第 3 章 樹木年輪情報の基礎情報の把握
3.2 木部形成の季節変化
3.2.3 結果と考察
-81-
-82-
試料では,全細胞数の約
60 %に位置する新生仮道管が形成されていた。その中
で全細胞数の約30 %までの位置にある細胞の壁厚は 3 μm
ほどで一定であり,それ以降
40 %まで壁厚は減少し 1 μm
ほどの厚さで一定となっていた。また,7月
31
日に採取した試料では,全細胞数の約40~ 50 %に位置する細胞の壁厚が 4μm
よりも厚くなっていた。一般に,早材部の壁厚はアカマツで2.5~ 3.0 μm
,モミで
2.0~ 3.0 μm
とされている(島地 1976)。つまり,6 月中には早材部にあたる細胞のほとんどが二次壁の形成を完了しつつあり,また,二次壁の形成は ほとんど行われていないが晩材部となりうる仮道管もわずかに形成されている ことがわかる。7 月
31
日以降に採取した試料では,当年形成された全細胞数の約
40 %以降で明らかに早材部よりも厚壁の細胞が確認できた。壁厚が徐々に厚
くなり,
10
月23
日に採取した試料では,アカマツとモミともに壁厚は8.0 μm
となっていた。一般に,晩材部の壁厚はアカマツで3.0~ 8.0 μm
,モミで4.0~
8.0 μm
とされている(島地 1976)。一方で,10
月23
日に採取した試料において,晩材後半部の壁厚がまだ薄く,最終の数細胞は早材部の細胞よりも薄壁であっ た。10 月
23
日に採取した試料の新生仮道管および同試料の前年(2001 年)に 形成が完成している年輪界の光学顕微鏡写真と偏光顕微鏡写真を,アカマツについては
Fig. 3.20
に,モミについてはFig. 3.21
に示した。10
月23
日に採取した試料の形成層帯の細胞は,偏光顕微鏡下で,壁が複屈折を呈した細胞と接し ていたことから,細胞の分裂や拡大は行われていないことがわかった。一方,
前年(2001 年)に完成している年輪界の晩材仮道管と比較すると,
10
月23
日 に採取した試料の年輪界の晩材仮道管は,内容物が含まれており,かつ,壁が 明らかに薄かった。つまり,10
月23
日においても晩材最終部の細胞は二次壁を 形成は継続していることがわかった。-83-
c)
樹木年輪変数と木部形成の季節変化との関係第
3.1
節と第3.2
節の結果と既往の研究の結果を合わせて各樹種の樹木年輪変 数が持つ基礎情報,つまり,樹木年輪変数と木部形成の季節変化との関係を考 察し,Fig. 3.22 にまとめた。まず,針葉樹の幅に関する樹木年輪変数について,幅に関する樹木年輪変数 は主に細胞数に起因すると考えられる。そこで,細胞分裂の季節変化を見ると,
アカマツとモミにおいて細胞分裂は
4
月下旬から再開し,6
月下旬に早晩材の移 行があり,細胞分裂の停止時期は明確ではないが9
月下旬までに細胞分裂はほ ぼ完了していると考えられた。一方,マツ科の樹種よりもヒノキ科の樹種の方 が早い時期から形成層活動を再開する可能性がある(島地 1979;山下ら 2006)。また,本研究で供試樹種として選択した針葉樹
5
樹種の開花時期を見ると,ス ギとヒノキが3
月から4
月と早く,マツ科3
樹種が4
月から5
月となっており(佐竹ら 1989;平井 1996),約
1
ヶ月の時期のずれがあった。このようなこと から,アカマツとモミのW ew
は4
月下旬から6
月下旬,W lw
は6
月下旬から少な くとも10
月初めまでの気候に影響を受けている可能性がある。一方,スギとヒ ノキのW ew
は4
月上旬から影響を受け始めると予想した。ツガはモミと同じと 考えた。一方,針葉樹の材密度に関する樹木年輪変数について,材密度に関する樹木 年輪変数は細胞壁率に起因すると考えられる。そこで,細胞壁の堆積について 季節変化を見ると,アカマツとモミにおいて細胞壁の堆積は
5
月下旬から再開 し,7 月中旬には晩材部にあたる仮道管の細胞壁にも堆積が始まった。その後10
月下旬においても晩材部最終部にあたる仮道管の細胞壁は堆積が完了してい なかった。このようなことから,Dew
は5
月中旬から7
月中旬,Dlw
は7
月中旬 から10
月末までの気候に影響を受けている可能性がある。そして,早材部の前 半に位置するD min
は5
月中旬から6
月中旬,晩材部の最終部に位置するD max
は-84-
9
月中旬から10
月末までの気候に影響を受けている可能性がある。このことは アカマツを除く4
樹種の針葉樹に共通すると考えた。一方,アカマツのD max
はW lw
の中でも前半に出現するため,その時期よりも少し早い9
月上旬から10
月 上旬までの時期の気候に影響を受けている可能性があると予想した。次に,サワグルミについて,5 月中旬から細胞分裂が再開し,10 月にかけて 新生木部は形成されていた(青山 2002)。そして,年輪最終部に小径で厚壁な 木部繊維が数細胞形成されていた。つまり,サワグルミの
W ew
は5
月中旬から8
月中旬,W lw
は8
月中旬から9
月中旬までの気候に影響を受けている可能性があ る。また,Dlw
は1
年輪内の狭い範囲の最終部に位置するため,Dew
は5
月下旬 から9
月上旬,Dlw
は9
月中旬から10
月中旬までの気候に影響を受けている可 能性がある。そしてD min
は1
年輪内の始めに位置するため5
