第 3 章 樹木年輪情報の基礎情報の把握
3.3 樹木年輪クロノロジー間の関係(樹木年輪指数間,樹種間)
3.3.3 結果と考察
a)
樹木年輪指数による違いa-1)
針葉樹について樹種ごとに算出した
9
種類の樹木年輪指数のクロノロジー間の相関係数(r)を
5
樹種で平均した値(r _
)をTable 3.5 右上に,0.1 %水準で有意なrを示した樹 種数(n
sp
)をTable 3.5 左下に示した。幅に関する4
つの指数(IWew
,IW ar
,IW lw
,IP lw
)間では,IPlw
以外の間ではn sp
が4
樹種以上であった。一方,密度に関する5
つの指数(IDmin
,IDew
,IDmean
,IDlw
,IDmax
)間では,IDmean
と他の4
つの指数 とのn sp
が4
樹種以上であったが,早材部にあたるID min
やID ew
と晩材部にあたるID lw
やIDmax
との間ではnsp
は少なかった。IPlw
はIW lw
とIDmean
との間ではnsp
が4
樹 種であった。そのIPlw
を除くと,幅に関する指数と密度に関する指数との間には 明確な関係は不明であった。r
_
を基にして,得られた主成分分析の結果を,幅に関する指数についてはFig.
3.24
に,材密度に関する指数についてはFig. 3.25 に示した。幅に関する指数で は第1
主成分の寄与率が62.2 %,第 2
主成分の寄与率が36.7 %であった。また,
材密度に関する指数では第
1
主成分の寄与率が63.0 %
,第2
主成分の寄与率が-98-
26.3 %であった。幅に関する指数のうち,IW ew
,IWar
,IWlw
の第1
主成分はほぼ同じ値であったが,第
2
主成分では,IW lw
,IW ar
,IW ew
の順に並んでいた。また,その中ではIW
ar
とIWew
は近くに位置し,IWlw
が離れていた。同様に,材密度に関する指数においても第
1
主成分はほぼ同じ値であったが,第
2
主成分では,ID max
,ID lw
,ID mean
,ID ew
,ID min
の順に並んでいた。その中で,ID max
とID lw
,ID ew
とID min
は,それぞれ近くに位置していた。また,ID mean
はID lw
とID ew
との中間ではあるが,ID ew
よりに位置していた。つまり,幅に関する指数はIW
ew
,IWar
,IWlw
の並びで,材密度に関する指数はID min
,IDew
,IDmean
,IDlw
,IDmax
の並びで似た経年変動を持っていることがわか った。また,IWar
とID mean
は,ともに晩材部よりも早材部の樹木年輪変数と似た 経年変動を持っていることがわかった。また,IP lw
とIDmean
との間のr _
やn
sp
の値が 大きかった原因として,早晩材の境界値を各年輪内密度差の50 %値としたため,
D mean
の大小によってPlw
が影響を受けている可能性が考えられる。つまり,ID mean
には早晩材の移行に関連した情報も含まれている可能性がある。以上のような樹木年輪指数間の関係性は他の報告でも同様であった(Wimmer
et al. 2000;Chen et al. 2010; Chen et al. 2012)。したがって,幅または材密度に
関する指数は,それぞれ形成された順に似た経年変動を有しているといえ,そ のように関連付けて考察する必要があると考える。a-2)
サワグルミおよびミズナラについて9
種類の樹木年輪指数間のクロノロジー間のr
をサワグルミついてはTable 3.6
右上に,ミズナラについてはTable 3.6
左下に示した。幅に関する指数について,サワグルミの
IW ar
はIW ew
と,ミズナラのIW ar
はIW lw
と0.1 %水準で有意な r
が 認められた。同様に,材密度に関する指数についても,サワグルミのID mean
はID ew
やID min
と,ミズナラのID mean
はID lw
やID max
と0.1 %
水準で有意なr
が認め-99-
られた。
また,その
r
を基にして得られた主成分分析を行った結果を,サワグルミの 幅に関する指数についてはFig. 3.26
に,材密度に関する指数についてはFig. 3.27
に,ミズナラの幅に関する指数についてはFig. 3.28
に,材密度に関する指数については
Fig. 3.29
に示した。サワグルミにおいて,幅に関する指数では第
1
主成分の寄与率が59.4 %,第 2
主成分の寄与率が39.4 %
であった。また,材密度に関する指数では第1
主成 分の寄与率が64.3 %,第 2
主成分の寄与率が29.2 %であった。IW ar
とIW ew
は近 くに位置したが,IW lw
は第1
主成分ですでに離れていた。また,ID ew
はID min
と,ID lw
はID mean
とID max
と,それぞれ近くに位置していた。IP lw
は,IW lw
と他のものより近くに位置していた。W lw
について約300
年輪を 調べると,最小で5 μm
,平均で52μm
,最大で400 μm
となっていた(Fig. 3.30)。また約
85 %の年輪で W lw
は100 μm
以下であった。つまり,サワグルミのW lw
は
Fig. 2.6b
やFig. 2.7a
で示したように年輪界直前の小径かつ厚壁の木部繊維が接線方向に並ぶ高密度な部分の幅にあたると考えられる。一方,W
lw
が100 μm
以上の年輪はW ar
が狭い場合に多く認められた。W lw
が100 μm
以上の場合は,上述した高密度な部分以外も含まれてしまっていたが,
ID lw
とID max
とが似た経 年変動を持っていたことから,W lw
やID lw
