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3. リスク低減戦略

3.2 放射性物質によるリスクの低減戦略

3.2.1 リスク特定

ウラン、プルトニウム等のアクチニド核種(以下「重核」という。)及びセシウム等環境中に放 出されやすい核分裂生成物(以下「FP」という。)、長期の運転によって炉内に蓄積されている放 射化生成物(Co-60、Fe-55等)等は、外部への影響を考慮すべき主要な放射性物質であり、これ らがリスク源となる。

福島第一原子力発電所に現存する主要なリスク源のうち、燃料に関連するものは下記のとおり であり、これらは放射性物質として重核及びFPを含む。

 PCV内の燃料デブリ(1~3号機)

 各号機使用済燃料プール内に保管されているプール内燃料(1~3号機)

 共用プール内に保管されている燃料(以下「共用プール内燃料」という。)

 乾式キャスクに保管されている燃料(以下「乾式キャスク内燃料」という。) 下記の汚染水及び放射性廃棄物は、放射性物質としてFPを含む。

 建屋内に滞留している高濃度の汚染水(以下「建屋内汚染水」という。)

 タンクに保管されている高濃度の濃縮廃液(以下「濃縮廃液」という。)

 セシウム及び第二セシウム吸着装置の二次廃棄物(以下「廃吸着塔」という。)

 除染装置のスラッジ貯槽内の二次廃棄物(以下「廃スラッジ」という。)

 多核種除去装置、増設多核種除去装置及び高性能多核種除去装置の二次廃棄物(高性能容器

(HIC)に収納されたスラリーのこと。以下「HICスラリー」という。)

 ガレキ、伐採木等及び作業等により発生する放射性固体廃棄物(事故前の運転時に発生した

Co、Mn 等の腐食生成物を主体とした廃棄物を含む。以下、貯蔵庫に収納されている放射性

固体廃棄物を「貯蔵庫内固体廃棄物」、屋外に保管されている放射性固体廃棄物を「一時保管 固体廃棄物」という。)

下記の構造物や建屋等には、放射性物質としてFPのほか、放射化物が含まれる。(これらを総称 して、以下「PCV内構造物等」という。)

 原子炉圧力容器(以下「RPV」という。)及びPCV内で、放射化物を内包し、また、飛散し た FP により汚染を受けている機器(蒸気乾燥器・気水分離器・炉心シュラウド・上部格子 板・炉心支持板、配管、バルブ等)

 建屋内で飛散したFPにより汚染を受けている機器や配管、建物の一部

戦略プランでは、これら全てのリスク源を対象とする。分散しているガレキ、伐採木、溜まり 水、排気筒等については、東京電力において総点検を実施してリスク低減に取り組んでいる。

なお、4号機プール内には、事故発生時には1,535体の燃料が保管されていたが、2014年に取 り出しが完了している。移送された使用済燃料は共用プール内燃料に含まれる。汚染水のうち、

タンクに保管されていた濃縮塩水及び 2~4 号機海水配管トレンチ内に滞留していた高濃度汚染 水については、いずれも2015年に処理が完了している。

各リスク源の放射能、性状、閉じ込め状態等の特徴は、3.2.2項のリスク分析において整理する。

ここでは、燃料デブリの特徴について簡単に触れておく。既に事故から 5年が経過し、放射能や

崩壊熱が減少していることを考慮するとともに、廃炉作業が想定される今後の期間において、放 射性物質が更に減衰する効果も考慮しなくてはならない。各号機の炉心の放射能及び崩壊熱を図 3-4 に示す。いずれも事故発生時の値に対する相対値であり、放射性物質の外部への放出は考慮 していない。現在の放射能は事故発生時の1%以下、崩壊熱は0.1%以下にまで減少している。

出典:JAEA-Data/Code 2012-018

図3-4 炉心の放射能(左)と崩壊熱(右)の評価値

リスク特定は、事象と結果の特定を含む。表 3-1 のとおり、事象は自然災害や故障の発生及び これらに起因するリスク源の状態や閉じ込め機能の変化であり、結果は放射性物質の放出による 公衆の被ばくである。一連の事象のスタートとなる起因事象としては、

 内部事象(電源喪失、内部火災、溢水、水素爆発、故障、誤操作(ヒューマンエラー)、内部 発生飛来物、サボタージュ等)

 外部事象(地震、津波、火山、竜巻、外部火災、台風、大雨、洪水、飛来物、不法な侵入等)

が考えられる。

3.1.3項のリスク分析手法では、上記のような事象を直接的には取り入れておらず、これらの事

象を想定した上で安全管理指標の各因子の分析を行う。結果については、潜在的影響度を用いる。

3.2.2 リスク分析

3.2.2.1 評価対象核種の選定

廃炉完了までの数十年を含む期間において考慮すべき核種を選定する。2 号機の炉心及びプー ル内燃料を対象として、人への影響を表す実効線量に着目して行った検討を添付3.2に示す。

