4 Price Percolation Model による価格変動メカニズム分析
4.3 市場拡大の価格変動への影響
4.3.4 結果と考察
75
76
図 29 セラミックコンデンサーの平均価格
図 30 セラミックコンデンサーの販売数量
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
価格 ( 円 )
年
平均価格
0.41x 平均クラスターサイズ
1,000,000 10,000,000 100,000,000 1,000,000,000
1970 1980 1990 2000 2010 2020
生産数量(千個)
年
生産数量
クラスター数x V(t:1980)
77
図 31 タンタルコンデンサーの平均価格
図 32 タンタルコンデンサーの販売数量
0 5 10 15 20 25 30 35
1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015
価格 ( 円 )
年
平均価格
2.4 ×平均クラスターサイズ
100,000 1,000,000 10,000,000 100,000,000
1970 1980 1990 2000 2010 2020
生産数量(千個)
年
生産数量
クラスター数X V(t:1980)
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4.3.4.1 長期的価格下落と需要・供給の法則
セラミックコンデンサーとタンタルコンデンサーの長期的な価格下落をシミュレーシ ョンと実データの統計分析を用いて検討した結果、市場拡大(世界1人当たりの国民総所 得)の進展期(1986年~1995年の間と2002年~2008年の間)に価格下落が加速し、市場拡大
(世界1人当たりの国民総所得)の停滞期(1980 年~1985 年の間と 1996年~2002 年の間)に
は価格下落が減速することを示した。このことから、総潜在需要の増加、つまり総潜在市 場の拡大が、長期的な大きな価格下落をもたらしていると解釈できる。一般的に、需要・
供給の法則51により価格の変動をもたらすと考えられている。一方景気変動は、超過需要 と過剰在庫の変化を伴う。したがって、景気変動が価格の変動に影響することは明白であ る。しかしながら市場拡大は、需要・供給の法則の概念を含まない。したがって需給バラ ンスの変化は、長期的、傾向的な大きな価格下落をもたらす要因ではないといえる。
4.3.4.2 長期的価格下落のメカニズム
一般的にミクロ経済学では、価格変動のメカニズムは、需要曲線と供給曲線の均衡点の シフトで説明される。例えば、売手の生産技術の技術革新により、より安くより多くの生 産が可能になると、供給曲線が右下にシフトし、需要曲線(不変)との均衡点が安価方向へ シフトし価格が下がると解釈される [58]。しかしながら PP モデルには、まったく需要・
供給曲線の均衡点のシフトのメカニズムが組み込まれていない。ただマクロな市場動向の みが組み込まれているだけである。このような PP モデルは、電子部品の需要の所得弾力 性が 1 より小さいことにより、市場拡大とともに価格‐販売量分布が変化し52、その分布 の変化が平均価格の下落をもたらしていることを示唆している。これは、所得弾力性が非 弾力的である生活必需品は常により安いものが選好されるということを含意している。
PPモデルによれば、その価格下落に潜むメカニズムは、次のように説明できる。もし電 気機器メーカーが、消費者の総潜在需要拡大(:市場拡大)がその後も継続すると確信できれ ば、それは、電子機器製品の価格をより下げて販売量を増大することに対しての強い動機 となる。さらにその潜在需要の確実な顕在化(:顕在市場の増大)は、電子機器メーカーに、
製品のコストダウンと増産のための継続的な投資を促すと同時に、部品コスト削減意欲も 高めることになる。これを背景として電子機器メーカーは、より安価な(3.3.1.2 で述べた
51 需要・供給の法則とは、財に対する需要量と供給量の差、すなわち超過需要が正ならばその 価格が上昇し、負の時は価格が降下するという古典的な競争市場のメカニズム。この法則のた め、経済均衡では、各財の超過需要は非正でなくてはならない [49]とされている。
52 価格‐販売量分布にベキ分布を当てはめた場合、そのベキ指数の絶対値が大きくなるように 分布が変化し平均価格が下落する [15]。
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ように、所得弾力性が非弾力的で必需品である)電子部品を大量に使用して期待する電子機 器の販売量を達成しようと努める。これが、電子部品の長期的・傾向的な販売数量の増加 と価格下落をもたらしていると考えられる。
需給モデルを用いる計量経済学的方法で現実の製品の価格下落を推定する場合、価格と 販売量の観測データだけでは推定できない。必ず外生変数が必要である。またしばしば識 別問題と呼ばれる問題に遭遇し、市場の実データから価格下落を推定できない場合が発生 する [51]。またゲーム理論のBertrand競争モデルを用いて現実の製品の価格下落を推定し ようとしても、モデル自体がヒストリカル・データを用いて推定したりするものではない ため、マクロ経済環境の変化に伴う価格変動を説明することができない。一方 PP モデル は、当該製品の販売量や国民総所得のような入手の容易なマクロ経済統計のヒストリカ ル・データを用いて、現実の製品の価格下落を推定することができるため頑健である。こ れは、PPモデルの持つ強みの1つである。