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4. 燃料デブリ取り出し分野の戦略プラン

4.2 炉内状況把握のため調査戦略と最新情報

本章では炉内状況把握の位置付けと基本的考え方、必要な情報の取得・評価方法、現在の調査 状況、今後の調査戦略について述べる。

4.2.1 炉内状況把握の基本的考え方

燃料デブリ取り出し工法の検討を進める上で、プラント状況、燃料デブリを含めた炉内状況の 把握をすることが極めて重要である。炉内状況はPCV/RPV内部調査により直接確認することが 望ましいが、高い線量率等厳しい環境条件を踏まえると必要な情報を全て実機調査することは、

技術的にも時間的にも困難な状況にある。

このため、必要な情報は、その必要時期、精度、重要性を勘案した優先度をつけた上で、実機 調査のみならず、事故進展解析の結果やプラントパラメータに基づく評価等も最大限活用して最 も確からしい結果が得られるよう総合的に分析・評価することが肝要である。

上記のことを踏まえて、炉内状況の把握に当たっては、次のように行う。

(1) 炉内状況を把握するための情報の収集、分析、評価においては、情報の必要性を勘案して、

優先度をつけて実施する。

(2) 総合的な炉内状況の分析・評価においては、取得した情報を有効に活用し、最も確からしい 結果を得ることに努める。

(3) 情報取得のための「労力・時間・費用」と取り出し工法における「安全対策・取り出し装置 及び設備設計・費用」のバランスを考慮し、許容される時間・費用を視野に入れながら価値 のある情報を最大限に取得することに努める。

事前に情報を取得することが困難な場合、最尤法による推定に基づく判断を行い、不測の事態 に備えた対応策も含め保守的な作業計画を策定し、作業を進めつつ、実機の状況を確認し、フィ ードバックして、炉内状況把握の精度を上げた上で、作業計画の絞り込み、具体化、見直しを実 施するという進め方も検討する。この考え方は、類似の事故プラントであるTMI-2の経験に基づ くものである。このような進め方のイメージを図4.2-1に示す。

図4.2-1 炉内状況把握のための調査戦略(総合的な分析・評価)

燃料デブリ取り出し検討に必要となる情報は、大きく分けて下表のような目的に使用されると 考えられる。

表4.2-1 燃料デブリ取り出しに必要な情報

目的 必要な情報 必要な時期

(1) 燃料デブリ取り出し方針の決定 燃料デブリ分布 2017年夏頃 (2) 安全確保の高度化 燃料デブリ分布、性状 2017年夏頃 (3) 取り出し機器・装置設計の合理化 上記情報の精度向上、FP分布等 2018年度以降適時 (4) 取り出し工法のさらなる合理化、

適合性向上

内部詳細状況、サンプリングに よる燃料デブリ性状

燃 料 デ ブ リ 取 り 出 し 開 始以降を含めて継続

(1) は、アクセス方向の検討や燃料デブリの取り出しの動線、システム概念検討に必要な情報 である。(2) は、再臨界や冷却状態の評価など安全確保のために必要であり、情報に応じて工法 の保守性を合理的に見直すことが可能となる。(3) は、情報量に応じてより実機に向けて設計の 合理化が可能になるものである。(4) は、取り出し開始まで、さらに開始以降も現場状況に応じ た取り出し作業を実施するために必要な調査である。

また、これらの情報は、同じ情報であっても工程の進捗度合いや使用目的によって求められる 精度や情報量が異なることに留意すべきである。

現在は、燃料デブリ取り出し工法方針の決定に必要な情報を第一優先として情報の分析・評価 を進めている。得られる情報は、(1) だけでなく、(2)、(3)、(4) のための情報にもなるので、 (1)

模擬デブリや過去の知見・経験からの考察(燃料デブリの性状)

PCV内部調査による視認・計測 (ペデスタル、RPV底部等の状況)

燃料デブリ取り出し 方針の決定

燃料デブリ取り出し 方法の確定

燃料デブリ取り出し 開始

RPV内部調査による視認・計測 (燃料デブリの状況)

熱バランス法評価、プラントパラメータからの考察(燃料デブリ分布の傾向)