が年輪界直前の小径かつ厚壁の木部 繊維が接線方向に並ぶ高密度な部分の幅や材密度を代表できていると考え,第4
章以降で行う樹木年輪-気候関係の解析に用いることに問題ないと考えた。一方,ミズナラにおいて,幅に関する指数では第
1
主成分の寄与率が64.9 %,
第
2
主成分の寄与率が33.9 %
であった。また,材密度に関する指数では第1
主 成分の寄与率が59.0 %,第 2
主成分の寄与率が30.3 %であった。 IW ar
とIW lw
は 近くに位置し,IWew
は第1
主成分ですでに離れていた。また,IDew
はID min
と,ID lw
はID max
と,それぞれ近くに位置していた。IP lw
は,他のものよりIW lw
と近-100-
くに位置していた。ID
max
は孔圏外部の中でも前半に位置することが多く見受け られ(Fig. 2.6c),第1
主成分はID ew
やID min
とほぼ同じ値であったが,第2
主 成分も含めるとID ew
やID min
から最も離れて位置していた。b)
樹種による違い樹種ごとの樹木年輪クロノロジー間の関係について,針葉樹では
IW ar
(Table3.7
左下)とID mean
(Table 3.7
右上)ともに5
樹種間全ての組み合わせで有意なr
が認められた。サワグルミのIW ar
は他の6
樹種と有意なr
が認められなかった。サワグルミでは年輪幅の広狭を制限する要因が他の樹種とは異なると考える。
これらのことから,構築された
IW ar
とID mean
のクロノロジーは異なる要因の 影響を記録しているが,それぞれは一定地域内に生育する複数樹種間に共通す る要因を記録していると考える。IW ar
のクロノロジーでは第1
主成分の寄与率が47.8 %,第 2
主成分の寄与率が
16.5 %であった。主成分負荷量の分布は,針葉樹 5
樹種が比較的近い位置に集まっていた(Fig. 3.31)。第
1
主成分では,サワグルミが離れて位置していた。その他の樹種は近くに位置していたが,針葉樹を値が大きい順に並べるとスギ,
ヒノキ,ツガ,アカマツ,モミとなっていた。つまり,ヒノキ科(旧スギ科を 含む)
2
樹種,マツ科3
樹種の順に並んでいた。また,第2
主成分においても,広葉樹
2
樹種は針葉樹と離れた位置にあり,さらにそれぞれの位置も離れてい た。広葉樹の中ではサワグルミよりミズナラの方が針葉樹の近くに位置してい た。針葉樹の中ではアカマツが少し離れて位置していた。一方,
ID mean
のクロノロジーでは,第1
主成分の寄与率が55.4 %
,第2
主成分 の寄与率が16.6 %であった。第 1
主成分の寄与率はIW ar
よりもID mean
のクロノ ロジーの方が高いことから,ID mean
の方が本研究で用いた樹種間に共通した経年 変動であると考えられる。第1
主成分ではIW ar
のクロノロジーの場合よりも全-101-
樹種が接近して位置していた(Fig. 3.32)。値の大きい順に並べるとモミ,アカ マツ,ツガ,ヒノキ,スギ,ミズナラ,サワグルミとなる。つまり,マツ科
3
樹種,ヒノキ科2
樹種,広葉樹2
樹種の順に位置していた。広葉樹2
樹種の中 では,IWar
のクロノロジーの場合と同様にサワグルミよりもミズナラの方が針 葉樹の近くに位置していた。一方で,第2
主成分では針葉樹はマツ科とヒノキ 科とが明らかに分かれて位置していた。マツ科3
樹種と広葉樹2
樹種とは近く に位置していたが,ヒノキ科2
樹種とは離れていた。主 成 分 分 析 を 用 い た 樹 木 年 輪 ク ロ ノ ロ ジ ー の 複 数 樹 種 間 の 比 較 に つ い て
Graumlich( 1992)は,アメリカ五大湖付近に生育する針葉樹 3
樹種と広葉樹8
樹種の
IW ar
のクロノロジーを用い,各樹種の主成分負荷量は属ごとに集まって 分布していたと報告しており,本研究でも同様なことがいえると考える。これらのことから,主成分負荷量の分布における樹種の位置関係は異なって いたが,近縁種の樹木年輪クロノロジーは,(IW
ar
およびID mean
共に),遠縁の 種より共通した変動成分を有していることが分かり,樹木の気候応答について の樹種特性が分析しうると考える。-102-
Table 3.5.
針葉樹5
樹種における9
種類の樹木年輪指数間の関係凡 例 :IW
ar
:年輪幅指数,IWew
:早材幅指数,IWlw
:晩材幅指数,IPlw
:晩材率指数,
ID min
:年輪内最小密度指数,ID ew
:早材密度指数,ID mean
: 年輪内平均指数,IDlw
:晩材密度指数,IDmax
:年輪内最大密度指数 注 :右上の数値は5
樹種で平均した相関係数を示した。左下の数値は有意な相関係数(
p < 0.01)が認められた樹種数を示した。
IW ew IW ar IW lw IP lw ID min ID ew ID mean ID lw ID max IW ew 0.957 0.519 -0.409 -0.379 -0.138 -0.342 -0.249 -0.027 IW ar 5 0.723 -0.162 -0.337 -0.067 -0.145 -0.183 0.036 IW lw 4 5 0.513 -0.166 0.094 0.339 -0.027 0.129
IP lw -1 -1 4 0.198 0.244 0.705 0.204 0.171
ID min -3 -2 0 1 0.844 0.637 0.316 0.152
ID ew -1 1 1 2 5 0.759 0.327 0.330
ID mean -1 -1 1 4 4 5 0.575 0.521
ID lw 0 0 0 1 1 1 4 0.867
ID max 0 0 0 0 0 1 4 5
ドキュメント内
樹木年輪年代学的手法による樹木の気候応答の解析
(ページ 102-115)