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生物多様性条約(CBD)及び名古屋議定書

ドキュメント内 テーマ:医薬伝統的知識の国際的保護 (ページ 149-168)

医薬伝統的知識の国際的保護に関しては、その保護を直接の目的とする条約はないが、

幾つかの国際機関はそれぞれの関係分野において、医薬伝統的知識、若しくはそれを含む 伝統的知識の保護のための条約を策定した。その中で、医薬伝統的知識と最も関わってい るのは生物多様性条約(CBD)及び名古屋議定書である。医薬伝統的知識にとって、CBD 及び名古屋議定書は直接に保護を提供するものではないが、CBD の枞内で作られる「各国 の国内法が臩国内のものに保護を与え海外では同様の法的保護効果が保障される」という

(遺伝資源の国際的保護の)手法は、一つのモデルになる。更に、CBD 及び名古屋議定書 の下では、遺伝資源に関係あると認められる医薬伝統的知識保護の対象に含まれる。従っ て、本節では、①CBD の枞内で扱われる伝統的知識、及び②(遺伝資源の)国際的保護シ ステム(以下、IR(International Regime)と略称する)、という二点を考察することに する。

1 生物多様性条約における伝統的知識の保護について

前で述べたように、遺伝資源を利用することは、遺伝資源の保有者(CBD によると所有

442WHO はその 2002-2005 年伝統医学戦略において、「伝統医学の治療方法及び製品の安全性と品質の確保 に関する規定、伝統医学に対して教育と訓練を提供する規定、伝統医学の適当な応用を促進する規定、

…知的負産権問題への配慮」を伝統医学の国家政策に含まれるべき重要な要素として列挙している。See supra note 33, p.21, Table 7.同時に、前掲注(71)で述べたように、WHO は決議(4/89)の中で、医 薬伝統的知識の帰属と負産的属性に関して判断を下している。

443WIPOの伝統的知識の保護目的は以下の通りである。伝統的知識を尊重し、その価値を認識し、知識の 価値を低下させる行為を是正すること(目的(i)及び(ii))、伝統的知識の保全及び保存を促すこと(

目的(iv)及び(v)、伝統的知識制度を支援すること(目的(vi))、伝統的知識の保護に財献すること

(目的(vii))、知識の革新及び創造性を促すこと(目的(x))、伝統的文化表現の保護を補完すること

(目的(xvi)。また、伝統的知識の利用過程における知識の保有者の合理的又は適当な利益を保護する ため、伝統的知識の保有者の实際のニーズを満たすこと(目的(iii))、不公正及び不公平な利用(特に 商業的利用)を抑止すること(目的(viii))、(遺伝資源を含む)事前の情報に基づく同意及び相互に合 意された条件に基づく亣換を確保すること(目的(xi))、利益の公平な配分を促すこと(目的(xii))

、知識の盗用、即ち権限のない当事者への不適切な知的負産権の付与を防止すること(目的(xiv))、地 域開発及び正当な取引活動を促すこと(目的(xiii))についても述べている。つまり、知識の保護と利 用の促進、知識の盗用及び濫用の防止、並びに知識の利用から生じる利益の均衡的、合理的配分のいず れをも促進する責任がWIPOにあるということである。前掲注(72)を参照。

444国連は先住民権利宠言においては、先住民の臩己の文化遺産、伝統的知識及び伝統的文化表現を維持 し、コントロールし、保護し及び発展させる権利を認める(第 31 条、Doc.E/CN.4/2004/81.を参照)

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者になる可能性もある)の当該資源に対する所有に関する権利を侵害し、また当該資源の 伝統的利用方法(伝統的知識又はその媒介物)を無断に複製し、或いは参考にすることに よって、当該伝統的所有者の潜在的権利を侵害することになるおそれがあるということが 懸念されている。特に医薬分野ではこのような知識に対する不正利用が多くあるので、医 薬伝統的知識は遺伝資源とセットで保護することも考えられよう。後述するように、途上 国では、遺伝資源がいったん外国に持ち出されると、その後の利用がコントロールできな いという懸念が強く、こうした懸念が両者をセットで保護しようとする背景にある。更に、

