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国際的保護に関する先行研究と現行法(先行研究 II)

ドキュメント内 テーマ:医薬伝統的知識の国際的保護 (ページ 50-55)

1 研究のターゲット

上記の発展論点を纏めれば、研究のターゲットは基本的に二分されると思われる。一つ は発展論点 4 及び 5 で述べられたように、医薬伝統的知識が複数国において併存するとき、

各所在国及び所在国における当該知識の伝承・保存を行う伝承者・保有者との間の権利・

利益配分というターゲットである(ターゲット 1)。もう一つは、発展論点 1⊸発展論点 3 に示されたように、遺伝資源又は伝統的知識の越境利用の保護措置として、一国の国内法 の越境適用問題というターゲットである(ターゲット 2)。

2 ターゲット 1 について

ターゲット 1 について、医薬伝統的知識の共有に注目した。秦天宝氏は、伝統的知識保 護の利益バランスを論じるとき、伝統的知識を有する为体は複数の村、又は複数の民族で ある可能性があり、従って、彼らの間における利益配分の衝突が生じる可能性があること を述べている94。Dutfield 氏は以下のような問題を提起している。「Quijos Quichua 人に

94秦天宝「生物资源相关传统知识保护中的利益平衡」『河单财经政法大学学报』第 129 号(2012 年)115

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よって『chiri caipi』(ラテン語で Brunfelsia grandiflora)と呼ばれる植物は、 Shuar 人によって『chini kiasip』と呼ばれる。この二つの社会にいる人々の当該植物の利用方 法は類似している。Canelos Quichua 人は、彼らの間の仲介者(mediators)になるかも しれない。当該植物を利用し、ある薬を発明する場合、誰が利益配分を受けるのか?Quijos Quichua 人?Shuar 人?それとも Canelos Quichua 人?」95と述べられている。上記の考 えは、利益配分のバランスに注意する必要があることを言及しているが、どのような理由 に基づいて利益配分をするか、又は利益配分の基準は何かについては言及していない。ま た、医薬伝統的知識の共有を否定することができないと为張する学者もいる96。例えば、

「植民・略奪・窃盗等の手段によって獲得された伝統的知識については、権利の正当性は 絶対認められないが、文化の伝播(例えば、唐文化が日本や朝鮮半島に伝播されたこと)

という手段によって獲得された我が国の中医知識を完全に制限するのも、現实的なやり方 ではない」97という为張がある。一方、共有を直接的に否定していないが、ある複数の国 に存在する医薬伝統的知識をその中の一国の専有物と断言し、他の国又は伝承者・保有者 の知識に対する類似の権利を事实上否定する学者もいる98。医薬伝統的知識の併存の「合 理的理由」に関する詳細の議論は第 IV 章において行う。

3 ターゲット 2 について

ターゲット 2 について、国際法としては、「3+1」という形で医薬伝統的知識を保護して いると思われる。即ち、以下に述べる 3 種類のグロバールな保護形式(即ち「3」)、及び 医薬伝統的知識の保護に関する二国間協定又は多国間協定によって保護する形式(即ち

「+1」)である。前者の「3」には、以下のような保護形式がある。即ち、各国は、国内 法によって、伝統的知識(医薬伝統的知識を含む)に保護を与える。その他、渉外訴訟が 発生する場合、どのような紛争が起こる場合にどの国の实体法(国内法)を適用すること ができるか、又は適用されるべきかを示す機能を有する国内法もある。この法適用を選択 する機能を有する国内法に従い、外国法が適用されることは可能である(所謂法選択によ る外国法の適用)。各国は、国内法によって伝統的知識(医薬伝統的知識を含む)に保護 を与えるが、国際法としては、利用国の管轄範囲内で、提供国・提供国の関係権利者に求 められた法的効果がどのように实現できるかを規律する役割を果たす。ここでは、更に二 つの考え方があると思われる。即ち、①为権国家が相互に为権を制限し、伝統的知識の保 護に関する国際的な基準を定め、それによる国内法の調和を行うというものである(所謂 統一的国際ルール)、②知識提供国の国内法の域外適用を認め、そのための条件と手続を 定めることである。

後者の「+1」については、米国とペルーの臩由貿易協定の例が挙げられる。当協定の 第 16 章には、両国間における「伝来の知恵」に関する MAT 及び特許出願について一定の 合意が見られる99

頁。

95Posey and Dutfield, supra note 49, p.37.

