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氷と相互作用する CO の光脱離機構

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 75-85)

第 4 章 アモルファス氷に吸着した一酸化炭素の真空紫外光に誘起される光脱離

4.3 結果と考察

4.3.3 氷と相互作用する CO の光脱離機構

アモルファス氷に吸着したCOの光脱離には3つの過程があることが図4-2から示唆 され,真空紫外光照射に誘起される氷表面の反応生成物由来ではないことも上記のよう おに明らかとなった.そこで,これらの光脱離過程を明らかにするための実験を行った.

アモルファス氷は水分子が規則正しく配列しておらず秩序だっていないだけでなく,

細孔をもつ構造である.そのため,このアモルファス氷の構造がCOの光脱離過程に影 響を及ぼしている可能性が考えられる.そこでまず,多結晶氷にCOを吸着させた氷試 料を作製し,同様に飛行時間分布の測定を行うことで,氷の構造の影響を調べた.基板 温度142 KでH2Oを200 L蒸着した後,基板温度を153 Kに昇温させ,153 Kで約30 分アニールすることで多結晶氷を作製した.図4-10に作製した多結晶氷に0.5 Lの(ラ

ングミュア)蒸着させた氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を示す.

この結果に対して Maxwell-Boltzmann 分布を仮定したフィッティングを行ったところ,

平均並進温度1800 K (A), 450 K (B), 100 K (C)の3成分で構成されていた.結晶化氷に単 層に相当するCOを吸着させた場合は,アモルファス氷に単層COを蒸着させた場合と 比べ,成分の数及び各平均並進温度がほとんど変化しなかった.また,各成分の構成比 もほぼ変化が確認できなかった.氷の構造の影響とは具体的には,脱離した分子が何度

図4-10 多結晶氷に 0.5 L の CO を蒸着させた氷試料から光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.赤色実線,青色実線,緑色実線は順にA,

B, C成分,黒色実線はそれらの和.

0 5 10 15 20

0 1 2 3

4

Experimental data

A B C Total

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

C B

A

72

も衝突することによって衝突緩和し,並進エネルギーを失うことを意味する.この過程 が起こるとすると最も遅い成分であるC成分に影響を及ぼすと考えられる.しかし,よ り平坦な多結晶氷でも C 成分の割合は変化しなかったため,C 成分は衝突緩和した成 分ではないことが明らかになった.

次にA成分が最表面から脱離した成分であるか確認するため,アモルファス氷にCO を吸着させた後,追加でH2O を蒸着させることで CO の脱離を阻害した場合の影響を 確かめた.まず,アモルファス氷に 0.5 L の CO を蒸着させた氷試料から光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を図4-11に示す.この氷に徐々にH2Oを蒸着させ飛行

時間分布を測定した.アモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させた氷の上にH2Oを0.1 L蒸着させた氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を図4-12に示す.

図4-11 アモルファス氷に 0.5 L の CO を蒸着させた氷試料から光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.赤色実線,青色実線,緑色実線は順にA, B, C

成分,黒色実線はそれらの和.

0 10 20 30 40

0 1 2 3 4 5

6

Experimental data

A B C Total

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

C B

A

73

0 10 20 30 40

0 1 2 3 4 5 6

Experimental data A

B C Total

CO signal intensity / arb. unit

Time of flight / s

C B

A

図4-12 アモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させた氷の上にH2Oを0.1 L蒸 着させた氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.赤色実線,

青色実線,緑色実線は順にA, B, C成分,黒色実線はそれらの和.

図4-13 アモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させた氷の上にH2Oを0.3 L蒸 着させた氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.赤色実線,青 色実線,緑色実線は順にA, B, C成分,黒色実線はそれらの和.

0 5 10 15 20

0 1 2 3 4 5 6

Experimental data A

B C Total

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

B C

A

74

図4-13にはアモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させた氷の上にH2Oを0.3 L蒸着させ た氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を示した.これらの結果それぞ れに対してMaxwell-Boltzmann分布を仮定したフィッティングを行ったところ,図4-11 は平均並進温度1700 K (A), 450 K (B), 100 K (C)の3成分で構成されていた.図4-12は 平均並進温度1700 K (A), 450 K (B), 100 K (C)の3成分で構成されていた.図4-13は平 均並進温度1700 K (A), 500 K (B), 100 K (C)の3成分で構成されていた.このように各成 分の平均並進温度の変化は確認されなかった.また,仮にA成分が最表面のCOである とすると,追加でH2Oを蒸着し,キャップした場合A成分の割合が追加H2O蒸着量と ともに減少すると考えられる.図4-11から図4-13をみると,全体の信号強度は徐々に 減少しているものの,A成分の相対的な比率はいずれの場合も約10%とほぼ一定であっ た.このことから,A成分が単純に最表面に吸着しているCOではないことが示唆され た.