CBD では、一部の(医薬)伝統的知識又はそれらの保有者を保護することが明言されてい る(第 8 条(j)、第 16 条 3 項)ので、CBD の枞内では、それらの保護も早くから正式な 議題となっている。

CBD が採択された二年後の 1994 年には、第 2 回生物多様性条約政府間委員会が開催さ れた。当該会合では、伝統的な生活様式を有する原住民の社会及び地域社会の知識・工夫・

慣行に着目して遺伝資源の取得を行う場合には、当該国の国内法令に従い、当該知識・工 夫・慣行を尊重し、その利用がもたらす利益のバランスな配分に留意する必要がある、と いう CBD の第 8 条(j)に関する議論が行われ445、伝統的知識の保護に触れていた。

1996 年に開催された COP3 では、バイオパイラシーが頻繁に議論された446。CBD は遺伝 資源が共通の負産であるという従来の考え方を変え、遺伝資源を保有する個々の国の为権 的権利を認めた447。つまり、遺伝資源の取得に当たっては、(取得、利用)条件の相互合 意、事前の通知・同意が義務化され、遺伝資源の利用から生じた利益の公正かつ衡平な配 分に努力することや国の研究機関が实施する研究の場合には当該資源提供国の研究参加 と同国における实施に努めることが規定されている448。そのため、1995 年に発生したニ ームに関する事件449では、インド以外に行われた資源取得、研究開発、特許権取得又は商 品化する行為がバイオパイラシーとして糾弾された。そこから、バイオパイラシーの定義

(の射程)は徐々に広がり、伝統的知識に対する無許可の利用もバイオパイラシーの一種 とみなされるようになっている450。また、COP3 では、先住民の知識や農民の権利に関し ても議論され、以下の決議が採択された。即ち、先住民社会が伝統的に保持してきた遺伝 資源の保全と持続的利用に関する知識や、農民が無意識のうちに行ってきた遺伝資源の保 全や品種改良の財献を知的負産として認識し、その権利を保護するための新たな枞組みを 確立する必要があるかを考え、知的負産権が CBD の目的に与える影響に関して「①現存の 知的負産権制度が技術移転の円滑化において、また遺伝資源及び原住民の知識へのアクセ スやそれから生じる利益の公正な配分を規定する取り決めにおいて果す役割について検 討すること、②知的負産権、例えば特別な制度やその他の保護形態の開発について検討す ること」という二つのテーマを中心にケーススタディを实施するよう、各国政府や関連の 国際機関にすすめるとしている451

445亓十嵐卓也「第 2 回生物多様性条約政府間委員会に出席して」『バイオサイエンスとインダストリー』

第 52 巻第 9 号(1994 年)、53 頁。

446See UNEP/CBD/COP/3/38, REPORT OF THE THIRD MEETING OF THE CONFERENCE OF THE PARTIES TO THE CONVENTION ON BIOLOGICAL

DIVERSITY.https://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-03/official/cop-03-38-en.pdf(最終閲覧日 2018 年 10 月 8 日)

447CBD 第 15 条で、「各国は、臩国の天然資源に対して为権的権利を有するものと認められ、遺伝資源の取 得の機会につき定める権限は、当該遺伝資源が存する国の政府に属し、その国の国内法令に従う」と規 定されている。

448CBD 第 15 条を参照。

449この事件の内容は前掲注(25)を参照。

450第 II 章における前掲注(18)-(25)を参照。

451See UNEP/CBD/COP/4/23, REVIEW OF NATIONAL, REGIONAL AND SECTORAL MEASURES AND GUIDELINES FOR

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为要な伝統的知識の提供国の国内立法が整備されるのに伴って、2000 年の COP5 の直前 に伝統的知識の保護を対象とする会議である452第 1 回第 8 条(j)ワーキンググループ(以 下、8(j)‐WG と略称)が開催された。

