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第 5 章 長繊維含有樹脂の可塑化におけるスクリュ形状の最適化

5.5 結果及び考察

5.5.3 樹脂溶融位置

Fig. 5-9に各スクリュにおける樹脂溶融状態と樹脂の完全溶融位置を示す.また,Table

5-6 には流動シミュレーションにより求めた各スクリュの完全溶融位置における溶融エネ ルギーUを示す.実際の樹脂の完全溶融位置に対し,流動シミュレーションにより求めたエ ネルギー値に大差がみられないことから,溶融位置が妥当性であることを確認でき,本検討 における完全溶融位置は,エネルギーが約4.18MJ/m3に達する位置とした.

Standardスクリュは,圧縮部の後半にて完全溶融していることに対し,Low-shearスク

0 10 20 30 40 50 60 70

5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25

Probability, %

Mean shear stress, kPa

0 2 4 6 8 10 12 14

Standard Lowshear Dulmadge Variable-pitch V&D

Total shear strain, ×103

-82

リュは1ピッチ遅れて圧縮部の最終位置で完全溶融している.これはLow-shearスクリュ

がStandardスクリュよりも圧縮比が低いため,完全溶融までに樹脂が受けるエネルギーが

少なかったことが影響していると考えられる.また,Low-shear スクリュと圧縮比が同じ

Dulmadgeスクリュにおいては,圧縮部後半のダルメージ部にてLow-shearよりも約1ピ

ッチ早く完全溶融している.これは,ダルメージ部にて高せん断応力が発生し,樹脂が受け るエネルギーが増加することが影響していると考えられる.一方,Variable-pitchスクリュ

とV&Dスクリュは,圧縮部の最終位置で完全溶融している.Dulmadgeスクリュと同様に

ダルメージ形状を有するV&Dスクリュにおいては,完全溶融位置がダルメージ部の手前と なっていることから,ダルメージ部で発生するせん断応力がDulmadge スクリュよりも小 さくなると考えられる.したがって,ダルメージ形状を有するDulmadgeスクリュとV&D スクリュにおける残存繊維長の違いは,樹脂の完全溶融位置とダルメージ部の位置に関係 していると考えられる.

さらに,樹脂温度を上げた場合の残存繊維長の比較を行い,樹脂粘度による影響を確認し た.Fig. 5-10にダルメージ形状を有するV&DスクリュとDulmadgeスクリュ,およびダ ルメージ部を有さないVariable-pitchスクリュに対して,シリンダ温度を240ºCに上げた 場合の残存繊維長の比較結果を示す.全てのスクリュにおいて,シリンダ温度を上げること で残存繊維長が向上していることがわかる.特にDulmadge スクリュにおいては残存繊維 長が約2mm長くなっており,ダルメージ部の位置に対する樹脂の溶融状態の影響が大きい ことが確認できる.Fig. 5-11 には各スクリュにおけるせん断応力分布の解析結果を示す.

残存繊維長が長い傾向を示すスクリュほど,高いせん断応力が発生する領域が少ない傾向 を示している.Fig. 5-9に示した樹脂の完全溶融位置との対比において,Standardスクリ ュ,およびLow-shearスクリュでは,圧縮部途中で樹脂が完全溶融し,完全溶融位置から 先端部にかけてせん断応力が高くなっている.また,Variable-pitchスクリュは,完全溶融 位置前後のせん断応力は低く,スクリュ先端部のみが高くなっている.さらに,V&Dスク リュにおいては,ダルメージ部手前で完全溶融し,完全溶融位置から先端部のせん断応力が 最も高くなっている.しかし,Dulmadgeスクリュにおいては,ダルメージ部の途中で完全 溶融し,完全溶融位置前後のせん断応力が最も高くなっている.

以上の結果から,スクリュ内で生じるせん断応力が,スクリュ形状に対する樹脂の溶融状 態,つまり樹脂粘度に影響していることが考えられる.これは,Fig. 5-10の結果からも明 らかなように,樹脂温度を高くすることで樹脂の完全溶融位置が供給部側へシフトし,圧縮

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部およびダルメージ部で発生するせん断応力が低減したと推察できる.したがって,可塑化 中の繊維折損の防止と繊維分散性の向上には,樹脂を完全溶融させた後に分散作用を与え る形状が有効であるといえる.

Table 5-6 The calculated energy of particular at the position of complete melting.

Fig. 5-9 Melting condition and position of complete melting for each screw.

Energy U(×106J/m3)

Standard 4.40

Low-shear 3.87

Dulmadge 4.24

Variable-pitch 4.20

V & D 4.18

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Fig. 5-10 Relationship between residual fiber length and cylinder temperature.

Fig. 5-11 Shear stress distributions in each screw.

3.0 4.0 5.0 6.0 7.0 8.0

Dulmadge V & D Variable-pitch Residual fiber length,mm 200ºC

240ºC

85