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米国とカナダにおける職域年金・私的年金の制度とその変遷

ドキュメント内 EY (ページ 42-52)

5 政策対応の概要・実績

5.1 投資奨励制度の概要と実績

5.1.1 米国とカナダの職域年金・私的年金

5.1.1.1 米国とカナダにおける職域年金・私的年金の制度とその変遷

米国401(k)とカナダRPP

  米国では、1974 年、退職年金制度に加入している従業員の受給権を保護することを目 的に、ERISA法(Employee Retirement Income Security Act、従業員退職者所得保障法)

が成立した後、加入者数が増加、1980年には約5000万人に達した。

1980 年初頭には、貿易赤字や財政赤字といった「双子の赤字」問題などに象徴される ように米国経済の停滞感が増大した中で、転職時の年金のポータビリティを確保でき、以 前に比べ雇用主負担が軽いDC(確定拠出型年金)型の401(k)が1978年に制度発足、1981 年にスタートした。

  米国 401(k)は、従業員が給与の一部を税制優遇付き投資口座へ拠出することを可能とす

る退職貯蓄プランである。プラン加入者である従業員は、401(k)の投資オプションの中から 選択するが、その際、プランのスポンサー(概ね雇用主)によってあらかじめ選ばれたも ので、その多くは投資信託(ミューチュアルファンド)であり、その対象は株式、債券や 短期マネーファンドである。

401(k)には、Traditional 401(k)とRoth 401(k)の2つのタイプがある(図表5.1.1)。 Traditional 401(k)では、拠出時には課税されず、退職後の引き出し時に課税される。した がって、再投資時にも課税されない。なお、59歳半までに引き出しをする場合には、10%

のペナルティ課税が行われる。

Roth 401(k)は2006年から拠出可能となったが、納税者の選択肢を増やすため、Traditional

401(k)とは異なる課税方式となっている。従業員によるRoth 401(k)への拠出は、拠出年に

おいて課税所得とみなされる。拠出分と投資収益は、59 歳半以降または少なくとも Roth

401(k)加入後5年経過段階からは無税で引き出すことができる。なお、これらの基準を満た

さない場合には、10%のペナルティ課税が行われる。

  カナダのRPP(Registered Pension Plan、登録企業年金制度)には、DBタイプとDCタ イプがあるが、DCタイプの場合、米国Traditional 401(k)とは、ほぼ同様の制度であり、拠 出時と運用時には非課税であり、給付時には課税となっている。

図表5.1.1 米国401(k)とカナダRPP

米国Traditional 401(k) 米国Roth 401(k) カナダRPPDCタイプ)

上限額 18,000ドルまたは年間給与等のうち低い方/年 26,010 カナ ダドル または前

年年収の 18%のうち少ない

方/年

税制(拠出時)非課税 課税 非課税

税制(運用時)非課税 非課税 非課税

税制(給付時)課税 非課税 課税

導入時期 1978 2006 不明

(資料)政府税制調査会海外調査報告(アメリカ・カナダ)、20165月などによる。

2006年年金保護法による改革

  米国401(k)発足から20年以上が経ち、1990年代から2000年代にかけて、米国産業界 における相次ぐリストラ、パートタイム、臨時雇用、契約社員の大幅増加がみられ、若者 や低所得労働者の年金加入減少への対応と給付額の保全が課題となってきていた。そのた め、2006年年金保護法(2006 Pension Protection Act)を制定、401(k)を中心に改革が行 われ、自動加入等に関するセーフハーバーの導入が行われた(図表 5.1.2)。同法の主な ポイントは以下のとおりである。

①自動加入へのセーフハーバー:  2006 年年金保護法は、もしプランが一定の要件を 満たしているならば、自動加入を採用するプランへの「セーフハーバー」を用意する。

②適格デフォルト投資商品に関するセーフハーバー:  同法及び同法に基づく適格デフ ォルト投資商品に関する規制(Regulation Relating to Qualified Default Investment Alternatives in Participant-Directed Individual Account Plans)により、適格デフォル ト投資商品に関する受託者責任へのセーフハーバー救済も定められた。これにより、

加入者が運用方法の指示を行わなかった場合にも、雇用主が加入者の投資商品を適格 デフォルト商品に選択しても、雇用主側は受託者の過失責任を負わないことを明確化 した。

③投資アドバイス:  2006年年金保護法は、ERISA法に基づき設立された「禁止され た取引」に関する禁止に違反する場合を除き、一定の受託者がプラン加入者への投資 アドバイスを提供する対価として報酬を得ることを認める。

図表5.1.2 401(k)適格デフォルト投資オプションに関する規制

最終規則は、投資結果に対する受託者責任からのセーフハーバー救済を得るために満足すべき条件とし て、以下を提示する。

①資産は規則に定めるQDIAの中で投資されること。

②加入者と受給者は投資指示を行う機会を得ているものの、行わなかったこと。

③QDIAへの最初前、加入者や受給者に一般的な通知が行われ、その後毎年継続してそれが行われる こと。

④QDIAに関するプランに関する投資目論見書などの資料が加入者や受給者に提供されること。

⑤加入者や受給者が QDIA を他の投資より頻繁(最低四半期ごと)に行うことができる機会を有す ること。

⑥プランからオプトアウトする加入者や投資指示を行う加入者への手数料などの規制を設けないこ と。

⑦幅広い投資オプションを提供するプランであること。

最終規則では、特定の投資商品を識別せず、むしろ、投資メカニズムを記述することとする。そのねら いは、QDIA適格の投資が労働者の長期退職貯蓄ニーズにかなう投資として適切であることを確保する ことである。最終規則は、2つの個人向けメカニズムと、加入者集団全体を対象とするメカニズムを認 識する。また、管理の利便のための短期投資も認める。

