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4. 燃料デブリ取り出し分野の戦略プラン

4.3 燃料デブリ取り出し工法の実現性の検討

本項では、燃料デブリを安全に取り出すための工法の実現性に関する検討状況を述べる。

まず、重点的に検討を進めている3工法の選定の経緯を述べた上で、それら工法の特徴を述べる。

その後、工法の実現に必要な重要課題である 9つの技術要件について、それぞれの取組の現状 や課題、今後の対応についてまとめる。

4.3.1 燃料デブリ取り出し工法の選定とその特徴

福島第一原子力発電所の燃料デブリを取り出す方法として、先行事例であるTMI-2での取り出 し方法であり、水遮へいによる線量低減が期待される燃料デブリを水没させて取り出す工法の検 討を当初の中長期ロードマップより継続してきている。一方、燃料デブリを水没させるために、

過酷な事故の影響を受けたPCVの上部まで水を張ることを可能にする補修等の技術は、多くの難 しい開発課題を抱えており、燃料デブリ全体を水没させることが困難となる場合も想定されるこ とから、戦略プラン2015において、PCVの上部まで水を張らず、燃料デブリが気中に露出した 状態で、燃料デブリを取り出す工法も併せて検討することとし、合せて検討を進めている。

また、燃料デブリがRPV内に留まっていたTMI-2に比べ、燃料デブリはPCV内に広く分布し ているものと推定されることから、TMI-2で採用された燃料デブリをRPVの上部からアクセスし て取り出す方法では、燃料デブリの位置によっては取り出しが困難になることも想定される。

このような状況に鑑み、各号機ごとの燃料デブリ分布状況、現場状況の違いにも対応して燃料 デブリ取り出しを実現できるように、PCV内の水張り水位と燃料デブリへのアクセス方向を組み 合わせた燃料デブリ取り出しの工法を抽出し、それらの特徴を踏まえた適用性の評価を通じて、

重点的に検討を進める複数の工法を選定する。

(1) PCV水位レベルとアクセス方向を考慮した燃料デブリ取り出し工法の検討

a. PCV水位レベル

PCV水張り水位により工法の特徴が異なってくることから、工法を検討するに当たり、燃料デ ブリ取り出し時のPCV水位レベルに応じた工法の分類を、以下のとおり定義する。各水位レベル のイメージを、図4.3.1-1に示す。

 完全冠水工法:原子炉ウェル上部までの水張りを行う工法

 冠水工法 :燃料デブリ分布位置より上部までの水張りを行う工法

(補足)現状、燃料デブリは炉心領域より上に分布がないものと想定し、炉心領域上 端部以上の水位では、冠水工法と呼ぶ。

 気中工法 :燃料デブリ分布位置最上部より低いレベルまで水張りを行い、気中の燃料デ ブリには水を掛けながら取り出しを行う工法

(補足)現状、炉心領域上端部より下の水位では、気中に露出する燃料デブリが存在 すると想定し、気中工法と呼ぶ。

 完全気中工法:燃料デブリ分布全範囲を気中とし、水冷、散水を全く行わない工法

図4.3.1-1 PCV水位レベルに応じた工法分類

b. 燃料デブリへのアクセス方向によるアクセスルートの実現性検討

燃料デブリへのアクセス方向としては、図4.3.1-2に示すとおり、PCV上部からのアクセス(上 アクセス)、PCV側面からのアクセス(横アクセス)、PCV底部からのアクセス(下アクセス)の 3通りが考えられる。

各アクセス方向について、そのアクセスルートの実現性は以下のとおり評価される。

i) PCV上部からのアクセス(上アクセス)

PCV上部からは、通常定検時の燃料交換作業のための炉心部へのアクセスルートが構造的に 確保されている。ウェルシールドプラグ、PCV上蓋、RPV上蓋保温材、RPV上蓋を取り外す ことにより原子炉内にアクセス可能であり、蒸気乾燥器、気水分離器を取り外すことにより炉 心直上の上部格子板に達し、RPV内の燃料デブリにアクセス可能となる。ただし、これらの取 り外すことになる機器は、事故時に高温環境に晒されたことにより熱変形し通常の方法では取 り外せない可能性があり、このような場合には切断等を実施した上で撤去する必要がある。ま た、これらの機器には事故時に燃料から放出されたCs等のFPが付着し、非常に高い放射線量 率となっていると想定されるため、それへの対応も必要になる。

ii) PCV側面からのアクセス(横アクセス)

PCV側面には、PCV内部に通じる機器ハッチ、X-6 ペネ(CRD ハッチ)他が配置されてお り、アクセス開口の大きさには制限もあるが、構造的にPCV内へのアクセスルートが確保され ている。PCV内のD/W底部については、RPVペデスタル外側にはPLRポンプ、弁、配管、サ ポート等が、RPVペデスタル内側にはCRD 交換台車、操作床(グレーチング)等が設置され ており、D/W 底部の燃料デブリへのアクセス時に干渉する可能性があるため、これらを切断、

撤去する必要がある。

iii) PCV底部からのアクセス(下アクセス)

