3. 諸外国におけるバイオ燃料を取り巻く動向の基礎調査
3.7 セルロース系バイオエタノールの市場化動向調査
3.7.1 米国の動向
米国EPA「Regulation of Fuels and Fuel Additives: 2013 Renewable Fuel Standards;
Proposed Rule」等を基に、最近の米国でのセルロース系バイオエタノールの動向に関し 整理した。
Abengoa、BP、Coskata、DuPont Danisco、KL Energy、KiOR、Poet社などが小スケ ールの設備の運転に成功していたが、研究開発レベルのものであったために、生産されたセ ルロース系バイオ燃料の総量は非常に少なく、業界全体で 100 万ガロン(正確な数字では ない)にも満たなかった。
2012年に実生産施設の建設を終え、2013年の第1四半期に操業予定であるINEOS Bio 社とKiOR社に続き、Abengoa社も 2013年内に生産を開始する予定であり、2013年は、
セルロース系バイオ燃料業界にとって実生産への移行の年となると考えられている。
2012 年の EPA の生産量推計では、実際に生産・販売可能なセルロース系バイオ燃料生 産施設として6つの施設において生産が行われるとしている。内5つの施設では既に建設 が終了しており、残る1つの施設では既存のトウモロコシ系バイオ燃料施設の改良を2013 年前半から行う予定である。6つの施設は現在、既にRFSへの登録を済ませており、セル ロースのRINsが発行可能である。
以下に、主な企業の動向を整理する。
API (American Process Inc.)
ミシガン州Alpenaの施設において、最大90万ガロン/年のセルロース系バイオ燃料を 木質バイオマスから生産する予定である。施設では独自の技術(GreenPower+TM)を 用いており、温水を用いて木質バイオマスのヘミセルロースを抽出し、糖に加水分解し た後にエタノールや他のアルコールに変換する。木質バイオマスの残りの部分は、同敷 地内にある施設で木のパネルに加工する。将来的には、より大規模な施設で余ったバイ オマスをボイラーで燃焼させることで、セルロース系バイオ燃料と再生可能蒸気、電気 を同時に作るという構想を持っている。エネルギー省から最大で 1,800 万ドルの助成 金を得て、2011年3月に施設の建設を開始し、2012年の夏に試運転を開始した。2013 年内の生産開始が期待されている。
Fiberight
酵素による加水分解を用いて、都市ごみ・他の廃棄物から分別したバイオマス部分
(biogenic portion)をエタノールに変換する技術を開発した。アイオワ州の閉鎖され たトウモロコシ系エタノールプラントを買い取り、都市ごみと産業廃棄物から 600 万 ガロン/年のセルロース系バイオ燃料を生産可能なプラントへと改良する予定である。
資金不足により工事の予定が遅れたが、2012年1月に、農務省に2,500万ドルの融資
保証を申し出ており、2013年の春に着工し、半年後に完成の見込みである。2012年6 月にRINs発行の許可も下りている。
INEOS Bio
セルロース系原料をガス化技術によって合成ガスにし、バクテリアを用いて合成ガス を発酵させてエタノールにする技術を開発した。最初の商用施設(800 万ガロン規模)
の建設費として、エネルギー省からの最大 5,000 万ドルの助成金に加え、農務省から
7,500万ドルの融資保証を受けた。初期始動後は原料として都市ごみを使用予定であり、
2012年8月にEPAから認可を受けた。2012年11月から少量であるがセルロース系エ タノール生産を行うなど初期段階にあり、2013年は最大規模の生産(800万ガロン)を 目指している。国内外にさらに複数のセルロース系エタノール用の実生産施設の建設を 模索している。
KiOR
自社で開発した触媒を用いたバイオマス流動式接触分解(Biomass Fluid Catalytic Cracking:BFCC)プロセスにより、バイオマスをバイオ原油に変換する技術の商品化 を目指している。最初の実生産施設(1,100万ガロン規模)は2012年9月に完成してい る。2013年の第1四半期にセルロース系バイオ燃料RINsの発行が期待されている。
Blue Sugars (前KL Energy)
化学的・熱的な前処理を複合した前処理過程を用いてセルロースとヘミセルロースを 糖に変換し、酵素加水分解とC5糖C6糖の同時発酵によりエタノール化する技術を開 発している。このプロセスは、木質バイオマス、草本バイオマス、サトウキビバガスな どを含む様々なバイオマスに適用可能である。2010年8月、Petrobras America Inc.との 共同開発契約を発表している。Petrobras は、バガスなどのバイオマスが適用可能とな
るようにWyomingのデモンストレーション設備の改良に投資を行っており、設備の改
良は2011年春に完了した。2012年4月、約20,000のセルロース系バイオ燃料RINs(RFS プログラムにおいて最初のもの)を発行した。Wyomingのデモンストレーションプラ ンは、最初の商業設備(アメリカまたはブラジル)の建設の準備に向けた技術改良を目 的としている。
ZeaChem
2012年10月、オレゴンにおいてセルロース及びヘミセルロース由来の糖からエタノ ールを生産するデモンストレーション施設を完成させた。生化学と熱化学の技術を融合 させた生産プロセスであり、セルロース系原料より、エタノール及びその他の再生可能 化学品(renewable chemicals)を生産する。原料として、農業残渣と廃木材を用いる計 画である。最初の実生産施設(2,500万ガロン/年規模)を建設するため、農務省から2
億3,250万ドルの融資保証を受けている。最初の実生産施設の始動は早くても2014年
後半になる見込みである。
Abengoa
