第 5 章 樹木年輪-気候関係の解析 II (気候情報の検討)
5.2 開花日推定法の導入
5.2.2 方法
第
2
章で構築した針葉樹5
樹種(アカマツ,モミ,ツガ,スギ,ヒノキ)の 年輪幅指数(IWar
)のクロノロジーを用いた。b)
気候情報気象資料には奥多摩(
2
~4 km
,東京都水道局水源林管理事務所)の日平均気温(
T mean(d)
)を用い,気候変数を作成した。また,供試樹種の生育地と気象観測所とには高度差が約
300 m
あるため,奥多摩のT mean(d)
に-1.8 °Cの補正を行っ て,以降の気候変数の作成に用いた。開花日の推定モデルを作成するためには,気象要素やその算出方法,またそ の積算する期間の検討を行う必要がある。算出方法には,有効積算温量法や温 度変換日数法などがあり,これらは有効な温度や温度に対する特性と,またそ れらが係る有効な期間など植物生理学的な考えに基づいて検討されている。
そこで本研究では,植物生理学的な考えに基づいた気候変数の算出方法とし
て,
1)積算温量法, 2)有効積算温量法, 3)温度変換日数法について検討した。
b-1)
積算温量法積算温量法(accumulated temperature)とは,定めた期間の間の気温を積算し,
その値がある閾値を越えた日を開花日とする方法である(川島ら 1993)。積算 温量法による気候変数の算出方法を式
5.1
とFig. 5.15
上に示した。この方法で は標準温度(standard temperature
:T s
)を変化させることで値は変化するが,経 年変動は変化しないため最適積算期間のみを検討した。b-2)
有効積算温量法-177-
有効積算温量法(accumulated effective temperature)とは,植物の生育や生息 に必要な温度は一定温度以下では無意味である,という考えに基づいており,
ある閾温度以上の日別気温を積算し,その積算値がある閾値を越えた日を開花 日とする方法である(川島ら 1993)。有効積算温量法による気候変数の算出方
法を式
5.2
とFig. 5.15
下に示した。この方法では設定する限界温度(standard
temperature: T s
)によって値の経年変動が変化する。そこでT s
を-5°C
から+5°C まで変化させ最適積算期間を検討した。b-3) 温度変換日数法
温度変換日数法(the number of days transformed to standard temperature)は反応 速度論的な考え方に基づき,温度による生物活性の変化を説明することを目的 とした方法である(小元ら
1989)。つまり,ある日の温度条件での 1
日分の反応 量が,特定の標準温度の条件で何日分の反応量に相当するかを換算し,その日 数を積算する(川島ら 1993)。温度変換日数法による気候変数の算出方法を式5.3
とFig. 5.16
上に示した。この方法では温度特性値(characteristic temperature:E a
)と標準温度(standard temperature:T s
)を設定するが,設定する標準温度に よって積算温度変換日数の値は変化するが経年変動は変化しない。そのため,標準温度は小元ら(
1989
)の報告を参考に298 K
(25 °C
)の一定とした。一方,E a
によって経年変動が変化するため,Ea
のみについて検討することとした。ま た,E a
を変化させたときの気温と温度変換日数との関係を示した(Fig. 5.16下)。E a
が大きいほど低温の効果が小さく,高温の効果が大きく評価されることにな る。既往の研究においてE a
は20
~125 kJ/mol
の間で検討している報告が多いが(小元ら
1989,川島 1993),本研究では 20~300 kJ/mol
まで変化させ最適積算期間を検討した。なお,気体定数は
8.314 J・K -1
・mol-1
である。-178-
c)
解析方法評価の指標として開花日などの推定では実測日と推定日との誤差を用いてい るが,本研究では年輪幅指数と作成した気候変数との間の相関係数(r)を用い た。統計期間は
1954
年から2000
年の,計47
年間とした。積算開始日の検討に は,積算終了日を90
日(1 月1
日からの日数)に固定して積算開始日を1
日か ら90
日まで変化させることで作成した気候変数とIW ar
との間で得られたr
を指 標とした。一方,積算終了日の検討には,積算開始日を1
日(1
月1
日からの日 数)に固定して積算開始日を1
日から120
日まで変化させることで作成した気 候変数とIW ar
との間で得られたr
を指標とした。また,気候変数を作成し,算出方法ごとの設定値(T
s
,Ea
)の最適値や最適積 算期間の効果を検討した。さらに,温度変換日数法と有効積算温量法とを組み 合わせた場合も検討した。-179-
○ 積算温量法
T sum
=Σ
(Ti
‐Ts
) ・・・・・・・・・・・・・(式5.1)
○ 有効積算温量法
T sum(
≧ Ts)
=Σ T i
(Ti
≧T s
) ・・・・・・・・・・(式5.2)
Fig. 5.15.
積算温量法および有効積算温量法による気候変数の算出方法0 T s
D s D e
1 30 60 90
気温
( ° C)
日
:積算温度(
° C)
:日平均気温(
° C)
T s
:標準温度(° C)
T i
: 日平均気温(° C)
(1月1日)
0
T s
D s D e
1 30 60 90
日
気温
( ° C)
:積算温度(° C)
:日平均気温(
° C)
T s
: 限界温度(°C)
T i
:日平均気温(° C)
(1月1日)
-180-
○ 温度変換日数法(
DTS)
DTS sum
=Σ exp
〔Ea
(Ti -T s
)/(R×T
i ×T s
)〕 ・・・・・・(式5.3)
Fig. 5.16.
温度変換日数法(DTS)による気候変数の算出方法
0 1
(1月1日)
1 30 60 90
日
DT S
(日)2
D s D e
E a
: 温度特性値(kJ・ mol -1
):
DTS sum
(日):DTS(日)
T s
:標準温度 (K)R
:気体定数 (J ・ K -1
・mol-1
)T i
: 日平均気温 (K)0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
-10 -5 0 5 10 15 20 25
25 50 75
100 125
DT S
(日)気温 (