6-1 はじめに
本研究では,デバイスへの照射損傷が少なく,微細化に適したエッチング技術の開発を目的に 低エネルギープロセスである光励起エッチングの基礎と実用化可能性を検討した結果を論じた。
さらに従来の反応性イオンエッチング(RIE)の課題を、マグネトロンRIEの開発によって克服し,
反応メカニズムの理解と高精度プロセスの研究開発を実施した。
本章では、本研究の各章毎の成果をまとめ、本研究終了後の開発状況とその後の研究に与えた インパクトを述べ、本研究の学術および産業への貢献を示し結論とする。
6-2 本研究の成果
第1章では、背景として本研究を開始する時点でのドライエッチング技術開発の経緯とその技 術課題について概説した。また、本研究の目的、意義を明らかにし、本論文の構成を明示した。
第2章では、プラズマによるデバイスへの照射損傷のない加工技術として光励起によるエッチ ングを総合的に検討した結果を示した。
ゲート電極材料のpoly-Siの加工では、Pを高濃度に添加した抵抗値の低いn+ poly-Siは、光解離 したCl原子と自然に反応が進むため等方的なエッチング形状になる。無添加のundoped poly-Si ではエッチング速度は遅いが、光照射部のみがエッチングされ、光を通さないマスクを使用する ことで異方性加工の可能性が示された。n、pの伝導型とpoly-Si膜のシート抵抗についてエッチン グ速度を調べ、n型ではP濃度が高くなるほどエッチング速度が高く、p型では逆にB濃度に従い エッチング速度が低下する。Bの高濃度添加で低抵抗な場合には特にエッチングされにくい。
エッチング反応に伝導帯中の電子が寄与していると推測され、光照射により価電子帯から励起 された電子が表面に吸着したClを負イオン化し、同時に形成された表面電界で引き付けられるこ とで表面での反応が促進されるモデルを提案した。また、膜の表面付近に強い電界が存在する場 合にエッチング反応が促進される模擬実験、SiO2膜を使って行い、上記モデルの妥当性を示した。
ゲート電極材料に使われるn+ poly-Siの異方性加工を実現するために、Cl2ガスに堆積性のガス を加えて導入し、側壁保護膜の形成を試みた。その結果、パターン側面では堆積膜が形成され、
レーザ照射のある底面ではエッチングが進み異方性形状の加工に成功した。しかし、光の回折効 果により、微細なパターンではパターン底へ到達する光に強度分布が発生し、特にコーナー部で 形状が裾を引く現象があることがわかった。光による加工の限界を破るためには、光照射強度に 対して非線形な(レジストの露光プロセスのような)反応系の探索が必要であることを議論した。
照射損傷を評価し、XeCl(308nm)、KrF(249nm)レーザ照射ではゲート絶縁膜に劣化は生じな いが、ArF(193nm)レーザ照射によりSiO2に中性の電子トラップが発生することがわかった。こ れはSiO2中のOHなどの不純物とSiの結合を光が励起し、ダングリングボンドが形成されるため と考えた。さらに、MOSFETを製作し、RIEを使用した場合と光照射した場合で特性を比較した
結果、RIEでゲート電極を加工した場合には後の工程で熱処理(950℃、30min) を経ても電子ト ラップが残り、その傾向はゲート長が短くなるほど顕著であった。
最初にpoly-SiのRIEで損傷を受けた試料に、さらにコンタクトホール形成、アルミ配線工程
においてRIEを適用すると損傷が蓄積されていくこともわかった。 一方、ArFレーザ照射した 場合には中性トラップの発生はあるが、いずれも450℃の熱処理で回復することを確認した。
以上から、光励起エッチングは、照射損傷については RIEに対し優位性があるが、加工速度、
精度の点で、光の回折による限界があり、超LSIへ直ちに適用することは難しい。しかし、光励 起エッチングは、極めて照射損傷の少ないドライプロセスが要求される高輝度、高効率の発光ダ イオードやマイクロセンサーの加工などの加工技術として有効であると考える。また、反応機構 の解析で得た知見は、高性能なRIE装置などのプラズマ励起表面反応の研究開発へ生かすことが できると考える。
第3章では、マグネトロンRIEの研究開発の経緯を端緒からまとめた。
マグネトロンRIEではカソード(ウェハ)と平行に磁界を与え、電子のE x Bドリフトを起こし 電離率を上げることで、従来より低い10-3 Torr台のガス圧力領域においても高い電子密度のプ ラズマの形成が可能である。また、磁界で電子が拘束され、イオンエネルギーに対応する自己バ イアス電圧(Vdc)が低下する。これらの特長から、高いエッチング速度と低照射損傷のプロセ スを実現する能力がある。
ところが、ウェハ付近の磁界強度分布に急激な変化があると、ウェハ表面電位が不均一になり、
表面にトランジスタや容量あるいはそれらの素子に繋がる配線が露出した場合に、薄いゲート SiO2膜を絶縁破壊することを突き止めた。そこで数々の磁石構成を調査し、磁界分布の均一化を 進めることでウェハ表面電位分布を低減した。初期のレーストラック型磁石から、プレーナ型、
