第 7 章 [研究 3]専攻の振り分けによる日本語専攻学習者の動機減退要因の比較
7.4 分析結果
7.4.3 日本語専攻非志望群と志望群別の因子構造
専攻の振り分けによる中国の日本語専攻学習者の動機減退要因の比較を行うために、得られた 283 名の回答に 基づき、因子分析を行った。
7.4.3.1 日本語専攻非志望群の動機減退の因子構造
日本語主専攻学習者の動機減退要因の構造を明らかにするために、非志望群の 111 名のデータについて、因子 分析を行った。床効果が見られた 7 項目と、因子負荷量が.400 以上を示さなかった項目を除外し、固有値が 1.0 以上という基準により、再び主因子法・プロマックス回転を行った結果、22 項目による 5 因子が抽出された。妥 当性と信頼性を確認するために、因子ごとにα係数を求めたところ、それぞれ比較的高い一貫性が認められた。
因子 5 のα係数はやや低いが、スクリープロットと抽出した因子の解釈しやすさから 5 因子が妥当と判断した。
因子分析の結果を表 46 に示す。
表 46 日本語非志望群の動機減退の因子構造
1 2 3 4 5
第1因子 日本語学習資質の不足 α=.872
日本語の学習方法がわからない .834 -.103 .042 -.044 .002 自分は怠け者だ .814 -.159 .133 -.264 .135 日本語学習への自信がない .692 .050 .179 .017 -.176 学習が長く続かない .656 .224 -.142 .051 -.002 文法の使い分けや敬語が嫌い .554 .055 -.049 .127 .073 日本語に興味がなくなった .501 -.038 -.002 .069 .336 自分は日本語学習の才能がない .445 .170 -.131 .318 -.065 日本語能力に関する目標がない .414 .339 -.013 -.031 -.086
第2因子 有能感の不足 α=.711
勉強しても効果がない .050 .735 .030 -.063 .068 学校で勉強した知識が運用できない -.123 .699 .013 .016 -.006 達成感が感じられない .006 .619 .073 .003 .106 教材の内容は生活から遠い -.154 .492 .086 .189 .193 第3因子 予想外の教室内学習の苦しさ α=.758
教師の日本語知識の説明がわかりにくい .176 -.070 .718 .080 -.024 教師の教え方が受け入れられない .060 .219 .686 .050 -.158 日本語の学習は苦しいと予想できなかった .382 -.170 .467 .130 .035 たくさん勉強しなくても、日本語でゲームやドラマ
などを楽しむことには支障がない
-.183 -.074 .462 .150 .154
第4因子 学習量による学習困難 α=.803
学習内容が多すぎる -.065 -.138 .080 .749 .079 単語や文章を覚えるのに困難を感じた .186 -.079 .048 .673 -.065 授業のテンポが速い -.168 .019 .246 .667 .007 知らない知識の積み重ねでついていけない .342 .215 -.128 .472 -.030 第5因子 進路選択上の日本語の重要性の低下 α=.582
日本語と関係のない仕事を探すつもりだ .331 -.066 -.139 .052 .653 日本語の資格だけが欲しい -.081 .072 .130 -.011 .578
抽出後の負荷量平方和(%) 32.96 38.95 43.86 47.56 50.47
第 1 因子は「日本語の学習方法がわからない」「日本語学習への自信がない」「日本語に興味がなくなった」「自 分は日本語学習の才能がない」など、日本語に対する自分自身の学習資質の不足に関する項目のため、<日本語 学習資質の不足>と命名した。
第 2 因子の下位項目「勉強しても効果がない」は勉強しても成績が上がらないことを意味するものであり、「達 成感が感じられない」「教材の内容は生活から遠い」など、学習効果や知識の運用による有能感の不足を表す項 目からなるため、<有能感の不足>と命名した。
第 3 因子は「教師の日本語知識の説明がわかりにくい」「日本語の学習は苦しいと予想できなかった」など教 師の教え方への否定的な態度や予想しなかった苦しい学習に関する項目のため、<予想外の教室内学習の苦しさ
>と命名した。
第 4 因子は「学習内容が多すぎる」「単語や文章を覚えるのに困難を感じた」「知らない知識の積み重ねでつい ていけない」など日本語の学習内容や学習過程で感じた基礎知識学習の困難などの項目からなるため、<学習量 による学習困難>と命名した。
