第 3 章 アモルファス氷に吸着した一酸化炭素の真空紫外光に誘起される化学反応
3.3 結果と考察
3.3.8 副生成物と dangling OH
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図3-24に8 Kでアモルファス氷に1 MLのCOを蒸着させた氷試料に真空紫外光照射 前後の差スペクトルを示す.また,蒸着後一度32 Kに昇温させた氷試料に真空紫外光 照射前後の差スペクトルも同様に示す.これらの差スペクトルは10000 s照射後の赤外 反射吸収スペクトルから照射前のスペクトルを引くことで得られた.1850 cm-1付近に 吸収ピークが確認でき,これはHCOに帰属される.HCOピークはCOを拡散させた図 3-24の下側のスペクトルの場合のみ確認された.これは次の反応によると考えられる.
CO + H → HCO (14)
dangling OHをもつ水分子が光分
解した後に生成したHとCOが 反応し HCO の生成が起こった と考えられる.CO-dangling OH が多いため,拡散させた場合の み検出できた.上側のスペクト ルで未検出であることと下側の スペクトルで確認された HCO の ピ ー ク が 小 さ い こ と は ,
dangling OHをもつ水分子が光分
解した後,基本的にHと反応せ ず OH と反応することを意味す る.これらの傾向はCOが吸着し
た dangling OH をもつ水分子の
2100 2000 1900 1800
8 32 K
Absorbance
Wavenumber / cm-1
8 K 0.001
HCO
図3-24 真空紫外光照射前後の差スペクトル
図3-22 差スペクトルの 2000-1500 cm-1 領域の拡大図
2000 1900 1800 1700 1600 1500
-0.004 -0.002 0.000 0.002 0.004
8 K (CO拡散なし)
Absorbance
Wavenumber / cm-1 (CO拡散後)
8 32 K
図3-23 差スペクトルの 1500-1000 cm-1 領域の拡大図
1500 1400 1300 1200 1100 1000
-0.004 -0.002 0.000 0.002 0.004
8 K (CO拡散なし)
Absorbance
Wavenumber / cm-1
(CO拡散後) 8 32 K
50 光分解が起きていることを支持する.
また,dangling OHの挙動を確認するため,3700 cm-1付近の赤外反射吸収スペクトル を図3-25に示す.図3-25 のスペクトルのうち,アモルファス氷のみで32 K へ一度昇 温したことによりdangling OH吸収ピークの積分面積が下がっていることから,ASW氷 の構造が変化していることを疑われる可能性がある.確かに,昇温によりdangling OH の吸収ピーク,特に2配位のH2O由来と考えられている吸収ピークが減少し,4配位の OH 伸縮振動由来のピークは若干低波数シフトしたことから,dangling OH サイトが減 少し,わずかに結晶化したと考えられる.157 nm照射後にCOを蒸着させたRAIRスペ クトル測定を行うと,COの吸収の形は光を照射しない場合と比べ変化はなかった.ま た,CO が H2O 分子に囲まれる状態あるいは覆われた場合に現れると考えられている
2136 cm-1の吸収は確認できなかった.そのため,真空紫外光照射によるASWの構造変
化は本研究の結果には影響しないと考えた.氷表面(空孔表面も含む)において,周囲 の水分子と2配位あるいは3配位の結合様式をとる水分子は,未結合手のdangling OH をもつことが知られている.結晶化氷の場合,氷表面は秩序だった周期的な構造となる が,アモルファス氷の場合は多孔質であり結晶構造をもたないため,無秩序な表面とな る.dangling OHをもつ水分子の配位数は,赤外分光法により分光学的に区別すること
図3-25 RAIRスペクトルのdangling OH吸収領域における変化
3820380037803760374037203700368036603640
-0.02 -0.01 0.00 0.01 0.02 0.03
ASW 8 K ASW 32 K
ASW 8 K after 32 K CO/ASW 8 K CO/ASW 32 K
CO/ASW 8 K after 32 K
4000 s 6000 s 8000 s 10000 s
Absor ba nce
Wavenumber / cm
-12000 s
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が可能である[24].アモルファス氷薄膜を約60 Kでアニールすると,3配位の水分子に
由来するdangling OHの吸収ピークはほとんど変化しないものの,2配位の水分子に由
来するdangling OHの吸収ピークのみが減少することが報告されている[24,53].さらに
120-130 Kでアニールを行うと3配位の水分子に由来するdangling OHの吸収ピークも
減少することがわかっている[53,54].Kimmel らはアニールによるアモルファス氷の構 造への影響や,基板への H2O 蒸着角度によるアモルファス氷構造への影響を報告して いる[55].彼らは,作製したアモルファス氷に蒸着させたN2の脱離量の温度依存性を昇 温脱離法(TPD)によって調べた.比表面積が約2700 m2 g-1のアモルファス氷上に22 K でN2を蒸着させた場合と,約65 Kでアニールした氷にN2を蒸着させた場合で昇温脱 離スペクトルは大きく変化せず,N2吸着量は類似した.これらのことから,約60 Kま で昇温させたアモルファス氷は,空孔表面に存在する水分子の再配列がわずかに起こる ものの,氷薄膜の構造を大きく変化させる緻密化(結晶化)は起こらないと指摘してい る[55].以上から,32 Kに昇温させたことは結果に影響していないといえる.真空紫外 光照射中におけるdangling OH吸収ピーク積分面積変化を図3-26に示す.さらに照射前 の面積値で規格化した真空紫外光照射中におけるdangling OH吸収ピーク積分面積変化 を図3-27に示す.図3-27の結果から図3-26の二つの場合の光照射によるdangling OH をもつH2O 分子の光分解速度はほぼ等しいが,積分面積の減少は CO を拡散させない
0 2000 4000 6000 8000 10000 0.00
0.05 0.10
0.15
8 K8 K (after heating up to 32 K
Band ar ea of da ng lin g OH
157 nm irradiation time / s
図3-26 真空紫外光照射中におけるdangling OH吸収ピーク積分面積変化
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場合は拡散させる場合に比べて約2倍大きい.このことは2倍のOHラジカルが供給さ れることを意味する.しかしながら,CO2の生成量を比べるとこの場合に少ない.氷表 面での反応により CO2 が生成されるとすると,反応物が多いこの場合に反応が促進さ れると考えられることに矛盾する.そのため,COと相互作用するdangling OH をもつ H2O分子の光解離により生成したOHラジカルがCO+OH反応の反応物として寄与して いることが示唆された.
0 2000 4000 6000 8000 10000 0.0
0.2 0.4 0.6 0.8
1.0
8 K8 K (after heating up to 32 K)
Area
t(dan gling OH) / Area
0(dan gling OH)
157 nm irradiation time / s
図3-27 真空紫外光照射中における dangling OH 吸収ピーク積分面積変化
(照射前で規格化)
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