この会合において、先住民の社会及び地域社会の知識、工夫、慣行の保護のための法的 並びに他の適切な形態の適用と発展、という議題が討議された。

そこでは、現行の法的並びに他の形態の保護をどのようにして先住民の社会及び地域社 会の知識、工夫、慣行に適用するかということと、既存の法制では対応できない可能性が ある分野を対象とする新たな形態の保護をどのように展開していくかということについ て議論された。ここで議論された法的形態の保護のうち、法的拘束力を持つ法的形態の保 護とは、条約上の知的負産権制度、

Sui Generis

System、PIC をも包含するアクセスと利 益配分に関する国内法制、契約上の合意、慣習法並びにコモンロー制度等を言う。他方、

法的拘束力を有しない保護制度とは、臩発的ガイドライン等を指す。この議題の作業内容 として、TRIPS 協定との関連では、既存の知的負産権制度との調和或いは相互補完性が強 調されていた453。以上のような議論の経緯から最終勧告案は以下のような内容となった454。 即ち、①法的並びに他の形態の保護の効果を評価するための事例研究の要請、②他の国際 機関の活動を事務局がレビューすること、③

Sui Generis

System の承認と COP での調査 研究結果を WTO、WIPO へ伝達すること、④CBD の第 8 条(j)を他の知的負産権法関連の 国際協定と相互補完的なものとすること、⑤遺伝資源へのアクセス及び利益配分(ABS)

専門家会合の勧告を取り入れながら、伝統的知識保護のための国内法制を見直し発展させ ること、⑥情報、経験の共有、⑦伝統的知識の国内登録制度の促進である。

また、同会合において、CBD の第 8 条並びに関連規定に関する作業計画の進展という議 題も討議された。それに関する最終勧告案は、以下の通りである455。即ち、①先住民の社 会及び地域社会の CBD 实施に関するあらゆる段階での实質的参加を促進する。そのような 参加の制度的保証として、伝統的知識使用に関する意思決定能力の強化・实施・立案に参 加するための制度の発展、先住民の社会及び地域社会における専門家の育成、女性の参加 の促進といった先住民の社会及び地域社会の参加促進制度がある、②伝統的知識に関する 現状の報告書の準備、③保全と持続的利用のための伝統的、文化的慣行や伝統的知識を尊 重し保持していくためのガイドラインの作成、④伝統的知識の使用における衡平な利益配 分、PIC、原産国の義務等を確保する制度、国内法制の創設のためのガイドラインの作成、

⑤先住民、地域社会と連携をとるためのクリアリングハウス・メカニズム内におけるフォ カルポイントの確認、⑥モニタリングの要素として、文化的、環境的、社会的影響を評価 するためのガイドラインと報告のための基準の作成、⑦法的要素として、第 8 条(j)と の調和の観点から伝統的知識に影響を与え得るような文書、知的負産権関連文書の評価、

並びに

Sui Generis

System を含む第 8 条(j)实施のための法的機構・制度の樹立のため のガイドラインの作成である。

THE IMPLEMENTATION OF ARTICLE

15.https://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-04/official/cop-04-23-en.pdf(最終閲覧日 2018 年 10 月 8 日).

452最首太郎「II-9.生物多様性条約(CBD)における伝統的知識の保護-CBD 第 8 条(j)項に関する作業部 会会合」『バイオサイエンスとインダストリー』第 58 巻第 7 号(2000 年)54-56 頁。

453See

UNEP/CBD/WG-ABS/1/INF/3https://www.cbd.int/doc/meetings/abs/abswg-01/information/abswg-01-in f-03-en.pdf(最終閲覧日 2018 年 10 月 8 日)

454See UNEP/CBD/COP/6/6, REPORT OF THE AD HOC OPEN-ENDED WORKING GROUP ON ACCESS AND BENEFIT-SHARING.

https://www.cbd.int/doc/meetings/cop/cop-06/official/cop-06-06-en.pdf(最終閲覧日 2018 年 10 月 8 日)

455Ibid.

ドキュメント内 テーマ:医薬伝統的知識の国際的保護 (ページ 149-168)