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日本語教育における動機減退研究

第 2 章 先行研究

2.3 先行研究

2.3.2 日本語教育における動機減退研究

これまでの外国語学習における動機減退要因に関する研究は英語学習に限ったものが多い(瀬尾・陳・司

徒 2012)。第二言語習得における動機減退の研究は 1990 年代から始められたが、日本語教育においては、

学習者の動機減退が注目されたのは 2000 年代後半からである。代表的な研究は、瀬尾・陳・司徒(2012)、

Hamada & Grafström (2014)、中井(2009)がある。これらの研究の調査対象者はそれぞれ香港の社会人学習者、

日本語学校の就学生、日本語を履修したオーストラリアの大学生学習者であり、日本語学習者の多様化が反映さ れている。

2.3.2.1 瀬尾・陳・司徒(2012)

瀬尾・陳・司徒(2012)は、香港の生涯教育機関における社会人日本語学習者を対象に、動機減退要因を 探るため、質的や量的手法を並行して調査を行った。量的調査の対象は、2010 年度に、香港大学専業進修 学院の『日本語入門コース』で日本を受講した学習者のうち、期末試験に申し込まなかった学習者 216 名 である。調査方法は、216 名に質問紙を E メールで送信し、オンライン・アンケート・システムを用いて回 答してもらった。調査協力者は 21 名のみであり、回収率は 9.7%という低い結果となった。質的調査では、

質問紙調査を協力してくれた者から、3 名を抽出し、2011 年 9 月に、半構造化インタビューを行った。

質問紙調査の内容は①性別や年齢など協力者の属性、②日本語学習を始めたきっかけ、③コース途中で やめてしまった理由、④今後の日本語学習の計画である。日本語学習をやめた理由については、個人によ って異なるが、調査で一番多かったのは、「仕事が忙しくなって、通えなくなった」、他には、「家庭の事情 で通えなくなった」や「仕事が変わって、通えなくなった」など環境的な要因が上位に位置付けられてい る。つまり、仕事や家庭といった社会的要因が大きい。次に多いのが「学習ペースが速すぎた」、「3 時間の クラスは長すぎた」、「勉強する内容が多すぎた」といったプログラムやカリキュラムの問題である。さら に、「定期テストの成績が悪かった」、「日本語の予習・復習方法がわからなかった」という生徒自身の要因 もあった。しかし、「日本語を学ぶ目的がわからなくなった」、「日本語に興味がなくなった」といった目的 や態度面からの動機減退要因はなく、今後も日本語の学習を続けたいと考えているようである。

質的な分析では、日本語コースの受講をやめた理由はどの調査協力者も「仕事」と「時間」が影響して いるようであった。

瀬尾・陳・司徒(2012)の調査では、社会人学習者にとって、仕事と学習の両立を成り立たせることがで きなかったことが最も影響していることが明らかになった。

2.3.2.2 中井(2009)

日本語学校で多数派となっている中国人就学生の多くを「一人っ子」が占めている背景の中で、中井 (2009)は彼らの学習動機の変化に注目した。日本語学校に在籍する初級後半から中級後半レベル(在籍期 間半年から 1 年)の中国人再履修者 14 名と彼らが在籍するクラスを指導する教師 11 名を対象に半構造化 インタビューを行った。中国人再履修者へのインタビューの質問項目は、再履修となる前後の学習状況や クラス内の状況、彼らのクラスの担当教師や学校以外での生活などについてである。教師へのインタビュ ーの質問項目は中国人再履修者のクラスでの様子や学習状況、彼らに対する指導方法などである。インタ ビューは全ての協力者に一回につき 30 分から 1 時間程度を 2 回以上行った。

研究の分析は木下(2007)の修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M−GTA)という質的研究方 法を採用した。この方法は、ある実践的な領域で起こっている現象の解決や改善を目指すための理論を構 築することができる。また、現象が起こる過程に注目したプロセスの理論である。中井(2009)は、中国人 就学生の学習動機の変化を1つの現象として捉え、学習動機が変わっていく過程に存在するメカニズムを 明らかにすることによって、教師の対応策を検討することが目的であるため、動態的な理論を構築してい く M-GTA を用いた。

インタビューデータを分析した結果は図 14 のようになっている。学習者が再履修者になる過程を「過渡 期」、再履修者になった後を「低迷期」、全ての過程を「全過程」と区別して、カテゴリーを生成した。

