2031 年
4.3.2 燃料デブリ取り出しにおける重要課題への取組
4.3.2.5 作業時の被ばく低減
原子炉建屋内は、事故に伴う汚染の影響により、極めて放射線量が高い環境にある。燃料デブ リ取り出し及びそれに関連する作業は、原子炉建屋内で行われるものが主体となるため、作業員 の被ばく低減がその実施の可否を決めると言っても過言ではない。
被ばく低減の方策は、「時間、距離、遮へい」と一般には言われるが、これは線源が変えられな い場合の対応であり、福島第一原子力発電所の場合は、線源自体を取り除く除染(線源撤去も含 む広義の除染)も重要な対策である。また、距離を稼ぐ方策のひとつとも言えるが、遠隔技術の 活用も大いに期待される。
これらの被ばく低減方策の適切な組合せで、作業員の被ばくを低減することが目指すべき姿で ある。このため、原子炉建屋内の作業員の被ばく低減については、以下のような基本的な考え方 を念頭に置いて、除染等の検討を進める必要がある。
遠隔技術の活用と除染の組合せによる被ばく低減を優先的に検討し、その後「時間、距離、
遮へい」による作業時被ばく管理を計画する
PCV内やトーラス室内のように極めて放射線レベルが高いエリアは、遠隔技術により人が アクセスすることなく作業を実施すること
上記のエリアを除く原子炉建屋内については、除染に係る被ばくと PCV 補修等の作業に 係る被ばくのバランスを考慮しつつ、作業全体に係る積算線量を低く抑える(ドーズバジ ェットを考慮した管理を行う)ことができるように除染、遮へい、遠隔技術、作業時間短 縮等の最適な組合せを検討すること
遠隔技術を活用する場合であっても、その設備を設置する作業、メンテナンス作業、トラ ブル時対応作業等が付随して必要であることを考慮して評価・検討を行うこと
除染の作業についても、遠隔技術を用いるか、人手で実施するかは、その対象箇所の線量 率、汚染形態、作業スペース、利用頻度、遠隔技術の適用性・開発動向等を評価して判断 すること
作業ニーズが明確な箇所の検討を優先して行うこと。ニーズが不明確な箇所や全体の線量 低減といったベターメント指向の検討は実施しないこと
燃料デブリ取り出しに関連する作業時被ばく低減は、準備作業や関連作業に係る原子炉建屋内 の除染と燃料デブリ取り出し作業そのものを実施する際の遮へいが主な課題であるため、以下に その2つについて具体的な検討を記載する。
4.3.2.5.1 原子炉建屋内の除染 (1) 目的
作業エリア・アクセス経路の除染(線源の遮へい、撤去を含む)により PCV 内部調査、PCV 補修、燃料デブリ取り出し準備作業時等の作業員の被ばくを低減すること。
(2) 主な要求事項 a. 汚染状況調査
PCV内部調査やPCV補修作業のニーズを考慮して、これまでに実施した調査等により得ら れているデータが不足する場合には、汚染状況(汚染形態、汚染分布、除染対象物など)につ いて調査を行うこと。
b. 線量低減計画
適切な線量低減技術(除染、撤去、遮へい)により作業対象エリアに必要な作業環境を確保 するために、汚染状況を考慮して線量低減計画を立てること。作業対象エリアの目標線量率は、
法令で定められた被ばく線量限度(50mSv/年及び100mSv/5年)を下回るように、作業工法、
作業時間、作業員の人数を基に検討して設定すること。なお、除染装置を使用するための環境 整備も考慮した計画とすること。
c. 線量低減技術
線量低減技術に関する情報を適宜更新すること。
(3) 取組の現状と評価・課題 a. 汚染状況調査
原子炉建屋内の線量レベルは、除染作業により低減されたエリアが部分的にはあるものの、
高いエリアが大部分である。そのため、PCV内部調査やPCV補修に向けた調査が十分に 行われていない。号機ごとの原子炉建屋1階の線量レベルを図4.3.2-18に示す。
線量低減計画を立案するには除染対象箇所の汚染形態、汚染浸透深さを把握する必要があ るが高線量のためにサンプル採取が難しい状況である。
2号機原子炉建屋1階のX-6ペネ(制御棒駆動機構(CRD)搬出入用のPCV貫通部)周りにつ いては、遮へいブロック撤去によりフランジ部のシールからの漏えいと床面の高濃度の汚 染が判明した。フランジ部の漏えい物を除去した後、床面の洗浄や研削を行ったが目標の 線量には至っていない。さらに研削に伴うダスト発生により作業環境の悪化を招いたこと から、汚染形態の把握やダストの飛散防止対策などが課題として挙げられ対応を検討中で
ある。(図4.3.2-19 参照)また、遮へいブロックの設置構造に関する詳細な事前調査がさ
れておらず正確な現場状況の共有が不十分であったため、遮へいブロックの撤去に時間が かかった。
1号機原子炉建屋1階については、AC配管(不活性ガス系配管)はS/Cベント時に高線 量蒸気が配管内に付着し線源になっていると推測されている。また、DHC 配管(ドライウ ェル除湿系配管)は系統全体が高線量であるRCW配管(原子炉補機冷却系配管)と接続して いるため配管内包水が線源になっていると推測されている。PCV内部調査をX-6ペネから 行う場合には線源を除去して線量を低減する必要がある。
