• 検索結果がありません。

標準化の概念と方法

第 2 章 樹木年輪情報の収集と樹木年輪クロノロジーの構築

2.2 樹木年輪クロノロジーの構築

2.2.2 標準化の概念と方法

a)

標準化の概念

年輪幅や年輪内平均密度などの樹木年輪変数には,樹木が成長する過程で受 けた様々な生育環境に起因する変動が含まれている。一般的に樹木年輪年代学 において,樹木年輪変数の時系列は式

2.1

で表されるようないくつかの因子に起 因する変動の合成関数として考えられている(Cook et al. 1990;安江

1994;小

2006

)。

R t = A t + C t + δ D1 t + δ D2 t + E t

(式

2.1)

R t : t

年に観測される年輪幅など樹木年輪変数の値

-38-

A t :

個体の樹齢および直径に由来する成長傾向

C t :

気候に由来する変動

D1 t :隣接木からの被圧・開放など個体の周辺の局所的な攪乱による変動

D2 t :

気象害や生物害など個体群に共通する攪乱による変動

E t :

既述の影響では説明できない因子による変動

δ : D1 t

D2 t

の存在の有無を決定する係数,

0

または

1

の値をとる

気候に由来する変動は生育地内のすべての個体に対し共通すると考えられる ため,生育地内の個体に共通する年輪幅や年輪内平均密度の時系列変動は主に 気候による変動であると仮定できる。本研究の目的は樹木の気候応答を明らか にすることにあるため,各個体の時系列変動中の気候に由来する変動のみを残 し,それ以外の因子に起因する変動を取り除く必要がある。気候に由来する変 動

C t

以外の変動を個体における樹木年輪変数の時系列の成長傾向

G t

と定義する と,G

t

は式

2.2

と表すことができる。この成長傾向を元の時系列

R t

から除去す ること(式

2.3)で,気候に由来する変動 C t

を抽出した新しい時系列

I t

が算出さ れる。この樹木年輪変数の時系列から成長傾向

G t

を除去または減衰させること を標準化(standardization)と呼ぶ。

G t = f (A t , δ D1 t , δ D2 t ) (式 2.2)

I t = R t / G t (式 2.3)

標準化を行う目的は,前述したように気候以外の因子に由来する変動,特に 個体特有な変動を減衰させることと,比を求めることで全個体の平均値を

1

と し,樹木年輪情報を実測値に左右されない値とすることにある。また,標準化

-39-

した樹木年輪変数は,値が無次元量となり,樹木年輪指数(tree-ring indices)と 呼ばれる。そして年輪幅は年輪幅指数(IW

ar

),早材幅は早材幅指数(IW

ew

),晩 材幅は晩材幅指数(IW

lw

),早材密度は早材密度指数(

ID ew

),晩材密度は晩材密 度指数(ID

lw

),晩材率は晩材率指数(IP

lw

),年輪内最大密度は年輪内最大密度 指数(ID

max

),年輪内平均密は年輪内平均密度指数(ID

mean

),年輪内最小密度は 年輪内最小密度指数(ID

min

)と呼ぶ。

この標準化に用いる関数である標準化平滑関数には,指数曲線,回帰直線,

多項式曲線,等加重移動平均,ガウス型加重移動平均,

3

次平滑化スプライン関 数(Cook et al. 1981)(以下,スプライン関数)などが用いられている。それら の違いについては安江ら(1994)や野田(1996)の報告が詳しい。そのような 中で,近年はスプライン関数が頻繁に用いられている(安江

1997

Fujiwara et al.

1999;久保 2002;澤内ら 2007)。

スプライン関数を標準化に用いる場合,得られる樹木年輪指数の周期成分特 性 は フ ィ ル タ 長 に 従 っ て 変 化 す る 。 例 え ば , フ ィ ル タ 長 が 短 い 場 合 に は ,D1

t

を取り除くことに有効であるが,同時に

C t

の長周期変動も取り除いてしまう。

一方,フィルタ長が長い場合には,C

t

の長周期変動を含むが,D1

t

を十分に取り 除くことができない。したがって,できるだけ気候に起因する変動を減衰させ ずに,それ以外の変動を減衰させられるようなスプライン関数のフィルタ長を 検討する必要がある。しかしながら,標準化に用いるスプライン関数の最適な フィルタ長の選択に当たり,これまでの研究において統一された基準は示され ておらず,研究の目的および樹木年輪変数に応じてスプライン関数のフィルタ 長を検討する必要がある(

Cook et al. 1990

;安江

1997

;野田

2006

)。

そこで,本研究では気候による影響と考えられる個体間にできるだけ共通し た樹木年輪の経年変動を抽出するために標準化平滑関数を検討し,樹木年輪ク ロノロジーを構築することにした。

-40-

b)

標準化平滑関数の検討

標準化平滑関数の検討は,年輪幅と年輪内平均密度について行った。標準化 平滑関数の種類としてスプライン関数を用い,そのフィルタ長として

5

種類(10,

20,30,60,120

年)の中から最適なものを検討した。標準化平滑関数の検討に

は,同一樹種内における個体間総当たりの相関係数の平均値(mean correlation

coefficients between trees: _ r

bt

)を指標とした。標準化平滑関数の検討と樹木年輪 クロノロジーの構築にはプログラムARSTAN(Cook et al. 1981)を用いた。なお,

プログラムARSTANの算出結果によると,フィルタ長

10

年のスプライン関数で 標準化することで

10

年周期の変動が

50%に低減され, 31.5

年周期の変動は

1%

に低減される。

ま た , プ ロ グ ラ ム

ARSTAN

で は , 標 準 化 し た ク ロ ノ ロ ジ ー (

standardized chronology

) と 標 準 化 後 に 自 己 相 関 を 取 り 除 い た ク ロ ノ ロ ジ ー (

residual

chronology)の 2

つのクロノロジーを算出できる。しかし,樹木の気候応答を検

討するには自己相関を取り除く必要がないと考え,本研究では前者のみを対象 とした。