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本論文では,運動の強調・抑制を可能とするインタフェース実現を目指し,外界からの情報を 周期的に遮蔽することで視覚情報の動き成分を抑制するSMG(Stop Motion Goggle)と,周期的な 前庭感覚刺激による眼球運動により視覚情報の動き成分を強調する GVS(Galvanic Vestibular

Stimlation),移動体とその背景画像の相対的な運動によって視覚情報の動き成分の強調・抑制を行

うという3つの手法によって得られた視知覚特性の評価を行った.

第2章では,運動の知覚に関わる生理学的な知見として視覚と前庭感覚の概説を行った.まず,

視覚の感覚受容器としての眼球および網膜の構造と運動知覚に関する知見をまとめ,次に前庭感 覚器官の構造と前庭動眼反射の知見をまとめた.また,本論文で実現を目指すインタフェースの 定義を行い,従来までの視覚インタフェースに関して,その設置点別に環境設置型,身体設置型 の2つに大別し特徴を述べた.これまでは環境設置型の視覚インタフェースが一般的であり,多 くの研究・開発が行われてきたが,本論文の目指す視覚インタフェースが今後どのような場面で 利用されるのかも含めて重要性を論じた.

第 3章では,液晶シャッタを用いて外界の情報を周期的に遮蔽し,視覚情報の時間成分に対し て影響を与えるStop Motion Goggle(SMG)による動き成分の抑制手法に関して述べた.SMGの 理論的背景として視覚情報処理における視覚刺激の刺激周波数,位相,時間に対する生理学的知 見を示し,SMGの特徴として下記の3点を掲げた.

1) 視覚情報の微少時間での遮断により裸眼で対象を観察できる日常的な照明環境における視 知覚を拡張する

2) 装着型のデバイスにより観察対象側の環境に影響を与えない形式で被験者毎に異なった視 覚情報を提供する

3) 高い応答性を持つシャッタを用いることにより極めて短い時間幅(1ms未満)の視覚情報の標 本化を可能とする

そして,SMGを用いて外界からの視覚刺激を周期的に遮蔽し,観察対象の運動により生じるモ ーションブラーの量を制御することで,運動する対象の視認性がどのように変化するかを検証し た.この被験者を用いた心理物理実験により,動的視標に対してシャッタの開放周波数 25Hz と 50Hzにおいて,開放時間を0.6-4.0ms の範囲で制御し,被験者実験によって高速に運動を行って いるランドルト環に対する認識率はシャッタの開放時間が短いほど向上することを示した.

また,SMGの実演展示を通じた視知覚の拡張に対する体験者の反応を観察し,街灯などの日常 的な実世界の視覚情報の変容自体がエンタテイメントと成り得ること,そして観察対象として用 意したコンテンツ以外にも体験者自身で身の回りにある様々なモノを探検的に観察し出すことな どが分かった.

第 4章では,周期的な前庭感覚刺激により生起される眼球運動によって,視覚情報の運動を強 調する手法としてGalvanic Vestibular Stimulation(GVS)に関して述べた. GVSの理論的背景と して,GVSの手法自体はすでに確立しており,これまで臨床分野での前庭系の検査や前庭感覚の 心理物理実験などにおいて用いられてきている手法であること,そして前庭感覚提示インタフェ ースとしても活用されてきていることを示した.しかし,従来のGVSインタフェースは歩行誘導

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や加速度感の提示の目的として使われており,本論文で目指す視覚インタフェースとして用いら れることはなかったことなど,本章での主張点との相違を論じた.

その上で,GVSが視覚に与える影響を3つの心理物理実験により明らかにした.

第1の実験では,交流電流を用いたGVSにより生起される主観的な視野の回旋運動が,視覚処 理のどの段階で起こっているのかを明らかにするために行った.その結果,GVSに誘引される眼 球運動によって視野の運動が知覚されることを示した.

第2の実験では,交流電流を用いたGVSにより生起される,主観的な視野の回旋運動の定量化 実験を行った.ここでは定量化の手法も含めて提案し,過去の直流電流を用いて計測した手法と の相違点を示すとともに,GVSの刺激電流量に比例して回旋角度が大きくなること,回旋角度は 周波数依存性を持ちローパス特性があることなどを示した.

第3の実験では,交流電流を用いたGVSに誘引される実際の眼球運動を制作したアイカメラに より撮影し,虹彩文様のクロスコリレーションマッチングにより回旋量と刺激からの位相遅れを 推定した.その結果,第2 の実験で得られた主観的視野運動と同様に刺激電流量に比例して回旋 角度が大きくなること,回旋角度は周波数依存性を持ちローパス特性があることなどを示した.

これら 3 つの実験を通して,GVS により生起される視野運動が眼球運動により引き起こされ,

その視野運動量と刺激電流値および刺激周波数との関係性を明らかにした.これにより,本来は 静止しているはずの環境が,GVSによる眼球運動によって刺激電流値や刺激周波数に依存した回 転運動をしているように知覚されるという,運動知覚の強調が起こっていることが示された.

