無党派の投票参加の決定要因が「政治参加への欲求」によるも のであることを示し、無党派層の投票は積極的理由によって行わ れているものであることを示すことが本稿の目的であった。以下、
分析によって得た結果を述べる。
(1)無党派層の中には政治参加への強い欲求を持つ人々もいる が、支持ありに比べて無党派層には実際の政治参加の機会 が少ない。
(2)無党派層の投票参加には「政治参加への欲求」・「投票への 義務感」・「政治への関心」が大きな影響を与えている。
(3)一方で支持政党を持つ人々は「政治参加への欲求」・「政治 への関心」によって投票参加を行うことはあまりなく、
むしろ他の要因によって投票参加が規定されている。
以上より、「政治参加への欲求」を満たす手段として、投票参加 を行う無党派層の存在が明らかになった。また「政治参加への欲 求」は無党派層独自の投票行動の決定要因であるという結果が得 られた。
このことから無党派層の投票参加は「投票への義務感」という 消極的な理由とともに、「政治参加への欲求」を満たす、という積 極的な意味をあわせ持っていると考えられる。無党派層がこのよ うな積極的な要因に基づいて投票参加をしていることが確認でき たことは、現在も依然として増加している彼らの存在に積極的な 意味を与えることになろう。
最後に今後の課題を挙げたい。今回の分析では無党派層の投票参 加を決定する大きな要因として、「政治参加への欲求」があること が確認できた。そこで次に「政治参加への欲求」とは果たしてど のような状況で高まるのかを考える必要がある。「政治参加への欲 求」が無党派層の投票参加に大きな影響を与える要因であるなら ば、その欲求を高めることは無党派層の投票参加率の向上に大き く貢献するはずである。今後はこの点についての研究を行ってい きたいと考えている。
注
(1) 無党派」と「支持なし」という言葉の違いに関して、三宅は
「支持なし」をより広い概念とし、その中の積極的なグルー プを「無党派」として、二分して扱っている。(三宅 1994, p.
7)本稿では特に両者を区別せずに用いるが、三宅が指摘する ように、「無党派」の方がやや積極的なイメージを持って使わ れることが多い。
(2) 田中式の調査方法とは「政党支持を持たない者」から定義し ていく方法である。第一段階として「どの政党も特に支持し たくないという気持ちがあると思いますか」という質問に対 し、「どの政党も支持したくないという気持ちがある」と答え た回答者と、「どれかの政党を支持しても良いのだが、今は支 持する政党がない」と回答した者を、「政党支持なし」層と定 義している。さらに第二段階として二つの「政党支持なし」
に対して支持なしの意識の明確度を測定している。
(3) 田中によるとワイズバーグの政党帰属意識の三次元性の仮説 とは、民主党への帰属意識、共和党への政党帰属意識と無党 派意識が、互いに別の次元を構成しているという仮説である。
(4) 具体的には「これらの活動について、これからもやっていく、
または機会があればやってみたいと考える人も、できれば関 わりたくないと考える人もありますが、あなたはどうお考え ですか。」という質問に対して、各項目について「やっていく・
やってみたい」と答えた人に2点、「どちらでもない」と答え た人に1点、「関わりたくない」と答えた人に0点を与え、0 点から14点までの15点の尺度に分類した。さらにこの15点 尺度を 5 点尺度に分類しなおしたものを政治参加拡大尺度と して用いている。
(5) 具体的には「この中にあるようなことをこれまでに1度でも したことがあるか。」という質問に対して、各項目について「何 度かある」と答えた人に2点、「1から2回ある」と答えた人 に1点、「1度もない」と答えた人に0点を与え、0点から16 点までの17点尺度を用いた。
(6) 「投票義務感」は「投票に行くことは有権者の義務である」
という質問に対して「賛成」から「反対」までの5点尺度に、
それぞれ4,3,2,1,0点を与えた5点尺度を用いた。
「政治への関心」は「選挙後、どの政党が政権を担当する か関心があった」「どの政党が勢力を伸ばすか、あるいは衰え るか、選挙の結果に関心があった」のそれぞれについて「言 及あり」に1点、「言及なし」に0点を与え、それらの合計の 3点尺度を用いた。
「政治への信頼感」は三つの変数から定義した。「政党や政 治家は国民生活をなおざりにしていると思うか」という質問 に対し「全くその通り」「大体その通り」「そうは思わない」
と答えた人々にそれぞれ0,1,2点を与えた。さらに「国の政治 をどれくらい信頼できるか」「区市町村の政治はどのくらい信 頼できるか」という質問に対し「いつも信頼できる」から「全 く信頼できない」までの4点尺度にそれぞれ3,2,1,0点を与え、
この3つの変数の合計を用いた。
「内閣支持」はJEDS1996時の橋本内閣への評価を問う5 点尺度を用いた。
「周囲からの依頼」は、知り合いや家族・親戚などからの投 票依頼、働きかけがあったかを問う質問に、「あった」と答え た人に1点、「なかった」と答えた人に0点を与えた2点尺度 を用いた。
「重要な政策の有無」は「選挙後の新しい政府に特に力を 入れてほしいものがあるか」にあげた問題の数を用いた。変 数は0から16までの17点に分散している。
