3. 諸外国におけるバイオ燃料を取り巻く動向の基礎調査
3.2 ブラジルの動向調査
3.2.1 サトウキビ生産、エタノール生産等の現状・将来見通し
サトウキビ生産はこれまで年率 10%程度の拡大を見せていたが、近年停滞している。主 な理由は以下の通り。
リーマンショック等の影響による新規植え替えの先送りによる単収減
通常は16%/y(6年毎に植え替え)の植え替えだが、過去2年は10~12%/y(8~10
年毎に植え替え)にとどまる。古い株ほど成長が悪いため、植え替えの先送りで単収
は20%程度減少。
天候不順
ガソリン価格が政府により統制されており、エタノール価格に対して事実上の上限価 格的に機能しているが、エタノール生産コストの上昇に伴う投資意欲の減退
エタノール生産量の停滞により、2011年にはブラジルは正味でエタノール輸入国に転じ ている。
図 3-2 サトウキビ生産量の推移 出典)ブラジル農業家畜食料供給省(MAPA)提供資料
図 3-3 エタノール生産量の推移 出典)ブラジル農業家畜食料供給省(MAPA)提供資料
なお、以下のとおり、ここ数年の生産の落ち込み要因のうち、天候不順以外は一定の対応 がとられていると言える。
政府は植え替えを支援するプログラム(低金利融資)を実施しており、経済状況も回 復基調にあることから、植え替えのサイクルは再び短縮されつつある。
経済情勢の悪化により企業の統合等、産業構造に変化が起きている。短期的には負の 影響だが、中長期的に見れば効率化につながることが期待される。
石油の輸入増加やブラジル国内の原油の生産低下などの要因でペトロブラス石油公 社の収益が圧迫されているため、連邦政府は 1 月末にガソリン並びにディーゼル燃 料の卸売価格の値上げ(ガソリン6.6%、ディーゼル5.4%)を許可。
図 3-4 ブラジルにおけるサトウキビ・エタノール業界の構造変化 出典)UNICA提供資料
ブラジル政府の予測では、燃料用エタノール需要は2020年までに6,310万kLと現状の 2.5倍程度に増加するとされている。2020年におけるエタノールの輸出量の予測は680万 kLと、国内需要の1割程度であり、国内需要が中心である構造は変わらない。
図 3-5 ブラジルにおけるエタノール需給の将来見通し 出典)ブラジル農業家畜食料供給省(MAPA)提供資料
これらの需要を満たすために必要となるサトウキビ工場の新設件数は約 90 件であるが、
ここ数年経済状況の悪化等により、サトウキビ工場の新設件数は激減しており、必要な新設 件数が確保できるかは不透明な状態である。
図 3-6 ブラジル南西部におけるサトウキビ工場の新設状況 出典)UNICA提供資料
3.2.2 エタノールに関する政策動向
ブラジルでは、エタノールに関する政策は農業家畜食料供給省(MAPA)、MME、開発・
商工貿易省、財務省からなる砂糖アルコール委員会(CIMA)で決定される。ガソリンに対 する混合率設定もこれに含まれ、農務省が議長であることから、法律上は農務省令として定 められている。CIMA の決定は全会一致であることが必要である。他方、エネルギー政策 はCNPE(国家エネルギー政策審議会)で検討される。CNPEはMME大臣が議長であり、
そのほか関連省庁や地方政府、有識者が参加している。
現行法ではエタノール混合率は 18~25%の間で設定すると定められており、現在の水準
は20%である。混合率はCIMAにおいてエタノールの生産量や価格動向等を考慮して設定
され、必要に応じていつでも見直すことが可能である。なお、サトウキビの収穫が本格化す る5月に混合率を25%に戻すことが決定されている。
エネルギー政策上の観点からは、エタノールについては供給安定性の確保が最大の課題で あるため、ブラジル政府は 2011 年 4 月にエタノールの監督官庁を農務省から石油監督庁
(ANP)に変更した。ANPは国内の無水エタノールの供給量や価格の安定化のために、以 下のような新規則を制定している。
生産量、契約量、在庫量の報告義務付け(石油製品等に対する義務付けをバイオ燃料 にも適用)
無水エタノールの長期契約(1年以上)を義務付け
一定水準の在庫保有を義務付け
長期契約の義務付けについては、エタノール生産者と流通業者に対し 1 年以上の長期契
約を締結させることを義務付けている。違反した場合、生産者に対しては罰金が科せられる。
流通業者に対する具体的な規制は以下の通り。
前年のガソリン供給量の90%×現状の混合義務率に相当するエタノール量について1 年以上の長期契約を締結する、又は毎月末に翌月のガソリン供給に必要なエタノール 量(供給予定量×混合率)を確保していることを立証することが必要。
いずれも達成できない場合、ANPはPetrobrasに対し、当該流通業者に対するガソ リン販売を差し止める。
なお、ブラジルでは大小合わせて 150 以上の流通業者が存在し、流通業者は Petrobras からガソリンを購入、又は輸入により調達し、販売業者(ガソリンスタンド)に販売する。
Petrobrasの子会社も一流通業者であり、公平な競争のためにPetrobrasの流通業者へのガ ソリン販売価格は政府により規制されている。
在庫保持義務については、サトウキビの収穫時期が4~5月頃から始まることから、一般 的に3~4月が最も供給量が小さくなるため、3月1日時点において生産者は前年4月から の生産量の8%、流通業者は15日分の在庫を保持する必要がある。