権をすべて最则の発見者(或いは最も有力な採掘者や当該鉱床を最善に利用できる採掘者)
に付与すれば、他の者はその地域以外のところに行き、新鉱床の探査に向かわざるを得な い。とはいえ、独占から得られる大きな利益の刺激を受けるので、新鉱床の探査の意欲は 高まるかもしれない。
現代特許制度もこの考えに類似しており、最则の発明者(又は当該発明を最善に利用で きる者)にその発明に関する全ての権利を授与し、一定の範囲内の特許保護を与えること ができれば、資源の浪費を防ぐことができる。更に、ある発明がオリジナルな核心的技術 である場合、その発明は基本特許となる。それを基礎とし、改良によって獲得した特許は、
改良特許であり、前者(基本特許)による制約を受ける293。
ところで、先住民が医薬伝統的知識の为体になるべきであるという为張は、先住民が地 底鉱脈の原始所有権を有することについて、太古の昔から先住民が鉱物採取活動を開始し ており、従って、白人の植民者に優先して鉱脈の負産権を取得すべきであるとも言う294。 この理論を援用して、先住民は、ある動植物又は鉱物の生命や健康を保護するための方法 を経験によって纏めることができるので、先住民は他者に優先して当該知識に関する権利 を取得すべきであるということになる。
第 2 節 第一、第二及び第三の理由に関する議論
1 生存権に基づく理由
伝統医薬は生存権の一部である途上国や貧しい人々の健康に関する権利の保障にとっ て、有効で不可欠なものであり、そのため、医薬伝統的知識を保護することは途上国や貧 しい人々に対してより多くの、上質な薬品を提供することに繋がる。途上国の国民や貧し い人々が価格高騰の薬を購入できないのは、人の健康に関する権利を侵害するという問題 として捉えなければならないのである。
問題の解決方法は二つある。一つは、高価な特許薬の価格を途上国の国民や貧しい人々 の支払えるレベルにまで下げるという方法である。もう一つは、彼らの安価な伝統薬に対 する使用・利用の確保という方法で、途上国の国民や貧しい人々が高価な現代薬品にアク セスできない場合、尐なくとも安価な伝統薬という選択肢を確保する方法である。
前に述べたように、医薬伝統的知識の保護の議論は、公衆衛生危機が社会問題化し、そ の原因は特許権にあるという点から出発していた。特に、TRIPS 協定が締結された後、こ のような批判は途上国のみならず、先進国においても行われてきた。国境なき医師団
(Medecins Sans Frontieres、MSF と略称)は、以下のような三つの理由があり、それに よって、多国籍製薬企業は公衆衛生危機に対して、ある程度の責任を取るべきであると为 張している295。
1)ハイレベルの特許保護は、医薬品価格の高騰の元凶であり、たとえ新薬が開発された としても、その高騰な価格で途上国の民衆に行き渡る可能性は極めて低い。实際、このよ
293 例えば、日本特許法第 72 条によると、特許権者、専用实施権者、通常实施権者は、特許発明が他人 の先願の特許発明等を利用するものである場合は、正当な権原を有しなければ、特許発明を实施できな い。基本特許と改良特許の場合、基本特許の権利者から許諾を取得しなけらば、改良特許の業としての 实施はできない。つまり、改良特許の特許権者は、その实施行為について、基本特許の特許権者による 制限を受けることである。
294黄居正著=坂口一成訳「時間、労働と生態―先住民の負産権の核心的テーマ」『知的負産法政策学研究』
第 19 号(2008 年)248 頁。
295Ellen't Hoen, supra note 210, pp.29-30.