過度期のカテゴリー群では、【自立心からもたらす学習動機の減退】、【学習の場の移行による学習動機の 減退】、【孤独感から生じる学習動機の減退】という 3 つのカテゴリーがあった。【自立心がもたらす学習動 機の減退】は〈私はもう大人〉、〈生活や学費のためのアルバイト〉、〈疲れた〉という 3 つの下位概念から なる。〈私はもう大人〉であると考えるため、アルバイトで全てを賄おうと努力することに重点を置くよう になる。また、〈生活や学費のためのアルバイト〉をしたため、疲労が蓄積した結果、学校や家庭などの学 習活動に集中できなくなってしまったようである。

【学習の場の移行による学習動機の減退】の下位概念は〈授業は面白くない〉、〈勉強はアルバイト先で〉

である。学習者はアルバイトで、日本人との交流を通して行われる日本語学習や日本社会に関する知識の 吸収という面に着目した。日本語学習の場が日本語学校の教室からアルバイト先に移行していることを示 していると考えられる。

【孤独感から生じる学習動機の減退】は〈母国での人間関係の喪失〉、〈クラスでの人間関係の欠如〉〈寂 しい〉という概念で構成されている。〈母国での人間関係の喪失〉、〈クラスでの人間関係の欠如〉は〈寂し い>をもたらす理由の1つとなっている。

低迷期のカテゴリー群は【クラスメートとの関係による影響】、【教師とのインタラクションによる影響】

という 2 つのカテゴリーからなる。

図 14 学習動機に影響を与える要因とその変化の過程(中井 2009)

【クラスメートとの関係による影響】の下位概念は〈自分が恥ずかしい〉、〈周りの人の目が気になる〉、

〈クラスメートとの交流がない〉、〈クラスに居場所がない〉という 4 つの概念によって構成されている。

再履修者は、再履修になった後、自分が情けなく感じたり、再履修クラスのクラスメートの目を気にした りすることで、結果的に、クラスメートとの間に、疎外感を感じる。交流がなくクラスに溶け込めないた

め、クラスの一員としての自覚が持てないでいる。

【教師とのインタラクションによる影響】は〈再履修者との関わり方〉と〈やる気〉という概念からな る。再履修者との関わり方が積極的な教師と消極的な教師という教師の行動によって、再履修者の行動が 次の 2 つのパターンに分かれた。その2つは〈やる気がなかった〉、〈やる気になった〉である。すなわち、

教師の関わり方によって、再履修者の学習態度や意欲が変化していることがわかる。

全過程に通じるカテゴリー群は【学習性無力感と原因帰属による学習動機の変化】という 1 つのカテゴ リーである。下位概念は〈授業がわからない〉、〈やっても仕方がない〉、〈原因帰属の転換〉より構成され る。来日前に中国で勉強して得た知識だけでは授業についていけなくなる状態が続くと、どうせやっても わからないという学習性無力感の状態に陥る。このように、日本語学習の動機は低下し、期末試験で合格 できず、再履修者になった。さらに、再履修者になった後も、学習性無力感の状態が続くが、再履修の原 因をどこに見出すかによって、その後の改善は可能になる。能力不足ではなく、自分以外の要素にその原 因を帰属することで、学習性無力感から抜け出すことができるのである。

以上が再履修となった中国人就学生の学習動機に影響を与える要因とその変化の過程である。

考察では、教師が留意すべき点として、5 点挙げられた。すなわち、学習者個人を理解して学習者の変化 を見逃さないこと、教授活動を見直すこと、学習者に能力不足を感じさせないこと、成績不振者への先入 観を捨て期待を持って接すること、クラス運営を徹底しクラス内の関係を保つことである。

2.3.2.3 Hamada & Grafström (2014)

Hamada & Grafström (2014)では、日本語学習者の動機減退要因を明らかにすることを目的としている。研

究対象者はオーストラリアのメルボルンの大学生6名であり、それぞれ異なる専攻の大学生である。彼らに とって、日本語は必須科目ではないが、日本語学習歴は5年以上である。

2011年3月に、一人につき15分から25分の半構造化インタビューを英語で実施した。インタビューの手続 きは、まず、友好的な雰囲気を作るために、調査目的、調査結果と個人情報は研究のみに使い、漏らさな いように注意することを説明した。また、学習者をリラックスさせるために、調査者は自己紹介をし、日 常的なトピックを話した。インタビューの最初の質問は「専門は何か、日本語をどれくらい勉強したか」

である。2番目の質問は「日本語の動機づけが高いと思うか」である。インタビューの進行は2番目の質問 次第である。最後に、インタビューが終わる前に、「何か追加の説明があるか」も聞いた。