次に,第3章で議論したようなCOの吸着状態と飛行時間分布の各成分の関係を明ら かにするために,昇温する場合と昇温しない場合での変化を調べた.8 Kで多結晶氷に COを1.0 L蒸着させた氷試料から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を図4-14 に示す.

0 10 20 30 40

0 1 2 3 4

Experimental data A

B C Total

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

C B

A

図4-14 8 Kで多結晶氷に COを1.0 L蒸着させた氷試料から光脱離し

たCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.赤色実線,青色実線,緑色実線は順

にA, B, C成分,黒色実線はそれらの和.

75

この結果に対して Maxwell-Boltzmann 分布を仮定したフィッティングを行ったところ,

図4-14は平均並進温度1700 K (A), 400 K (B), 100 K (C)の3成分で構成されていた.こ の氷試料を一度32 Kに昇温し,その後8 Kに戻した氷から光脱離したCO(X1+(v = 0)) の飛行時間分布を図4-15に示す.昇温後の飛行時間分布は平均並進温度1700 K (A), 400

K (B)の2成分で構成されていた.C成分が消失したものの,A, B成分の平均並進温度

は変化しなかったことから,CO-dangling OHやCO-bonded OHといった吸着状態で決ま る成分ではないことがわかった.また,アモルファス氷の場合でも昇温させることでCO の吸着状態を変化させ,COの吸着状態と飛行時間分布の各成分の関連を調べた.図4-16 に8 Kでアモルファス氷にCOを0.5 L蒸着させた氷試料を一度32 Kに昇温し,その後 8 Kに戻した氷から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を示す.このとき,平均

並進温度1700 K (A), 450 K (B)の2成分で構成されていた.結晶化氷の場合と同様に,

C 成分が消失したものの,A, B

成分の平均並進温度は変化しなかったことから,CO-dangling OHやCO-bonded OHといった吸着状態で決まる成分ではないことが考えられ

る.

0 5 10 15 20

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

B A

図4-15 8 Kで多結晶氷にCOを1.0 L蒸着させた氷試料を一度32 Kに昇温

し,その後8 Kに戻した氷から光脱離したCO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.

赤色実線,青色実線は順にA, B成分,黒色実線はそれらの和.

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最後にアモルファス氷に 3 ML 相当の CO を蒸着させた氷試料のから光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布を図4-17に示す.この場合の飛行時間分布は平均並進温

度2800 K(A’), 1700 K(A) 400 K(B), 100 K(C)の4成分で構成されていた.アモルファス氷 に単層相当のCOを吸着させた場合と比較して,A, B, C 成分の平均並進温度は変化し なかったが,平均並進温度2800 Kの最も速い成分(A’)が現れた.また,Aを除いた

A’, B, Cの3つの成分だけでも実験値を再現できた(図4-18).飛行時間分布は平均並進

温度2800 K(A’), 400 K(B), 100 K(C)の3成分で構成されていた.

0 10 20 30 40

0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

B A

図4-16 8 Kでアモルファス氷にCOを0.5 L蒸着させた氷試料を一度32 Kに

昇温し,その後8 K に戻した氷から光脱離した CO(X1+(v = 0))の飛行時間分 布.赤色実線,青色実線は順にA, B成分,黒色実線はそれらの和.

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図4-17 アモルファス氷に 3 ML の CO を蒸着させた氷試料から光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.紫色実線,赤色実線,青色実線,緑色実線は順

にA’, A, B, C成分,黒色実線はそれらの和.

0 5 10 15 20

0 10 20 30 40

A'

C B

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s A

図4-18 多結晶氷に 0.5 L の CO を蒸着させた氷試料から光脱離した

CO(X1+(v = 0))の飛行時間分布.紫色実線,青色実線,緑色実線は順にA’, B,

C成分,黒色実線はそれらの和.

0 5 10 15 20

0 10 20 30 40

C B

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Time of flight / s

A'

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様々な条件で測定した CO の飛行時間分布の上述した結果及びその他の結果を踏ま えると,表4-1に示したように光脱離するCOの飛行時間分布は大きく分けて2つの傾 向に分けられることが明らかになった.まず,(I)の場合については,アモルファス氷に 分子層換算で多層にCOを吸着させた場合のみ,A’成分にあたる 2800 Kという比較的 高い平均並進温度をもつ成分を示した.分子層換算で多層COと述べたが,アモルファ ス氷の多孔質性を考慮すると,数分子層COを吸着させても氷表面はCOで覆われてい ないと考えられる.これはBertinらが10層分のCOを用いてもアモルファス氷表面を 完全に覆うことはないと指摘していることと一致する[18].蒸着時は拡散させているが,

3 ML相当のCOであるため,一部は島状に蒸着してしまうことが否定できない.その

ため,氷表面には島状 CO と表面に吸着した CO の 2 つの形態が存在すると考えられ る.この島状COがA’成分に寄与したと考えられる.