2013年内の実生産施設におけるセルロース系バイオ燃料の生産とRINsの発行が期待 されている(遅れが生じる可能性が小さくないため、EPAの試算には含まれていない)。
トウモロコシ茎葉や他の農業廃棄物からエタノールを生産するために酵素加水分解技 術を用いる予定である。ネブラスカでのパイロットスケールの設備、スペイン・サラマ ンカ(Salamanca)でのデモスケールの設備での試験や技術改良を経て、2013年の第 4四半期に、カンザスにおいて実生産施設(2,400万ガロン/年規模)が完成する予定で ある。実生産施設建設のため、エネルギー省から1億3,200万ドルの融資保証を受けた。
カンザスでの最初の商業規模での施設で成功した後は、新規の場所での設備建設、また は既存のデンプン系エタノール施設での併設型での施設建設を計画している。
Poet
セルロース系バイオマスをエタノールに変換するための酵素加水分解プロセスを開 発した。セルロース系エタノールの技術の商業化、ライセンス化を行うため、2012 年 にオランダのRoyal DSMと合弁会社(Poet-DSM Advanced Biofuels)を設立した。最初 の実生産施設(プロジェクトLIBERTY と呼ばれる施設。当初は2,000 万ガロン/年で、
その後、2,500 万ガロン/年規模に拡大)は、アイオワにおいて2013年末に完成の予定 である(EPAは、2014年までは商業生産は期待できないと考えている)。最初の実生産 施設が成功した後には、Poet の既存のトウモロコシ系エタノールプラントにセルロー ス系エタノール施設を建設する計画である。また、他の穀物系エタノールプラントの技 術もライセンス化し、麦わら、もみ殻、木質バイオマス、草本エネルギー作物を加工す るプラントを建設する計画をもっている。2022 年までにセルロース系エタノールの生 産量を35億ガロン/年にすることを目標としている。
3.7.2 欧州の動向
スイスの化学企業である Clariant社は、ドイツ・Straubing においてセルロース系エタ ノールのデモンストレーション規模の生産施設を設置した。この工場は、2012年7月から 稼働しており、小麦わらなどの農業廃棄物を原料に、Sunliquidと呼ばれる同社独自の技術 により、小麦わら4,500トンから1,000トンのセルロース系エタノールを製造している11。
Abengoaはセルロース系バイオエタノール生産施設をスペイン・サラマンカ(Salamanca)
にあるBCyL Biomass工場において、2008年12月に完成させ、2009年9月からフル稼動
11
http://ethanolproducer.com/articles/8973/sunliquid-cellulose-ethanol-process-reaches-demo-scale-in-ge rmany
している。2012年1月、Abengoaは砂糖エネルギー部門の産業改革プログラムの一環とし て、ブラジルのサトウキビ・わら・バガスからエタノールを生産するセルロース系エタノー ル技術を使用することを発表した12。
DONG Energyの子会社Inbiconは、デンマークKalundborgにおいて、大麦/小麦わら からエタノールを生産するプラントを設置し、5.4千KL/年のセルロース系エタノール、
11,400トン/年のリグニンペレット、13,900トン/年のC5モラセスの生産を行っている。酵 素に関しては、Danisco Genencor、Novozymes、Royal DSMより供給を受けている13。
Beta renewables社は、イタリアのCrescentionoにおいて、年間生産能力5万キロリッ トルの「BEST cellulosic ethanol project」を計画している。この計画では、ダンチク(Arundo
donax。イネ科の多年草)や小麦わらなどの非可食バイオマスを、PROESAプロセスと呼ば
れるBeta renewables社独自の方法で、糖化し、エタノールを生産する。このプロセスは、
Beta renewables社が2億ドルを越える投資を行いしたものである14。
表 3-22 EUにおける実証中の主なセルロース系エタノールプロジェクト
(1000トン/年以上)
工場所有者 設置場所 原 料 生産規模
(トン/年)
Clariant (ex Sud Chemie)
ドイツ Straubing,
農業残渣、小麦わら 1,000
Abengoa Bioenergy, Biocarburantes Castillay
Leon, Ebro Puleva
スペイン Babilafuente, Salamanca
大麦/小麦わら、コーンスト バー(25 000トン/年)
4,000
Inbicon (Dong Energy) デンマーク Kalundborg
小麦わら、その他のリグノセ ルロース(30 000トン/年)
4,300
Beta Renewables (JV Chemtex (M&G), TPG, Novozymes)
イタリア Crescentino
非食品バイオマス(giant cane、小麦わら)
40,000
出典)Status report on Demonstration Plants for advanced Biofuels Production - Biochemical Pathway, 2013年2月 (http://www.biofuelstp.eu/spm5/pres/monot.pdf)
12 http://www.biofuelstp.eu/cell_ethanol.html
13
http://www.inbicon.com/Biomass%20Refinery/Pages/Inbicon_Biomass_Refinery_at_Kalundborg.aspx
14 http://www.betarenewables.com/Crescentino.html