第 6 章 ダルメージ部における繊維折損と繊維分散
6.4 結果及び考察
6.4.1 流動シミュレーション結果
Fig. 6-2 に,粒子追跡法による平均せん断応力の分布を示す.V&Long-D スクリュは,
V&Dスクリュとほぼ同じ分布傾向を示しているが,15kPa以上の高いせん断応力のピーク
値の割合が4.5%から 7.9%に増加している.これは,ダルメージ部が長くなったことによ る影響と考えられるが,全体に占める変化としては少ないため,V&Long-D によるせん断 応力の繊維への影響は微小であると推察される.
一方,Fig. 6-3にはV&Long-Dスクリュの繊維分散性への効果を検討するため,総せん 断ひずみ量の結果を示す.V&Long-Dスクリュは,V&Dスクリュと比べて総せん断ひずみ 量が約 2 倍に向上している.これは,ダルメージ部の長さに比例した結果であると考えら れ, V&Long-DスクリュはV&Dスクリュよりも分散性が向上することが期待できる.
Fig. 6-2 Mean shear stress evaluated by particle tracking method for V & Long-D screw.
0 10 20 30 40 50 60 70
5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25
Standard V & D V & Long-D
Probability,%
Mean shear stress, kPa
90
Fig. 6-3 Total shear strain evaluated by particle tracking method for V & Long-D screw.
6.4.2 残存繊維長及び繊維分散性
Fig.6-4 に,V&Long-D スクリュによる試験片内の残存繊維長の測定結果を示す.
V&Long-D スクリュと V&D スクリュによる残存繊維長はほぼ同じであり,繊維がダルメ
ージ部の長さの影響をほとんど受けていないことがわかる.これは,実験結果を流動シミュ レーション結果が明確に示しており,ダルメージ形状の手前で樹脂が完全溶融することで せん断応力が低減し,繊維長への影響も少なくなることを示唆している.また,Fig. 6-5に
V&Long-Dスクリュによるフラクタル値の結果を示す.V&Long-DスクリュはV&Dスク
リュと比べ,フラクタル値が高くなっており,繊維分散性が向上していることがわかる.本 結果においても流動シミュレーションと同様の結果を示しており,実験結果を流動シミュ レーションによる結果が明確に示していることがわかる.
以上の結果から,実験による結果とシミュレーションによる結果は同様の傾向を示して おり,ダルメージ部を有するスクリュにおいては,残存繊維長がダルメージ部手前の樹脂溶 融状態に強く依存することが明らかとなった.
0 2 4 6 8 10 12
Standard V & D V&Long-D
Total shear strain, ×103
-91
Fig. 6-4 Residual fiber length for V & Long-D screw.
Fig. 6-5 Fractal value for V & Long-D screw.
6.4.3 機械的特性
成形品中の残存繊維長と,機械的特性の関係をFig.6-6に示す.残存繊維長が長くなる に従い,引張強度,衝撃強度が共に向上する傾向を示していることがわかる.また,繊維 長に対する補強効果としては衝撃強度の方が高い傾向を示している.一方,繊維分散性に 対する効果としては,Fig.6-7に示すように,各機械的特性に対する偏差が低減する傾向に あることがわかる.これは,繊維が成形品内に均一に分散することで,成形品の品質安定 性が向上することを意味するものである.特に,射出成形における再現性の高い生産は,
大量生産を行う上で必要不可欠であるため,一時的に向上する機械的強度よりも重要であ 4.0
4.5 5.0 5.5 6.0
Standard V & D V & Long-D
Residual fiber length, mm
0.60 0.65 0.70 0.75 0.80
Standard V & D V & Long-D
Fractal value,
-92
る.つまり,射出成形品の械的特性を向上するためには,成形品中の残存繊維長をより長 くすることが必要ではあるが,製品の品質を向上させるためには,同時に繊維分散性を向 上させることが重要であるといえる.
Fig. 6-6 Relationships between the fiber length and the mechanical properties.
Fig. 6-7 Relationship between fractal value and standard deviation of mechanical properties.
0 10 20 30 40 50 60
80 85 90 95 100 105 110
4 4.5 5 5.5 6
Impact strength, kJ/m2
Tensile strength, MPa
Fiber length, mm Tensile strength
Impact strength
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0 2.5 3.0 3.5 4.0 4.5 5.0
0.6 0.65 0.7 0.75 0.8 0.85
Standard deviation of the impact strength, kJ/m2
Standard deviation of the tensile strength, MPa
Fractal value,
-Tensile strength Impact strength
93 6.6 結言
本研究では,樹脂粘度に対するせん断応力の影響から可塑化現象を定量化し,繊維折損の 抑制と繊維分散性をさらに向上させるための検討を行い,以下の結論を得た.
ダルメージ部で発生するせん断応力は樹脂粘度が支配的因子であり,樹脂が完全に溶 融した後にダルメージ部を流動させることでせん断応力が低減し,また,ダルメージ部 を長く設定してもせん断応力は大きくならないことを確認した.
繊維分散性は,総せん断ひずみ量を大きくすることで向上するが,繊維長と繊維分散性 を両立するためには,せん断応力を最小限に抑え,総せん断ひずみ量を大きくすること が必要であることを明らかにした.
残存繊維長と繊維分散性の向上は,成形品の機械的特性の向上に重要であり,その中で も繊維分散性は,再現性の高い射出成形を行う上で重要な要素であることを確認した.