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結論

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第 4 章 アモルファス氷に吸着した一酸化炭素の真空紫外光に誘起される光脱離

4.4 結論

本章では,アモルファス氷と直接相互作用するCOに157 nmの光を照射して,COの 光脱離について研究を行った.四重極質量分析計を用いた先行研究では脱離COはほぼ 検出されておらず,直接氷に吸着したCOの光脱離はほとんど起こらないと考えられて きた.本研究では共鳴多光子イオン化法と飛行時間型質量分析法を組み合わせた高感度 な測定法を用いて, 1層以下のCOをアモルファス氷に吸着させた氷試料から,振動基

底状態のCO(v=0)光脱離が起こることを明らかにした.そのため,今後は低温における

氷に直接吸着したCOから光脱離確率を定量的に評価し,宇宙化学モデル計算に加える 必要があることが示唆された.また光脱離した CO(v=0)の飛行時間分布の測定を行い,

3つの光脱離過程が存在することが導かれた.アモルファス氷や結晶化氷など氷の構造 の影響やCOの吸着状態依存性,生成物の影響などを検討した.その結果,アモルファ ス氷に吸着したCO分子が振動基底状態 = 0で脱離する過程として,以下のものが推 察された.まず,H2O分子が真空紫外光(157 nm)によって光分解することで生成する H原子が,氷の最表面に吸着するCO分子に衝突し,脱離する過程である.これは一般

にKick-out機構と呼ばれる光脱離過程である.H原子によるKick-out機構では,CO-CO

相互作用をもつ島状に吸着したCO分子であるか,或いは,CO-H2Oのように直接ASW 表面と相互作用しているCO分子であるかによって,脱離したCOのもつ平均並進エネ ルギーが異なることが示唆された.次に,COが吸着している氷表面近傍のH2O分子の 光分解によって吸着サイトを失うことによる脱離である.最後に,一度昇温することに より消失した成分は,不安定に表面に吸着したCOの脱離であると示唆された.このよ うに,アモルファス氷に直接吸着したCOの光脱離機構とその過程を提案した.氷表面 反応により生成するCO2の収率や,氷表面の分子が吸収する真空紫外光157 nmのエネ ルギーの散逸・分配を考慮すると,H2Oが157 nm光によって分解することで生成する H原子が,氷表面に吸着しているCOに衝突することで,COが脱離する過程(H原子

によるKick-out機構)が有力であることが示された.

またCOの吸着状態と光脱離温度依存の関係を調べた.赤外反射吸収分光測定と昇温 光脱離測定の結果から,20-30 K付近と40-60 K付近で測定されたピークはそれぞれ

CO-bonded OH相互作用由来,CO-dangling OH相互作用由来であることが明らかになった.

さらに65-75 K付近において,高密度アモルファスから低密度アモルファスに氷の構造

変化に伴いCOが脱離することを明らかにした.

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93 第 5 章 総括

分子雲における様々な化学種の生成は,主に気相におけるイオン‐分子反応によると 考えられていた.しかし,イオン‐分子反応では赤外線天文観測によって確認された H2O,CO2,H2CO,CH3OHなどの分子の生成を説明することはできていない.星間塵氷 が関与する表面反応では,塵表面に反応熱の一部を氷に逃がすことができるため,低密 度な気相反応では起こりえない再結合反応などが進行する.また,星間塵氷マントルは

10 K 程の低温であるため氷表面に多様な分子が吸着し,有機物生成に好都合な場とな

っている.さらに,星間塵は宇宙線や真空紫外光などにさらされており,これらが化学 反応を誘起する.このように,星間塵氷表面での化学反応は,宇宙化学において重要な 役割を果たしている.中でもCOは存在量が多い上に,有機物などの複雑な分子の前駆 体となる始原的な物質であるため,COに関わる反応は古くから注目され,これまでに COを含む模擬星間塵氷マントルを対象とした化学反応の実験的研究が行われてきた.