3号機オペフロでは汚染分布の調査の際に、線量測定の他にコリメートしてスペクトルを 計測することにより核種の特定に加えて線源位置の推定が可能となり、除染すべき範囲が 明確になった。
b. 線量低減計画
線量が高いエリアについては、汚染状況の把握が難しく、推測して除染計画を検討・策定 することになるが、計画策定後想定を超える汚染状況が判明した場合には工程の遅れにつ ながる可能性がある。
重要設備や周辺機器が除染作業と干渉するため作業を効率的に進めることが難しい状況 である。
原子炉建屋1階の線量に対する寄与は、現状では床よりも狭隘箇所や中高所のダクト等の 方が大きく、2号機1階ではダクトの除染や撤去による線量低減効果が得られており中高 所の除染は重要である。
作業対象エリアによっては人手作業となることもあるが、遠隔装置を使う場合においても 補助的に人手作業が発生しており、除染作業時の作業員の被ばく線量が増加している。
c. 線量低減技術
研究開発として原子炉建屋内(1階高所及び上部階用)の遠隔除染装置(ドライアイスブ ラスト、吸引ブラスト、高圧水ジェット)を開発しモックアップ試験を行った(図4.3.2-20 参照)。
3号機においてドライアイスブラスト高所除染装置の実機検証を行い、目標の除染性能に 対して吸引+ドライアイスブラストの組合せで達成できたが、壁面凹凸部分への適用など、
課題があることも判明した。
線量低減技術に関する情報は、公募により技術カタログ16としてまとめられた。しかしな がら、その後の研究開発によって製作された高所用遠隔除染装置の実機検証結果等を通じ て技術的知見が得られていることから、それらを蓄積するとともに活用しやすい形態に整 備することが重要である。
(4) 今後の対応 a. 汚染状況調査
PCV内部調査やPCV補修等に要求される作業環境を明確にした上で、必要な調査を実施 する。
1号機原子炉建屋においては、AC配管の内面洗浄やDHC配管の内包水の除去について検 討を行う。
高線量のサンプル採取については作業員の被ばく低減を考慮し遠隔での採取方法を検討 する。
汚染分布の調査については、コリメータ付スペクトル計測のような核種や線源位置が推定
16技術カタログは平成23年度の資源エネルギー庁補助事業(平成23年度3次補正「発電用原子 炉等事故対応関連技術開発費補助事業」)において作成された。同カタログは、福島第一原子力発 電所の廃炉に向けた作業のための機器開発に資するため、国内外の既存技術を広く調査・公募し て適用可能性のある技術が収集された。
できる方法を原子炉建屋内部においても導入を検討していく。
b. 線量低減計画
PCV 補修などの作業対象エリアについては、工事量や着手時期、人の立ち入り(プラン ト維持・管理設備の点検)などを考慮し代表箇所について計画を検討する。その後、水平 展開により対象エリアの線量低減計画を検討する。
汚染形態を的確に把握するのは難しい状況であるが、可能な限り把握した上で最適な除染 工法を選定するとともに、必要な作業要員を確保して、想定される汚染形態に合わせ複数 の線量低減計画を事前に検討しておく必要がある。想定と異なる状況が明らかになった場 合でも現場状況に合わせ臨機応変に対応できる体制を構築し工程遅延を最小限に抑える。
除染作業に伴いダストや除染残渣による汚染拡大が懸念されるため、エリア管理、ダスト 飛散防止、再汚染防止などの対策を行う。
線量が高いエリアの除染は、人手作業ではなく遠隔装置を用いることにより、除染作業の 被ばく線量が上限値を超えないように努める。
実機で得られた除染効率、被ばく線量、工程などをフィードバックし、今後の線量低減計 画に反映していく。
c. 線量低減技術
研究開発された遠隔除染装置は、PCV補修等の関連するプロジェクトと協議して実機投入 を検討する。なお、非常時の装置回収においては人手作業の可能性があり、現場状況に応 じて作業員の被ばく低減対策が必要である。
既存の除染技術や遠隔技術のデータ及び実機適用実績の情報は適宜追加、更新する。今後 の線量低減作業が継続していく中で発生する課題の解決や研究開発に資するため福島第 一原子力発電所の現場適用を通じて得られた技術的知見をデータベース化して長期にわ たる廃炉作業に活用できるようにする。
PCV内部調査や PCV補修等の作業を行うための作業環境を整えるべく必要なエリアの除染を 実施してきたが、作業対象エリアの線量低減が計画通りに進んでいるとは言い難い状況である。
除染方法と除染の有効性を確認しつつ適切な除染を今後も行うが、作業対象エリアの線量低減に は限界があることを認識した上で、補修作業等に伴う被ばく線量とPCV補修範囲や補修工法の有 効性等を考慮しつつ工法の見直しを判断することも重要である。