さらにウェハ上でほぼ均一な一方向磁界を実現するダイポールリング(DRM)型磁石などの新た な磁石を提案した。しかし、均一強度の磁界においても磁気方位のE-W方位軸に沿って、W方向 へ電子がドリフトするために、E方位からW方位に向けて電子密度分布勾配が発生する。そこで、
最終的にはDRMをさらに改良し、E-W方位軸に沿い磁界強度が徐々に減衰する磁界分布の磁石 を設計し、照射損傷の低減と高性能化を両立することに成功した。
第4章は、マグネトロンRIEを用いた超LSI製造のためのエッチングプロセス技術の研究開 発について、被エッチング材料毎に詳しく論じた。
まずSiトレンチエッチングでは、当初比較的圧力の低い10-3 Torr台でCl2ガスを使用してプロ セスを開発したが、エッチング速度、形状、選択比などを両立させるために、臭素、フッ素、酸 素を含むガスを採用した。超高アスペクト比トレンチの加工では、数々の形状異常が観察された が、イオンエネルギーとプラズマ密度を磁界強度により最適化し、開口径0.2µm弱、深さ10µm 以上(アスペクト比54)の極めて微細なトレンチ形状を達成した。これにより、本方式のマグネ トロンRIE装置が、トレンチ容量を使用したメモリデバイス用の最高性能の生産装置として1990
年代の後半以降使用し続けられている。
ゲート電極であるn+ poly-Siの加工では、Cl2ガスのマグネトロンプラズマ中でウェハ温度を
0℃以下に冷却することで、SiO2のエッチング速度が著しく低下し、選択比が向上することを発
見した。その機構を追及し、SiOxClyのような不飽和なエッチング生成物がSiO2膜表面だけに選 択的に堆積し、エッチング反応を抑制する現象を見出した。BaFなど強いイオン性結合をもつ化 合物表面にこの選択堆積が生じやすいことから、Si-Cl、Si-Oなどダイポールモーメントが大 きく、極性の強い結合を持つ生成物が同様にイオン性結合を持つ材料表面でクーロン引力により 引き付けられることで堆積が促進されるモデルを立てた。また、SiCl4とO2ガスをわずかに添加 することでSiOxClyをプラズマ中で生成し、さらに高い選択比が得られることを確認した。
配線材料のAl‐Si合金の高精度加工をCl2ガスのマグネトロンRIEで達成した。AlはCl2ガスと 自然に反応し、異方性エッチングのためには厚い側壁保護膜の形成が必要であった。ガス圧力を
10-3Torr程度まで下げることで精度の高い加工が実現できる。また、堆積性のガスを添加するこ
とで、テーパー形状の加工が可能となり、後のCVD工程で層間絶縁膜の埋め込みが容易になり、
配線の信頼性が向上できた。実際に2層配線の構造を製作してその効果を確認した。
コンタクトホールの加工では、自己整合コンタクト(SAC : Self-Aligned Contact)プロセス の構築と、更なる微細化の過程で発見したアスペクト比に依存してエッチング速度や選択比が低 下する現象について議論した。その原因を、微細なホールを通過するイオン種やラジカル種を計 測することで推定した。その結果、チャージアップによりイオンエネルギーが低下、イオン軌道 が偏向され、さらにFを多く含み吸着確率が低いCFxラジカルが穴底まで到達しやすいことが判 り、アスペクト比依存の原因を特定した。O2ガス添加によりCF系堆積膜が減少し、チャージア ップが低減されて、アスペクト比依存性が緩和されることがわかった。
以上から、直径100nm レベルの微細なコンタクトホール加工に成功し、生産技術として広く 採用されるに至った。
地球温暖化ガスであるPFC(Perfluoro Compounds)の排出量を削減する技術として、一度エ ッチングチャンバから排気したガスの一部をチャンバへ戻し再利用する実験を行い、全流量の 80%を循環させても、同等のプロセス性能が得られることを確認した。このことは、ガスの利用 率の低さと見掛け上のガス滞在時間が短くなったことに起因していると考えられる。本技術の開 発により比較的低コストで簡易に PFC 排出量の削減が可能となり、ガスを有効に使用するため ガス使用量も低減できることがわかった。
最後に、チップを積層することでデバイスの高集積化、高性能化あるいはシステム化を実現す る高密度実装技術のキー技術であるチップスルーホールの加工技術を研究した。SF6/O2ガスを使 用し、励起周波数を従来の 13.56MHzから40MHzまで上げ、さらにガス圧力を高くすることで 大量のFを発生させることで、50µm/min以上で超高速にSi基板をエッチングすることが可能とな った。O2ガスの導入でエッチング形状を制御することで、垂直から緩やかな順テーパまで形状を 制御して形成できる。高密度プラズマを少ない体積のチャンバ内で形成できるというマグネトロ ンRIEの特長を生かして、今後もこのように数々の応用が検討されると考えられる。