その結果選定した核種とその特徴を表 3-4に示す。重核としてはPu-238、Pu-239、Pu-240、

Pu-241、Am-241、Cm-244の7核種を、FPとしてはSr-90、Cs-134、Cs-137の3核種を分析対

象とする。

表3-4 主要な核種とその特徴

核種 半減期 STP(m3/TBq) 特徴

Pu-238 87.7 66,000,000,000

Pu-239 2.41×104 72,000,000,000

Pu-240 6.54×103 72,000,000,000

Pu-241 14.4 1,380,000,000

Am-241 4.32×102 57,600,000,000 Pu-241の崩壊により生成

Cm-244 18.1 34,200,000,000

Sr-90 29.1 96,000,000 中揮発性

Cs-134 2.06 12,000,000 高揮発性

Cs-137 30.0 23,400,000 高揮発性

出典:半減期はICRP Publication 72、STPEGPR02-WI01

3.2.2.2 潜在的影響度

各リスク源について、Inventory、FF 及びCFを求め、潜在的影響度(ハザードポテンシャル)

としてRHPを計算する。これらの設定値を、その設定根拠とともに添付3.3.1に示す。

Inventoryに必要な放射能は、燃料デブリ、プール内燃料、汚染水、水処理二次廃棄物及び放射

性固体廃棄物については、公開データから推定した。共用プール内燃料と乾式キャスク内燃料は、

プール内燃料から推定した。PCV内構造物等については、通常の原子炉に対する公開データから 推定した放射化量と汚染量に、事故時に放出された揮発性の高い FP の一部が表面に付着してい ることを考慮した。不確かさとしては、推定幅やデータ間のバラツキ等を考慮した。

FFは、燃料デブリ及び使用済燃料は不連続な固体、汚染水は液体、水処理二次廃棄物は液体又 はスラッジ、放射性固体廃棄物は粉末とした。PCV内構造物等は、放射化物及び表面汚染物とし た。使用済燃料では、運転中に放出された少量の揮発性の高い FP が被覆管内に粉末状で存在す るとした。燃料デブリとPCV内構造物等の表面汚染物は、不確かさの範囲を大きく設定した。汚 染水と使用済燃料は不確かさを設定せず、他は中間的な不確かさとした。

CFは、燃料デブリ、プール内燃料及び共用プール内燃料については、冷却停止等に対する時間 余裕を推定した。乾式キャスク内燃料、汚染水及び放射性固体廃棄物は、冷却等は不要である。

PCV内構造物等は、冷却停止による温度上昇で表面のFPが放出される可能性を考慮した。水処 理二次廃棄物は冷却等の必要はないが、HIC は水素発生の影響の監視を継続していることを考慮 した。廃スラッジは固着防止のための撹拌停止に対する時間余裕を推定した。不確かさとしては 1桁の幅を設定したが、冷却等が不要なリスク源には不確かさは設定していない。

3.2.2.3 安全管理指標

各リスク源について、安全管理指標(セーフティマネージメント)を構成する修正 FD 及び修 正WUDの評価に必要なリスク源の特徴を以下に記す。詳細な特徴と修正FD及び修正WUDの設 定値を添付3.3.2に示す。

PCVには重大な損傷は認められておらず、安全設備は多重化され、重要なバラメータの監視が 行われている。各号機使用済燃料プールは、未臨界体系であり、冷却設備は多重化されている。

ただし、一部の号機では、ガレキや重量物の落下、建屋天井の欠損、海水注入の経験等がある。

共用プールと乾式キャスクは事故の影響を受けていない。

建屋内汚染水は、地下水との水位のバランスにより閉じ込めを維持している。濃縮廃液は、放 射性物質と塩分の濃度が高く、溶接型タンクに保管され堰内に設置されている。

廃吸着塔は、Csを吸着したゼオライトを遮へい容器に収納したもので、ボックスカルバート又 は架台に据置されている。廃スラッジは、造粒固化体貯槽に貯蔵され、漏えい監視、水素排気等 を実施している。HICスラリーは、ポリエチレン製容器に収容され、さらにSUS製補強体に収納 して、ボックスカルバート内に保管している。

貯蔵庫内固体廃棄物は、ガレキ等のうち放射性物質濃度が高いものを容器に詰めて固体廃棄物 貯蔵棟に保管したものである。一時保管固体廃棄物は、放射性物質の濃度が様々な廃棄物が、様々 な形態で屋外に保管されたものであり、監視を実施している。

3.2.3 リスク評価

3.2.3.1 リスク源の優先順位

福島第一原子力発電所における主なリスク源について、2016年3月時点の情報に基づいたリス ク分析の例を図 3-5に示す。同図では、各因子の不確かさが潜在的影響度及び安全管理指標に及 ぼす影響を、広がりによって示している。

放射性物質によるリスクを継続的かつ速やかに低減するためには、リスクレベルによってリス ク源を以下のように分類して対応すべきである。

【分類Ⅰ】可及的速やかに対処すべきリスク源

 プール内燃料

 建屋内汚染水

【分類Ⅱ】周到な準備と技術によって安全・確実・慎重に対応し、より安定な状態に持ち込むべ きリスク源

 燃料デブリ

【分類Ⅲ】より安定な状態に向けて措置すべきリスク源

 濃縮廃液

 廃スラッジ

 HICスラリー

 一時保管固体廃棄物の一部

 PCV内構造物等

分類Ⅰは、放射性物質が多い、流動性が高い、閉じ込め機能や管理が十分でない等の理由によ り、潜在的影響度及び安全管理指標とも大きく、それらの積であるリスクレベルが最も高い。

分類Ⅱも同様であるが、分類Ⅰに比べるとややリスクレベルが低い。

分類Ⅲは、比較的リスクレベルが低いリスク源であるが、以下の理由により安定な状況に向け て計画的に対処すべきである。