月下旬から7
月中 旬,Dmax
はD lw
とほぼ同じ位置にあるため9
月中旬から10
月中旬までの気候に 影響を受けている可能性があると予想した。また,ミズナラについて,展葉の時期を確認したところ
2002
年の4
月17
日 には開始していた(Fig. 3.23)。この時,サワグルミも展葉を開始していた。散 孔材の樹種の肥大成長は展葉よりも遅く始まり,環孔材の樹種の肥大成長は展 葉よりも早く始まることが知られている(小見山 1991;小見山ら 1987;Suzukiet al. 1996
)。また,同じ地域に生育する場合,成長速度が極大となる時期は環孔材の樹種と散孔材の樹種とでは環孔材の樹種の方が早いが,ともに
6
月から7
月であったことが観測されている(小見山ら 1987)。ミズナラなど環孔材の樹 種の孔圏部に位置する道管は越冬細胞に由来すると考えられる(今川ら 1972)。その越冬細胞が拡大し始め,二次壁を形成する時期として,コナラでは開芽と ほぼ同じ時期であったと報告されている(工藤ら 2011)。ミズナラの孔圏部の 道管は
1
から3
列ほどであり(佐伯 1982;Fig. 2.6b),孔圏部と孔圏外部との密 度 差 は 大 き く , ま た ,D max
が 孔 圏 外 部 の 始 め に 出 現 す る 場 合 が 多 い ( 深 沢 ら-85-
1972;Mothe et al. 1998,Fig. 2.6c)。また,岐阜県に生育するミズナラの肥大成
長をデンドロメーターで計測した報告によると,肥大成長の休止は9
月末であ った(小見山ら 1991)。つまり,ミズナラのW ew
は4
月上旬から5
月上旬,Wlw
は5
月上旬から9
月下旬までの気候に影響を受けている可能性がある。そして,D ew
は4
月中旬から5
月中旬,D lw
は5
月中旬から10
月中旬までの気候に影響を 受けている可能性がある。そしてD min
は4
月中旬から5
月中旬,D max
は6
月上 旬から7
月中旬までの気候に影響を受けている可能性があると予想した。-86-
Fig. 3.15.
アカマツにおける新生細胞の横断面での様子凡 例 :a,c:光学顕微鏡写真,b,d:偏光顕微鏡写真,ph:師部細胞,
cz:
形成層帯の細胞,
ex
:拡大帯の細胞,th
:二次壁肥厚帯の細胞 注 :a とb
は4
月17
日に,cとd
は6
月5
日に採取した試料である。50μm
a b
c d
ph
cz
ex
ex
th
-87-
Fig. 3.16.
モミにおける新生細胞の横断面での様子凡 例 :Fig. 3.15を参照
注 :
a
とb
は5
月1
日に,c
とd
は5
月22
日に採取した試料である。a b
c d
ph
cz ex
ex
th 50μm
cz
-88-
Fig. 3.17.
二次壁の堆積を伴った新生仮道管数の季節変化0 20 40 60 80 100 120
4/1 5/21 7/10 8/29 10/18
日付
10/23
アカマツモミ
アカマツの平均 モミの平均
1
年輪内における相対的な位置(%
)-89-
Fig. 3.18.
アカマツにおける細胞壁形成の季節変化0 2 4 6 8 10
0 20 40 60 80 100
10/23 9/25 8/28 7/31 7/3
1年輪内での相対的な位置(%)
細胞壁厚(
μm
)-90-
Fig. 3.19.
モミにおける細胞壁形成の季節変化0 2 4 6 8 10
0 20 40 60 80 100
10/23 9/25 7/31 7/3
1
年輪内での相対的な位置(%
)細胞壁厚(
μm
)-91-
Fig. 3.20.
アカマツの新生細胞の横断面での様子凡 例 :a,c:光学顕微鏡写真,b,
d:偏光顕微鏡写真,cz:形成層帯の細胞,
*
:二次壁形成が完了していない細胞注 :10月
23
日に採取した試料であるが,a とb
は当年形成部分,cとd
は 前年(2001年)形成部分の年輪界付近である。a b
c d
cz
*
50μm
-92-
Fig. 3.21.
モミの新生細胞の横断面での様子凡 例 : Fig. 3.20 を参照
注 :
10
月23
日に採取した試料であるが,a
とb
は当年形成部分,c
とd
は 前年(2001年)形成部分の年輪界付近である。a b
c d
cz
*
50μm
-93-
Fig. 3.22.
各樹木年輪変数が形成されたと考えられる時期凡 例 :IW
ar
:年輪幅指数,IWew
:早材幅指数,IWlw
:晩材幅指数,IPlw
:晩材率指数,
ID min
:年輪内最小密度指数,ID ew
:早材密度指数,ID mean
: 年輪内平均指数,ID lw
:晩材密度指数,ID max
:年輪内最大密度指数W ew D ew
D min D max
D lw W lw
D max D min
D ew D lw W ew W lw
スギ,
ヒノキ
D ew D lw W ew W lw
D ew
D min D max D ew D lw W ew W lw
D min D max D min D max
D lw W ew W lw
Ap r M ay Jun Jul Au g S ep O ct Ap r M ay Jun Jul Au g S ep O ct
サワグルミ
ミズナラ アカマツ
モミ,
ツガ