第 5 因子は「日本語と関係のない仕事を探すつもりだ」「日本語の資格だけが欲しい」など、卒業後の進路選 択の上で、日本語の重要性が下がっている項目からなるため、<進路選択上の日本語の重要性の低下>と命名し た。
以上のように、中国における日本語非志望群の学習者の動機減退因子は<日本語学習資質の不足>、<有能感 の不足>、<予想外の教室内学習の苦しさ>、<学習量による学習困難>、<進路選択上の日本語の重要性の低 下>という 5 因子から構成されている。
7.4.3.2 日本語専攻志望群の動機減退の因子構造
日本語専攻を志望した 172 名のデータで因子分析を行った。床効果が見られた 13 項目と因子負荷量が.400 以 上を示さなかった項目を除外し、固有値が 1.0 以上という基準により、再び主因子法・プロマックス回転を行っ た結果、18 項目による 5 因子が抽出された。因子の妥当性と信頼性を確認するために、因子ごとにα係数を求め たところ、それぞれ比較的高い一貫性が認められた。因子 4 と因子 5 のα係数はやや低いが、因子スクリープロ ットと抽出した因子の解釈しやすさから 5 因子が妥当だと判断した。因子分析の結果を表 47 に示す。
第 1 因子は、「学校で勉強した知識が運用できない」「達成感が感じられない」「自分が期待していた成績が取
れなかった」など、自分が期待した運用能力と成績に達成できない時の落差感に関する項目からなるため、<成 績と運用能力への落差感>と命名した。
第 2 因子は、「授業のテンポが速い」など学習内容や学習過程で感じた基礎知識学習の困難などの項目からな るため、<授業テンポの速さによる学習困難>と命名した。
第 3 因子は、「日本語学習への自信がない」「日本語に興味がなくなった」など日本語学習困難で、興味や自 信の喪失からなるため、<自信と興味の喪失>と命名した。
第 4 因子は、「専攻を真面目に選択しなかった」「専攻を選択するときに選択肢は少なかった」など、専門の 選択に関する項目からなるため、<専攻選択上の問題>と命名した。
第 5 因子は、「教師に日本語の学習を強制されたくない」「日本語学習以外のことで忙しい」など、日本語以 外にすることがあり、教師など他人に干渉されたくない、自分で選択したいという学習への非強制欲求が窺えた。
そのため、<学習への非強制欲求>と命名した。
表 47 日本語志望群の動機減退の因子構造
1 2 3 4 5
第1因子 成績と運用能力への落差感 α=.782
学校で勉強した知識が運用できない .845 -.002 -.208 -.026 .017 達成感が感じられない .762 -.239 .138 -.025 -.048 勉強しても効果がない .520 -.097 .386 -.040 -.194 教師との距離が遠い .468 .098 .052 -.027 .201 自分が期待していた成績が取れなかった .431 .122 .064 .164 -.054 第2因子 授業テンポの速さによる学習困難 α=.818
授業のテンポが速い -.095 .991 -.222 .059 .032 学習内容が多すぎる -.056 .829 .034 -.100 -.054 単語や文章を覚えるのに困難を感じた -.050 .603 .066 .101 .058 知らない知識の積み重ねでついていけない .186 .459 .235 .011 -.039 第3因子 自信と興味の喪失 α=.727
日本語学習への自信がない -.186 -.014 .914 .180 -.161 自分は怠け者だ .048 -.160 .666 -.034 .203 日本語に興味がなくなった .123 -.073 .515 .021 .098 日本語の学習は苦しいと予想できなかった .005 .254 .456 -.131 .033
第4因子 専攻選択上の問題 α=.615
専攻を真面目に選択しなかった -.071 -.018 .052 .864 .105 専攻を選択するときに選択肢は少なかった .076 .079 -.032 .505 .160 第5因子 学習への非強制欲求 α=.548
たくさん勉強しなくても、日本語でゲームやドラマな どを楽しむことには支障がない
-.180 .039 .436 -.142 .651
教師に日本語の学習を強制されたくない .160 .048 -.183 .130 .502 日本語学習以外のことで忙しい -.011 -.084 .067 .370 .499 抽出後の負荷量平方和(%) 32.15 37.45 41.72 45.13 47.87
以上のように、中国における日本語志望群の学習者の動機減退は、<成績と運用能力への落差感>、<授業テ ンポの速さによる学習困難>、<自信と興味の喪失>、<専攻選択上の問題>、<学習への非強制欲求>という 5 因子から構成されている。