*開発・調査の期間、被ばく量、費用と得られる情報のバランスを考慮して実施内容を検討

(注)新たな知見を踏まえ、総合的な分析・評価を継続的に改善していく

事故進展解析コードによる解析(燃料デブリの位置、量、組成、FP分布)

ミュオン測定(RPV内の燃料デブリの有無)

炉内状況の総合的な分析・評価

燃料デブリサンプリング(燃料デブリの性状)

のための情報を取得するときに、(2)、(3)、(4) の情報も合理的に取得できるのであれば、併せて 取得する。表4.2-2に 燃料デブリ取り出しの方針の決定及び方法の確定のために必要とされる情 報の主な調査方法と重要度をまとめる。

また、燃料デブリの量・位置・性状や FP 分布を把握するために必要な検討として、図 4.2-2 に示すロジック・ツリーに基づき、(1) 実機調査による推定、(2) 解析による推定、(3) 知見及び 実験による推定、の3項目を実施し、総合的な分析・評価を行うこととしている。これらの3項 目の情報取得方法には、それぞれに異なる特徴を持っているため、特徴を生かした情報の取得と 分析・評価が必要である。それぞれの項目の特徴を表4.2-3に示す。

事故進展 解析熱バランス /プラント・パラメーPCV 内部調査RPV 内部調査オン測定模擬デブリ作製 /過去知見  1)炉心部に残存燃料(切株状燃料   含む)の有無    ※冠水時等の臨界可能性評価に重要  2)燃料RPV底部内残存の程度  3)CRDハウジングへ付着程度  4)燃料PCV移行程度  5)PCV移行燃料MCCI挙動  6)燃料外へ拡が可能  (シェル可能性を含む  1)高温環境晒さ劣化評価  2)燃料損傷有無  3)炉内構造物の損傷有無  1)切り株状燃料残存可能  2)臨界評価行う多様燃料状態  1)燃料性状考慮発熱量評  1)PCV 気相部か放射性物質の漏え量評  2)PCV 液相部か汚染水の漏え  1)除染方法検討  2)作業時の遮へ能力検討  1)燃料切削・採取方法検討  2)機器・装置仕様検討

7.燃料取り出し機器・装置開発 (注)RPV内部調査得ら内部情報、信頼度の高い期待、技術開発難度高く、初号機の工法確定時期得る難し可能性が     そ場合、他の手段調査結果基づ検討必要。以降実機装置製作合理化に資す     記号 ◇:当該情報調査方法、◎:重要度高、○:重要度中、△:重要度低     重要度の高い調査更な具体的要件は、今後関係機関調整

検討重要事項調査(デ・情報取得)方 方針決定 重要度方法確定 重要度 1.燃料分布 2.PCV・建屋構造健全性の確保 3.臨界管理 4.冷却機能維持 5.閉じ込め機能の構築 6.作業時の被ばく低減

表4.2-2燃料デブリ取り出し方針の決定・方法の確定のために必要とされる情報 ~検討に当たっての重要事項と調査方法の重要度(まとめ)~

図4.2-2 燃料デブリ・FPの状況把握のロジック・ツリー

表4.2-3 炉内状況把握に係る情報取得方法の特徴

手法(期待される情報) 特徴

実機 調査 によ る 推定

 PCV内部調査による視認・計測

(燃料デブリ分布の確認、RPV 底部破損 状態、シェルアタック、等を確認)

 実測するため、取得した情報の信頼性は 高い。

 局所的なデータのため、全体の把握には 適さない。

 RPV内部調査による視認・計測

(燃料デブリ分布の確認)

 ミュオン検知

(RPV内の燃料デブリの有無を確認)

 RPV内部の燃料デブリ分布の把握が可能

である。

 解像度より小さい燃料デブリの有無の判 断はできない。

解析による推定  事故進展解析コードによる解析、感度 解析・逆計算による炉内状況の推定の 不確かさの低減

(燃料デブリの量・位置・FP 分布、燃料デ ブリの量・位置等の不確かさを低減)

 事故時に計測ができなかったプラントパラ メータの推定、燃料デブリ分布の全体的な 把握に適する。

 不確かさを含み、条件・モデル等により結 果に差異が生じる場合がある。

知見及び実験に よる推定

 模擬デブリ作製・過去の知見

(燃料デブリ性状の機械的特性、化学的 特性)

