• 検索結果がありません。

2031 年

5. 廃棄物対策分野の戦略プラン

5.4 福島第一原子力発電所廃棄物対策における中長期的観点からの対応方針

上記5.2 の国際的な放射性廃棄物対策における安全確保の基本的考え方、及び5.3の取組の現 状に対する評価から抽出された課題を踏まえ、福島第一原子力発電所の中長期的な固体廃棄物対 策において、廃棄物対策全体を計画的に進める必要性から、今後注力して対応すべき、又は現在 取り組まれつつあっても特に留意すべき事項など、今後の固体廃棄物対策に重大な影響を与える 事項への対応方針について以下に述べる。

5.4.1 保管管理 (1)発生量低減

a. 廃棄物ヒエラルキー

英国では環境負荷を下げるために廃棄物の発生量及び処分量を最小限に抑えるとの観点から、

取るべき方策の優先順位、廃棄物ヒエラルキー (①発生量抑制、②廃棄物量最小化、③再使用、

④リサイクル、⑤処分、の順に望ましい方策)が共有されており、この考え方に沿った廃棄物管 理を行うことによって、最終処分量を抑制することに成功している。また、廃棄物ヒエラルキー を実際に展開していく上では、廃炉に伴う工事計画策定の段階から廃棄物管理部門が関与するこ とが重要であると米国及び英国においても、指摘されている。

福島第一原子力発電所においても、図5.4-1に示すように、既に、廃棄物ヒエラルキーに対応 する取組が実行されている。今後、この考え方を福島第一原子力発電所全体に浸透させて、固体 廃棄物発生量抑制に対する意識を高めることが重要である。

(a) 英国NDAにおける廃棄物ヒエラルキーの概念38 (b) 福島第一原子力発電所における対応策 図5.4-1 廃棄物ヒエラルキーの概念(Summary of the Waste Hierarchy)

b. 二次廃棄物に対する考慮

保管しなければならない固体廃棄物の量を低減するため、減容設備を計画的に導入しているが、

例えば、雑固体廃棄物焼却設備を導入する場合、所定の運転期間中は排気系フィルタ、機器設備 の消耗品等が、それぞれ二次廃棄物として発生する。また運転期間終了後は施設本体も廃棄物と なる。

このように、減容設備を導入する場合、二次廃棄物を加えた全体の減容効果、及び二次廃棄物 の処理についても考慮が必要である。

また今後、被ばく低減、燃料デブリ取り出しに向けた準備作業等のために除染のニーズが高ま っていくことが予測される。コンクリート表面を湿式除染すると、水による浸透汚染が発生し、

結果的に固体廃棄物の発生量が増える可能性もある。また除染剤の使用により、処分施設のバリ ア性能に影響を与える有機物や有害物が固体廃棄物に混入する可能性もある。

38 Nuclear Decommissioning Authority (NDA), “Strategy Effective from April 2011”, 2011, p34の図 を編集

したがって、除染の際には、目標とする除染係数の達成は優先されるものの、適用する除染技 術と除染に伴って発生する可能性のある二次廃棄物について、廃棄物管理部門と協議して固体廃 棄物の処分への影響を考慮した上で適切な除染技術を選択することが重要である。

(2) 保管管理 a. 保管管理計画

中長期ロードマップに記載されている工事等により発生する固体廃棄物の物量予測を行い、そ れに基づく保管管理計画が策定された。廃炉工程の進捗に合わせた減容設備の導入によって、固 体廃棄物量の増加を大幅に抑制した上で、一時保管エリアを解消して建屋内への保管に移行させ る計画となっており、固体廃棄物の飛散・漏洩リスクの低減のために適切である。

この保管管理計画を確実に実施することにより、固体廃棄物に起因するリスクの低減を進める ことが重要であるが、廃炉工程の進捗など状況変化に合わせて柔軟に計画を更新していくことも 重要である。

b. 保管廃棄物の安定化について

多核種除去設備の前処理設備から発生しているスラリーについては、安定化の観点から、脱水 処理方法に係る研究開発が基礎的な段階での目処がつきつつある。より安定な保管状態を極力早 期に達成するために、研究開発段階から実用化段階に移行する必要がある。また、水処理二次廃 棄物のリスク低減の観点から、濃縮廃液及び可燃ガスの発生、発熱反応を伴う廃スラッジについ ても、物理的劣化等に十分配慮した保管管理を実施するとともに、将来のより安定な保管に向け た検討を加速するべきである。

c. 燃料デブリ取り出し作業に伴い発生する固体廃棄物等について

今後、燃料デブリ取り出し作業が開始されると、これに伴って周辺の撤去物、資材・機材等が 固体廃棄物として大量に発生することが予想される。これら固体廃棄物には、高線量で放射性物 質濃度の高い重量物も含まれる。

