第 2 章 樹木年輪情報の収集と樹木年輪クロノロジーの構築
2.2 樹木年輪クロノロジーの構築
2.2.3 結果と考察
-40-
b)
標準化平滑関数の検討標準化平滑関数の検討は,年輪幅と年輪内平均密度について行った。標準化 平滑関数の種類としてスプライン関数を用い,そのフィルタ長として
5
種類(10,20,30,60,120
年)の中から最適なものを検討した。標準化平滑関数の検討には,同一樹種内における個体間総当たりの相関係数の平均値(mean correlation
coefficients between trees: _ r
bt
)を指標とした。標準化平滑関数の検討と樹木年輪 クロノロジーの構築にはプログラムARSTAN(Cook et al. 1981)を用いた。なお,プログラムARSTANの算出結果によると,フィルタ長
10
年のスプライン関数で 標準化することで10
年周期の変動が50%に低減され, 31.5
年周期の変動は1%
に低減される。
ま た , プ ロ グ ラ ム
ARSTAN
で は , 標 準 化 し た ク ロ ノ ロ ジ ー (standardized chronology
) と 標 準 化 後 に 自 己 相 関 を 取 り 除 い た ク ロ ノ ロ ジ ー (residual
chronology)の 2
つのクロノロジーを算出できる。しかし,樹木の気候応答を検討するには自己相関を取り除く必要がないと考え,本研究では前者のみを対象 とした。
-41-
ツガ(久保
2002
)ではフィルタ長20
年を用いた場合にr _
bt
が最も高く,フィル タ長が長くなるほどr
_
bt
が低くなったと報告している。一方で,長期間にわたる 気候の復元を目的とする場合には,長周期成分を除去しないようにフィルタ長 を長くする必要があるとし,安江(1997)は66
年の,久保(2002)は150
年の フィルタ長を選択している。しかしながら本研究では,長周期の気候の変化を抽出するよりも個体間に共 通する経年変動を出来るだけ抽出することが樹木の気候応答を検討するために 必要であると考え,フィルタ長
10
年のスプライン関数を標準化平滑関数として 適用することとした。b)
樹木年輪クロノロジーの概要アカマツは
20
個体の全て,モミは32
個体中29
個体,ツガは16
個体中14
個 体,スギは23
個体の全て,ヒノキは23
個体全て,サワグルミは16
個体中12
個体,ミズナラは15
個体全てを樹木年輪クロノロジーの構築に用いることにし た(Table 2.3)。なお,他の個体との相関係数が低かったモミ3
個体とツガ2
個 体,サワグルミ4
個体は用いないことにしたため,測定した樹木年輪試料(Table2.2)よりも少なくなっている。これらの年輪幅の変動は個体内の方向別に部分
的に異なっており,その結果として個体内での相関係数が低かった。明瞭では なかったがあて材の可能性がある。サワグルミ2
個体については個体内での年 輪幅の変動は同調しており,樹木年輪クロノロジーとの相関係数が低い原因は 不明であった。プログラム
ARSTAN
で算出された樹木年輪クロノロジーの基本統計量の中で,隣り合う年輪間の相対的な変化の大きさを表す平均感度(mean sensitivity:
MS)
は,針葉樹
5
樹種では近い値を示した。つまり,IWar
とIW ew
,IWlw
,IPlw
では0.11
~0.18
であり,ID mean
とID min
,ID ew
,ID lw
,ID max
では0.02
~0.05
であった-42-
(Table 2.3)。一方,サワグルミの
IW ar
とIW ew
,IWlw
,IPlw
では0.19~0.35
であ り,IDmean
とID min
,IDew
,ID lw
,IDmax
では0.04~ 0.06
と針葉樹よりも大きな値 であった。また,ミズナラのIW ar
とIW ew
,IW lw
,IP lw
およびID mean
とID ew
,ID lw
,ID max
では針葉樹とほぼ同じ値であったが,IDmin
では0.11
と大きかった。これらの値は他の報告(澤内ら 2007;黄ほか
2000;Fujiwara et al. 1999
;Graumlich et al. 1992;Tardif et al. 2001;Watson et al. 2002)と同じか,もしくは
わずかに小さかった。値が小さい原因として,標準化に用いたスプライン関数 のフィルタ長が他の報告よりも短いことが考えられる。また,サワグルミおよ びミズナラのID min
においてMS
の値が大きかったのは,個体数が少ない時期の 変動幅が大きいことが原因であると考えた。次に,
IW ar
とID mean