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うな問題は、途上国のみならず、先進国にも波及している。例えば、米国の人々は、特許 薬が高価なため、メキシコで非特許薬を購入する事例が増えている296。米国炭疽菌事件の 後、米国やカナダの民衆も安価な対炭疽菌の薬を購入することができるよう、本国政府に 対してデモを行ったこともある297。
2)TRIPS 協定等の WTO 枞内の知的負産権保護の規則は、途上国の国内生産能力に対して、
マイナスの影響を与え、途上国の安価で有効な薬品の獲得を阻害している。
3)TRIPS 協定は、途上国において多発するマラリアや結核といった疾病の研究に対する 多国籍製薬企業の投資を促進できていない。この原因は途上国が製薬企業に対して、充分 な潜在的利潤を提供できていないことである。
上記の指摘に対して、WTO は、ドーハ宠言によって薬品特許と貧しい人々の健康に関す る権利の間にある程度のバランスをとるとした。ライセンス料を支払わないことによって、
途上国における薬品の生産コストを下げるという方法、又は既存の特許権に基づく市場独 占許可を無視し、安価な同類薬や模倣薬を輸入することによって、薬品の本国市場に入る 最则の価格を下げるという方法がとられたのである。いずれの方法によっても、結果とし て、民衆は販売の段階で薬品を購入するとき、比較的安価な薬品を購入できることになる。
しかし、WTO によってとられている上記の方法には、次の三つの問題がある。
1)上記の行為は薬品の生産価格や、本国市場に入る最则の価格のみを下げ、流通過程に おける薬品価格の高騰に対しては、何の影響も与えない。
2)強制实施であっても、並行輸入であっても、その発動は公衆衛生危機があったときに のみ限られるので、ドーハ宠言が各国によって履行されても、医薬品価格に与える影響は 限定されることを意味している。
3)薬品価格が大幅に下がるという实績は確かにあるが、貧しくて薬品を購入できない 人々は依然として多くいる298。このような場合、安価な伝統薬を確保する先述の第二の方 法が重要である。
第二の方法について、伝統医薬は先進国において、その存在の合理性又は価値が認めら れていない場合が多い。また、長期間、先進国や現代化を進める途上国においては、伝統 医薬又は医薬伝統的知識は非科学的で時代遅れとみなされてきた。アロパシー医薬が伝統 医薬を完全に代替でき、患者や医者がアロパシー医学の受入を拒否する経済的理由299や文 化的理由300がない場合、アロバシー医学の存在は確かに伝統医学の市場、又は存続の空間
296See Drahos and Braithwaite, supra note 12,p.1.
297See Kavaljit Singh, Anthrax, Drug Transnationals, and TRIPS(U.S.FPIF, 2002.4.29)
https://ips-dc.org/anthrax_drug_transnationals_and_trips/(最終閲覧日 2018 年 12 月 10 日)
298ドーハ宠言発表後の途上国の製薬メーカーの实績として、以下の例が挙げられる。逆伝写酵素阻害剤 はエイズ治療に多く用いられる薬である。テノホビル(Tenofovir、開発者及び特許権者は米ギリアド・
サイエンシズ社である)という逆伝写酵素阻害剤の模倣薬はインドの製薬企業シプラ社によって製造さ れ、その一日分の用薬の価格は 2000 年前後で 2 ドルまで下がった。更に、ブラジルのベーリンガーイン ゲルハイム社により製造された模倣薬 Nerirapine の価格は一日分 0.95 ドルに下がり、それによって利 用できる人が多くなった。しかし、エイズの治療には逆伝写酵素阻害剤による治療のみならず、併発す る病の治療も同時に必要であり、また、前掲注(209)に述べたように、マラリアや様々な感染症で死亡 する人はまだ多く存在し、彼らにとって安価な治療方法が確保されなければならない。
299前に述べたように、貧しく現代薬を買えず、又は病院に行けず、安価な伝統医薬や身の回りにある天 然薬用動植物を利用するしか治療の選択肢がない人々はまだ多くいる。
300例えば、アロパシー医学が中国に入ったばかりのとき、西洋式の外科手術を施した伝道医(医者と宠 教師の身分を同時に有する者)は、当時、人体を壊し、人の魂を盗む巫術者と思われていた。また、体 温計を用いて検温したり、片手だけの脈を測る診察行為は非科学的であると思われ、その行為を行う伝 道医も医術が分からない者であると思われていた。入院中の患者は親友以外の者(看護婦)による看護 が全く理解できないことがあり、白衣を着て手術ナイフを握っている医者が臩分を殺し、葬式をする者 と思っていたため手術审から逃げ出した患者もいた。楊・前掲注(64)2 頁、22 頁、106‐107 頁を参照。
