• 検索結果がありません。

第 5 章 運動の強調・抑制とその視知覚特性

5.4 相対速度知覚測定実験

実験目的

本実験は,実環境を運動する対象とその背景の画像を運動させることで得られる相対運動から 運動対比を生じさせ,対象の移動速度が実際よりも上昇または低下する条件を検証し,その速度 の知覚特性を明らかにすることを目的とする.

実験被験者について

本実験は,過去に視覚の疾患の経験のない健常な20 代の男子7名( 20代 )に行った.全員 が眼鏡やコンタクトによる視力の矯正を行っている.

実験方法

本実験では,ディスプレイ上の実環境を運動する対象として車両型ロボットを用い,運動する 背景画像はランダムドット画像を用いる.それぞれの運動の速度と方向を変化させることで相対 運動を生じさせ,その際のロボットの知覚速度を評価する.

まず,本実験環境下における速度知覚に対する精度を評価するために,参照刺激として図78の 左図のように,ある速度で移動するロボットを提示し,その後に被験者にそれと同じ速度になる ようにロボットの移動速度を調整してもらった.この時の被験者が調整したロボットの移動速度 を,参照刺激の移動速度との主観的等価点として定量化した.

次に,本実験の目的である相対運動時の知覚速度の評価を行った.参照刺激は速度知覚評価実 験と同様に,ある速度で移動するロボットを提示するが,図78右図のように調整するのはロボッ トの速度ではなく背景の画像の速度と運動方向である.この時,ロボットは一定の速度で移動し ている.調整された背景の速度とロボットの速度を単純に足し合わせたもの(ロボットの移動方 向と逆向きを+)を主観的等価点とした.

図78 速度知覚評価実験(左)と相対速度知覚評価実験(右)の調整する項目の違い

ディスプレイと被験者視点の位置関係は垂直方向に600mm,ロボットの移動開始点と視点位置 の水平方向の距離は750mmに設定した.ロボットはディスプレイ上を移動するので,ロボットの 位置と被験者視点とがなす角は図79のようになる.

- 100 -

図79 ディスプレイと被験者視点の位置関係

背景画像として用いるランダムドット画像は,図80のように 2048×2048ドットの黒背景に対 して,1,048,576の白ドットをテクスチャ上に均等に配置されるように作成した.実際にディスプ レイに表示した際の1ドットの大きさは約5mmであった.

図80 実験で用いたランダムドット画像

- 101 - 実験装置

図81に実験装置として使用した液晶テレビ(SHARP AQUOS 52V型LC-52GX2W)と小型ロボッ トを示す.

図81 実験装置

ロボットは画像提示装置であるディスプレイ上を移動することを考慮し,大きさと重量ができ るだけ小さく,軽くなる必要がある.本実験で用いたロボットは,大きさが一辺を40mmとする 立方体内に収まり,重量はバッテリを含めても86gである.表7に使用したロボットのスペック を示す.

表7 ロボットのスペック表

寸法(長さ,幅,高さ) 40mm×40mm×40mm 重量(バッテリ含む) 86g

操舵方式 左右独立2輪駆動

CPU PIC16F872SS(16MHz)

センサ フォトトランジスタ×5 モータドライバ 2ch/ドライバ ×2

電源 単5アルカリ電池1.5V×2

ロボットは左右独立2 輪駆動方式で走行する.駆動モータには小型のDCギヤドモータを用い た.ロボットの底面には画像提示装置からの指標画像の位置および姿勢を把握するため5つのフ ォトトランジスタ(東芝製TPS615)をセンサとして配置した.センサの配置設計は図82のよう に中央にセンサを一個配置し,残りの4つのセンサは中央のセンサを中心とした直径30mmの円 上に90度間隔で配置した.ロボット底面に浅い角度で入射する外乱光の影響を受けないよう,セ ンサ基板には各センサと同じ位置に穴を開けた黒いアクリル板を貼り付け,センサの先端がアク リル板の表面から 1mm程度内側になるように配置した(図 82 右).ロボットの位置,姿勢制御 には周囲4 つのフォトトランジスタのみを用いる.中心のフォトトランジスタはアームの開閉な ど,追加機能の制御情報の受信に用いることができる.

- 102 - 図82 センサの配置

ロボットの最上部にはMicro Controller Unit(マイコン,以下MCU)やモータドライバなどが実装 されたメイン基板を配置した.フォトトランジスタが配置されたセンサ基板とメイン基板とをフ ラットケーブルで接続した.センサの出力はメイン基板のMCUへと送られる.MCUにはmicrochip

technology社のPIC16F872SSを用い,16MHzで動作させた.また,モータドライバには三洋製の

LB1836M(ドライバ2ch内蔵)を2個用いた.左右両輪を駆動するために1個のドライバを割り当

て,一方のドライバは作業用のアームなどの機能を拡張するために利用することが出来る.

