第 4 章 運動の強調とその視知覚特性
4.5 実験 3:GVS による眼球運動計測実験
4.5.1 画像による眼球運動解析プログラム
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紋理歪みを2次元相関関数を用いて克服する方法[108],瞳孔の形状変化を楕円検出法などにより 求める方法などがある[109].
また,解析のための計算時間を短縮する手法として,HatamianとAndersonの相関法[110]がある.
これはある瞬間の瞳孔系よりわずかに大きな円周上の虹彩の濃度分布をテンプレートとして,そ の直後の濃度分布との相関を逐次求めることで回旋を算出する方法[111]で,計算時間は大幅に短 縮され回旋眼球運動の実時間計測などを実現している.
本実験では主に回旋運動の計測を行うことを目的としているため,眼球の経時画像の虹彩パタ ーンマッチングによる眼球回旋運動量の解析を行った.解析プログラム(Mac OSX上で動作を確 認)としてNTT CS研(現 九州大学)の光藤氏が開発した,虹彩の輝度分布とリファレンス画 像の虹彩の輝度分布との相関によるCross-correlation法を使用して,画像解析から眼球の回旋量を 推定することで眼球運動計測を行う.図48に解析プログラムのGUIと実際の実行画面を示す.
本解析ソフトでは,眼球の回旋角度の他に眼球の水平方向および垂直方向の変位量も推定する ことができる.変位量の正方向はそれぞれ,用いる眼球の画像が右目左目に関係なく,カメラか ら向かって右方向が水平方向(x軸)の正方向であり,垂直方向(y軸)では下方向が正,回旋量 は時計回り方向が正方向となっている.つまり,図48(画像は左目)では時計回りが回旋変位量 の正方向であり,被験者からすると反時計回り方向が正方向である.
図48 Cross-correlation法を用いた眼球運動解析ソフト(NTT 光藤)
画像解析による運動解析手法において,その分析限界を定める一つの要素として解析に用いる 画像の解像度の高低が挙げられる.しかし本解析プログラムでは推定に用いる虹彩部分では隣り 合うピクセル同士をまたぐピクセル(サブピクセル)を設けることで解析上の画像解像度を上げ ている.
虹彩紋理を取得する手法として,まず瞳孔を検出し,しかる後に瞳孔のエッジから一定画素は なれた同心円に囲まれた円筒領域内の画像を極座標表示により線形にマッピングする手法が一般 的であるが,本手法でもこの手法が用いられている.図49に視覚的に分かりやすいように解析上 での瞳孔の領域を着色した.本手法においては,瞳孔は真円と見なして解析を行っているが,実 際の瞳孔は楕円形に近く,人によっては一部変形した形状をしているため,この見なしが推定値 の発振や実測値と誤差を生む.
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図49 瞳孔径と虹彩紋理領域
また,虹彩紋理は瞳孔径が変化した際に変形するが,その変形モデルは線形ではない.この虹 彩紋理の変化の非線形性も誤差の原因の一つである.
製作したアイカメラ
本研究において片眼眼球運動撮影のための頭部固定型アイカメラを作成した.図50にその外観 を示す.用いるカメラの選定にあたっては,頭部座標系にカメラを固定し眼球の運動を撮影する という目的から,小型軽量で解像度が高く,フレームレートが高いという条件を満たすことが最 も重視した選定基準であった.そこで,重量が8gと軽量かつ640x480の解像度で60fpsでの撮影 が可能,しかも別途付属するキャプチャソフトを用いると撮像したデータを無圧縮BMPファイル の連番として生成してくれる Firefly MV(PointGrey Research Inc,Canada : 国内代理店 (株)
Viewplus)を選んだ.図51および表6にそれぞれFirefly MVの外観と仕様を示す.
図50 製作した頭部固定型アイカメラ
- 70 - 図51 Firefly MV
表6 Firefly MV仕様
画像素子 マイクロン製1/3インチ プログレッシブCMOS MT9V022 ピクセル Standard-VGA 640x480, Wide-VGA 752x480
A/Dコンバータ 10ビット A/Dコンバータ
画像出力データ 8ビット,16ビットデジタルデータ 標準解像度 640x480pixel
フレームレート 60,30,15,7.5 FPS
ゲイン 自動/マニュアル(切り替え可能)
0dB~12dB
シャッタスピード 自動/マニュアル(切り替え可能)
0.12ms~66.6ms(15fps)
S/N比 最低ゲインにおいて50dB以上
寸法 25mm×40mm(レンズホルダー,および光学系を含まず)
重量 8g(レンズホルダー,および光学系を含まず)
インタフェース 6ピン IEEE-1394(画像取得,カメラ制御)
今回,このアイカメラの製作において留意したのは,前述した解析プログラムで正確に瞳孔お よび虹彩紋理を検出しやすい画像を撮影できるようにするという点である.瞳孔および瞳孔径の 正確な検出の実現は,瞳孔のエッジから定画素数離れた領域を虹彩紋理として用いる画像解析手 法において,計測精度を上げるために必要不可欠であるといえる.そのため,製作したアイカメ ラには光学的な改良を行った.