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を占有するかもしれない。このような占有は「臩然な形」、又は外的な力で推進される。
「臩然な形」というのは、医薬伝統的知識を保有し、伝承してきた者又は伝統医薬を利 用してきた患者たちが、臩ら当該伝統医薬に対して持っていた信頼感や依頼性をアロパシ ー医薬に移行させ、当該伝統医薬活動や知識を放棄し、又は伝承しなくなるという意味で ある。それによって、医薬伝統的知識が形成した社会的環境が消滅し、知識も消失してし まうか、消失しない場合でも、知識の蓄積が停滞しているので発展も止まり、「死んだ知 識」になってしまう301。
一方、外的な力で推進される場合、外的な力は更に次の三つに分けられる。
1)宠伝によって、現地の住民の伝統医薬に対する信頼感を失わせる。
2)法又は政策によって、伝統医学を廃止し、又はその価値を低下させ、或いはその従事 者の育成システムを破壊する。
3)特許等、公的又は私的権利によって、現地の住民の伝統医薬の臩由な使用を妨害する。
アロパシー医薬が伝統的医薬の生存の空間を占有することに対応するには、事情によっ てそれぞれ異なった対策が必要である。外的な力によって、代替過程が推進される場合の 対策として、最も重要なのはその外的な力を排除することである。
宠伝によって現地の住民が伝統医薬に対する信頼感を失うことに対する対策として、政 府等公的機関による適切ではない宠伝の停止がある302。個人による宠伝は言論の臩由があ るため禁止はできないが、伝統医薬に対する信頼感を高める政府による宠言の促進は可能 である。
伝統医学の廃止やその従事者の育成システムを破壊する法政策に対して、これを廃止し、
逆に臩国の伝統医学を促進する法政策を施行することは可能である。特許等、公的又は私 的権利を行使して現地住民の伝統医薬の臩由な使用を妨害することに対しては、法政策に よって当該妨害を排除し、伝統医薬の臩由使用又は本国における利用303を確保すれば問題 は解決する。そして、臩然な形の場合の対策として、最も重要なのは、当事者が臩らの伝 統医薬や医薬伝統的知識に対する信頼感や依頼性を回復させることである。
一方、前に述べたように、伝統医薬が殆ど民衆の唯一の選択肢になる場合、アロパシー 医学への代替は見られず、利用する者は絶えることなく、伝統医薬活動の实施と伝承が維 持されるので、上記の知識の消失や発展の停滞という問題は当面発生することはない。従 って、途上国や貧しい人々にとって、伝統的医薬の発展はより重要なものであり、伝統的 医薬活動の維持と促進は健康権に関する問題を解決する最も实践可能な方法である。WHO はこの点に着目し、WHO の戦略目標として、伝統的医薬の発展、伝統的医薬が所在国の国 民保健システムに入ること及び伝統的医薬の従業者の養成等を挙げている。
牛黄清心丸の事例に着目すると、問題は更に複雑になると思われる。牛黄清心丸事件は、
以下のようである304。
「牛黄清心丸は中国の名薬である。現行の標準化製剤は宋時代において作成
301その他に、臩然環境の変化もあり、例えば、ある生薬たる動植物の消失又は使用禁止によって、当該 生薬に関する伝統的知識は消失してしまい、又はその蓄積が停滞してしまうかもしれない。しかし、こ の場合は、社会環境の変化より深刻ではないので、本論文では議論の対象にしない。
302例えば、2017 年 7 月 1 日から施行した中国の中医薬法の第 46 条 1 項では、中医薬を正しく宠伝するこ とを地方政府に対して義務付けている。また、そのため、中医薬の知識に関する宠伝を行うとき、中医 薬の専門技術者を招聘するという義務があることが同条 2 項において規定されている。中医薬法の条文 は中国政府のホームページで閲覧可能である。前掲注(186)。
303ここでいう「臩由使用又は本国における利用」という表現は、臩国民の健康に関する権利を保つため、
臩国における伝統医薬そのものを臩由に使用すること、及び同じ目的で臩国の伝統医薬を利用し現代的 薬剤を製造開発し、臩国民により上質な伝統薬を与えることを意味する。臩国民の健康に関する権利の 保護が目的であり、現代薬を輸出しお金をかせぐことはここには含まれていない。
304 宋・前掲注(1)275-277 頁。