最も代表的なものとして,COとH2Oの二成分氷に対して,真空紫外光を照射すること でのCO2生成が挙げられる.しかし,これまでの研究ではCOの吸着状態に焦点を当て た報告はない.他方で,多くの観測結果においてCOの特定の吸収バンドが検出されな いという報告がある.そのため,COの吸着状態に依存する過程が進行している可能性 が考えられる.また,真空紫外光は星間塵氷マントルでの反応だけでなく,そこに吸着 した分子の光脱離を誘起する.COは10 K程度では昇華しないため,分子雲の低温領域

(< 20 K)においては氷マントルに凝縮していると考えられる.しかし,驚くべきこと に熱脱離が起こらないであろうと予測できるこのような低温領域においても気相COが 観測されている.この起源の候補として,真空紫外光に誘起される非熱的な光脱離が考 えられている.このように光脱離は気相固相間の物質循環と密接に関わっており,宇宙 化学を理解するために重要である.しかし,これまでアモルファス氷に直接吸着したCO の光脱離に関する知見はほとんど得られていない.そこで本研究では,アモルファス氷 表面に吸着したCOの化学反応過程を明らかにするため,COの吸着状態ごとに分離し た解析をすることで,CO2生成に対するCOの吸着状態依存性を調べた.また,アモル ファス氷に直接吸着した CO の光脱離の可能性とその機構を明らかにすることに取り 組んだ.

第1章では,本研究の研究背景について,宇宙化学の観点から概説し,関連する諸 過程のうち,氷表面でのCOの化学反応と光脱離の重要性を記した.

第2章では,本研究に用いた測定手法の原理および装置について説明した.

第3章では,COの吸着状態がCO2生成に与える影響の解明について取り組んだ.赤 外反射吸収分光測定からアモルファス氷表面に吸着した CO には,主に氷表面の

dangling OHとの相互作用を含む状態(2152 cm-1)とbonded OHとのみ相互作用する状

態(2139 cm-1)の2つが確認された.CO

の吸着状態に着目した本研究結果から,CO-94

dangling OHの方が157 nm 照射によるCO2生成に対する寄与が高いことがわかった.

これは次の2 つの反応によるCO2生成において CO 吸着状態依存性があること示して いる.

H2O + h (157 nm) → H + OH CO + OH → H + CO2

この要因として次の3点の可能性を提案した.1点目は,dangling OHをもつH2Oが優 先的に光解離することで,アモルファス氷表面に吸着したCOのCO-dangling OHの部 分で反応が進行することである.2点目はCOとOHの衝突角度に依存した反応性が存 在することである.3点目は,氷表面のdangling OHが触媒効果をもち,吸着したCOと 氷表面上を拡散するOH との反応が促進されることである..先行の理論研究に基づい て,吸着したCOと氷表面上を拡散するOHとの反応において,氷表面のdangling OH の存在により遷移状態の構造に大きな双極子モーメントを生み出すため活性化障壁が 小さくなることで,CO2の収率が高まったと推察した.

また,真空紫外光照射後のCOの2つの吸収ピーク強度比I (2139 cm-1) : I (2152 cm-1) は約2:1から約3:1 であった.天文観測の赤外スペクトルではその比が約150:1となる ものもある.これらのことから,真空紫外光照射だけでは赤外天文観測スペクトルを再 現するに至らないことが明らかになった.

第 4 章では,アモルファス氷に直接相互作用する CO の光脱離について研究を行っ た.従来の研究では,アモルファス氷に吸着したCOの光脱離は起こらないと考えられ てきた.ここではより高感度に計測するため,これまでとは異なる共鳴多光子イオン化 法と飛行時間型質量分析法を組み合わせた手法を用いて,脱離したCOの検出を行った.

結果として,単層以下のCOをアモルファス氷に吸着させた氷試料からも脱離したCO を検出することに成功した.そのため,今後は低温における氷に直接吸着したCOから 光脱離確率を定量的に評価し,宇宙化学モデル計算に加える必要があることが示唆され た.また,上記の結果を踏まえ,光脱離するCOの飛行時間分布を測定し,アモルファ ス氷に直接吸着するCOの光脱離過程の解明に取り組んだ.脱離したCOの飛行時間分 布の測定結果から,3つの光脱離過程があることが明らかになった.アモルファス氷や 結晶化氷などの氷の構造への依存性やCOの吸着状態への依存性などを検討し,COの 光脱離過程に迫った.さらに,氷表面における化学反応による生成物であるCO2の影響 も調べ,寄与しないことが明らかになった.これらの結果,アモルファス氷に吸着した CO分子が振動基底状態 = 0で脱離する過程としては,次の4つが推察された.飛行時 間分布を構成する4つの成分のうち,並進エネルギーの大きい成分から順に述べる.ま ず,H2O分子が真空紫外光(157 nm)によって光分解することで生成するH原子が,氷 の最表面に吸着するCO分子に衝突することで,衝突されたCO分子が脱離する過程(H

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