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真空紫外光照射と昇温による CO の脱離

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 85-94)

第 4 章 アモルファス氷に吸着した一酸化炭素の真空紫外光に誘起される光脱離

4.3 結果と考察

4.3.4 真空紫外光照射と昇温による CO の脱離

CO の脱離温度や脱離エネルギーを見積るために,CO をアモルファス氷や結晶化氷 に蒸着させ,昇温脱離スペクトルの測定が行われてきた.これまでの昇温脱離法による 研究では,脱離分子の計測には四重極質量分析計(Quadrupole mass spectrometer; QMS)

が用いられるのが一般的であった.ここでは,脱離したCOをより高感度に計測するた め,共鳴多光子イオン化法と飛行時間型質量分析法を組み合わせた手法を用いた.また,

本研究では,分子雲の温度領域での光脱離を調べた.紫外線にさらされた分子雲の星間 塵氷マントルを想定した実験を行うため,真空紫外光を照射しながら,同時に昇温脱離 の測定を行った.以後,真空紫外光を照射しながら昇温脱離を行うことを「昇温光脱離」

と呼ぶ.

8 Kで作製したアモルファス氷に0.2 LのCOを蒸着させた氷試料の昇温光脱離スペ クトルを図4-21に黒色のプロットで示す.低温側から順に20-30, 40-60, 70, 150 K付近 に脱離したCOのピークが確認された.黒点は真空紫外光照射かつ昇温中に計測した脱

図4-21 8 Kで作製したアモルファス氷に0.2 LのCOを蒸着させた氷試料

の昇温光脱離スペクトル.アモルファス氷に COを0.2 L蒸着した氷試料 から脱離するCOの昇温光脱離スペクトル.黒色丸のプロットは真空紫外 光照射かつ昇温中に計測した脱離COの信号強度,赤色ひし形のプロット は真空紫外光照射を一時的に停止させ,熱脱離のみのCO信号強度を計測 することにより換算した光脱離COの信号強度.F2エキシマレーザー(157

nm)と色素レーザーの照射遅延時間2 sに固定した.

0 20 40 60 80 100 120 140 160 0

1 2 3 4 5

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Temperature / K

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離COの信号強度である.また,赤色ひし形のプロットは157 nm光照射中のCO信号 強度から一時的に光照射を停止させたときの CO 信号強度を差し引いた値である.157 nm 光を照射していないとき信号強度は,熱脱離のみに起因する.昇温光脱離の信号か ら熱脱離由来の信号を差し引くことで光脱離のみの CO 信号強度(図 4-21 の赤色ひし 形プロット)を算出した.光脱離に起因する信号(図 4-21 の赤色ひし形プロット)に も,低温側から順に20-30, 40-60, 70 K付近で脱離したCOのピークが確認された.よっ て,昇温光脱離と光脱離の脱離ピーク位置が一致したことがわかる.しかし,得られた 信号強度は昇温光脱離に比べて光脱離は小さかった.このことから,昇温光脱離測定で は光脱離の寄与は小さく,ほとんど熱脱離由来の脱離COを検出していることが明らか になった.また,8 Kでは昇温光脱離と光脱離の信号強度がほぼ一致した.これは,8 K 程の低温においてCOは昇華せず,光脱離によってのみ氷試料からの脱離が起こること を意味する.真空紫外光の影響を除いた熱脱離のみに起因する脱離ピーク位置を確認す るため,真空紫外光を照射しない条件での昇温脱離スペクトルを測定した.図 4-22 に

はASWにCOを0.8 L蒸着した氷試料を8 Kから昇温させることで得たCOの昇温脱

離スペクトルを示す.昇温光脱離スペクトル測定において,高温域には新規性のある特 徴的な脱離ピークが確認できなかったため,図4-22の昇温脱離スペクトル測定では80 K付近までを測定した.得られた昇温脱離スペクトルにおいて,低温側から順に20-30,

0 20 40 60 80 100 120 140 160 0

2 4 6 8 10

CO sig na l i nte ns ity / a rb . u ni t

Temperature / K

図4-22 ASWにCOを0.8 L蒸着した氷試料を8 Kから昇温させること

で得たCOの昇温脱離スペクトル.

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40-60, 70 K付近で脱離したCOのピークが確認された.図4-21と図4-22を比較すると,

脱離ピーク温度がほぼ一致した.このことから,光脱離と熱脱離は脱離ピーク温度に差 がないことが明らかになった.

昇温光脱離スペクトルで得られた脱離ピークの由来を明らかにするために,8 Kで作 製したアモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させ,CO の吸着状態の温度変化を赤外反 射吸収スペクトルの測定により確認した.その結果を図4-23に示す.ASWは多孔質な 構造をもち,その表面には,H原子が水素結合せず表面から飛び出したOH (dangling OH) をもつH2O分子と,H原子が水素結合したOH(bonded OH)をもつH2O分子が存在する

