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穀物価格高騰に関する分析

ドキュメント内 Microsoft Word - H24バイオ燃料最終報告.docx (ページ 79-86)

3. 諸外国におけるバイオ燃料を取り巻く動向の基礎調査

3.5 穀物価格高騰に関する分析

域における生態系の状況等、国が必要とする情報を国に提供することとする。」と定められ ており、土地利用権利の保護についても、これと同様の規定を設けることが考えられる。ラ ンドラッシュについては、日本国内外の非営利団体や研究機関が広く事例情報についての提 供を行っていることから、石油供給事業者がバイオ燃料の調達に際して、このような公開情 報をもとにランドラッシュの懸念があるものかどうかを確認することは、一定程度可能であ ると考えられる。

3)政府の対応

EPA は嘆願書の提出を受け、パブリックコメントの募集、エビデンスの収集、影響分析 を実施した8。様々な大学、エネルギー関係の民間コンサルティング会社、英国環境・食糧・

農村地域省(DEFRA)による分析が提出された。

EPA は、RFS 制度による穀物価格等への影響分析評価として、2008 年のテキサス州か らの免除嘆願書提出時に分析に用いたものと同じ、アイオワ州立大学のBruce Babcock氏 のモデル(詳細後述)を適用した。シナリオ分析結果は、2012-13年度の義務量免除がエタ ノール生産や使用に重大な影響を与える可能性はほとんど無く、トウモロコシや食料、もし くは燃料価格にもほとんど、もしくは全く影響を与えないというものであった。

また、干ばつによる米国のトウモロコシ等への生産への重大な影響があったことを認識し つつ、大気汚染防止法で定められた EPA の判断基準に照らすと、寄せられた分析結果は EPAが義務量免除を認めるだけのエビデンスにならないと判断した。

以上より、EPAはRFS制度の義務量免除を却下した。

(2) EU

1)概要

2012年10月17日、欧州委員会は燃料品質指令と再生可能エネルギー指令の改正指令案

9を発表した。同改正案は今後、欧州議会及び欧州閣僚理事会で検討される予定である。

同改正案には、加盟国政府は、2020年バイオ燃料の輸送用燃料最終消費量に占めるバイ オ燃料の割合を 10%にするという導入目標を負っているが、従来型の食用作物を原料とす るバイオ燃料(穀物、でんぷんが豊富な作物、砂糖、油糧作物)の割合は5%までとするこ とが定められた。

2)背景

EU の持続可能性基準は、当初の温室効果ガス排出量評価において間接土地利用変化

(ILUC)に伴う温室効果ガス排出を考慮していなかった。欧州委員会は間接土地利用変化 の影響を評価するために、様々なモデル分析や既存文献のレビューを実施していた。今回の 指令改正案による、食用作物を原料とするバイオ燃料の割合を規制する目的は、先進的バイ オ燃料への移行を進めることで、ILUCの影響を最小化させることである。

穀物価格高騰に直接対応するものではなく、指令改正案の影響評価レポートにおいては、

ILUCの考慮は、穀物を含む農作物価格の高騰圧力を緩和すると言及されている。

8 Notice of Decision Regarding Requests for a Waiver of the Renewable Fuel Standard (November 2012)

9 European Comission, Brussels, 17.10.2012, SWD(2012) 343 final

3.5.2 バイオ燃料生産と食料価格との競合の分析

上記のようなバイオ燃料生産と食料価格との競合を分析した2012年以降の研究事例を中 心に、近年の穀物価格の変動の要因についての学術的見解を把握した。

(1) 概要

2012 年に発表された論文には、米国、EU のバイオ燃料の政策に対するものがあった。

各文献の概要は表 3-21のとおりである。

米国の文献は、干ばつによる作物の不足が短期的にもたらす経済的影響の評価を行ったも ので、RFS制度自体の影響は少ないと結論付け、2012年11月のRFS義務量免除嘆願の否 決の根拠のひとつとして利用された。RFS 制度の経済への影響が大きいとする主張は主に 業界団体によって為されていたが、いずれも十分な根拠を欠くとEPAには判断された。

一方で、EUの文献は、発展途上国への影響や、バイオ燃料の生産拡大が長期的に物価に 与える影響を分析したものである。これらは EU のいずれもバイオ燃料政策の影響がある と結論付け、人道的な見地あるいは食料物価への影響を緩和するために導入義務政策の見直 しを求めるものである。

表 3-21 研究事例(総括表)

事例 概要

米国 Bruce babcok(アイオワ 州 立 大 学 ), “Updated Assessment of the Drought’s Impacts on Crop Prices and Biofuel Production”, 2012

米国RFS制度(マンデート)に柔軟性措置が導入されたこ とにより、作物の不足による経済的な影響が小さくなった。

しかし、現在のエタノール価格は、石油会社のエタノール への支払意思を反映したものであるため、エタノールの生 産量が増えない限り、エタノール価格は高いままであり、

マンデートが廃止されたとしても食用のトウモロコシに強 く競合する。今後の価格の動向は、石油会社がどの程度柔 軟性措置を活用するかに依存する。

EU Oxfam, “THE HUNGER GRAINS The fight is on.

Time to scrap EU biofuel mandates.

