「国際危機」と表記する.
4. 分析
4.1 使用データ 分析にあたっては ICBデータセットのシステムレベルデータを 用いる. アクターレベルデータを用いない理由は, 研究の目的が 主観的危機ではなく客観的危機だからである. アクターレベルだ と危機の認定はアクターの認知によって決定されるので, この点 で本稿の研究意図と異なる. 一方システムレベルデータであれば, アクターの知覚に関係なく, 事実として生じた危機を対象とする ため本稿の趣旨に合致する.
4.2モデル
モデル図が示すとおり, 民族関係が存在することと危機の勝敗 が曖昧であることが, 「国際危機」の再発要因となっていること を示すことが主たる分析目的である. しかしこれだけでは「国際 危機」の再発・収束を説明するのには不十分である. そこで分析 枠組みとして説明変数に内生的要因と外生的要因とを設定する.
内生的要因の代表は民族関係であり, 外生的要因の代表は危機の 勝敗関係である. 内生的要因の中には民族関係のほかに①争点,
②「国際危機」発生の発端, ③問われている価値を考える. 外生 的要因のなかには危機の勝敗関係のほかに①危機への対応, ②危 機の結果の形式, ③結果に対する満足の程度を取り上げる.
分析では被説明変数に「国際危機」の再発・収束, 説明変数に 内生的要因と外生的要因を構成する先に挙げた変数を投入し, 直 線回帰分析を行う.9 その際内生的要因, 外生的要因ごとに分析 を行う. それぞれのモデルの当てはまり具合を確かめるためであ る.
扱うケースはICBデータのシステムレベルデータに含まれるす べての危機である.
図4 民族関係
「国際危機」の再発 危機の勝敗が曖昧
4.3 各変数の作業 仮説モデルを構成する各変数について作業定義を行う.
定義10 「国際危機」の再発・収束変数(従属変数):ICB system data variable 47 escalation or reduction of tension. この変数は危 機の結果が敵対アクター間の緊張レベルに与えた影響を示してい る. 本稿ではこの変数を「国際危機」の再発・収束変数と呼んでい る. 尺度は2点からなっており, それぞれエスカレーション(再 発)とリダクション(収束)である. エスカレーションでは危機 が終結後 5 年以内に再発したことを示し, リダクションでは危機 終結後 5 年以内には再発しなかったことを示している. コーディ ングについては「収束」を0, 「再発」を1とする.
争点変数(内生的要因):ICB system data variable51 issues.
この変数は危機のアクターにとっての主要な争点にそってコーデ ィ ン グ さ れ て お り , ま た 「 one issue other than military-security」, 「two issues other than military-security」,
「military-security issue alone」, 「two issues, including military-security 」, 「three or more issues」という尺度からなっ ている. これらの尺度は名義尺度なので, ダミー変数として値の 再割り当てを行う. その際「three or more issues」をレファレンス カテゴゴリーとする.
民 族 関 係 変 数 ( 内 生 的 要 因 ):ICB System-Level Dataset variable63 ethnic related crisis. この変数は当該危機に民族の 分離独立要求が存在したかしなかったかを示す変数である. 尺度 には「secessionist conflict」, 「irredentist conflict」, 「non-ethnic conflict」 に よ っ て 構 成 さ れ て い る. 分 析 で は 「secessionist conflict」と「irredentist conflict」を1つにまとめ, 「分離独立」とし,
「non-ethnic conflict」を0, 「分離独立」を1とする.
危機の発端変数(内生的要因):ICB System-Level Dataset variable1 break point( trigger) to international crisis. 「国際危 機」の発端とは意思決定者に基本的価値に対する脅威, 対応への 限られた時間的プレッシャー, 軍事的交戦状態に巻き込まれる高 まった可能性を知覚させる出来事, 行動, 状況的変化のことであ る. この変数は「verbal act」, 「political act」, 「economic act」,
「external change」, 「other non-violent act」, 「internal verbal or physical challenge to regime or elite」 , 「indirect violent act」,
「violent act」からなる.これらの尺度は名義尺度なので, 各尺度を
ダミー変数として値の再割り当てを行う. その際「violent act」
をレファレンスカテゴリーとする. 「verbal act」に多重共線性が生 じるため, 分析からはずす.