PCV底部には、PCV内部への構造的なアクセスルートは設定されていないため、新たにD/W 底部へのアクセスルートを構築する必要がある。

完全冠水工法 冠水工法 気中工法 完全気中工法

原子炉建屋外から地中を経由して D/W 底部に通じる地下アクセストンネルを構築すること は理論的には可能であると考えられるが、その構築によりサイト内地下水管理計画に影響を及 ぼすことについての懸念があること、及び、原子炉建屋を支持する岩盤、原子炉建屋基礎及び D/W 底部シェル、D/W 底部基礎を貫通させる必要があり、原子炉建屋、D/W 底部シェル及び RPVペデスタル基部の強度低下についての懸念がある。

これに対し、基礎的な検討を行った結果、技術課題のうち、建屋地下までの地下アクセスト ンネル構築の掘削工事については、土木工事において実績のある工法により技術的に見通しの あることを確認した。一方、建屋地下からD/W底部迄の上向き掘削工事については、開発課題 がある。さらに、燃料デブリ取り出し工法として実現するためには以下の難度の高い課題の解 決が必要である。(添付4.16:原子炉建屋下部からの燃料デブリ取り出しに関する可能性検討)

 燃料デブリ取り出し作業を完全気中工法で実施できる条件が整わない場合、下からのアク セスルート構築の最終段階で、D/W底部に開口を開ける作業時に、D/W底部に滞留する汚 染水の流出を確実に抑えること

 上記の課題に関連し、その後の工程で下からのアクセスルートを使う燃料デブリ取り出し 作業の期間を通じて、PCV底部からの汚染水の流出抑止を長期的に確実に行えること

 寸法的に制約が厳しい、下からのアクセスルートを経由して、水密を守りながらD/W底部 に燃料デブリ取り出し装置を設置すること。合せて、この要求を満足できる燃料デブリ取 り出し装置を準備すること

 D/W底部へのアクセス開口部から離れた範囲を網羅して燃料デブリ取り出しを行うこと

 取り出した燃料デブリを建屋地下アクセストンネルを経由して保管施設まで搬出すること

これら課題各項目の難度は高く、解決のためには、それぞれ相当長期間をかけて、開発、検証 を行うことが必要と考えられる。

図4.3.1-2 燃料デブリへのアクセス方向

上アクセス

横アクセス

下アクセス

c. PCV水位とアクセス方向の組合せによる工法の検討と絞り込み

燃料デブリを取り出すためのアクセス方向とPCV水位の組合せとしては、図4.3.1-5に示す 12通りの組合せが考えられ、これらの組み合わせた工法に対し、燃料デブリ取り出しの実機適用 性を検討して、重点的な開発対象とする工法を選定する。

燃料デブリ取り出しは、極めて難度の高い技術開発が必要であるため、重点的に開発を進める 工法選定のためのスクリーニングの観点としては、開発の実現性の見通しが高い「シンプルで開 発要素の少ない」工法を優先する。これが、5つの基本的考え方に適った進め方であると考えら れる。

図4.3.1-5において、完全冠水工法及び冠水工法については、横アクセス、下アクセスでは、ア

クセス開口部がPCV水位よりも低くなることから、燃料デブリ取り出し用装置、工事機材の搬入 /搬出や燃料デブリ取り出しに際してアクセス口からの水の流出を防止する大規模な水密ハッチ が必要となる。完全遠隔自動が前提となり、水密ハッチを介した保守や、工事トラブルへの対応 も含めて、燃料デブリ取り出しを安全、確実に進めるための検討課題が多い。横アクセスによる 気中工法についても、アクセス口の位置がPCV水位より低い場合には同様である。これらについ ては、実機適用に向けた重点的な検討対象とはしないものとする。

下アクセスについては、(2)b.で述べたとおり、アクセスルートを構築できたとしても、その後 の汚染水の管理や、燃料デブリ取り出し作業(広い範囲の燃料デブリの切り出し、アクセストン ネルを経由した燃料デブリの搬出)において重大な検討課題も多く、短中期での実現可能性が低 いと判断されることから、重点的な検討対象とはしないものとする。

また、完全気中工法に関し、1号機で、全燃料デブリがD/W底部ペデスタル内側に落下し、円 板上に存在すると仮定し、燃料デブリ取り出し開始目標時期(2021 年)の崩壊熱量を想定して、

自然対流による空冷条件を考慮すると、D/W底部の燃料デブリ表面温度は400℃程度になること が想定される。燃料デブリ内部では更に高温となる。(図4.3.1-3 参照)

同様に、1 号機を 3次元でモデル化して、空冷条件で燃料デブリの温度分布解析を行った結果

の例を図 4.3.1-4に示す。2021年及び2031 年に予想される燃料デブリ崩壊熱を入力条件として

解析した結果として、燃料デブリ表面最高温度は、それぞれ約 350℃、約 320℃になることが想 定された。(添付4.17炉内空冷解析評価の概要)

コンクリート強度の維持を考えると、コンクリート温度は 100℃程度以下を目標とすべきであ り、完全気中工法は、空冷による燃料デブリ冷却の困難度が高く、燃料デブリの大部分がD/W底 部に残存している取り出し開始初期は、この条件を満たさないものと想定される。燃料デブリの 取り出しが進み、内部に残存する量が減少することにより、あるいは、量の減少に加えて、現実 性のある空冷手法を確立することができれば、完全気中工法で取り出しを行える可能性がある。