を単にサドル(saddle) と呼ぶことが多い.

また,2次元の場合の固定点近傍の写像による点の写される様子を模式的に図示すると,図 3.2となる.

固定点の型と特性方程式の係数との関係

特性方程式 (3.43)の係数と固定点の型の間の関係をみておこう.固定点の分類は,特性根が複素平 面上で単位円の外に何個あるか,またそのうち (−∞, −1)の実軸上に何個あるか(奇数個か偶数個か)

によってなされたと考えてよい.そこで各型に対応して,特性方程式の係数が満たす条件を調べれば よい.これは,線形離散システムの安定性を調べる際に用いられるラウスの表(Routh array) やシュ アー・コーン(Schur-Cohn) の基準から得られる.ただ次元が高い場合は,条件が煩雑になり使いずら い.直接数値的に固定点の型を求めるほうが楽である.ここでは2, 3 の簡単な性質をみるにとどめる.

(1) 写像 A が向きを保つことから

detA= (−1)nan>0 (3.53)

(2) detLu の符号については,実軸上 (−∞, −1)の特性根の個数が奇数か偶数かをみればよい.こ

れは χ(−1)の符号を調べるとよい.すなわち

(a) 状態空間の次元n が偶数のとき

(a-1) χ(−1)>0 ならば µ <−1 となる実根の個数は偶数個,したがって,detLu>0す なわち D型である.

(a-2) χ(−1)<0 ならば µ <−1 となる実根の個数は奇数個,したがって,detLu<0 なわち I 型である.

(b) 状態空間の次元nが奇数のとき

(b-1) χ(−1)>0 ならば µ <−1となる実根の個数は奇数個,したがって,detLu<0す なわち I 型である.

(b-2) χ(−1)<0ならばµ <−1 となる実根の個数は偶数個,したがって,detLu>0 なわち D型である.

2 次元写像の固定点の型と特性方程式の係数との関係 特性方程式を次式としよう.

χ(µ) =µ2+a1µ+a2= 0 (3.54)

直接計算して表3.3 を得る.表3.3の条件を満たす式(3.54)の係数の範囲を (a1, a2)-平面上に示すと 図 3.3の範囲が得られる.

次に,写像A が向きを反転する場合みておこう.

向きを反転する双曲型固定点の位相的分類 この場合は,写像 Aが向きを反転する条件

detA= detLudetLs<0 (3.55)

3.3 2次元双曲型固定点のタイプと特性方程式の係数との関係.

固定点のタイプ 記法 特性方程式の係数の満たすべき条件 完全安定(completely stable) 0D 0< χ(1)χ(−1), 0< a2<1

正不安定(directly unstable) 1D χ(1)<0, 0< χ(−1), 0< a2

逆不全安定(inversely unstable) 1I χ(−1)<0, 0< χ(1), 0< a2

完全不安定(completely unstable) 2D 0< χ(1)χ(−1), 1< a2

a

2

a

1

0

D

2

D

1

D

0

1

I

1

1 -1

χ(-1)=0 χ(1)=0

3.3 2次元双曲型固定点のタイプと特性方程式の係数の満たすべき条件.

を考えて,これまでと同様な話を繰り返せばよい.結果は次の2n 個の固定点の型を得る.

mRD, m= 0,1,2, . . . , n1; mRI, m= 1,2, . . . , n (3.56) ここに,向きを反転する(reverse)意味で R を付した.

なお本書では,向きを反転する写像の話は特別な例を除いて問題にしないのでこれ以上立ち入らない ことにする.

【例 3.5】ロジスティック写像とエノン写像

第 1章の例 1.3, 1.8で示したロジスティック写像(1.28)は,右辺の関数が f(x) =α0(1−x)x=−α0

µ x−1

2

2 + α0

4 (3.57)

であるから,α0>0 とするとx >1/2の領域で向きを反転する写像となる.

またエノン写像(1.59)のヤコビ行列は(1.60)であるからb >0のとき,向きを反転する写像である.

1 1

0 x0

x1 x2

x(k) x(k+1)

x(k+1)=6(1-x(k))x(k) x(k+1)=x(k)

3.4 終局的に固定点に落ち込む解の例.