仮説①の検証:「社会保障支出の割合」が増加すると「右派政党の得 票率」は増加する。
表 0 全ての加盟国 (コントロール変数なし) (SSC=社会保障支出の割合)
右派・中道右派政党の得票率の推移への効果
説明変数
非標準化係数
標準誤差
標準化係数
t-値
危険率 SSC % of GDP の
推移
0.53
0.27
0.21
2.05
0.04 N:99 調整済み決定係数:0.03
仮説は支持されたとは言えない。予測した関係が実証されれば両変数 は正の相関を示すはずである。検証の結果、表 0(時代区分による統制な し)は両者の正の相関を示し、危険率からも検証の結果が偶然でない確率 が高いことが言える。しかし、仮説の全ケースに対する説明力は著しく低い。
したがって、この分析結果によって仮説が支持されたとは言い切れない。
仮説②の検証:「冷戦終結後」の方が「冷戦終結前」よりも①の関 係が強く見られる。
表 1-1 全ての加盟国 (冷戦終結前)
右派・中道右派政党の得票率の推移への効果
説明変数
非標準化係数
標準誤差
標準化係数
t-値
危険率 SSC % of GDP の
推移
-0.22
0.78
-0.04
-0.29
0.78 N:60 調整済み決定係数:0.00
表 1-2 全ての加盟国 (冷戦終結後)
右派・中道右派政党の得票率の推移への効果
説明変数
非標準化係数
標準誤差
標準化係数
t-値
危険率 SSC % of GDP の
推移
0.65
0.24
0.41
2.75
0.00 N:39 調整済み決定係数:0.18
仮説は部分的に支持されたと言える。予測した関係が実証されれば、
冷戦終結後の方が高い規定力を示すはずである。冷戦終結前の分析にお ける危険率が非常に高く、説明力が極端に低いため、比較分析として正 確な結果が得られたとは言えない。しかし、冷戦終結後仮説①の関係が 見られ、他と比較して高い説明力が示された。
8
考察
本稿では、近年、顕著に見られる欧州右派回帰の動きとその主要な要 因の一つといわれる福祉行政の危機に注目し、両者の関係をマクロデー タによって統計的に検証することを試みた。全体の傾向として仮説の① と②が全面的に支持されたとは言えないが、福祉行政の行き詰まりが深 刻化した冷戦後において「社会保障支出の割合」と「右派政党の得票率」
の間に正の相関が見られたという事実は大きい。
右傾化という現象が民主主義、国際社会にもたらすものの善悪は別に して、福祉国家という統治体制が何らかの変革を迫られれていることは 明らかである。私たちはこの一連の現象をただヨーロッパの出来事とし て看過してはならない。世界が変わろうとしていること、政治が変わら なければならないことを認識すべきである。
今回の研究を進める上で大きな障害となったのは、まず最新のマクロデ ータをそろえられなかったことにある。社会保障支出等の財政データは一 般的に 1〜2 年遅れて公表されるのが常であり、最新のトピックを扱うこの 研究においてそれらを分析に取り込めなかったのは大きなマイナス点であ ろう。また、日経新聞が提示した右派回帰三要因の他二つに比較して今回 の独立変数を捉えることができなかったことも残念である。移民等のデータ は加盟国間でデータ測定の基準にずれがあり、統計的に利用することは 困難であった。加えてユーロ導入といった要因も数量化することの難しい 指標であった。こういった数量化が困難なデータや指標もって仮説をを違 った角度から捉えなおすためにはマクロデータとサーベイデータとの併用 が有意義だろう。以上の点を踏まえ、仮説検証方法を改良した上で改めて この研究を続けていきたい。
参考文献
デボラ・ミッチェル 1991 『福祉国家の国際比較研究――LIS10ヶ国の税・
社会保障移転システム』 埋橋孝文 - 訳 1999 啓文社。
高橋進 2000 「ヨーロッパ新潮流―21 世紀をめざす中道左派政権」 『神 奈川大学評論ブックレット』 6 号 御茶の水書房。
武川正吾 1999 『社会政策の中の現代―福祉国家と福祉社会』 東京大 学出版会。
上村泰裕 2000 「福祉国家は今なお支持されているか」 佐藤博樹他-編
『社会調査の公開データ―二次分析への招待』 東京大学出版会。
山口定-編 1998 『ヨーロッパ新右翼』 朝日新聞社。
使用データ
政党得票率:Parties and Elections in Europe (http://www.parties-and-elections.de) 右派政党定義:Elections Around The World (http://www.electionworld.org/)
社会保障支出費:IMF Government Financial Statistics (social security contributions % of GDP)
(http://www.worldbank.org/research/growth/GDNdata.htm)
党派性の日米比較
〜政党支持態度と政党帰属意識〜
13003227 三村憲弘
1 はじめに
本稿の目的は、政党支持態度と政党帰属意識を比較分析すること によって、日米の党派性の特徴を実証的に明らかにすることである。
政党支持態度は日本における党派性の特徴を明らかにしてくれ る重要な概念であり、政党帰属意識は米国における同様の概念であ る。両者は、一般的に党派性の指標として用いられてきたし、投票 行動を説明する上でなくてはならない政治的態度要因である。
しかし、政党帰属意識が心理的一体感を伴った態度であるという 点において意味が比較的明瞭であるのに対して、政党支持態度が何 を意味しているのかということは必ずしも明らかではない。本稿で は、曖昧な概念である政党支持態度がいったいどのような態度なの かということを明らかにしたい。結論を先に言うと、政党支持態度 は心理的一体感を伴わない態度であり、また、政党に対する距離感 を伴ったシニカルな態度なのではないかと私は考えている。
本稿で日米の党派性を比較分析する意義を2点強調しておきたい。
第1に、政党支持態度と政党帰属意識の質の違いを分析した研究 がほとんど見当たらないということである。しかしながら、質の違 いは、政党支持態度と政党帰属意識の比較可能性、米国生まれの政 党帰属意識論の日本における適合性という点において非常に重要 な問題である。
第2に、両国を比較することによって、変数間の影響力の解釈が 容易になるということである。1国の分析からだけではどの要因の 影響力が強いかといった議論を満足に行うことはできない。なぜな ら、各要因の概念定義と作業定義によって影響力の強さの推定値が 変化してしまうからである。
次節以下、次のようにして議論を進めていく。まず、第2節では
政党帰属意識と政党支持態度の理論的検討を行う。次に、第3節で はその理論的枠組みに沿って仮説を提示する。そして、仮説を検証 するために、第4節で変数を定義し、第5節で分析を行う。分析に 用いるデータはJEDS96、NES96である。1