第 2 章 先行研究
2.2 動機減退研究の位置づけと理論的枠組み
ある(Sakai & Kikuchi 2009)ため、動機減退要因を内的要因と外的要因の両方から定義する研究(荒井 2004、
Tsuchiya 2006b、Sakai & Kikuchi 2009、Hamada & Grafström 2014、Kim 2009)が近年の主流である。
本研究では、動機減退を「外的要因と内的要因の両方の働きによって、行動の意図と進行中の行動に対して、
動機づけが削減されることである」と定義する。
(Demotivation)・学習経験、実践者研究、自己動機づけが研究者の視野に入るようになり、動機づけ研究 におけるアプローチは多様化してきているといえる。
アプローチ・テーマ 1960 // 1990 1995 2000 2005 現在 社会心理学
教育心理学
社会文化的・状況論的 社会構成主義 動機づけ方略
動機喪失(Demotivation)・学習経験 実践者研究
自己動機づけ
図 12 動機づけ研究の変遷(中田 2011)
本研究は動機づけ研究の変遷(中田 2011)の中で、動機喪失(Demotivation)・学習経験に位置づけられ ると考えられる。動機減退の研究は比較的新しい視点でもある。
以下では、学習動機研究、動機減退研究(Demotivation)でよく援用される理論的枠組みである統合的動 機づけと道具的動機づけの枠組み、内発的動機づけと外発的動機づけの枠組みを述べる。
2.2.1 統合的・道具的動機づけ
第二言語習得における動機づけ研究は社会心理学者Wallace LambertとRobert Gardnerより、カナダのバ イリンガル社会的コンテクストで研究されてきた。第二言語は異なる民族コミュニティの媒介要素と見な され、目標コミュニティーの言語を学習する動機は異文化間コミュニケーションや融合を促進あるいは阻 害する主要な要因である。このアプローチの重要な観点は、第二言語や第二言語コミュニティに対する態 度はもちろん、自民族中心主義の指向性も第二言語習得の行動に直接的な影響を与えることである
(Dörnyei & Ushioda 2011)。
統合的動機づけ・道具的動機づけ(Gardner & Lambert 1972)という枠組みは社会心理学アプローチか らの理論である。白井(2011)によると、統合的動機づけ(Integrative orientation)とは、自分が好印象をもっ
ている外国人に対して、共感し、高い価値を与える学習者は学習対象言語を話す人々とその文化を理解し たい、その人々と同じように振る舞いたい、その文化に参加したいと思う傾向が強く、それが長期的・持 続的な学習意欲に繋がる動機づけのことである。道具的動機づけ(Instrumental orientation)とは、実利的な 利益を求めて学習する動機のことであると述べている。例を挙げると、ある学習者が目標言語の文化が好 きであるため、その言語を学ぶことは統合的動機づけであるが、将来、いい仕事を見つけたいなど何かが 得られることを期待するような動機は道具的動機づけである。
2000 年代前後に、この枠組みを用いて、学習者の動機づけの構造について探索する研究(郭・大北 2001, 郭・全 2006 など)が多数見られた。
2.2.2 内発的・外発的動機づけ
内発的動機(Intrinsic motive)と外発的動機(Extrinsic motive)は、教育心理学を基盤とする学習動機研究に おいて古くから取り上げられてきた概念であり、今でも活発に研究が行われている(廣森 2010)。その定 義に関しては、鹿毛(2013)では、外発的動機づけとは、原則的に、その活動と内容的に無関係な目標のた めの手段としてその活動に取り組む場合を指す。その行為の目標としては、一般に「賞罰」が想定されて おり、賞の獲得あるいは罰の回避が目指されることになる。内発的動機づけとは自己目的的な行動の生起、
維持、発展過程である。学習意欲の観点からは、「自己目的的な学習の動機づけ」という意味になると定義 している。廣森(2010)では、学習活動それ自体が目標となる場合は内発的動機、学習活動が手段となる場 合は外発的動機として区別されることが多いと述べている。
教育心理学の観点から、内発的動機づけ・外発的動機づけという枠組みを用い、ニュージランドにおけ る日本語主専攻学習者の動機づけの構造(縫部・狩野・伊藤 1995)などのような研究が数多く行われてき た。
内発的・外発的動機づけの二項対立ではなく、内発的・外発的動機づけという理論的枠組みをさらに発 展し、学習者の自律性によって、外発的動機づけをさらに細かく 4 つの段階に分類された自己決定理論 (Self-determination Theory)(Ryan &Deci 2000)がある。
自己決定理論を具体的説明すると、自己決定の段階性によって、動機づけを内発的動機づけ、外発的動 機づけと無動機に分類する。さらに、調整段階のレベルでは、非動機づけは調整なし、内発的動機づけは 内発的調整と対応できるが、外発的動機づけは外的調整、取り入れ調整、同一視調整、統合的調整 4 段階 に分類される。図 13 に、自己決定の段階性(Ryan &Deci 2000, 上淵 2004)を示す。
行動 非自己決定的 自己決定的
動機づけ 非動機づけ 外発的動機づけ 内発的動機づけ
調整段階
(スタイル)
調整なし 外的調整 取り入れ的調整 同一視的調整 統合的調整 内発的調整
図 13 自己決定の段階性(Ryan &Deci 2000、上淵 2004)
上淵(2004)では、自己決定の各段階について、以下のように詳述している。
非動機づけとは無動機の状態である。外的調整は課題に対する価値は認められないが、外部から強制 されて、「やらされている」状態であり、取り入れ調整は課題の価値を認め、自己の価値観として取り 入れつつあるものの、「しなくはいけない」といった義務的な感覚を伴っている状態である。そのため、
有能感を得るために、社会的比較や承認などの外部評価が必要となることが想定され、能力のないこ とを示さないために、困難な課題を回避し、多大な努力を払うことを放棄することも予想される。同 一視的調整は自己の価値観として、行動の持つ価値の重要さが認識され、自分にとって重要だから、
やるといった積極的な理由へと変わる。たとえほかの目的を達成するための手段的な行動であっても、
その重要さは自己の価値観として十分に認識されている場合「そうありたい」自己と認識され、自律 的動機づけと感じられるようになる。そして、統合的調整は他にやりたいことなどがあった場合でも、
何の葛藤もなく自然とその行動を優先させてしまうような状態であり、自ら「やりたくて」その行動 を選択している状態になるとされる。最後に、内発的動機づけとはある行動がそれ自体を目的として いる。
自己決定理論を理論的枠組みとして行った研究には廣森(2005)、千葉(2012)、小林・千葉(2017)な どがある。