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第 8 章 新規スクリュの開発手法の提案

8.2 可視化観察

本研究では,検討したスクリュ形状の妥当性を確認する手段として,動的可視化観察を 行うことにした.しかし,実際の樹脂を用いた可視化観察では加熱が必要となるため,こ れまでと同様にスクリュを製作する必要となり,工数の削減には至らない.そのため,常 温で樹脂が完全溶融した状態を再現できる擬似流体を用い,透明なアクリルシリンダに充 満させて,流体の挙動を直接観察することを検討した.また,この時のスクリュについて は,常温の流体中で使用するため,各部品の材質をプラスチックで製作することを検討し た.以下に,その詳細を示す.

8.2.1 実験材料

樹脂が完全溶融した状態を再現する擬似流体として,常温で流動性を有することと,無色 透明であることを条件に,Photo. 8-1(a)に示す液状シリコーンオイル(信越化学工業(株)製

KF-96H-6万cSt)を用いた.Fig.8-1には,シリコーンオイルの見かけ動粘度とせん断速度

の関係を示す.一般的に,シリコーンオイルはせん断速度の粘度依存性はないが,1000 cSt 以上の粘度を有する場合は,せん断速度により見かけ上の粘度低下があるとされており [120],非ニュートン流体として取り扱うことができると考えられる.本実験に用いたシリ コーンオイルは,樹脂温度200℃における溶融状態を想定した場合,Fig.5-2における実際 の使用域との対比換算により,動粘度は12万 cStに相当するため,実際の樹脂溶融粘度に 対して約1/3に相当する.また,シリコーンオイルの流動状態を追跡するために,Photo.

8-1(a)に示すトレーサー(材質PP 約2×1mm)を用いた.

(a) Silicon oil (b) Tracer

Photo. 8-1 Experimental materials for visualization test.

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Fig. 8-1 Appearance kinetic viscosity data of KF96H silicone oil at 25℃ [120].

8.2.2 実験方法

可視化実験は,Photo 4-3に示す射出成形機にアクリル材で製作したシリンダを装着 し,Photo 8-3に示すように実際の可塑化と同様にスクリュを回転させて行った.実験に 用いたスクリュは,Photo. 8-2に示す3Dプリンタ(武藤工業(株)製 CubeX Duo)を用 いて,Fig.8-2(a)と(b)に示す各種スクリュ形状を造形した.スクリュ外径は旋盤で仕上 げ,Fig.8-3(c)に示すスクリュシャフトへ組み付け,1本のスクリュとして使用した.本検 討で用いたスクリュは,V&Long-DスクリュとV&Rスクリュの2種である.なお,造形 に使用した材料はABS樹脂である.

可視化観察は,Table 8-1に示す可塑化条件によりスクリュを回転させ,トレーサーの 軌跡をハイスピードカメラ((株)フォトロン社製 FASTCAM-512PCI)を用いて記録し た.

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Table 8-1 Plasticization conditions for visualization test.

Photo. 8-2 3D printer.

Fig. 8-2 Tested screw for the visualization test.

 Screw diameter (mm) 24

 Screw rotaition speed (min-1) 100

 Back pressure (MPa) 0

 Cylinder temperature (℃) room temp.

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Photo. 8-3 Experimental method for visualization test.

8.2.3 可視化解析方法

ハイスピードカメラで記録した動画より,動画解析ソフト(DITECT社製 Dipp Motion Pro)を用い,スクリュの回転に伴うトレーサーの挙動を解析し,軸方向への移動速度と滞 留時間を計測した.計測位置は,Fig.8-3(a)に示す A,B,C の3箇所とし,流動方向をX 座標,回転方向をY座標とした場合に,トレーサーが現在の位置(X, Y)からtn 時間後に 移動した位置(Xn, Yn)を定義する.このとき,トレーサーの軸方向への移動平均速度Vxは,

式(8-1)により算出することができる.

𝑽

𝒙

=

𝑿−𝑿𝒕 𝒏

𝒏 (8-1)

ここで,VX が正の値を示す場合は流動方向に移動したことを示し,負の値を示す場合は 逆流したことを示す.実際の測定は,A~Cの各地点を通過する際に,スクリュが180°回 転した時の移動量を計測し,式(8-1)により平均移動速度を算出し比較を行った.

以上の方法により,V&Long-DスクリュとV&Rスクリュのトレーサーの軸方向への移

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動平均速度を比較し,前章の結果に対する現象の確認を行った.

Fig. 8-3 Analysis method of the visualization data.

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