このため、燃料デブリ取り出しを安全かつ円滑、効率的に進めるためには、燃料デブリ及び周 辺の撤去物、資材・機材等について、保管場所や保管方法の他に、保管容器、切断を含めた保管 容器への収納方法、保管場所への運搬方法等を燃料デブリの取り出しの前に検討することが必要 である。発生する固体廃棄物については安定的に保管管理することが重要である。

5.4.2 処理・処分 (1) 性状把握

a. 分析計画

処理・処分の具体的な方策を検討していくには、性状把握のための分析計画に基づき計画的に 分析を行い、固体廃棄物の性状把握を行うことが極めて重要である。

これまで性状把握のための分析が進められ多くの知見が得られてきているが、分析結果の評 価・解析結果に基づく測定核種の絞込みや少ない分析試料でも評価・解析できる手法の開発によ る分析の効率化を図ることが重要である。

また、廃炉工程の進捗に伴い、これまで試料採取が困難であった場所の試料や高線量試料の採 取が進むことによる分析試料数の増加や新たな知見の取得が見込めるようになってきている。こ のような状況の中で効率的にデータを取得するためには、廃炉工程の推進並びに処理及び処分方 策の検討に資することができるデータの取得を最優先にすべきである。

分析計画に基づく分析試料の採取計画は、既存の分析施設及び新規に建設される放射性物質分 析・研究施設の受入れ能力等も考慮するとともに、試料の採取場所、試料の採取方法、試料の採 取数、試料の採取時期等に係る妥当性を検討し、その結果を適宜反映していくことが重要である。

また、高線量で接近が困難なために試料採取が難しいものについては、採取方法に係る調査検討 に着手したところであるが、引き続き調査検討を進めていくことが重要である。さらに、2015 年度に運転を開始した雑固体廃棄物焼却設備から発生する焼却灰、燃料デブリ取り出し時に発生 する固体廃棄物、除染に伴って発生する二次廃棄物等の分析など、廃炉の進捗に伴って新たに発 生する固体廃棄物についても、将来の処理・処分に向けた性状把握を行うことが重要である。

性状把握のための分析計画に加えて保管管理のために実施している固体廃棄物に係る放射 能・線量率の計測についても、上記計画に基づく性状把握を補完することも念頭に置きつつ中長 期的な変動傾向等、総合的に評価していくことが重要である。

このように分析計画は性状把握の進捗を踏まえた分析作業の効率化や品質保証の強化等も考 慮した計画とすることが重要であるとともに、廃炉工程の進捗、放射性物質分析・研究施設の受 入れ能力の変更に合わせて柔軟に更新していくことが重要である。

また、改良・開発した分析技術については積極的に公開していくとともに、標準化を図ること も必要である。

b. 性状把握のための分析能力

性状把握のための分析は、固体廃棄物処分方策の検討の基礎となるのみならず、施設解体計画、

作業員の被ばく低減対策、固体廃棄物の処理計画、保管管理計画等の立案に重要な情報となる。

性状把握のための分析については、分析対象試料の種類の拡張、数量の増加、分析精度の向上な ど、高いレベルの能力が求められている。

これに応えるためには、既存の分析施設の効果的な活用、新規の放射性物質分析・研究施設の 整備及びそれらの運用体制の強化・整備を進める必要がある。運用体制の強化・整備については、

合理的かつ継続的な運用体制を構築し、分析を実施していくことが重要である。分析技術につい ては、分析技術(前処理技術を含む)の改良、難測定核種の分析方法の開発、高線量試料に適し た分析方法の開発、分析方法の標準化などの分析技術の開発を進めるとともに、その成果は新規 に整備される放射性物質分析・研究施設へ適切に反映することにより、分析能力の向上を図るこ とが重要である。分析技術の改良・開発状況や廃棄体の放射能確認方法の検討状況を的確に放射 性物質分析・研究施設の仕様や運営方法に反映することも重要である。

また、それら開発や分析を担う人材は極く限られているのが現状であるが、当面の人材の確 保・育成と合わせ、分析全般を俯瞰して評価できる人材を含めて継続的な育成に取り組むことも 重要である。