96刘・前掲注(17)228-229 頁、245-251 頁、何・前掲注(56)19-31 頁、又は 2008 年中国伝統医薬保護 シンポジウムにおける刘春辉氏(上海中医薬知的負産権研究センター所属・弁護士)による発言。宋・

前掲注(1)244 頁を参照。

97刘春辉氏の発言、同上。

98 宋・前掲注(1)81-84 頁。

99ペルー・アメリカ合衆国臩由貿易協定要約 29 頁を参照。See http://www.jetro.go.jp/jfile/report/

05001285/05001285₋001₋BUP₋0.pdf.(最終閲覧日 2017 年 8 月 10 日)

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(1)法選択による外国法の適用

四つの変形事例において、A 国以外の利用・特許権取得・製造販売行為に対して訴訟を 提起する場合、共通する問題点は、①利用者(X 社又は Y 社)によって取得された特許権 の有効性、②利用者の諸行為は権利侵害であるため差止請求及び損害賠償請求が提起され ること、③利用者の諸行為は権利侵害であり、それによって得た利益は不当利得であるた め、利益返還請求が提起されることである。

次に、上記 3 点について、現行の法制度からどのようなことが言えるか、その点につい て論じることにする。

①の特許権の効力について、特許は登録によって取得される権利であるという属地为義 の色彩が濃い。従って、特許の効力の存否に関しては、特許権付与国の法律を準拠法にす るのが一般的である100。しかし、A 族が、X 社又は Y 社に対して A 国法上の不法行為を理 由に特許権の取り消しを求めても、A 国以外の国において、A 国法を準拠法とする可能性 はあまりなく、またコスト面でも、X 社又は Y 社に特許権を授与する国において訴訟を提 起することは、A 族にとってはほとんど不可能である。

②の不法行為による差止請求及び損害賠償について、一般的に、不法行為地の法が準拠 法として選択される。各変形事例の場合、もし不法行為地が不法行為の实施地と解釈され る場合101、一連の利用に関する不法行為の最则の行為たる知識にアクセスする行為を含め て、全ての不法行為の实施地が A 国以外の国(B 国又は C 国)であれば、A 国法が準拠法 になる可能性も低いと思われる。实際、既にパブリックドメインに入った一部の医薬伝統 的知識にとって、アクセス行為を A 国以外の国で行うことはあり得る102。不法行為の实施 地以外では、損害結果発生地法が準拠法として選択される可能性もあるが、これは必ずし も各国に採用されるわけではない。そして、より密接な法的関係を有する国の法を準拠法 とする可能性もあるが、「より密接な関係を有する国」とはいかなる国なのかが必ずしも 明らかとは言えない103

③の不当利得請求について、不当利得発生地の法又は(不法行為による不当利得の場合 の)不法行為地の法が準拠法になり得る104。前者の場合、B 国又は知識pの利用に基づい て開発された薬品の販売地は不法利得発生地と判断される可能性が高いが、それが必ず A 国となるわけではない。この場合、A 国法は準拠法になる可能性があるけれども、選択さ れなかったとしても問題にならない。

100特許権等の産業負産権の系統の権利は、国家行為としてそれを創設するのでであって、当然にその国 家の法による。道垣内正人=澤木敬郎『国際私法入門(第 8 版)(有斐閣双書、2018 年)252 頁。

101 つまり、行動地において不法行為にならないとしてなした行為が、偶々結果発生地において不法行為 となるため、不法行為責任を問われるというのでは、加害者の保護に欠ける、という考えに基づいて、

行為者が損害を生ぜしめるような行動に従事した地を不法行為地とする。溜池良夫『国際私法講義(第 3 版)(有斐閣、2005 年)395 頁。

102 例えば、日本の法の適用に関する通則法第 17 条は、通常予見可能性という前提要件を加えながらも、

加害行為地とは異なる地で損害結果が発生した場合、その結果発生地法によることを原則としている。

結果発生地法が採用される理由として、民事責任の場合には、損害の填補に重点が置かれるべきであろ うという考えがある。また、結果発生地が幾つかある場合には、最も重大な結果が発生した地を結果発 生地とすべきである、という説もある。溜池・同上。

103 しかし、不法行為の是正のための实体法規定の目的は、不法(権利侵害のような)行為がされた地の 秩序維持にあるとともに、加害者と被害者との利害のバランスを図る上でも、一般に不法行為地が最密 接関係地であると考えられている。道垣内=澤木・前掲注(100)217 頁を参照。

104不当利得に関する制度は、法律上の原因なく他人の損失において利得した者に対し、その利得を償還 させるのが不当利得制度である。一般的に、不当利得について原因事实発生地法による。道垣内=澤木・

同上、237 頁。

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