5 政策対応の概要・実績
5.1 投資奨励制度の概要と実績
5.1.2 欧州の職域年金・私的年金
イギリスでは、2000 年代に入り、雇用主負担の重さから中小企業等で DB の閉鎖が相 次いだことから、民間における職域年金の加入者が減少してきていた(2011 年における 民間部門職域年金加入者は280万人で、民間就業人口 2,300万人の12%となった)(図 表5.1.15、5.1.16)。
図表5.1.15 イギリス職域年金加入者数の推移
(資料)Office for National Statistics, "Occupational Pension Schemes Survey: 2014" Table 1 http://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/personalandhouseholdfinances /pensionssavingsandinvestments/bulletins/occupationalpensionschemessurvey/2015-09-24
図表5.1.16 イギリス職域年金(民間部門)の加入数
(資料)Office for National Statistics, "Occupational Pension Schemes Survey: 2014" Table 3 http://www.ons.gov.uk/peoplepopulationandcommunity/personalandhouseholdfinances /pensionssavingsandinvestments/datasets/occupationalpensionschemessurvey 0
500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
(万人)
年金拠出中 年金受給中 年金受給権保有
0 50 100 150 200 250 300 350 400
2004年 2005年 2006年 2007年 2008年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年
(万人)
DC DB
こうした中、イギリス年金委員会は、第2報告(2005年11月公表)において、現行の 私的年金制度が不十分であり不公平なものとなっていること、こうした問題は国の制度だ けでは解決できないこと、住宅購入や住宅資産相続に向けた貯蓄は多くの人々にとって年 金の重要性を示しているがそれだけでは年金の重要性を説明できないこと、長期年金政策 は堅牢であるべきこと、他国の年金制度や年金改革がイギリスへの示唆を提供してくれる と述べた。その上で、イギリスでは、2001年、先進国の中でも給付水準の低い公的年金を 補完するためステークホルダー年金(Stakeholder Pension)を導入したものの、8 割もの 雇用者が同制度を「身のない貝殻」(empty shells)とみなし、十分な資産形成を行ってい ない状況にかんがみ、これに代えて、低コストで国家拠出付きの年金制度であって、人々 が自動加入することができ、オプトアウトの権利も有するものを創設することを勧告した。
そして、イギリス政府は2006年年金白書において、上記年金委員会報告で示された勧告 を採用することとし、以下の方針を表明した。
①職域年金とは別に貯蓄機会を提供するための低コストの私的年金を用意すること。
人々は、私的年金または職域年金への付加においてオプトアウトの自由を有しつつ自 動加入とすること。
②年金貧乏の問題に継続的に取り組む基金を改善すること。
その結果、2008年年金法が成立、2012年、職域企業年金を有していない企業の中低所 得層向けNEST(National Employment Savings Trust、国家雇用貯蓄信託)が創設され、
2018 年にかけて段階的加入が進展することとなった。NEST では、①自動加入・オプト アウト可、②退職日ファンド(リタイアメントデートファンド)を中心とする品揃え、③ 加入者コミュニケーション(NEST's golden rules of communication)の面での工夫に特徴 があり、加入者数が急速に増加してきている。
5.1.2.2 フランス
フランスでも高齢化の進行に伴い、公的年金の運営に課題が生じている。こうした中、
2003 年、給与・労働時間・雇用促進法(フィヨン法)が成立し、2020 年までの財政均衡 の達成のための年金改革が行われた。その一環として、公的年金を補完する柔軟な職域年 金として、PERCO(Plans d'epargne retraite collectif、企業退職貯蓄制度)が導入された。
フランスの職域年金については、すでにPEE(Plans d'epargne enterprise、企業貯蓄制 度)が1967年に創設され、同制度は、投資信託、株式を対象に5年以上の投資を行うこ とができるものであった。
これに対し、PERCOは、退職までの投資を目的として創設された。PERCOは企業単 位で導入されるが、当該企業の従業員の加入は任意である。従業員は年収の 25%以下の 任意拠出ができ、そこに企業からのマッチング拠出(従業員拠出の3倍以下)を加えるこ とができ、税制面での優遇が適用される。従業員は PERCO での積立について、退職一 時金または退職年金の形で受け取るほか、住宅購入、長期失業などでも引き出すことがで きる。
PERCOの採用企業数と参加従業員数は2003年の制度創設以降、順調に増加しており、
2015年12月には、それぞれ20万社、200万人となった(図表5.1.17)。また、資産残 高も122億ユーロに達した(図表5.1.18)。
