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第 3 章 可塑化中のガス発生を抑制するためのスクリュ形状の最適化検討

3.2 ガスの発生要因と抑制手段の検討

3.2.1 可塑化中のガス発生の抑制方法について

射出成形における可塑化工程は,プラスチック材料を加熱により固体から溶融体へ相変 化させ,繰り返し一定量を計量する工程である.プラスチック材料の溶融には熱エネルギー が必要となり,一般的に物体をある温度に加熱する際に必要な熱エネルギーQは,式 (3-1) で表わされる.

𝑸 = 𝒎 ∙ 𝒄 ∙ ∆𝑻

(3-1)

ここで,mは質量,cは比熱,⊿Tは温度変化である.

また,可塑化工程中に樹脂が受けるエネルギーEは,以下の式で表される.

E=∑𝒕=𝒕𝒓∫ 𝝉 ∙ 𝜸̇𝟎𝒕 ∙ 𝑽𝒅𝒕

𝒕=𝟎 (3-2)

ここで,tr はシリンダ内での樹脂滞留時間,τ はせん断応力,𝛾̇ はせん断速度,Vはスク リュ内における樹脂体積である.

可塑化中のガス発生要因が熱に依存するという観点では,樹脂が溶融する温度に加熱す るために必要なエネルギーQに対して,樹脂が可塑化中に受けるエネルギーEを必要最低限 に留めることがガスを低減するために必要な条件であると考えられる.したがって,スクリ ュ形状の最適化は,せん断応力τとせん断速度 𝛾̇,及びシリンダ内での樹脂の滞留時間tr , スクリュ内の樹脂体積V をできる限り小さくするための設計変数の検討が必要となる.こ れまで,ガスを抑制するためのスクリュ形状は,せん断応力を小さくする検討がなされてき た.しかし,その背反として可塑化能力が低下を招き,本来の目的である樹脂を均質に可塑 化溶融することが困難となっていた.

そこで本研究では,前述のように,汎用性を有したスクリュ形状の最適化を行うため,可 塑化能力をStandardスクリュと同等になることを条件として検討を行った.

34 3.2.2 可塑化中に発生するガス

スクリュ形状の具体的な検討の前に,可塑化中に発生するガスについて以下に整理し,本 研究において抑制の対象となるガスを明確にする.

可塑化中に発生するガスは,前述のとおり樹脂の熱履歴に依存し,水分や炭酸ガスをはじ め,樹脂に添加される添加剤の分解ガスが原因となっている.そのため,同系統の樹脂材料 を使用しても,添加剤が異なる場合には発生するガスの種類や温度域が異なる.Table 3-1 に,FZ-1140とFZ-2140の2種の品種の異なるPPSに対し,320℃ 15min間加熱した際 に発生する有機ガスをアセトンで抽出し,ガスクロマトグラフで組成分析した結果を示す

[90].ガスの発生量としては,FZ-1140から発生するガスの総量を100として相対量を示し

ている.PPS 樹脂から発生するガスは,固体樹脂が溶融する 280℃までの温度域から,成 形温度となる320℃にかけて発生し,2種の品種におけるガスの組成と,発生量がそれぞれ 異なることがわかる.

Table 3-1 Organic gas components evolved from PPS resin. (320°C -15min) [90]

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ここで,PPS樹脂の融点である280ºCに対して,それ以下の温度域で発生する水や炭酸 ガスを低沸点ガスとし,それ以上で発生する高沸点ガスとして分類をすると,低沸点ガスは 樹脂が溶融する過程で必然と発生し,高沸点ガスは溶融後の熱履歴に依存して発生するガ スとして整理ができる。

以上のことから,低沸点ガスは樹脂が溶融することで必然と発生するため,可塑化中に発 生を抑制することが困難であるといえる.しかし,高沸点ガスについては,樹脂が溶融した 後に発生するガスであることから,可塑化中の樹脂の熱履歴を考慮することで,ガスの発生 を抑制できることが期待される。したがって,本研究で対象とするガスは,樹脂が溶融した 後に発生する高沸点ガスとする.

3.2.3 既存のガス対策システム

既存のガス対策における代表的な装置は,汎用の可塑化装置に対し,Fig.3-1(a)に示すベ ント式可塑化装置がその代表的な装置として知られている。これは,樹脂を可塑化溶融した 後に,シリンダ内の圧力を減圧することで溶融樹脂中のガスを気化させ,脱気を行うことを 目的としている [91].本装置の特徴は,第1ステージで樹脂を完全溶融させる必要がある ため,スクリュ全長が通常のスクリュよりも3~5×D(スクリュ直径)分長く設計されてい る点と,ガスを脱気するための脱気口がシリンダ中間部に設けられている点である。そのた め,ベント式可塑化装置は,樹脂を溶融する間に発生する低沸点ガスの対策には有効と考え られるものの,スクリュ全長が長いことで樹脂の滞留時間が長くなり,熱分解による高沸点 ガスの発生が懸念される。また,シリンダ途中に脱気口を設けているため,使用条件によっ ては溶融樹脂が脱気口から噴出(ベントアップ)する場合があり,小ロット多品種の生産に おいては成形性や装置のメンテナンス性,及び取扱いの困難さから,限定された分野で使用 されている。

これに対し,Fig.3-1(b)に示す真空式定量可塑化装置によるガス脱気システムが,最近多 くで採用されている。これは,汎用の可塑化装置に真空機能を有した定量供給装置を組み合 わせ,シリンダ内へ樹脂を定量供給しながら可塑化し,ガスを脱気することを特徴としてい る [92].また,この装置は,汎用の可塑化装置を使用することにより,ベント式可塑化装 置の持つ成形性や,装置のメンテナンス性の問題が改善されていることが特徴として挙げ られる。ガス対策手段としては,固体樹脂を定量供給することによりスクリュ溝内を固体樹

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脂で充満させることなく飢餓状態にして通気スペースを確保するとともに,スクリュ後部 より真空脱気を行うことから,主に低沸点ガスに対して有効な対策手段と考えられる。しか し,本装置の脱気性能を発揮させるためには,固体樹脂の供給量を樹脂の移送速度に対して 適切に調整し,ある一定の飢餓状態をスクリュ溝内で維持する必要があるため,樹脂定量供 給装置と成形機を連動させる制御技術の確立が課題となっている。さらに,ベント式可塑化 装置と同様に,シリンダ内での樹脂の滞留時間が長くなる場合,特に高沸点ガスの発生が多 い樹脂においては,十分なガス対策効果が得られない可能性がある。つまり,既存のガス対 策システムにおいても,使用するスクリュ形状の最適化が必要と考えられる.

(a) Gas venting system

(b) Volumetric feeder system with a vacuum function

Fig. 3-1 Existing systems for the gas suppression.

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