(7) 「政治への有効性感覚」は「自分には政府のすることに対し て、それを左右する力はない」という意見に対して「賛成」
から「反対」までの5点尺度に、それぞれ0,1,2,3,4点を与え た5点尺度を用いた。
「政治の理解度」は「政治とか政府とかは、あまりに複雑な ので、自分には何をやっているのかよく理解できないことが ある」という意見に対して「賛成」から「反対」までの 5 点 尺度に、それぞれ0,1,2,3,4点を与えた5点尺度を用いた。
「政治に反対する意欲」は「自分から見て非常に危険な法案 が国会に提出された場合国会だけに審議を任さずに自分でも 反対運動をして効果をあげることができる」という意見に対 して「賛成」から「反対」までの5点尺度に、それぞれ4,3,2,1,0 点を与えた5点尺度を用いた。
引用・参考文献
三宅一郎 1994 「三つの「支持なし」:その定義と性格の相違につい て」 『Int’lecowk』 1994年,54号,7-15。
田中愛治 1997 「「政党支持なし」層の意識構造−政党支持概念再検 討の試論―」 『レヴァイアサン』 1997年4月号,20号,101-129。
田中愛治 1992 「「政党支持なし」層の意識構造と政治不信」 『選挙 研究』 1992年4月,NO.7,80-99。
小林良彰・堤英敬 2000 「無党派層の政治意識と投票行動」『選挙』
2000年8,9,10月号,53号。
堤英敬 「無党派層の認知的類型―異なるタイプの無党派層の政治意 識 と 投 票 行 動 ― 」 『 香 川 法 学 』 2001 年 3 月,20(3,4)号 , 227-262。
本庄美佳・鬼塚尚子 「無党派層の政治意識と政治参加―地方政治に おける無党派層の新たな役割―」 『都市問題』 2001 年 10 月,92(10)号,39-54。
なぜ国際危機
は再発するのか?
石戸 勝晃
はじめに
どうすれば平和は実現されるのか? この問いに対して, ひと つの回答を示そうというのが本論文の目的である. 回答するには まず平和とはどのような状態のことをさすのかを明らかにしなく てはならない. ここではGaltungの定義を採用することとする.
彼は平和を暴力という観点から定義している. 彼によると平和 とは 2 つの状態に分けられる. 消極的平和と積極的平和である.
消極的平和というのは個人的暴力のない状態であり, 積極的平和 とは構造的暴力が存在しない状態である(Galtung 1991, p.44). 彼によると, 暴力が存在する場合とは, 「ある人に対して影響力 が行使された結果, 彼が現実に肉体的, 精神的に実現しえたも のが, 彼の持つ潜在的実現可能性を下回った場合」のことをさす
(Galtung 1991, p5). 個人的暴力・構造的暴力に関しては, 主体‐客体関係があきらかな暴力を個人的暴力とし, この関係が 欠く暴力を構造的暴力と定義している(Galtung 1991, p15). さらに彼は構造的暴力が存在する状態を社会的不正義と呼んでい る.
Galtung の定義に従うならば, 戦火の中にある人々にとって重 要なのは消極的平和である. なぜなら彼らの生存を危機にさらし ている戦争は,主体‐客体関係が明確なものだからである. 構造 的暴力を排除することの重要性を認めながらも,現実の問題として
消極的平和ですら享受できていない人々の存在に鑑み, いかにす れば消極的平和の実現ができるかが本稿のテーマとなる.1
本稿では消極的平和を阻害するものとして, 国際危機について 考察を行う. 厳密に言えば, 国際危機そのものは消極的平和を なんら阻害するものではない(そこでは主体−客体関係が存在して いるものの, 具体的な損害が存在するわけではないからである).
しかし戦争や紛争の勃発には, その前段階として関係アクター間 の緊張関係が存在している. 消極的平和を阻害するような戦争や 紛争は何の前触れもなく突然勃発するものではない(Brecher and Wilkenfeld 1997). そうすると国際危機の時点で緊張のエスカレ ートを抑制できれば, 軍事行為に至る前に対立を抑えることがで きるということになる. すなわち国際危機の段階で対立を解消で きれば, 消極的平和の実現が可能となるのである.
本稿の目的が消極的平和の実現であることに鑑みれば, 国際危 機を発生させる要因についての研究を行うことが望ましい. しか し国際危機とはその性質上, 発生しなかった場合および発生した がカウントされなかった場合などが存在するため統計的アプロー チでは説明力に限界がある. そこでここでは国際危機の発生その ものを扱うのではなく, その再発および収束についての議論を行 うことにする. そうすることで統計的アプローチが応用可能な問 題となる. 2
国際危機の発生ではなく再発・収束を扱うことで, 研究意義が なくなるわけではない. なぜなら過去のデータによると国際危機 の約半数が再発しているからである.3 これは約半数の危機で緊 張の緩和ないし対立の解消がされなかったことを意味する. 少な くとも国際危機の関係アクターは紛争段階へ移る蓋然性が高い状 態にあるのである. 言い換えれば, 消極的平和が危険にさらされ ている状態にあるのである. ここに国際危機の再発および収束に ついての考察を行うことの意義がある.
図1 国際危機 戦争/紛争
国際危機の段階での対応の必要性