次に(II)の場合について述べる.これまでに図示したアモルファス氷に単層以下のCO を吸着させた場合と多結晶氷に単層以下のCOを吸着させた場合がこの(II)に該当する.

これは氷の構造を変化させても平均並進温度に影響しないことを意味している.つまり,

氷構造に依存しない.加えて,第3章で述べた手法である一度32 Kなに昇温させた後 8 Kに降温させることでCOの吸着状態の比率を制御した場合についても飛行時間分布 の解析結果は(II)に該当した.このことから,飛行時間分布がもつ各成分の平均並進温 度はCOの吸着状態(CO-bonded OHあるいはCO-dangling OH)に依存しないことがわ かった.また,アモルファス氷にCOを蒸着させた後にH2Oを蒸着させた氷試料や蒸着 させながらの飛行時間分布計測も行った.これらの場合でも飛行時間分布は(II)の傾向 を示した.この結果は,光脱離したCOが周囲の分子に衝突して衝突緩和によって並進 エネルギーが変化していないことを意味すると考えられる.

A' A B C

(I) 2800±150 ― 500±50 100±30

(II) ― 1800±300 400±100 100±30

平均並進温度 / K

表4-1 2つの傾向に大別される飛行時間分布を構成する各成分とその平均並進温度

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上記に示した結果から,アモルファス氷に吸着したCO分子が振動基底状態  = 0で 光脱離する過程について考える.van HemertらとBertinらの報告を踏まえると,振動緩 和したCOの光脱離機構としては,光子を吸収した分子もしくはその光分解フラグメン トが周囲の分子に衝突することで二次的にはじき出される Kick-out 機構が最も可能性 が高い[17, 18].本研究では振動基底準位v = 0まで緩和したX1+(v = 0)のCOが測定さ れたため,観測された脱離COはKick-out機構によって光脱離したと考えられる. Kick-out機構を考慮するが,COあるいはH2O分子のどちらかが光子を吸収する場合に分け て,振動基底状態のCOの脱離過程として考えられるものを挙げる.

まず,COが真空紫外光を吸収し光脱離する場合は次の2つが挙げられる.(i) COが 光子を吸収し余剰な振動エネルギーを氷(アモルファス氷および結晶化氷)に逃がすこ とで振動準位  = 0まで緩和した後,脱離する過程と,(ii) 吸収した真空紫外光のエネ ルギーをもったCOが隣接するCO分子あるいは,表面上を拡散した後に別のCO分子 に衝突することで,衝突されたCO分子が脱離する過程(COによるKick-out機構)で ある.

次に,H2O が真空紫外光を吸収し光脱離する場合は次の 2 つが挙げられる.(iii) CO が吸着している氷表面近傍のH2O分子が光分解することで,吸着サイトを失ってCOが 脱離する過程と,(iv) 氷(アモルファス氷および結晶化氷)の H2O 分子が光子を吸収 し,光分解した後に生成されるH原子が,氷表面に吸着したCOに衝突し,衝突された CO分子が脱離する過程(H原子によるKick-out機構)である.

(i)については,CO氷の場合高い振動準位をもったCO分子が脱離することが報告さ

れており[17],157 nmのエネルギーを完全に逃がすとは考えづらいため否定される.(ii) については振動準位  = 0のCOを脱離する過程として起こりえるといえる.しかし,

本研究ではCOがアモルファス氷表面と直接相互作用するように,1 MLに満たない吸 着量とした測定を行った.Bertinらが10 MLのCOでもアモルファス氷表面を完全に覆 うことはないと指摘していることを考慮すると[18],ここでいう 1 ML は実際には 0.1 MLにも満たないと考えられる.このような少量の CO を蒸着させた場合,CO による

Kick-outはほとんど起こらないと考えられる.(iii)については CO2生成の反応が起こり

えるため,寄与は小さいといえるが,完全には否定できない.(iv)については可能性が 考えられる.Yabushitaらは,アモルファス氷への157 nm光照射により,H2O分子の光 解離により生成した H 原子が H2O を Kick-out 機構で脱離させることを報告している

[21].また,本研究で対象とした氷試料においては,H2O が CO に比べて多いため,H

原子の十分な供給が起こりえる.そのため,H原子によるKick-outが最も有力な機構だ と考えられる.以上から,アモルファス氷に吸着したCO分子が振動基底状態  = 0で 脱離する過程としては,主にH原子によるKick-out機構で起こっていると考えられる.

また,COが吸着している氷表面近傍のH2O分子の光分解によって吸着サイトを失うこ とによる脱離も否定できない.Kick-outと比較すると,この場合の方が脱離するCOの

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