第 5章では,実環境を運動する対象とその背景の画像を運動させることで得られる相対運動か ら運動対比を生じさせ,対象の移動速度が実際よりも上昇または低下する条件を検証するため,

これまで明らかにされてきた運動対比の発生機序と特性に関する知見をまとめた.関連研究とし て,実世界の車両模型に対して視覚効果を投影することで,車模型が実際に走っているように見 せる拡張現実感(AR)の研究などが行われているが,その知覚特性などが明らかになっていない ことを示した.

運動対比による相対速度知覚を評価するために,画像提示装置を用いたロボットの制御手法を 用いて,移動体の制御と背景画像の運動を一つのディスプレイ上で行う環境を構築し,被験者を 用いた心理物理実験を行った.実験は調整法による測定手法を用い,ある参照刺激速度に対して 背景画像のスクロール速度を被験者が操作して,移動するロボットの速度が参照刺激速度と主観 的に等価になるように調整してもらい相対知覚速度の定量化を行った.

実験の結果から,ロボットの運動方向と同方向に背景を動かした場合は知覚される速度が低下 し,逆方向に背景を動かした場合は上昇することを示した.これは,背景の運動の制御により,

対象の速度が実際の速度よりも遅く,または速く知覚されるようになったということであり,運 動対比によって運動知覚の抑制と強調がそれぞれ引き起こされていることを示した

第 6章では,論文全体を振り返るとともに,各手法により得られた知覚特性を考察し,これら の知見を用いてどのような視覚インタフェースが実現可能か考察した.

以上の議論より,運動知覚の強調・抑制という変化を与えることが工学的に実装可能であるこ とを示し,その特性を明らかにした.

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謝辞

ここまで来るのに何度挫折し,何度立ち止まったことだろうか.

そのたびに多くの人々に支えられ,助けられ,決して自分一人では到達できない場所にたど り着くことが出来ました.生きている間にこの論文を書き上げることが出来たことを心から感 謝いたします.

まず,博士後期課程の途中からの申し出にもかかわらず私の主任指導教員を引き受けて下さ った,知能機械工学科 横井浩史教授には大変お世話になりました.横井先生にはご多忙の中,

何かと気にかけていただき,格別のご配慮を賜りました.このご恩は忘れません,本当にあり がとうございました.

審査委員の知能機械工学科 下条誠教授には学部の頃から騒がしい私を暖かい目で見守って 下さりました.予備審査時には私の論文の細かなところにまで目を通していただき丁寧なアド バイスをしていただき,心より感謝しております.また,同じく審査委員で副指導教員を引き 受けて下さった知能機械工学科 小池卓二教授には博士後期課程のみならず学士と博士前期課 程においても論文の副査をしていただきました.先生の生理学に関する高い御見識からの的確 な指導は常に私の研究へのモチベーションを高く保たたせて下さいました.これまでの学位も 含めまして心より謝意を表します.情報理工学部 総合情報学科の梶本裕之准教授のあらゆる事 に対する探求心と,研究に対する姿勢には大変感銘を受けるとともに研究者の理想像の一つと して多くのことを学ばせていただきました.慶應義塾大学大学院 メディアデザイン研究科の稲 見昌彦教授には学士から博士後期課程までの足かけ8年にわたる研究室生活において,研究室 の運営者として多大なる支援と指導をしていただきました.お世話になっている期間の長さも さることながら,これまでの私の人生において最も多くのことを私に学ばせてくれている先生 なのは間違いありません.厚くお礼申し上げます.稲見先生をはじめ審査委員の先生方には今 後もご迷惑おかけすることもあるかと思いますが,まずはここまで来られたのは諸先生方のお かげです.ありがとうございました.

京都大学 工学研究科の松野文俊教授には先生が電気通信大学に在籍時から格別のご厚誼に あずかり,博士論文がなかなか書き進まず落ち込んでいるときには電話で励ましのお言葉をか けていただくなど,私にとっては尊敬してやまない偉大な研究者であると同時に,時には父親 のようにやさしく見守ってくださいました.東京工業大学大学院 総合理工学研究科の長谷川晶 一准教授にも松野先生と同じく電気通信大学在学時はもちろんのことながら,学外活動として の学生コンテストの委員として様々な面で私をサポートして下さいました.大阪大学大学院 情 報科学研究科の前田太郎教授の余人の想像を超えた奇抜な発想と着眼点の素晴らしさ,そして 何より楽しんで研究を行う姿勢には大きな影響を受けました.同じく大阪大学大学院 情報科学 研究科の安藤英由樹准教授には研究のみならず様々な場面で多くのご助言とアドバイスをいた だきました.八戸工業大学 機械情報技術学科の藤澤隆介助教には博士後期課程に進む際の相談 に乗っていただいただけでなく,その後の多くの不安が付きまとう研究生活における悩みなど の相談にも数多くのっていただき,ただの大学の先輩後輩という関係を超えた付き合いをさせ ていただきました.そして,慶應義塾大学 理工学部の杉本麻樹講師には稲見研究室の先輩とし て研究はもちろんの事ながら,私の私生活の面で最もお世話になりました.一時期,大学に顔