以下,今回製作したアイカメラにおける改良点を記述する.
(1) 角膜表面および瞳孔への周辺環境情報の映りこみの抑制
眼球撮像時にカメラ自体を含む周りの像が,角膜表面の反射により撮像したデータに極力写り こまないようにするため,アイカメラの土台となるゴーグル前面及び内側に羅紗布を貼り付けた.
図52に見られるような周辺環境の映りこみは,画像解析により眼球の変位量を推定する手法にお いて大きなノイズの原因となるため除去する必要がある.
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図52 眼球画像への周辺環境情報の映りこみ
(2) LED光源の反射によるノイズの除去
一般に,市販されているアイカメラの多くは図53のようにカメラと同軸上に光源用の赤外LED を配置するため,取得画像上で瞳孔の欠損が存在する.このノイズを除去するために,取得画像 に対して何らかの処理をすることや,計算により欠損箇所の補間を行うことはあまり効率がいい 方法とは言えない.角膜反射法や強膜反射法などのように,計測手段としてLEDの反射光が必要 である場合以外は,むしろ計測精度を下げる最大の原因となる.
図53 瞳孔への光源の映り込み
そのため,製作したアイカメラでは光源をカメラと同軸上に置かず,眼球に対して斜めから配 置した.斜めに配置することで図54の取得画像のように,光源が映りこんでも虹彩や瞳孔に対し て影響を及ぼさない.
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図54 製作したアイカメラで撮影した眼球画像
実験方法
実験は白熱灯を間接照明として使用した平均照度60Lux程度の室内で行った.これは暗室もし くは完全暗中では瞳孔が大きく開き,虹彩紋理が極めて撮像しにくくなるためである.GVSには 実験1,2と同様の電流刺激回路を用い,安定した刺激電流を供給するため,昇圧回路ではなく安 定化電源(PAS500-06 KIKUSUI社製)を用いた.眼球の撮影は第5章において紹介した自作アイ カメラを用いた.このアイカメラにより眼球の画像を60Hzで取得し,IEEE-1394ケーブルを介し てBMP連番ファイルで保存した.実験では刺激時間は10秒間に設定したのでカメラから取得す るデータは1試行につき700データ(約11.5sec)とした.
提示した刺激電流は交流電流であり,周波数は0.1,0.25,0.50,0.8,1.0,1.6,2.0Hzの7種類,
刺激電流値は2.0mAとした.これは過去の研究において,電流値を大きくするとそれに比例して 視野の傾き量が増大するという知見が確認されており,また,予備観察において低い電流値では 眼球の回旋量が小さく,測定誤差を生みやすいと判断したからである.被験者には上記7種類の 刺激周波数に加えてns:無刺激の計8条件において,それぞれ4回ずつ眼球をアイカメラにて撮 影した.提示刺激の提示順序は被験者ごとにランダムに与えた.
本実験系において,刺激電流制御回路とアイカメラは外部デバイスによって協調動作していな い.つまり,電流刺激開始時刻とアイカメラによる撮影開始時刻を同時刻にすることはできない.
解析を行う際に電流刺激が開始された開始時刻を何らかの形で検出する必要がある.そこで,電 流が流れたと同時にLEDを点灯させるようにした.つまり,得られた画像データから電流の開始 時刻を検出できるようにした.この手法による刺激開始時刻の検出誤差はアイカメラのフレーム レートが60Hzであるから,最大で約16.7msの誤差が出るということになる.
実験手順
被験者は椅子に座り,図55の右図のように顎台により頭部を固定したまま実験中は注視点を固 視するように教示した.加えて,実験試行中はできるだけ瞬きをしないように教示した.図56に 実験構成概念図を示す.顎台から2m離れた壁面に,青色LEDを光らせ注視点とした.
1試行は前述の通り約11.5secとして,刺激パラメータとして8条件,1条件につき4回試行の 計32回の測定を行った.各試行間に10sec程度の間隔を挟み,全試行回数の半分にあたる16回 の測定終了後,2時間以上の間隔を挟んで残り16回の試行を行った.