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社会文脈要因による学習者の多様化

第 8 章 結論と総合考察

8.2 総合考察

8.2.2 社会文脈要因による学習者の多様化

前節では、学習者の動機減退要因は、「内発的動機づけと学習能力の欠如」、「日本語学習困難」、「教師」

といった学習文脈要因と、「専攻選択上の問題」、「学習者出身地と学校所在地の地域格差」のような社会文 脈要因により構成されると述べた。

2 つの社会文脈要因を細分化すると、「専攻の振り分け」、「出身地の地域内格差」と「出身地の地域間格 差」の 3 要素が含まれる。この 3 要素により学習者の多様化が見られ、さらに、動機減退には多様性が見 られると考えられる。

社会文脈要因には、以上の 3 要素のみならず、家族の経済状況、親の職業と社会的地位、民族属性など

も多数あり、総合的に動機づけの変化に影響していると推測される。

どのような多様化した学習者が存在しているかについて、本研究で検証した「専攻の振り分け」、「出身 地の地域内格差」、「出身地の地域間格差」という 3 要素をもとに、予想された社会文脈要因に加え、社会 文脈による学習者の多様化モデルの作成を試みた。図 20 に社会文脈による学習者の多様化モデルを示す。

図 20 社会文脈による学習者の多様化モデル

図 20 に示しているように、社会文脈による学習者の多様化モデルには、本研究で検証した専攻の振り分 けの有無、出身地の地域内格差、出身地の地域間格差、及び、本研究で検証しなかった点線で示している 親の職業と社会的地位、家族の経済状況、民族属性など予想される社会文脈要因がある。

このような様々な個々の社会的要素により、学習者はそれぞれ異なる社会的属性を持ち、これらの属性 が組み合わされて、教育・社会環境の中で、学習者の多様化が生まれたと考えられる。この様々な属性を 持つ学習者はこの社会的文脈を持ち、学習文脈で学習している。すなわち、社会的文脈は多様化した学習 者を生み、学習文脈に影響されながら、動機減退が起こっていると言える。

家族の経済状況、民族属性などの社会文脈的要因は本研究で検証しなかったため、本節では詳述しない が、具体的にどのような多様化した学習者が存在しているか、「中国の大学入学制度による専攻の振り分け の有無」、出身地は農村か都市かという「出身地の地域内格差」、出身地の教育発展レベルは大学所在地と 比べ高いか低いかという「出身地の地域間格差」という 3 要素を組み合わせると、表 49 のような社会文脈 の 3 要素による多様化した学習者の 12 タイプになる。

例えば、タイプ 1 は農村出身で、出身県は大学所在地より教育発展レベルの低い地域出身、日本語専攻

学習者の 多様化

専攻の振り分け あり・なし

出身地の地域内格差

農村出身・都市出身

出身地の地域間格差

(大学所在地と比較し、出 身地の教育発展レベル)

低・同じ・高

民族属性 家族の経

済状況 親の職業と

社会的地位 その他

に振り分けられた学習者である。タイプ 3 は都市出身で、出身県は大学所在地より教育発展レベルの低い 地域出身、日本語専攻に振り分けられた学習者である。タイプ 8 は都市出身、出身県の教育発展レベルは 大学所在地と同じ、日本語専攻に振り分けられていない学習者である。各タイプの学習者はそれぞれ、日 本語学習のスタート時点で、社会文脈的特性を持っていると言える。