QDIA4つのタイプ)

①個々の年齢や退職日を考慮に入れた投資ミックス商品(例:ライフサイクルファンドやターゲッ トリタイアメントデートファンド)

②個々の年齢や退職日を考慮に入れた資産ミックスオプションを提供する投資サービス(例:プロ 運用口座)

③個々の加入者ではなく加入者全体の特性を考慮に入れた投資ミックス商品(例:バランスファン ド)

④元本維持商品で、拠出から120日以内のもの。

(資料)U.S. Department of Labor, "Regulation Relating to Qualified Default Investment Alternatives in Participant-Directed Individual Account Plans", April 2008

https://www.dol.gov/sites/default/files/ebsa/about-ebsa/our-activities/resource-center /fact-sheets/fsQDIA.pdf

  このような2006年年金保護法の効果については、Employee Benefit Research Institute,

"The Impact of PPA on Retirement Savings for 401(k) Participants" 2008において、以下 のように示されている(主なものを記載)。

①自動加入の効果に関するモデリング:  多くの401(k)加入者や加入適格者が任意加入 システムから自動加入(自動増額拠出あり)に移行すると想定。

②年金保護法では長年にわたる研究を実施:  自動加入のコンセプトについては、1990 年代半ばから研究されてきた。さまざまな研究によって若者や低所得労働者層の低い 加入率が明らかとなり、また、DB 年金のスポンサーである雇用主が従業員のために DB 年金を凍結しようとするのに伴い、自動加入のコンセプトへの期待が高まってき ている。2006 年年金保護法は、401(k)セーフハーバー付き自動加入・自動増額条項 を伴うコンセプトを実施するための年金のスポンサーである雇用主へのインセンテ ィブを付与した。

③重要なインパクト(特に低所得層向け):  自動増額拠出に関するもっとも保守的な 想定でも、401(k)の自動加入は、多くの労働者、特に低所得労働者にとって追加的な 退職貯蓄の面でかなりのプラス効果を持つことが、分析で示されている。

④自動加入のもとでの増加:  任意加入から自動加入への移行によって、現在 25〜29 歳の加入者の65歳時点での資産額は、すべての収入分位で2.5倍前後に増加。

米国IRAとカナダRRSP

  米国IRA(Individual Retirement Account、個人退職口座)は、1974年ERISA法成立と 同時に創設された。米国議会は、当初IRAに、①税制優遇付き職域年金でカバーされない 個人を対象とすること、②転職や退職の際に財産を守ること、という2つの役割を与えた。

1991 年の税制改正では、職域年金加入者や公務員も、IRA に加入することが可能となっ

た(図表 5.1.3)。IRA では、拠出時と運用時は非課税、給付時には課税、引き出しは可

能だが、高額医療、最初の住宅取得、高等教育向けの支出など一定の要件を満たさない場 合には、10%のペナルティ課税が行われる。また、401(k)と同様、Roth型が用意されてい る。

IRAの創設から 40年以上にわたり、この柔軟な制度が、多くの米国の世帯の退職貯蓄 を支えてきているが、他方で、高所得層に税制優遇の恩恵が偏っているとの問題もあった ことから、低・中所得層向けに月額 5 ドル以上の拠出から始められ、元本割れの心配が少 ない米国財務省証券のみで運用するmyRAが2015年末から導入されたところである。

  カナダ RRSP(Registered Retirement Savings Plans、登録退職貯蓄年金)も、米国

Traditional IRAと同様、拠出時と運用時には非課税であり、給付時には課税となっている。

1991 年の所得税法改正により、RPPと RRSPの拠出限度額が統合され、未消化枠の繰 り越しが認められるようになった。

図表5.1.3 米国IRAとカナダRRSP

米国Traditional IRA 米国Roth IRA カナダRRSP

加入資格 70.5 歳までの所得のある者及びその配偶者(専業主婦も 可)

71 歳までの所得のある者及 びその配偶者(専業主婦も可)

上限額 50歳未満  5,500ドル/年

50歳以降  6,500ドル/年 Traditional IRARoth IRAで合算

25,370カナダドルまたは前年

年収の 18%のうち少ない方

(ただし、前年のRPP向け拠 出額分を減額)

未 使 用 枠 の 繰

不可

税制(拠出時)非課税 課税 非課税

税制(運用時)非課税 非課税 非課税

税制(給付時)課税 非課税(一定の給付要件を 満たす場合)

課税 引出制限 可(ただし、一定の要件を満たさない場合、所得税は10

ポイント引き上げられる)

可(一定の要件を満たせば一 時的に借り入れが可能、それ 以外の場合は引き出し金は他 の所得と併せて課税される)

導入時期 1974 1997 1957

ドキュメント内 EY (ページ 42-52)