 実測するため、取得した情報の信頼性は 高い。

 模擬デブリの条件設定に依存する。

 熱バランス法による熱源(燃料デブリ)

評価、プラントパラメータからの考察

(燃料デブリ分布傾向の確認)

 測定値をベースにし、モデル等への依存 性が小さい。全体的な把握に適する。

 定量性は低く、燃料デブリの有無の判定の みが可能である。

燃料デブリの量、位置、

性状、FP分布の把握

実機調査 による推定

特定箇所の 調査

PCV内部 調査

RPV内部 調査

S/C内・

トーラス室 調査

デブリ検知 システム

解析による 推定

事故進展解析 コードによる解析

知見及び実験 による推定

過去の事故、

研究の知見

プラントデータ からの工学的

推定

模擬デブリ による実験

ミュオン法 による調査

4.2.2 安定状態維持・管理

現在のプラントの状況は、事故以降、継続して取得されている温度、水素濃度、圧力等のPCV 内部のプラントデータから1号機~3号機は安定した冷温停止状態を維持していることが推定で きる。添付4.2 に詳細を示す。

燃料デブリ取り出し工法を実現するために必要な遠隔での除染・調査・作業用機器・設備の開 発等の技術開発は鋭意進められているが、燃料デブリ取り出しが開始されるまでに一定の期間が 必要になると見込まれる。このため、燃料デブリ取り出しが開始されるまでの間、プラント・燃 料デブリ・Cs等のFPの状態を安定的に維持し、管理・監視していくことは、安全性を確保する 上で重要である。

現在、高放射線量であることから、燃料デブリの状態を直接的に観測することは困難であるが、

安定状態の維持・管理の点から把握し続ける必要のある情報のこれまでの状況を以下に示す。

(1) 臨界管理

a. 各号機の PCV ガス管理設備に設置されたガス放射線モニタで、短半減期 FP である

Xe-135濃度を常時監視している。臨界判定基準を1Bq/cm3としているが、臨界の兆候は

見られていない。また、燃料デブリの組成や形状、堆積形状、構造材の組成や混合量等に ついて種々の条件で評価を実施し、臨界になる可能性は低いと評価されている。

b. 燃料デブリが再臨界に至った場合又は再臨界の可能性がある場合に、未臨界状態に戻す又 は臨界を防止するために、ホウ酸水注入設備が設置されている。ホウ酸水タンクは2基設 置されており(内1基は予備)、構造物への影響が少ない弱アルカリ性の五ホウ酸ナトリ ウム水溶液が、原子炉注水系を通じて注入される。本設備は、5%k以上の反応度に相当

する510ppmのホウ素濃度を達成できる能力を有する。なお、ホウ酸水が枯渇した場合に

は、約3%kの反応度低下効果を有する海水が注入される。臨界発生から注入完了までの 時間は、通常6時間、設備損傷時等を想定しても最長で22時間である。

c. 再臨界時の影響評価として、保守的に、臨界判定基準の100倍のXe-135濃度に相当する 出力レベルの臨界状態が 1 日続いたとして敷地境界における被ばく線量を評価した結果

2.4×10-2 mSvとなり、公衆に著しい影響を及ぼすことはないとしている。

(2) 冷却

a. 東京電力は、原子炉の温度等のパラメータを継続監視するとともに燃料デブリの冷却設備 の保守管理を実施している。燃料デブリの冷却設備である循環注水冷却設備は、2013 年 7 月より主たる水源をバッファタンクから復水貯蔵タンク(以下「CST」という。)に変 更するとともにCST原子炉注水系の運用を開始している。これにより、炉注水ラインの 縮小による注水喪失リスクが低減されるとともに、タンクに関して耐震性向上及び容量の 増加等が図られている。さらに、循環注水冷却設備のうち、塩分除去(RO)装置を4号 機タービン建屋に設置して循環ループを縮小する工事を現在進めている。この工事により 循環ループ(屋外移送配管)は約3 km から約 0.8 km(滞留水移送ラインを含めると約 2.1 km)に縮小される。