EU biofuel”, 2012

EUのバイオ燃料政策によって、発展途上国の人々の食料、

土地、水などが奪われている。2008年以降、EUにおける バイオ燃料の生産のために、1.27億人の穀物が消費された。

EUはバイオ燃料に対するマンデートを廃止すべきである。

IEEP, “EU biofuel use and agricultural commodity prices: a review of the evidence base”, 2012

EU の現在の輸送部門における再生可能エネルギーの導入 目標値から、2020年にはバイオ燃料の使用量が2008年の 3 倍になると見込まれる。この需要の増加により、農産物 の価格の上昇が予想される。バイオ燃料の需要を削減また は廃止することで、バイオ燃料政策による農産物市場、消 費者食品物価への影響を減らすもしくは防ぐことができる であろう。今後、欧州委員会は、再生可能エネルギー推進 のための他の方法と、政策にさらなる柔軟性を持たせるこ とを考えるべきである。

国際 FAO, IFAD, IMF, OECD, UNCTAD, WFP, the World Bank, the WTO, IFPRI and UN HLTF,

“Price Volatility in Food and Agricultural Markets: Policy Responses”, 2011.

2007~2009年の間に、サトウキビの 20%、植物油や低品

質穀物の9%、テンサイの4%がバイオ燃料の原料に利用さ

れた。様々な文献で、バイオ燃料需要増加が農作物価格に 与える影響の程度は非常に幅を持って評価されているが、

価格押し上げ圧力になることは間違いない。バイオ燃料の 導入義務政策は、農作物価格の硬直性を悪化させ、農作物 価格のボラティリティを高めるだろう。

(2) 代表文献の詳細

著者・機関 Bruce Babcock (アイオワ州立大学) 発行年 2012

文献名 Updated Assessment of the Drought’s Impacts on Crop Prices and Biofuel Production

対象地域 米国

対象期間 2012年の予測

文献の位置付け アイオワ州立大学の経済学者が干ばつによる作物の不足がもたらす経済的影 響の評価を行ったもの。本分析は、EPAによって、2012年11月のRFS義 務量免除嘆願の否決の根拠のひとつとして利用された。

主な結論

米国RFS制度(マンデート)に柔軟性措置が導入されたことにより、作物の不足による経済 的な影響が小さくなった。しかし、現在のエタノール価格は、石油会社のエタノールへの支払意 思を反映したものであるため、エタノールの生産量が増えない限り、エタノール価格は高いまま であり、マンデートが廃止されたとしても、食用のトウモロコシに強く競合する。畜産業団体が 望んでいるように、マンデートにさらなる柔軟性を導入したとしても、トウモロコシの価格は彼 らが期待している程下がらない。今後の価格の動向は、石油会社がどの程度柔軟性措置を活用す るかに依存する。

政策提言

トウモロコシの価格を下げるためには、米国政府はマンデートを廃止すべきである。

食料価格に関する分析結果

マンデートの柔軟性措置が取られない場合、取られた場合、マンデートが無い場合について、

トウモロコシと大豆の価格をシミュレーションしたところ、マンデートに柔軟性が導入されたこ とにより、作物の不足による経

済的な影響が小さくなったこと が分かった。しかし、現在のエ タノールのガソリンに対する相 対価格は、石油会社のエタノー ルへの支払意思を反映したもの であるため、エタノール混合比 率以上にエタノールの生産量が 増えない限り、エタノール価格 は高いままであり、マンデート が廃止されたとしても、食用の トウモロコシに強く競合すると いうことも示された。

食料供給量に関する分析結果 言及なし

分析の手法

確率的部分均衡モデルを用いて、収穫高やガソリン価格の確率的な変動を含む予測値、エタノ ールの需要曲線などから市場決済価格を算出した。

著者・機関 OXFAM 発行年 2012

文献名 THE HUNGER GRAINS

対象地域 EUに関係性の高い発展途上国 対象期間 ここ数年の動向と2020年までの予測 文献の位置付け EUのバイオ燃料政策への提言 主な結論

EUのバイオ燃料政策によって、発展途上国の人々の食料、土地、水などが奪われている。2008 年以降、EUにおけるバイオ燃料の生産のために、1.27億人の穀物が消費された。EUはバイオ 燃料に対するマンデートを廃止すべきである。

政策提言

◯EUの各政府はバイオ燃料に対するマンデートを廃止すべきである。

◯欧州委員会、欧州議会、EUの各政府はEU Renewable Energy Directive of 2009を見直すべ きである。

◯EUのpost-2020 Renewable Energy Strategyは、現在のバイオ燃料政策が、食料の安全や発 展途上国における土地入手の権利に悪影響を及ぼしているということを含むものにすべきであ る。また、輸送部門に関しては、新たな目標値を設定すべきでない。

◯EUの各政府は、他の G20参加国に、バイオ燃料に対するマンデートと助成金を廃止するよ う後押しすべきである。

食料価格に関する分析結果

2010年以降、農産物の価格は上昇傾向にある。これには北アメリカの干ばつやロシア、黒海 地方における不作の影響も含まれて

いるが、主な引き金となったのはバイ オ燃料に対する国際的な需要である。

さらに需要が高まれば価格の高騰は 避けられず、最近の計算モデルによる と、EUのバイオ燃料に対するマンデ ートの影響により、2020 年までに、

油料種子では20%、植物油では36%、

ト ウ モ ロ コ シ で は 22%、 砂 糖 で は

21%、小麦では13%の価格の高騰が見

込まれている1)

食料供給量に関する分析結果 言及なし

分析の手法

今回の調査で用いている数字は、IEEP1)及び Actionaid2)の調査結果を引用したものである。算 出方法としては、部分及び一般均衡モデルを用いている。

1) IEEP, “EU Biofuel use and agricultural commodity ptices: a review of the evidence base”, 2012

2) Actionaid, “Biofuelling the global food crisis: why the EU must act at the G20”, 2012

ドキュメント内 Microsoft Word - H24バイオ燃料最終報告.docx (ページ 79-86)