3 Price Percolation Model による戦略創出
3.2 景気循環を考慮した品揃え戦略の創出
本節では、景気循環における景気拡大期には、その恩恵を最大限活用し企業業績を向上 させ、逆に景気減速・後退期には、その影響による企業業績の悪化を最小限に抑えられる ような製品ラインのあるべき姿を、PPモデルを用いて分析し、品揃え戦略を提案する。
3.2.1 景気循環を反映したシミュレーション
ビジネス環境変化の1つである短期景気循環 [45] [46] [47]は、周期が2~3年の景気変 動であり、在庫循環によるものと考えられている。そのため総潜在需要、つまり見える市 場
N
の変動ではなく、顕在市場n
の規模の変動と考えられる。つまり、総潜在需要N
が一定の下、顕在市場
n
が、景気拡大期には増大し、逆に景気減速・後退期には減少する変 動41
図 14 顕在化確率によるベキ分布の変化
と考えられる。そのためこの変動は、(9)式より潜在需要の顕在化確率Pが、景気拡大期に は増大し、逆に景気減速・後退期には減少するものと考えられる。
図14は景気変動を想定し、格子サイズLを70に固定し、顕在化確率Pを0.08、0.14、
0.20、0.26、0.32 と変化させてシミュレーションを実行し、その結果から得られたクラス
ター・サイズ度数分布から推定したベキ分布をグラフ化したものである27。
シミュレーションでは、クラスター・サイズ‐度数分布のベキ指数の絶対値が、景気拡 大を想定したPの増大により小さくなり(負の傾きが減少)、逆に、景気減速・後退期を想 定したPの減少により大きく(負の傾きが増大)なった。この結果は、現実の市場において、
景気加速・拡大により価格‐販売量分布のベキ指数の絶対値が小さくなり、逆に、景気減 速・後退により大きくなることを示唆している。
3.2.2 景気変動による価格‐販売量分布の挙動
実際の景気変動による価格‐販売量分布の挙動を調べるに当たり、調査対象メーカーの 販売データから、シェア変動のほとんど無かった期間における景気減速局面の期間を選定 した。選定した期間は2005年12月から2007年5月の間で、その期間から景気の山(2005
27 このベキ分布は、得られたクラスター・サイズ‐度数分布にベキ分布を当てはめて得ら れたベキ分布をプロットしてグラフ化した。
42
図 15 分析した期間の景気動向 表 4 景気変動による価格‐販売量分布の変化
年12月)、景気減速局面の序盤(2006年 7月)、景気減速局面の終盤(2007 年1月)、そして 最後に景気の谷(2007年5月)[図15、上記の4期はグラフに○で図示]を選定し、価格‐販売 量分布を作成した。なお図 15 には、日本国内の電子部品の景気変動を的確に表す経済産 業省鉱工業生産動態統計から電子部品・デバイス工業部門の出荷‐在庫バランス(=出荷金 額前年同月比-在庫金額前年同月比) [48]のグラフも載せた。このデータからも、上記期間 において日本の電子部品が景気循環的に減速局面にあったことがわかる。
表4は、上記の景気減速局面における 4期の月次データで作成した価格‐販売量分布か ら推定したベキ分布の推定結果である。表中には回帰モデルにより推定した回帰式の傾 き・定数項及び決定係数を載せている。景気が減速の度を高めるに従ってベキ指数の絶対 値が、2.58⇒2.64⇒2.75⇒2.84と大きくなっている。このベキ指数の変化のしかたは、シミ ュレーションの結果と定性的に一致しており、本モデルの有効性を支持するものである。
3.2.3 結果と考察
3.2.2にて得られた景気循環に伴う価格分布の変化から、景気循環をうまく活用し効率良
く企業業績を向上させることのできる商品品揃え等の戦略を考察してみよう。
景気拡大局面では、低価格帯の製品の販売量比率と比較して高価格帯製品の販売量比率 が大きく増加する。逆に景気の後退局面では、高価格帯製品の販売量比率が大きく減少す る。この結果は、品揃えにおいて高特性・高価格帯の商品比率を高める特化戦略が、景気 の影響を受けやすく企業業績の不安定化を増し、企業にとって得策ではないことを示唆し ている。
期間 傾き 定数項 決定係数 サンプル数
2005年12月 景気の山 2006年7月 景気後退序盤
2007年1月 景気後退終盤
2007年5月 景気の谷
1.571 0.624 1446 1.957 0.667 1471 1.386 0.667 1363 1.418 0.708 1461 -2.575
-2.638 -2.749 -2.843
43
一方低価格帯特化戦略は、景気循環の影響が小さいといえる。実際、高価格帯特化戦略 を採用していた日系の電子部品メーカーが、景気後退局面で、企業業績を大きく悪化させ ていた時、低価格帯特化戦略の台湾・韓国系メーカーの業績が、あまり悪化していないこ とがしばしばあった。
3.2 では、景気循環をうまく活用し効率良く企業業績を向上させることのできる商品品 揃え戦略を検討するために、高価格帯特化戦略と低価格特化戦略の二項対立の視点で分析 した。一般的に特化戦略は、企業がその市場へ参入する際に、経営資源に制限がありフル ラインナップ戦略が不可能な場合に採用する戦略である。もし経営資源的に全価格帯戦略 が採用できるのであれば、景気拡大局面のより大きな売上増と景気後退期の業績悪化の緩 和の両面からの恩恵を期待できるため、全価格帯戦略(フルラインナップ戦略)が最も効率 的な戦略と考えられる。