[22].ASWにCOを吸着させた氷の赤外反射吸収スペクトルには,吸着したCOによる

2152 cm-1と2139 cm-1の主に2つのピークが確認されている[23].これらのCOは主に

ASW表面のbonded OHとのみ相互作用する状態(2139 cm-1の吸収),あるいはdangling

OHとも相互作用する状態(2152 cm-1の吸収)にある[24].8 K では多層COあるいは

CO-bonded OH由来の吸収が強く,CO-dangling OH 由来の吸収が弱かった.24 K から

徐々に昇温すると,35 KではCO-dangling OH由来の吸収の方が強くなり,このことか

図4-23 8 Kで作製したアモルファス氷に0.5 LのCOを蒸着させ,COの吸着

状態の温度変化の赤外反射吸収スペクトル

2200 2180 2160 2140 2120 2100

0.001 135 K

70 K 55 K 35 K 24 K

Abso rb an ce

Wavenumber / cm

-1

8 K

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らCOの拡散が起こったと考えられる.また,CO由来全体のピーク面積が減少したこ とから脱離も起こったといえる.Lauckらは15-23 KでCOがASW 表面を拡散すると 報告している[25].このことからCOの拡散が起こり,より安定なdangling OHサイト へ移ったと考えられる.さらに,55 Kまで昇温すると,2136 cm-1のピークだけが観測 された.このピークは周囲を水分子で覆われたCO由来と報告されている[23].55 Kで は,氷表面のCOは脱離し終えるが,氷内部には閉じ込められたCOが残っていると考 えられる.70 Kでのスペクトルは55 Kのスペクトルと類似しており,大きな変化は起 こらなかったといえる.135 Kまで昇温するとCOの吸収ピークが完全に消失したため,

すべて脱離したと考えられる.ただし,検出感度以下のCOが残存している可能性があ る.

図4-21と図4-23を比較することで,得られた昇温光脱離スペクトルにみられる脱離 ピークと吸着状態の関係について考察する.RAIRスペクトルでは8 K から24 K へ昇 温した際に 2139 cm-1の吸収ピークが減少した.そのため,20-30 K の脱離ピークは,

CO-bonded OHとCO-CO(島状CO)由来のCOの脱離であると考えられる.24 Kや35

KのRAIRスペクトルでは2152 cm-1の吸収ピークが増加したことから,この温度では

COのdangling OHサイトへの拡散も起こったといえる.40-60 Kの脱離ピークはdangling

OH-CO の CO による脱離だと考えられる.低温で作製した ASW の温度を上昇させる

と,70 K付近で氷の密度変化が起こり,高密度アモルファス(Ihda)から低密度ASW(Ilda) に変化する[26].70 K 付近の脱離ピークは,ASW の高密度から低密度への構造変化に よる埋もれたCOの脱離だと考えられる.H2O氷は約140 Kで結晶化することが知られ ている.そのため,150 Kの脱離ピークはASWから結晶化氷への構造変化に伴う脱離 であるといえる.また,170 K以上の温度域においてCOのシグナルが得られた場合も あった.160 K付近でH2O氷の昇華が起こる.そのため,これに伴うCOの脱離である と考えられる.昇温光脱離スペクトルにおける脱離ピークとCOの吸着状態から推察さ れる,アモルファス氷の昇温による構造変化とアモルファス氷に吸着したCOの昇温に よる脱離機構の模式図と昇温脱離スペクトルにおけるピークの帰属を図4-24に示した.

Collingsらは光を照射しない通常の昇温脱離法により昇温脱離スペクトルを報告して

いる[27].彼らはアモルファス氷あるいは結晶化氷上に1層以下のCOから数層に相当 するCOを8 Kで蒸着させ,昇温脱離法を行った.アモルファス氷作製においては,30,

45, 70 Kなど蒸着温度を変化させることで氷の細孔面積を変えた試料も用いている.彼

らの結果では20-30 K, 50, 140, 160 K付近に脱離ピークを観測した.CO蒸着量や氷の構 造を変化させた実験結果などを踏まえ,それぞれの脱離ピークが何に由来するかを検討 した.図 4-24 の左側にはCollings らが指摘した昇温脱離スペクトルの各ピークの帰属 を示す.ある条件によって脱離ピーク温度は幾分変化するものの,アモルファス氷に吸 着したCOの昇温脱離の挙動を次のように述べている.10-25 Kにおいて,固体COの 熱脱離やIhdaの細孔へのCOの拡散が起こる.30 Kでは細孔のサイトにCOが吸着する.

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30-70 Kでは,アモルファス氷の表面からCOが脱離する.また,この温度領域におい

て Ihdaから Ildaへの構造変化が起こる.これはアモルファス氷の多孔質性が減少するよ うな構造の変化であり,これに伴い部分的に細孔が崩壊する.結果的に,COの閉じ込 めと脱離が同時に起こる.70 Kでは,Ildaの内部に捕捉されたCOが氷に残存し,その 他のCOは完全に脱離した状態となる.ここから140 Kまでは,COの脱離は起こらな い.140 K付近からIldaから結晶化氷(Ic)への構造変化が始まる.この氷の多結晶化に 伴って,氷表面に通じる経路が生じ,それを介しIldaの内部に捕捉されたCOが脱離す る.160 Kまで昇温すると,H2Oの昇華が始まる.これにより,140 K 付近でのアモル ファス氷から結晶化氷への構造変化でも脱離しきらなかった残存 CO の脱離が起こる.

COの吸着状態と昇温光脱離を検討することで,図4-24に示した脱離ピークの帰属と氷 の構造との関係を提案できた.特に,アモルファス氷に直接吸着したCOの氷試料を用 いることで,20-30 K付近と50 K付近の脱離ピークはそれぞれCO-bonded OH相互作用

図4-24 アモルファス氷(水色部分)に吸着した CO(橙色部分)の昇温によ

る構造変化および脱離機構の模式図とその昇温脱離スペクトルにおけるピー クの帰属.左側にはCollingsらが報告した昇温脱離スペクトルの各ピークの帰 属.右側には本研究結果から示唆される脱離COの由来を示す.氷の構造の模 式図はCollingsらを参照した[27].

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 85-94)