問われている価値変数(内生的要因): ICB System-Level Dataset variable 6 gravity of value threat. この変数は当該「国際 危機」で問われている価値がどのような種のものであるかを分類し ており, また「economic threat」, 「limited military damage」,
「political threat」, 「territorial threat」, 「threat to influence」,
「threat of grave damage」, 「threat to existence」, 「other」からな る. この変数も名義尺度であるので, ダミー変数として値の再割 り 当 て を 行 う. レ フ ァ レ ン ス カ テ ゴ リ ー に は 「threat to existence」をあてる(「other」は欠損値として扱う).
危機への対応変数(外生的要因): ICB System-Level Dataset variable7 crisis management technique. この変数は危機に対 してどのような対応が主としてとられたかを示している. この変 数は「negotiation」, 「adjudication」, 「multiple not including violence」, 「non-military pressure」, 「multiple including violence」, 「violence」からなる. この変数も名義尺度であるので, ダミー変数として値の再割り当てを行う. レファレンスカテゴリ ー に は 「violence」 を あ て る. 「adjudication」 お よ び 「multiple including violence」に多重共線性が生じるため分析からはずした.
危機の勝敗関係変数(外生的要因):ICB System-Level Dataset variable44 content of outcome. この変数は危機の勝敗が明確か曖 昧かを示す変数である. 明確とはすべてのアクターが勝利か敗北 かに分類できる状況を示し, 曖昧とは少なくとも1つのアクター が行き詰まり状態にあることを示す. 具体的には基本的な目的が なんら達成されなかったり, 状況に変化がなかったり, 妥協であ ったりである. この変数は「definitive outcome」と「ambiguous outcome」によって構成されているので, 「definitive outcome」
を0, 「ambiguous outcome」を1とコーディングする.
結果の形式変数(外生的要因): ICB System-Level Dataset variable45 form of outcome. この変数は危機の終結点での危機 の結果の形式を示す変数である. この変数は「formal agreement」,
「semi-formal agreement」, 「tacit understanding」, 「unilateral act」, 「imposed agreement」, 「other」, 「crisis faded」からなる.
この変数は名義尺度で構成されているので, ダミー変数として値 の再割り当てを行う. レファレンスカテゴリーには「imposed agreement」をあてる(「other」と「crisis faded」は欠損値とし て扱う).
結果に対する満足度変数(外生的要因): ICB System-Level Dataset variable46 extent of satisfaction about outcome. この 変数は危機にかかわったアクターが危機の終結時点でその結果に 対して持っている満足度を示している. 順序尺度であるので,
「all satisfied」, 「mostly satisfied」, 「equally mixed」, 「mostly dissatisfied」,「all dissatisfied」の順で0から5の数値を当てた.
「single actor case」と「no adversarial actor」を欠損値として処 理した.
4.4 分析結果11 仮説が支持されたかを仮説 1, 仮説 2 の順に検討する. そのあ とにその他の変数の「国際危機」の再発に与える影響を確認し, 最 後に両モデルの当てはまり具合を比較する.
仮説1が支持されたかどうかは表1の民族関係変数の非標準化 係数の値をみることによってわかる. ここではマイナスの値をと っているので, 民族危機のほうが国家間危機よりも再発しやすい とした仮説1 とは逆の結果が表れていることがわかる. つまり仮 説1は支持されず, 逆に民族危機のほうが再発しにくいというこ とが明らかになった. 仮説1が支持されなかった理由は3通り考 えられる. 第1は小平の議論が正しくなかったというものである.