について,プログラム初期設定による最大限可能な年輪数 を含む最適な共通期間(common interval time span)での基本統計量(Table 2.4)
を見ると,
r _
bt
が低い値を示す樹種もあるが,どの樹種も各試料の値とその平均 値 と の 時 系 列 間 の 相 関 係 数 の 平 均 値 (mean correlation coefficients of radii vs mean: _ r
r-m
)や第1
寄与率(variance in first eigenvector)は澤内ら(2007)の報
告などと近い値を示した。7 樹種の樹木年輪クロノロジーをIW ar
についてはFig.2.10
に,IDmean
についてはFig. 2.11 に示した。また,各樹木年輪クロノロジーに 含まれるコア試料数の変化をFig. 2.12
に示した。IW ar
のクロノロジー(Fig. 2.10
) には,第2.1
節で示した加齢に伴う年輪幅の減少傾向や気候による影響とは異な る長周期の年輪幅の経年変動が確認できないため,そのような変動はほぼ減衰 させることができたと考える。Table 2.4
の統計量は長い期間についてまとめて算出されるため,_ r
r-m
がその期間中一定であるかわからない。そこで,
IW ar
について_ r
r-m
を統計期間が40
年間ご と に20
年 間 を 重 複 さ せ な が ら 区 切 っ た 場 合 の 値 (r
_
r-m(40y)
) を プ ロ グ ラ ムCOFECHAによって算出した(Fig. 2.13)。r _
r-m(40y)
の算出に際し,自己回帰モデリ-43-
ングおよび対数変換処理を行わないように設定した。サワグルミ以外の樹種で は,区分した期間が古くなるほど
r
_
r-m(40y)
が低くなる傾向があったが,長期間にわたって高い
r _
r-m(40y)
が認められた。サワグルミの場合,1940 年以前の資料は1
個体分しかないため
_ r
r-m(40y)
が高い値を示していた。どの樹木年輪クロノロジーにおいても少なくとも
1940
年以後においては個体数が10
個体以上であり,高 いr
_
r-m(40y)
が認められた。以上のことから,樹木の気候応答に関する情報の一つとなる同一樹種内に共 通した経年変動が抽出でき,そのような樹木年輪クロノロジーが構築できたと 考える。
-44-
Fig. 2.9.
異なるフィルタ長のスプライン関数を用いて得られたr
_
bt
の比較凡 例 :Table 2.1を参照,r
_
bt
:同一樹種内における個体間総当たりの相関係数 の平均値0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 20 40 60 80 100 120
フィルタ長(年)
PIDE ABFI TSSI
CRJP CHOB PTRH
QUCR
r _ bt
-45-
Table 2.3.
標準化した樹木年輪クロノロジーの基礎統計量(1)
凡 例 :
Table 2.1
を参照,IW ar
:年輪幅指数,IW ew
:早材幅指数,IW lw
:晩材 幅指数,IPlw
:晩材率指数,IDmin
:年輪内最小密度指数,IDew
:早材密度指数,ID
mean
:年輪内平均密度指数,IDlw
:晩材密度指数,IDmax
:年 輪内最大密度指数PIDE ABFI TSSI CRJA CHOB PTRH QUCR
20 29 14 23 23 12 15
48 76 20 47 42 20 30
1901-2001
1826-2001
1843-2001
1846-2001
1887-2001
1888-2001
1936-2001 IW ar 0.12 0.13 0.10 0.13 0.12 0.19 0.13 IW ew 0.14 0.14 0.12 0.15 0.13 0.20 0.14 IW lw 0.18 0.15 0.13 0.12 0.15 0.32 0.15 IP lw 0.14 0.12 0.11 0.13 0.15 0.35 0.03 ID min 0.04 0.03 0.04 0.04 0.03 0.06 0.11 ID ew 0.03 0.04 0.03 0.04 0.02 0.04 0.06 ID ar 0.05 0.04 0.03 0.04 0.02 0.04 0.02 ID lw 0.03 0.02 0.02 0.02 0.03 0.05 0.01 ID max 0.03 0.02 0.02 0.02 0.03 0.04 0.02
樹種コード 個体数
コア試料数 統計期間
平均感度
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Table 2.4.