ロボットの回路は電源回路,センサ回路,MCU,モータ駆動回路で構成されている(図 83). 重量をできるだけ抑えるため,電源には単5電池1.5Vを2本直列にして使用した.これにより電 源電圧として3Vを確保した.しかし,MCUなどの制御系の電源電圧には5Vが必要となること から,電源回路として5V出力のチャージポンプ式昇圧回路を設け昇圧した.昇圧ICにはmicrochip

technology社製のMCP1252を使用した.

図83 回路ブロック図([125]より引用)

制御信号は,センサ回路,MCU,モータ駆動回路の順に伝達される.センサ回路では5つのフ ォトトランジスタの出力を120kΩの抵抗により,電流から電圧に変換する.次に,そのセンサ出 力はMCUに内蔵されたADコンバータを介して,MCUに読み込まれる.MCUは5つのセンサ の出力から,指標画像とロボット自身との位置・姿勢のずれを算出する.そして,MCUはそのず れを解消するように,モータドライバに指令を送る.この一連の流れがメインループで常に繰り 返されることにより,ロボットは指標画像を追従することができる.

- 103 - 実験手順 ‐速度知覚評価実験‐

本実験では,ロボットの移動速度をどの程度正確に知覚できているのかを調整法で検証する.

参照刺激としてのロボットの移動速度は17.5,35.1,52.6,70.1,87.6mm/sの5条件であり,それ ぞれの速度に対して3試行,合計15試行を提示順序のランダマイズ化を行い実験した.各参照刺 激の提示後,被験者はロボットの速度を操作して,直前に提示された参照刺激と同じ速度になる ように調整してもらった.ロボットの操作は PC のキーボードのキーの押し下げで行い,操作方 法は事前に教示した.その他の実験前準備として,被験者の視点位置がディスプレイから750mm の高さになるように調整してもらった.また,視覚以外の速度知覚手掛かりをなくすために被験 者には耳栓をしてもらった.

実験手順は以下の通りである.

(実験手順1) スペースキーの押し下げとともに参照刺激としてロボットが移動を開始する.

(実験手順2) ロボットを開始位置に戻し,直前に提示された参照刺激の速度と同じになるよう に,キーの←(減少),→(増加)を操作してロボットの移動速度の調整をしても らう.

(実験手順3) 被験者が主観的に同じ速度になったと思ったところでEnterキーを押してもらう.

ここで被験者により調整されたロボットの速度を参照刺激の知覚速度とした,

実験手順 ‐相対速度知覚実験‐

本実験では,参照刺激の移動速度に対して,相対運動を生じさせることで得られる相対速度が 同じになるように,ある速度で移動するロボットの背景のスクロール速度を調整してもらうこと で相対速度の評価を行う.参照刺激としてのロボットの移動速度は速度知覚評価実験と同じく

17.5,35.1,52.6,70.1,87.6mm/sの5条件である.一方で,主観評価側の背景上を移動するロボ

ットの移動速度(以後,評価刺激速度と呼称する)は17.5,35.1,52.6,70.1の4条件であり,そ れぞれの参照刺激速度に対して,それと同じかまたは異なる評価刺激速度で移動するロボットの 背景画像のスクロール速度を調整してもらった.試行回数は参照刺激の 5 条件に対して各々3 試 行,計15試行を評価刺激速度4条件に対して行うため,総計60試行である.刺激条件の提示順 序はランダマイズ化し,被験者には15試行毎に10分間の休憩をとってもらった.速度知覚評価 実験と同様に,ロボットの操作は PC のキーボードのキーの押し下げで行い,操作方法は事前に 教示した.その他の実験前準備として,被験者の視点位置がディスプレイから750mmの高さにな るように調整してもらった.また,視覚以外の速度知覚手掛かりをなくすために被験者には耳栓 をしてもらった.

実験手順は以下の通りである.

(実験手順1) スペースキーの押し下げとともに参照刺激としてロボットが移動を開始する.

(実験手順2) ロボットを開始位置に戻し,キーの押し下げによりロボットが一定速度で動きだ す.

(実験手順3) 直前に提示された参照刺激の速度と同じになるように,キーの←(減少),→(増 加)を操作して背景のスクロール速度を調整してもらう.

(実験手順4) 被験者が主観的に同じ速度になったと思ったところでEnterキーを押してもらう.

ここで被験者により調整された背景のスクロール速度とその時のロボットの移動速度を足し合 わせたものを相対速度の知覚速度とした,