すなわち民族は彼の言うほどには非合理的ではないということで ある. 第2は仮説のメカニズムで用いたゲームツリーで, 期待利 得の配分およびそれに基づく各アクターが採りうる選択肢の確率 を考慮に入れなかったというメカニズムの不備である. これによ り正しいメカニズムから得られる予測とは逆の予測が導出された 可能性がある. 第3は仮説1において分離独立後を想定していな かったことにある. 民族の分離独立後に起こる危機は民族危機と カウントされない. 独立後は国家間の危機となるため, 同じ関係 アクター間の危機であったとしても, それはデータ上民族危機に はならない. すなわち仮説 1において分離独立後を想定していな かったことに問題があった可能性がある.
一方仮説 2 が支持されたかどうかは表2の危機の勝敗関係変数 の非標準化係数の値をみることによってわかる. ここではプラス の値をとっているので, 危機の勝敗が曖昧であると危機は再発し
やすいとした仮説2にそった結果が出ていることがわかる. また その他の外生的要因との比較を行うと, 危機の勝敗関係変数の標 準化係数がとりわけ高い値をとっていることから, 外生的要因の 中でも危機勝敗関係は危機の再発に大きな影響力を持っていると いえる.
そ の 他 の 変 数 の 影 響 を 内 生 的 要 因 か ら み て い く と,
「military-security issue alone」, 「two issues including military-security」, 「threat of grave damage」以外では非標準 化係数ですべてマイナスの値をとっていることがわかる. マイナ スの値をとっているということは, レファレンスカテゴリーとの 比較をすると, それらの項目は「国際危機」再発させにくいこと示 している. 逆にプラスの値をとっている上記の 3つについてはレ ファレンスカテゴリーと比較すると再発させやすいということを 示している.
非標準化係数 標準化係数 危険率
one issue other than military-security -0.017 -0.011 0.897
two issues other than
military-security -0.075 -0.025 0.679 military-security issue alone 0.060 0.060 0.616
two issues including military-security 0.052 0.049 0.659
民 族 関 係
ethnic related -0.080 -0.074 0.168
political act -0.035 -0.029 0.600
economic act 0.435 0.121 0.027
external change -0.013 -0.006 0.913 other non-violent -0.093 -0.024 0.623 internal verbal or physical
challenge to regime or elite -0.220 -0.119 0.029 non-violent military act -0.092 -0.066 0.208 indirect violent act 0.089 0.040 0.450 economic thereat -0.465 -0.151 0.010 limited military damage -0.087 -0.040 0.495 political threat -0.182 -0.159 0.043 territorial threat -0.191 -0.180 0.024 threat to influence -0.274 -0.167 0.013 threat of grave damage 0.043 0.027 0.676
(定数) 1.627 0.000
調整済みR2 :0.052 N= 426
表1 「国際危機」の再発・収束に及ぼす内生的要因の影響力
問 わ れ て い る 価 値
従属変数:「国際危機」の再発・収束 争
点
危 機 の 発 端
次に外生的要因の影響をみると, 非標準化係数において危機 への対応変数ですべての項目がマイナスの値をとっている. ここ からそれらの項目はレファレンスカテゴリーと比較して「国際危 機」を再発させる影響力は小さいということがわかる. 結果の形 式変数の非標準化係数においては, 「unilateral act」を除くすべて の項目でプラスの値をとっている. ここからそれらの項目はレフ ァレンスカテゴリーと比較して「国際危機」を再発させやすいとい うことがわかる. また結果に対する満足度変数では非標準化係数 がプラスの値をとっていることから, 関係アクターの満足度が下 がるにつれ「国際危機」は再発しやすいということがわかる.
内生的要因と外生的要因の比較を行えば, モデルの当てはまり を示す調整済みR2の値が外生的要因のほうが高い. よって「国際 危機」の再発・収束に関しては外生的要因のほうが説明力が高いと