標準化した樹木年輪クロノロジーの基礎統計量(2)
凡 例 :Table 2.1,Table 2.3を参照,r
_
bt
:同一樹種内における個体間総当たり の相関係数の平均値,r
_
r-m
:各試料の値とその平均値との時系列間の 相関係数の平均値樹種
コード 共通期間(年) 個体数
(コア試料数) 第
1
寄与率IW ar
PIDE 1947-1998(52) 15(26) 0.30 0.56 35.93%
ABFI 1910-1998(89) 27(49) 0.28 0.54 31.50%
TSSI 1932-2000(69) 13(18) 0.18 0.48 25.03%
CRJA 1944-2000(57) 18(31) 0.36 0.62 40.12%
CHOB 1932-2000(69) 23(41) 0.28 0.55 32.08%
PTRH 1963-2000(38) 10(16) 0.23 0.53 34.23%
QUCR 1963-2000(39) 13(24) 0.39 0.65 44.19%
ID m ea n
PIDE 1947-1998(52) 15(26) 0.40 0.64 43.74%
ABFI 1910-1998(89) 26(49) 0.32 0.58 35.98%
TSSI 1932-2000(69) 13(17) 0.17 0.47 25.31%
CRJA 1944-2000(57) 18(28) 0.29 0.56 34.07%
CHOB 1932-2000(69) 23(40) 0.20 0.47 24.81%
PTRH 1963-2000(38) 10(15) 0.34 0.62 41.27%
QUCR 1963-2001(39) 13(22) 0.14 0.41 23.98%
r _
bt _ r
r-m
-47-
Fig. 2.10.
標準化した樹木年輪クロノロジー(年輪幅指数)凡 例 :
Table 2.1
を参照Fig. 2.11.
標準化した樹木年輪クロノロジー(年輪内平均密度数)凡 例 :Table 2.1を参照
年
1800 1850 1900 1950 2000
PIDE
ABFI TSSI
CHOB
CRJA
PTRH
QUCR
1.0 1.5
0.5 1.0
1.5
0.5 1.0
5
0.5
1.0 1.5
0.5 1.0
1.2
0.5
1.0 1.5
0.5
1.0 1.5
0.5
1800 1850 1900 1950 2000
PIDE ABFI
TSSI
CHOB
CRJA
PTRH
QUCR
年
1.0 1.2
0.8 1.0
1.2
0.8 1.0 1.2
0.8
1.0 1.2
0.8 1.0
1.2
0.8
1.0 1.2
0.8
1.0 1.2
0.8
-48-
Fig. 2.12.
各樹木年輪クロノロジーに含まれるコア試料の数凡 例 :Table 2.1を参照
0
10 20 30 40 50 60 70 80
1800 1850 1900 1950 2000
PIDE ABFI TSSI CRJA
0 10 20 30 40 50 60 70 80
1800 1850 1900 1950 2000
CHOB PTRH QUCR
年
コア試料数コア試料数
年
-49-
Fig. 2.13. r _
r-m
を統計期間が40
年間ごとに20
年間を重複させながら区切った場合 の値(r
_
r-m40ys
)の経年変化凡 例 :Table 2.1を参照,
r _
r-m
:各試料の値とその平均値との時系列間の相関 係数の平均値注 :個体数が
10
個体以下の区間は点線で示した。水平線は有意水準5 %
値を示した。統計期間