表 49 社会文脈の 3 要因による学習者の 12 タイプ タイプ 社会文脈の 3 要因による

学習者の種類

タイプ 社会文脈の 3 要因による 学習者の種類

タイプ 社会文脈の 3 要因による 学習者の種類

1

農村出身 出身県教育発展レベル低

専攻振り分けあり

5

農村出身 出身県教育発展レベル同じ

専攻振り分けあり

9

農村出身 出身県教育発展レベル高

専攻振り分けあり

2

農村出身 出身県教育発展レベル低

専攻振り分けなし

6

農村出身 出身県教育発展レベル同じ

専攻振り分けなし

10

農村出身 出身県教育発展レベル高

専攻振り分けなし

3

都市出身 出身県教育発展レベル低

専攻振り分けあり

7

都市出身 出身県教育発展レベル同じ

専攻振り分けあり

11

都市出身 出身県教育発展レベル高

専攻振り分けあり

4

都市出身 出身県教育発展レベル低

専攻振り分けなし

8

都市出身 出身県教育発展レベル同じ

専攻振り分けなし

12

都市出身 出身県教育発展レベル高

専攻振り分けなし

では、それぞれのタイプは日本語学習プロセスでの動機減退はどのような特徴があるだろうか。以下は、

12 タイプを 4 グループに分け、代表的なタイプについて考察する。

まず、タイプ 1、5、9 の共通点は農村出身で、日本語を志望しなかった学習者である。このような学習 者は最も深刻な動機減退問題に直面していると推測される。本研究の[研究 3]の結果によると、日本語非志 望群の動機減退の特徴は自分の日本語学習能力、資質に懐疑的な姿勢を示しながら日本語に取り組み、教 師に依存しようとし、勉強すべき知識量の多さにより学習困難を感じ、有能感を感じられないことである。

それに加え、[研究 2]から判断すれば、農村出身であることによって、必死に学習しても、劣等感を感じ る可能性は十分あり得る。また、この劣等感は出身県の教育発展レベルと大学所在地の地域間格差によっ て、拡大したり、縮小したりすることが予想される。出身県の教育発展レベルの低い場所出身で、北京、

上海のような教育発展レベルの高い大都市に進学する場合は、一層劣等感を感じやすく、動機づけが減退 する場合は、12 タイプの中で最も深刻な状況に陥ると予想される。逆に、出身県の教育発展レベルの高い 場所出身であれば、学習者の感じる劣等感がある程度緩和できると考えられる。

第二に、タイプ 2、6、10 の共通点は農村出身、日本語を志望した学習者である。このタイプは、日本語 を志望したため、タイプ 1 、5、8 と比べ、社会文脈的 3 要素だけから判断すると、それほど深刻な動機減 退問題に直面しないと考えられる。しかし、農村出身という社会的属性を持ち、特に、大学所在地と比較 し、出身県の教育発展レベルが低い(タイプ 2)場合、学習者は「出身地から生じる劣等感」の可能性があり、

特に周りの学習者の比較に加え、日本語学習困難を感じることで、動機減退を感じやすい。また、[研究 3]

の結果から、タイプ 2、6、10 の学習者は志望して日本語専攻に入ったため、動機づけが減退した場合の動 機減退の因子は、「成績と運用能力への落差感」、「授業テンポの速さによる学習困難」、「自信と興味の喪失」、

「専攻選択上の問題」、「学習への非強制欲求」であると考えられる。

そのため、タイプ 2、6、10 の学習者の動機減退の特徴は、自分の出身地により、劣等感を感じるのみな らず、授業のテンポによる学習困難、期待していた成績と実際の能力に落差感があり、さらに、周りの学 習者と比較することで、さらなる劣等感を感じ、自信と興味が喪失し、最終的に動機減退に繋がる。[研究 3]では「教師」関連の因子が抽出されなかったため、彼らにとって、教師はそれほど影響が強い存在では ないことが動機減退の特徴であるといえる。

第三に、タイプ 3、7、11 は都市出身で、日本語志望しなかった学習者である。このタイプの学習者は農 村出身の学習者と比べ、劣等感を感じず、逆に優越感を感じる可能性が高い。特に、出身県の教育発展レ ベルが高い場合(タイプ 11)、特に優越感を感じる可能性が高いと考えられる。日本語専攻に振り分けられ たため、自ら日本語を勉強したいとは限らず、恵まれた経済条件と未来への楽観的な見込みの中で、本意 ではなかった日本語の学習の必要性が徐々になくなると推測される。

そのため、タイプ 3、7、11 の動機減退は学習したくなかった日本語専攻に振り分けられ、自分の日本語 学習能力に、自信がないながらも日本語に取り組み、教師に依存しようとし、勉強すべき知識量の多さに より学習困難を感じ、有能感を感じられない。一方、自分の出身地により優越感があるため、勉強する必 要性が感じられない。

タイプ 4、8、12 は都市出身、専攻の振り分けなし、日本語を志望した学習者である。この 3 タイプの学 習者にとって、社会文脈要因から動機づけへのマイナスの影響が最も低い。

[研究 2]では、上海某大学に在学する上海出身者の動機減退における「出身地から生じる優越感」の可 能性を指摘した。すなわち、都市出身、大学所在地と比べ、出身県の教育発展レベルが同じあるいは高い 省出身の学習者は優越感を感じる可能性がある。また、学習者は自分の志望で日本語専攻に入ったため、[研