図表5.1.17 PERCO採用企業数・参加従業員数の推移
(資料)AFG Association Française de la Gestion financièr (AFG、フランス財務管理協会)
"Communiqué de presse - Les PERCO en nette progression en 2014"などによりEY総合研究所作成。
http://www.afg.asso.fr/index.php/fr/etudes-et-rapports/epargne-retraite/doc_download/5198- http://www.afg.asso.fr/index.php/fr/epargne-retraite/chiffres-cles
0 5 10 15 20 25
0 50 100 150 200 250
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
参加従業員数 採用企業数(目盛右)
(万人) (万社)
図表5.1.18 PERCO資産残高の推移
(資料)AFG Association Française de la Gestion financièr (AFG、フランス財務管理協会)
"Chiffres clés - Les PERCO en nette progression en 2015 : 12,2 milliards d’euros d’encours (+ 18 %) "
などによりEY総合研究所作成。
http://www.afg.asso.fr/index.php/fr/epargne-retraite/chiffres-cles
Association Française de la Gestion financièr (AFG、フランス財務管理協会)の"Gestion pilotée du Plan d’Épargne pour la Retraite Collectif ‒ Guide de bonnes pratiques"(2012 年5月)によれば、PERCOにおける推奨プランは、Profil Prudent(慎重なプロフィール)、
Profil Equilibre(バランス型プロフィール)、Profil Dynamique(積極的なプロフィール)
の3タイプがあり、それぞれ、退職日までの間に、資産蓄積フェーズ、感度引下げフェー ズ、保全フェーズの3つのフェーズを設定している。Profil Equilibre(バランス型プロフ ィール)では、退職まで 10 年以上ある場合には、株式:債券=50:50 のポートフォリオ となっている。
PERCO資産構成については、定期的に公表されていないが、2007 年6 月末現在のデ
ータによれば、株式が46%、債券27%、マネーファンドが27%となっている(図表5.1.19)。 図表5.1.19 PERCO資産構成(2007年6月30日現在)
(資料)AFG Association Française de la Gestion financièr (AFG、フランス財務管理協会), "Communiqué de presse - Le PERCO confirme son succès" September, 2007によりEY総合研究所作成。
http://www.afg.asso.fr/index.php/fr/component/content/article/161-cp2007/769-12072007 0
2 4 6 8 10 12 14
2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
(10億ユーロ)
株式 46%
債券 27%
マネーファン ド 27%
5.1.2.3 ドイツ
ドイツでも、少子高齢化の進行を背景に、財政制約の中で公的年金給付水準引下げが余 儀なくされたため、縮小する公的年金を補完する任意加入の私的年金として、リースター 年金(Riester Rente)が導入された。2001年、少子化に伴う公的年金給付水準引下げの 補完措置として、国庫補助と税制優遇がある個人年金(職域年金への付加的個人年金とす ることも可)がスタートした。この年金は、当時の担当大臣の名前をとって「リースター 年金」と呼ばれている。個人の自助努力による年金であり、加入者自身が所得の一部を拠 出するものであるが、国庫補助と税制優遇といった公的支援付きのものである。
リースター年金は、以下のような内容となっている。
①一人当たり154ユーロの国庫補助が付き、子どもには185ユーロ(2008年以降に生 まれた子どもには300ユーロ)が付加。高所得者など国庫補助より有利な税制優遇(所 得控除)が適用される場合もある。
②25歳未満の加入者には200ユーロのボーナスが付加
③年金プロバイダーは、拠出額について元本保証を行うこと
④配偶者の死亡の場合には、被保険者としての恩恵を受けることが可能
年金保険タイプの契約が大半を占めるが、2005 年以降徐々に投資信託契約も増加し、
2008 年からは、自ら居住する住宅の建築・購入資金向けの制度である住宅リースターも 加わった。
2000年代に累次にわたり拠出限度額の引上げが行われたほか、2005年以降、ドイツ全 土での草の根金融教育が広がったこと(5.5.5 参照)から、契約件数が増加している(図 表5.1.20)。
図表5.1.20 リースター年金契約件数
(資料)BMAS(ドイツ労働社会省)"Statistik zur privaten Altersvorsorge"
http://www.bmas.de/SharedDocs/Downloads/DE/Thema-Rente/riesterrente-I-2016.pdf